曖昧さ回避
- キリスト教(カトリック・聖公会)において、神聖な用途にあてるため、物または人を一般的・世俗的使用から引き離して区別すること。本項で解説。
- 『BLEACH』に登場する技→聖別(BLEACH)
- 『Blasphemous』のボスの一角「聖別軍 エズドラス」
- 『エルデンリング』に登場するフィールド「聖別雪原」
概要
日本語で「聖別」と訳される、または対応する語は複数存在する。
英語では「consecration(動詞形:consecrate)」「anointment(動詞形:anoint)」「sanctification(動詞形:sanctify)」が該当する。
「consecration」は「捧げる」、「anointment」は「膏を塗る、塗油する」、「sanctification」は「聖なるものとする、浄める」の意であり、これらの観念は聖書において密接な関係を持つ。
聖書における聖別
旧約聖書
旧約聖書において、最初に聖別という語が出てくるのは『創世記』である。
”神はその第七日を祝福して、これを聖別された。神がこの日に、そのすべての創造のわざを終って休まれたからである。”創世記2章3節
神はこれをもって一週間のうちの7日目を安息日とし(出エジプト記20章11節)、必ずこれを守らなければならないとした(出エジプト記31章13節など)。
また、イスラエルの民はこの安息日を聖別しなければならない(エレミヤ書17章22節など)ともされている。
行動に関する聖別としては、安息日の他に断食がある(ヨエル書1章14節)。
このように唯一神は自分自身が聖別を行うだけでなく、人間側にも必要に応じて聖別を行うように命じた。
聖別の対象は人間、場所、器物、捧げ物にも及ぶ。儀礼に関わる人間や道具が神のために選び出され、宗教的に特別とされるにあたってはしばしば「油を注ぐ」所作が行われた。
- 儀礼に関わる人々、祭司の聖別
"そしてあなたはこれをあなたの兄弟アロンおよび彼と共にいるその子たちに着せ、彼らに油を注ぎ、彼らを職に任じ、彼らを聖別し、祭司として、わたしに仕えさせなければならない。"出エジプト記28章 41節
- 神のメッセンジャーの聖別
"「わたしはあなたをまだ母の胎につくらないさきに、あなたを知り、あなたがまだ生れないさきに、あなたを聖別し、あなたを立てて万国の預言者とした」"エレミヤ書1章5節
この表現を受けてか、新約聖書の書き手の一人となった原始キリスト教会の重要人物タルソスのパウロも『ガラテヤ人への手紙』で胎内にいる時から自分が聖別されていたと語っている(1章15節)。
- 器物・場所の聖別
また祭壇の上の血および注ぎ油を取って、アロンとその衣服、およびその子たちと、その子たちの衣服とに注がなければならない。彼とその衣服、およびその子らと、その衣服とは聖別されるであろう。"出エジプト記29章21節
そして注ぎ油をとって、幕屋とその中のすべてのものに注ぎ、それとそのもろもろの器とを聖別しなければならない、こうして、それは聖となるであろう。"出エジプト記40章9節
- 神への捧げ物の聖別
”あなたはアロンとその子たちの任職の雄羊の胸ともも、すなわち揺り動かした揺祭の胸と、ささげたももとを聖別しなければならない。”出エジプト記29章27節
”そこで祭司は彼に聖別したパンを与えた。その所に、供えのパンのほかにパンがなく、このパンは、これを取り下げる日に、あたたかいパンと置きかえるため、主の前から取り下げたものである。”サムエル記上21章6節
祭司がパンを与えたのは『詩篇』作者ともされるダビデ王である。『マタイによる福音書』12章には、ナザレのイエスの弟子たちが安息日に麦畑で穂を摘んで食べた時、パリサイ人がこれを咎めたシーンがある。その際イエスは本来なら祭司以外は口にできないパンを受け取り食べたダビデ王と従者達についての聖書記事を引用して反論した。
- 信徒自身による聖別
祭司ではない信者、一般のイスラエルの民もまた、自身を聖別しなければならない、と説かれている。
”ゆえにあなたがたは、みずからを聖別し、聖なる者とならなければならない。わたしはあなたがたの神、主である。あなたがたはわたしの定めを守って、これを行わなければならない。わたしはあなたがたを聖別する主である。”レビ記20章7~8節
新約聖書
福音書において、ナザレのイエスが自身が神から聖別されたと語った記述がある(ルカによる福音書4章18節、ヨハネによる福音書10章36節)。
『ヨハネによる福音書』17章では磔刑を前にしたイエスが、父なる神に対し、真理によって信徒を聖別するようにお願いする言葉が記されている。
原始キリスト教教団の伝説的な活動記録『使徒行伝』では聖霊が信徒であるバルナバとサウロ(タルソスのパウロ)を聖別して任務を与えるようにアンティオケの教会(クリスチャン共同体)に命じ、断食と祈りのあとに二人のうえに手をあてて聖別を行い、送り出すシーンがある(第13章2~3節)。
本書に記されたパウロの言葉によると、イエスの教えには徳を高め、聖別された全ての人々と共に神の国を継がせる力がある(20章32節)。
元々キリスト教徒を迫害する立場にあったパウロだったが、ある日、幻視(ヴィジョン)の中でイエスの姿を見た。イエスはパウロに対し、人々を目覚めさせ神へと回帰させ聖別された民に加える為に自身の教えを広めるように命じたという(26章14~18節)。
伝統的にパウロ書簡の一つに数えられる『テトスへの手紙』では「このキリストが、わたしたちのためにご自身をささげられた(イエスが十字架刑に処せられた事を指す)」のは非信徒を不法な状態から抜け出させ、熱心な信徒を自身のものとして聖別するためであったと語られている(2章14節)。
キリスト教における聖別
場所、器物、儀式を行う役職の者(司祭など)への聖別はキリスト教にも引き継がれた。日本語表現においては、西方教会系(カトリックや聖公会)のものについては「聖別」、東方正教会における対応概念、儀礼については「成聖」の訳語が当てはめられている。
信仰による内面の浄めや高い境地の精神に至る事もまた「聖別」と呼ばれる。各信徒の人格における聖別は「聖化(Sanctification)」と表現する語彙が重なっている。聖公会以外のプロテスタント諸派には、特定の宗教者が場所、器物等を対象に行う所作・儀礼としての「聖別」の概念を持たないグループも多い。
宗教以外での用例
後世になって非宗教的なファンタジー作品が生み出され、キリスト教や教会組織などもイメージソースとなり、聖職者・宗教者が「ファンタジー職業」的に再解釈・換骨奪胎されるのと並行して「聖別」もまた独自の形で世界観に取り入れられるようになった。
アメリカ合衆国で生まれたTRPGの金字塔『ダンジョンズ&ドラゴンズ』には「アノインテッド・ナイト(聖別された騎士)」という戦士職が存在し、「油を注ぐ(アノイント)」という要素と魔術で作成されたオイルというモチーフが組み合わされている(『高貴なる行ないの書』 上級クラス紹介)。