概要
伊藤計劃のデビュー作である長編SF小説。
2006年度、第7回小松左京賞最終候補。「ベストSF2007」国内篇第1位、「ゼロ年代SFベスト」国内篇第1位と様々な賞で高く評価される。
文庫版の帯文には宮部みゆき、小島秀夫、伊坂幸太郎らの著名な作家が
コメントを寄せた。
2015年にノイタミナムービー「伊藤計劃プロジェクト(project itoh)」の一作としてアニメ映画化が決定し11月13日公開予定していた。
が、制作体制見直しの為(アニメ制作を担当していたマングローブが10月1日自己破産申請に入った影響と思われる)公開は延期となった。
思いがけない憂き目にあったが、新設された「ジェノスタジオ」に制作が引き継がれ、2017年2月にようやく公開された。
ストーリー
サラエボが核の閃光に飲み込まれて消滅した時、世界は変わった。
新たな殺戮の影に怯える先進資本主義諸国は、徹底した個人認証による監視システムを構築し、テロの脅威を未然に防止することに腐心した。個人認証による監視システムの網に覆いつくされた世界で、テロは速やかに社会から排除されていった。
しかし、平和になっていく先進諸国とは対照的に、後進諸国では地獄の釜のふたが開こうとしていた。
どういうわけか、平和に向けて順調に歩んでいた国が、内戦の泥沼に転がり落ちる。
どういうわけか、国民を守り、貧困や差別を駆逐するべく努力していた人たちが、大量虐殺を主導し、多くの罪なき人々を惨たらしく殺して回るようになる。
全く発生原因を特定できない、突発的内戦とでもいうべき熱病――その背後で、密かに囁かれるひとつの名前があった。
ジョン・ポール――この男が訪れた国は、必ず内戦と虐殺の泥沼に転げ落ちて行く。
アメリカ情報軍(インフォメーションズ)・特殊検索群i分遣隊のクラヴィス・シェパード中尉はアメリカ政府の命を受け、ジョンを捕捉するべくその影を追う。チェコ、インド、そしてアフリカ――世界を股に掛けた追跡行の果てに、クラヴィスは無気味な陰謀へと行き当たるのだが……。
果たして、ジョンの目的は?そして、人々を虐殺へと駆り立てる「虐殺の器官」の正体とは?それを知った時、クラヴィスはこの世界のおぞましい真実を覗き見ることになる――。
登場人物
- クラヴィス・シェパード CV:中村悠一
アメリカ情報軍・特殊検索群i分遣隊大尉。ジョン・ポール追跡作戦の専従要員。
要人の暗殺等を仕事とするが性格は内省的で、少年のようにナイーブ。文学や映画好きのボンクラ という側面もある。
スクラブル(15マス平方のボードを英単語で埋めていくゲーム)が得意。
かつて、事故で瀕死の重態に陥った母の延命処置を停止させて死なせたことを未だに気に病んでおり、それ以来「死者の国」の夢を見るようになる。
- ウィリアムズ CV:三上哲
クラヴィスとは対照的に、楽天的で大雑把な性格。ゴシップ好きでデリカシーに欠けるところがあり、そのことをクラヴィスに指摘されることもしばしば。ちなみに、妻子持ちである。
スピンオフ作品『The Indifference Engine』にも登場している。
- ジョン・ポール CV:櫻井孝宏
- ルツィア・シュクロウプ CV:小林沙苗
- アレックス CV:梶裕貴
- リーランド CV:石川界人
- ロックウェル CV:大塚明夫
用語解説
- アメリカ情報軍(インフォメーションズ)
陸軍・空軍・海軍・海兵隊に次ぐアメリカ第5の軍隊。かつてCIAが担当していた諜報能力のいくらかを引き継いだ、新しい時代の軍組織。
- 特殊検索群i分遣隊
- 痛覚マスキング・戦闘適応感情調整
- 侵入鞘(イントルード・ポッド)
- 空飛ぶ海苔(フライングシーウィード)
- ユージーン&クルップス
名前こそヨーロッパ系だが、実際にはアメリカ資本の手が相当入っており、経営陣の大半がアメリカ人である。
この他にも、作中にはハリバートン社やパノプティコン社などの「戦争請負企業」が登場し、ソマリアやインドなどで治安維持活動に従事している。
関連イラスト