概要
豪胆な性格で、秦の昭襄王も藺相如が健在な内は趙に手を出せなかった。
晩年は病に臥せり、孝成王が趙括を総大将にするのを止められず、長平の戦いの後すぐに死去。
完璧
紀元前280年、昭襄王は恵文王から「和氏の璧」を奪おうと思い、15城と交換しようと持ち掛ける。渡せば秦の属国と認めるようなもので、断れば侵攻の口実とされる。悩む恵文王に繆賢が「自分の客人に藺相如という知勇兼備の者が居ります」と申し出た。藺相如は秦へ使者として旅立った。
藺相如が昭襄王と面会するが、璧を寵姫や群臣に見せびらかすばかりで城の話をする気配が無いため、「実は小さい傷があるのです。お教えいたしましょう」と言って璧を奪い取り、柱の側へ駆け寄った。藺相如は怒りに冠を突き上げるほど髪を逆立て(怒髪天を衝く)、「趙王の信義に対し余りにも非礼で粗雑な扱い。もはや璧も自分の頭もこの柱で叩き割ってくれる」と言い放った。昭襄王はあわてて地図を持ってこさせたが、藺相如は宝物を受ける際の儀式として5日間身を清めるよう要求した。
藺相如は従者に璧を持たせ密かに趙へ帰らせた。
5日後、身を清めた昭襄王と面会すると、城を渡すつもりが無いように見えたので璧は趙へ持ち帰らせたと正直に語り、「重ね重ねの無礼の償いとして、私には死罪を賜りたい」と述べた。藺相如の剛胆さに感嘆した昭襄王はこれを許した。
帰国後、藺相如は恵文王の家臣となった。
黽池の会
紀元前279年、昭襄王から黽池(べんち)で趙との友好を祝う祝宴を開こうと誘いが来る。恵文王は行きたくなかったが、廉頗から「行かなければ趙は弱く卑屈だと思われ、秦を更に増長させ、諸侯にも侮れられます」と諌められ、藺相如を連れて黽池へ向かった。
祝宴で昭襄王は趙王に再三曲をせがみ、一曲弾かせると昭襄王は記録官に「趙王が秦の為に曲を弾いた」と記させた。藺相如は昭襄王に近づくと酒瓶を手に「秦では酒宴で酒瓶を叩いて歌うとか。どうか両国の友好の為に瓶を鳴らして頂きたい」と頼む。王に命じるとは無礼だと昭襄王は憤ったが、藺相如は「私と秦王の距離は僅か五歩。私の首を撥ね、その血を秦王に注ぎましょうか?」と脅したので、昭襄王は仕方なく酒瓶を鳴らし、藺相如は記録官に「趙王が秦王に缻を叩かせた」と記させた。
その後、秦の臣が恵文王に「我が王の長寿を祝し、貴国の十五城を我が王に献上しては如何か?」と言うと、藺相如は「貴国こそ我が王の長寿を祝し、咸陽を献上しては如何か?」と言い返した。
最後まで昭襄王は恵文王を格下扱いに出来ず、恥をかく事なく帰国できた。
刎頸の交わり
藺相如は上卿に昇進したが、廉頗は気に入らず「藺相如は舌先だけで儂の上と成った。奴を見たら必ず辱めてやる」と言ったため、廉頗と会わぬように病気と称して屋敷に篭り、宮中に参内するときも廉頗が居ない日を見計らった。
藺相如の従者達は情けないと思い、藺相如に「最早仕えることは出来ません」と告げるが、藺相如は「お前達、廉頗は秦王より恐ろしいか」と聞き、従者達は「及ばないでしょう」と答えた。藺相如は「私は秦王も怖れなかったのに何で廉頗を恐れる訳があろうか。秦が趙を攻め切れないのは私と廉頗がいるからで、国家の危急を個人の諍いよりも優先しているのだ」と言った。
伝え聞いた廉頗は恥ずかしく思い、藺相如の屋敷を訪れると肌脱ぎして座し、茨の鞭を差し出して気の済むまで打って欲しいと頼むが、藺相如は「将軍が居てこその趙国です」と許した。廉頗「貴方になら首を刎ねられても悔いはない」と誓い、藺相如も「私も将軍のためならば、この首を差し出しましょう」と誓い合った。
長平の戦い
紀元前266年、恵文王が薨逝し、翌年に孝成王が即位した。藺相如は病に臥せる。
紀元前262年、上党郡の領有を巡って秦と趙が争い、廉頗は長平城に籠城して秦軍を疲弊させる。
紀元前260年、秦軍は限界に達しつつあったため、秦の宰相・范雎はスパイに「秦は趙括を恐れている。廉頗は対処しやすい」という偽情報を流させ、これを聞いた孝成王は廉頗を解任して趙括を総大将に任命した。
藺相如は病身を押して参内し、孝成王に「王は名声のみで趙括を用いられようとしていますが、それは琴柱に膠して弾くようなもの(琴柱に膠す)。趙括は名将だった父・趙奢の書をよく読んでいるだけに過ぎず、実戦ではその時々に合わせ変化させなければならないのを知りません」と廉頗の解任を止めるよう進言したが、聞き入られず趙軍の総大将は交代した。
秦軍の将軍は秘密裏に白起に交代しており、趙括はその術中に嵌り趙軍は大敗。投降した趙兵20万人も邪魔なので生き埋めにされた。
その後間もなく、藺相如は病没した。
創作における藺相如
漫画『キングダム』
趙国最強を誇る三人の大将軍『三大天』の一角。故人。
智謀と勇敢を兼ね備えた大戦略家であり、自身が持ち合わせていない武勇の役目を担っている十人の将軍達「藺家十傑(りんけじっけつ)」を従えている。
また原泰久氏の読み切りでは、廉頗と藺相如の友情エピソードが描かれている。
(現在この読み切りはプレミアがつき入手困難)。