概要
「週刊少年ジャンプ」2000年43号に初掲載され、単行本第123巻(マンガアプリ少年ジャンプ+では第1180話)に収録された。
基本的に明るい作風のこち亀だが、時に「浅草物語」に代表される時の流れによる哀愁溢れる物語を始めにシリアスな回があったにせよ、当エピソードはこち亀の中でも極めて陰鬱な後味の悪さから、屈指のトラウマエピソードとしても有名である。
(主に主人公・両津により)シャレにならない被害もよく起きる本作だが、ギャグ漫画なのもあり、まだ笑い話で済まされる部分もある一方で、このエピソードに登場した描写はギャグ補正など皆無な正真正銘の外道である。
実際、40年の長期連載の本作の中でも、両津がここまで本気で激昂したシーンは殆ど無い。
あらすじ
近頃未解決の事件が続いている現状から、管轄の壁を外して警視庁内全域スクランブル捜査が行われていた。
千代田区内のパトロールついでに檸檬の幼稚園へと来ていた両津と纏は、幼稚園の年中組の教室にて日直の仕事をしっかりこなしている檸檬の様子を陰から微笑ましく見守っていた。
そんなある日、檸檬がいる年中組がお泊り保育に向かった年少組の飼育している6匹のハムスター(各ハムスターには「ピッチュー」「キャッチュー」「コロチュー」「クロチュー」「ミニチュー」「ハムチュー」と1匹1匹名前が付いているが、両津曰く「見分けがつかん」)を預かる流れになり、生き物係をしていた檸檬がハムスターの飼育係を任される。
更にハムスターの内1匹のコロチューが妊娠しており、一週間後には出産を控えていると判明し、檸檬やお泊り保育から帰ってきた年少組の園児達は大喜びする。
だがその夜、幼稚園に怪しい人物達が侵入し……
※以下、ネタバレ注意!!
「まて! 面白いゲームを考えた。明日園児(ガキ)たちくるだろ。ただ殺すだけじゃなくて…」
翌朝、両津に車で幼稚園まで送ってもらっていた檸檬は直に生まれるハムスターの子供に「イチコロチュ」「ニコロチュ」「サンコロチュ」の名前を考え、近所から貰った赤ちゃん用のカゴを持参していた。しかし、幼稚園の前に停まっているパトカーを見た両津が「まさか」と思い駆けつけると、そこで合流した中川から「昨晩幼稚園に強盗が入った」と聞かされ、檸檬はハムスター達の変わり果てた姿を目の当たりにしてしまい、カゴを床に落としてしまう。
ハムスター達は幼稚園から金品を強奪した強盗により、潰された上刃物でバラバラに惨殺されてしまっていたのだった。
その強盗が、学校荒らしの犯人と同一グループであると推測した警察は「エスカレートすると危険」な為だと判断し、緊急を要する事態になる。
纏と合流した両津は、檸檬が「天国でかわいい赤ちゃんが生まれるといいね」と、泣いている園児達を慰めつつ、園児達と一緒に折鶴をハムスター達の墓の周りにお供えする様子を見ており、「(檸檬が)一番ショックなはずなのに……強いな」と漏らす両津だが、纏は「泣かないよレモンは! 涙を絶対人前では見せないんだ」と返す。
そんな時、有力な情報を伝えにきた中川がやって来る。
犯人である学生の自宅マンションへ聞き込みに向かうと、学生の親から「昨日息子が帰ってこなかった」話を聞かされた両津達は、更に「今朝何時ごろに戻ってきたか?」と尋ねるも、「息子にはあまり関心持たない事にしてるから」「今忙しいから」等々、既に息子を見放していた親は頑なに警察からの協力要請を拒否しそのまま追い返してしまう。
あまりにも冷淡かつ無関心な態度に両津は憤るも、纏は「少年犯罪は他人事と思ってるからね」と語る。
中川によると「学校側も既に彼らを見放しているらしく、警察からの協力要請を頑なに拒否した」 との弁で、両津は「まわりくどいから直接本人だ!」と、犯人達の居所を突き止め、纏と共にとあるゲーセンで犯人達を見つけ出す。
「よかったな明日から学校は休めるぞ 逮捕だ!」
眼鏡をかけた犯人に「証拠は?」と返された両津は「そんなもん後回しだ!」と眼鏡をかけた犯人の胸倉を掴み、眼鏡をかけた犯人は「ふざけるな!」と怒鳴る。纏の「手続きをしないと逆告訴になる」との警告にも耳を貸さず、自身の警察手帳を捨て、懲戒免職覚悟の上で犯人達に痛烈な鉄拳制裁を下す。
「じゃあいらねぇこんな物! クビで上等!」
「親も教師も見はなしたこいつらをだれが目を覚まさせるんだ!」
その日の夕方、幼稚園のハムスター達の墓の前にいる檸檬の元に、両津と(署に連行する前に)彼がひきずってきた犯人の不良学生達がやって来る(この時に両津も負傷しているが、この件については余談を参照)。両津は彼らが犯人であると自白し謝罪させる。
「ごめん…なさい ぼくたちが…犯人です…」
しかし檸檬は……
「お…おそい…よ もう」
「ハムちゃんたちは…一生懸命生きていたんだよ」
「それなのになんで… なんで」
「あんたたちも踏み潰されればいいんだ!!」
「わあああん!」
人前では泣かないはずの檸檬が初めて人前で大声を上げて泣いた。
その悲痛な泣き声の前に言葉の出ない犯人達は、自分達が犯した罪の重さを痛感するのだった。
その日、初めてレモンは人前で大声で泣いた。
犯人を捕らえても解決しない、
わしにとってもいやな事件だった
-両津事件簿第12章-
(物語のラストを締め括る両津のモノローグ。この部分からだけでも、檸檬や両津達のやりようの無さから来る後味の悪さが伝わってくる)
余談
犯人達のその後
檸檬から涙ながらに戒められた犯人達は自分達の罪の重さを痛感し、僅かにも反省の色を見せていたが、彼らが逮捕されたその後に関しては最終回になっても一切描かれていない。もっとも、仮に彼らが更生したところで、殺されたハムスター達が生き返る訳でも、檸檬達の負った心の傷が完全に癒える訳でもないが、これ以上彼らに罪を重ねさせない為にはそれでも更生してもらう他ない為、登場人物が誰も救われない後味の悪さが滲み出ている。
犯人襲撃時の両津の負傷について
両津が犯人達を檸檬の元に連れていった時、犯人達ほどではないが両津もボロボロな姿になっている。
流れからすれば「犯人達の反撃にあった」と考えるのが自然だが、暴力団や(こちらはギャグ補正があるものの)神相手すら無双する両津が高校生相手に反撃を食らうとは到底思えない。
そのため、一部の読者からは
- 鉄拳制裁を正当化する為の偽装工作をした
- 犯人達を殴り続ける両津に纏が割り込み、制止の為に殴り止めた
などの理由が考えられている。
事件後の両津の処遇
実際の刑法なら両津が行った行為は「過剰防衛」かつ「不当捜査」 と見なされる上、警察庁の監察下に置かれ大抵は謹慎、もしくは懲戒免職等の処分が下される筈だが、以降の話でも両津は謹慎どころか退職もしておらず、普通に通勤していた。
その理由として、
などの説が挙げられている。
この話以前にも、纏が暴漢から暴力を食らった際、両津がブチ切れて暴漢に過剰な応酬でやり返し謹慎処分を受けた話がある。しかし憤りの感情の勢いもあったとはいえ、謹慎どころか懲戒免職でも済まない覚悟で警官の立場をかなぐり捨てる意思を両津が見せたのは、少なくともこの話が初めてである。
その後の展開
次の話である「両津サイクルカンパニー!の巻」では、未だに傷心状態の檸檬の為に、彼女が乗りやすい特別な自転車を両津が(ほぼ強引に)オーダーし、少しながら彼女の笑顔が戻った。
一方でこの自転車の高性能ぶりがマスコミによって話題となり、そこから両津がお金儲けを始める……という従来通りのコメディ路線に戻った。
アニメ版について
アニメ版では本エピソードは映像化されていない。これについては「日曜のゴールデンタイムで放送するには陰鬱過ぎる内容であり、特に檸檬と同年代の視聴者に配慮した」と推測されている。
両津が檸檬に自転車をプレゼントする話自体は存在する(第316話「サイクル大作戦」)が、こちらは「純粋に檸檬が自転車を欲しがっていた」という理由(及びオーダーされた自転車が廃棄予定の放置自転車のパーツで作られた)に変更され、後半の内容も自転車の窃盗団との戦いに変更されている。
連載当時の背景
本エピソードが連載されていた平成12年当時は「キレる17歳」と呼ばれる未成年による凶悪犯罪が続出していた。世相を反映していたこち亀がこの様なエピソードを出すのは、ある意味必然だった。
2000年から24年以上が経った現在においても、親や周りの環境等が原因で凶悪犯罪に走ってしまう事態は珍しくない。
類似エピソード
134巻(ジャンプ+では第1282話)の「檸檬と蜜柑の巻」にも、学校荒らしの不良学生と同等以上の残忍な不良達が登場している。
檸檬が蜜柑と町中を散歩していた際、近くで酒を買いに行こうとしていた不良の歩き煙草で蜜柑が火傷しそうになり、蜜柑を庇った檸檬が不良とぶつかって事件が発生。
歩き煙草を指摘した通行人を蹴り飛ばす、檸檬や蜜柑の顔に煙草の火を押し付けようとする、蜜柑を乗せたベビーカーを車道に投げ飛ばす(両津が間一髪で救助)等、単なる逆ギレで不特定多数相手に大暴れを始めると、本エピソードの不良以上に狂暴な性格をしていた。
最終的には纏と早矢に倒され、檸檬達に火傷を負わせようとした不良が自分の煙草で顔を火傷する結末になり、全員逮捕された。
事件後、蜜柑が熱を出してしまい、責任を感じた檸檬が神田明神に行き、「ハムちゃんみたいにしないで」と祈った(本エピソードの事件がいまだにトラウマとなっていることが窺える)。その後祈りが通じたのか、蜜柑の熱が下がり、元気になった蜜柑は「れもん」と初めて姉の名前を呼び、その次には「イチロー(両津の超神田寿司における別名義)」と呼んだ。
その他
ニンテンドーDS用ソフト『ジャンプアルティメットスターズ』では、両津の「親も教師も~」のセリフがバトルコマとして収録されており、そのセリフの簡易の解説がされている。基本はギャグ漫画中心の笑属性の両津だが、両津が拳を力強く振りかざそうとする絵と、元ネタとなる本エピソードがシリアスであるためか、このコマはバトル漫画中心の力属性になっている。
関連イラスト
関連タグ
環境が生んだバケモノ:別の作品で例えるなら、これに該当する
善悪の屑:こちらも同じような学校荒らしが描かれた作品であるが、犯人を制裁した主人公が非合法で悪人を裁く復讐代行業者である。
外部リンク
法務省:社会を明るくする運動:親や学校から見放された結果、不良学生達はこのような事件を起こしたわけだが、「一度大きな過ちを犯してしまった者は切り捨てる」周りの対応が何度も過ちを繰り返す原因になっている、と指摘している。