正体不明のアンノウンX
しょうたいふめいのあんのうんえっくす
ぬえが『東方鈴奈庵』にセリフなどを伴って、ストーリーに関連する形で登場した際のものである。
ぬえの姿そのものは、それと思しき後姿が別のシーンでも描かれている(第三話後編)。
『鈴奈庵』においてはその二つ名は当該のキャラクターに関する前段の節と横文字のカタカナ表記などによる後段の節の二つの節から成ることが多い。
例えば『鈴奈庵』以前(またはぬえが初登場した『東方星蓮船』以前)からぬえと深い縁にある二ッ岩マミゾウの『鈴奈庵』における二つ名は「捕らぬ狸のディスガイザー」となっており、こちらもマミゾウに関連した「狸」の要素と「ディスガイザー」(「姿を変える者」などの意。 disguiser )という二つの要素から成っている。
ぬえはその存在の通り正体不明を体現する「鵺」であり、実態の解明へと至ることのできないアンノウンX(「不明な」などの意の unknown と「未知の何か」を仮称するものとしての「X」の複合)そのものである。
「 みんな良い感じに正体不明に怯えているよ 」(ぬえ、『鈴奈庵』)
『鈴奈庵』でのぬえは本編中での登場の他『鈴奈庵』単行本(五巻)の設定資料集をはじめカラーカバー背面部分やカバー下表紙などにも描かれている。
特にカバー下表紙のポーズはカラーカバー表紙に描かれたマミゾウのポーズを受けたものとなっている。
妖艶な表情でこちらをみつめるマミゾウカバーをめくると、弾けるような笑顔のぬえが迎えてくれる。
この他「アンノウンX」という要素に関連して東方Projectにおいては「アンノウンX」は別のシーンでも登場しており、『東方非想天則』に初登場した楽曲である「アンノウンX ~ Unfound Adventure」にそれを見ることができる。
当時の幻想郷においては、「都市伝説が具現化する」という事態が発生していた。
これは人々の「噂」が何らかの実態を伴うなどして実際に出現するというものである。
その様子は『東方深秘録』のプロローグや『鈴奈庵』や『東方茨歌仙』等各種書籍作品において同様に『深秘録』の前日譚にあたるエピソードが描かれた作品においても語られ、さらに『深秘録』本編では具現化した都市伝説を自らの力にする術を得た多様な存在による物語が展開されている。
例えば今日ぬえとも関係の深い命蓮寺の聖白蓮や雲居一輪などがそれぞれの都市伝説に触れ、極めて個性的な力として発揮している。マミゾウもまた独自の都市伝説を行使した。
都市伝説の具現化については、『鈴奈庵』においても幻想郷の人間の里を含む各方面で多様な影響を与えていたことが語られており、例えば人間の里では都市伝説の流行とそれに伴う都市伝説の力の高まり、そして徐々に実体化する都市伝説に触れてしまうことでさらに恐怖が高まるというスパイラルが発生することもあった。
こうした世の風潮にあって、ぬえもまた自らに適した都市伝説を見出し、先述の白蓮や一輪、マミゾウとはまた異なる形でこの怪異へと触れていくのである。
「 私だって何か参加したかったんだもん 」(ぬえ、『鈴奈庵』)
ぬえが見出した都市伝説については、自らが求め期待する「恐怖」と実際に触れた都市伝説がもたらす「恐怖」の姿とがきれいに調和しており、ぬえもまた極めて満足していた様子である。
このときぬえが選んだ都市伝説は「牛の首」という伝承で、これは東方Project作中で生み出された物語ではなく、『東方深秘録』で語られる白蓮の「ターボババァ」や一輪の「八尺様」(八尺さま)、あるいは『鈴奈庵』と同様に書籍作品である『東方茨歌仙』に登場すする人面犬や足切り婆などと同様に、実際に存在する都市伝説。
ぬえの登場するエピソードタイトルも「牛の首は何処にあるのか」とその名称を含むものとなっている。
「牛の首」とは、「この世で最も恐ろしい物語」である。
余りに恐ろしいために話を知った者はそれを語ることができないどころか恐怖に精神を蝕まれ、やがて(3日とも)命を落とす。故に、この記事でも「牛の首」の物語の仔細を伝えることは出来ない。
語り部を悶死させ、そして聴いた者を狂死絶命させる、語り継ぐことのできない都市伝説である。
といった、「正体不明」の都市伝説が「牛の首」である。
伝承の実態を探る議論もあるが、作中でぬえが「都市伝説」として用いたのは、この「誰も物語を知らないながらも、あるいはその故に、正体不明の恐怖として強大なインパクトと人々の間での伝播力をもつ」、という点である。
物語であるのにもかかわらずその内容が伝えられないながらも、その潜在的な不安を喚起する性質から都市伝説としてはなおさら力を増していく様子について、ZUNは「 都市伝説のシステムを逆手に取った 」ものだともしている(『鈴奈庵』単行本第五巻あとがき)
作中では「 聞いただけで死ぬ話 」として人間の里で子供たちを中心に静かに広まりつつあった。噂通りであればこの物語は先述のように聴くだけで死をもたらすが、幻想郷には「 生きてない人 」(例えば亡霊・怨霊)や「 死なない奴 」(例えば不死の人々)など、命を失うことを恐れる必要がないために「牛の首」の語り部となり得る存在が複数あるため、これ以前から引き続いていた都市伝説が具現化する現象もあって博麗霊夢も警戒していた。
その後、実際に「牛の首を持った人間」という「 半人半獣 」の目撃が報告され、その報告も徐々に増えていったため、都市伝説の信憑性は増し、人々の間でもさらに広まっていく。
この一連の動向の背後にはぬえと、ぬえの動向に協力したマミゾウの姿があり、それぞれの思惑から人々が正体不明の恐怖におびえる様子を見遣っていた。
「 これなら 実際には危害も与えず 恐怖で世界が潤うでしょ? 」(ぬえ、『鈴奈庵』)
しかし怪異には常に対抗する潮流もまたあり、こちらは博麗霊夢を軸に、人々の間で広まりつつあった「 正体不明 」の恐怖への対抗手段を案じることとなる。
それは人と妖怪の心理戦、情報戦にしてそれぞれの思惑が絡む化かし合いの姿ともなっていくのである。
幻想郷における都市伝説の怪異がその主軸として語られた『深秘録』において、ぬえ本人は(同作PS4版を含め)登場してない。
しかしぬえは『深秘録』以前からその弾幕において「トイレの花子さん」(<正体不明「厠の花子さん」>。『ダブルスポイラー』)や「赤マント青マント」(<正体不明「赤マント青マント」>。『ダブルスポイラー』)など各種「都市伝説」に由来すると思われる弾幕を展開しており、このこともあってファンの間では『深秘録』情報公開当初時はぬえもまた『深秘録』作中に登場するのでは、とされていた。
果たして2015年5月に発表された『深秘録』においてぬえは登場しなかったわけであるが、展開された作中のストーリーがぬえにも関連したモチーフに重なるものも多かったため、その後もぬえの動向はファンの間で注視されていたという経緯がある。
例えば『深秘録』では先の「トイレの花子さん」などは霧雨魔理沙が自らが関わった「学校の怪談」の一部として怪ラストワードなどで表現しており、「赤マント青マント」については豊聡耳神子が怪ラストワードやCPU専用怪スペルカードなどでそれの力を得ている様子が描かれている。
またぬえは関連する要素に「エイリアン」の語やUFOなどのSF的な正体不明的要素(例えばテーマ曲の「平安のエイリアン」や各種スペルカード名、弾幕の形状など)が込められることがあるが、『深秘録』ではいわゆる地球外生命体に関連した都市伝説として、これに共感する要素をマミゾウが怪ラストワードなどとして表現している。
『深秘録』にはぬえ本人の登場こそないものの、ぬえにも関連した多様な要素が登場していたのである。
ここにあってその後発表された『鈴奈庵』のぬえにまつわるストーリーににおいて、『深秘録』で語られたエピソードとも関連した、ぬえを軸とした固有のストーリーが展開され、ぬえの想いもまた語られ、さらにぬえと縁の深いマミゾウとの対話やぬえならではの都市伝説の意味的チョイス、その行使の仕方などを通しても実にぬえらしい姿が描かれたこと、加えて今日のぬえの様子(例えばマミゾウとの関わりや命蓮寺との関係など)が語られたことなどもあって、ファンの間でも大きな喜びがあった。
余談ながら、ぬえの本二つ名に見る「アンノウンX」の語はPS4版『深秘録』に加えて『深秘録』同様に都市伝説異変が引き続いていた『東方憑依華』においても黄昏フロンティア作品のセルフオマージュの一つとして登場した楽曲としての「アンノウンX」(こちらでは「アンノウンX ~ Occultly Madness」)にも見ることが出来るものでもあるなど、ぬえとも縁のある語が以後も都市伝説異変と共に影を落としている。
pixivにおいては本記事がリンクするタグ表記の通り「アンノウンX」と、「X」の部分が半角となっているが、原作中での表記は「アンノウンX」と該当部分が全角表記である。
これは先述の楽曲としてのものも同様で、こちらも「アンノウンX」の表記である。
この違いはpixivにおけるタグの仕様に由来するもので、pixivではそのタグとして半角英数字を使用することができないという仕様上の制約がある。このためpixivでは原作では全角表記であるものについて半角表記で代用するという慣習があり、本タグもその慣習に倣ったものである。
原作では「アンノウンX」(全角英字)の表記であり、pixivでは「アンノウンX」(半角英字)で代用されている、ということである。