概要
『晋書』「列女伝」に記録がある。
曹操幕下の名政治家・辛毗の娘。晋の名将・羊祜は甥で、育て親とも言われている。
204年、父は袁紹の子である袁譚に仕え鄴に住んでいた。当時、官渡の戦いで敗北し勢力を減退させた袁紹が病死し、袁譚と袁尚との間の家督争いで内紛が起きており、袁尚の部下で父を恨んでいた審配に捕らわれそうになるが家族ともども脱出した。
優秀な父の影響か、時流を読む目と洞察力に優れていた。的確なアドバイスで何度も周囲を助け、非常に聡明な女性として知られていた。269年、79歳で亡くなった。当時の感覚からすれば大変な長寿である。
魏の行く末を案じる
曹丕と曹植が後継者を巡って争った時の事である。紆余曲折あって曹丕が正式に太子となる事が決まった。曹丕は辛毗の肩を抱き、「辛毗殿、私がいまどれ程嬉しいかお分かりか?」と大いに喜んだという。
辛毗がこの事を娘に聞かせると、彼女は大きくため息をついてうつむいた。理由を尋ねると、
「太子様はこの大国、魏を背負っていくお方になられました。それは、多数の幕臣を束ね、人民を安んじ、国外に覇を唱え、国家の末長い繁栄の為に戦う事が宿命となったのです。それは、とてもとても辛い道のはず。ならば、これからのわが身と国の未来を思って憂慮し、次の戦略を考え始めるのが当然ではありませんか。なのに、太子になったと大喜び。こんなに浅い決意で魏の繁栄はあるのでしょうか?」と語ったという。
義を持って弟を救う
権力をほしいままに専横する曹爽に対して、司馬懿がクーデターを起こした時にも彼女の洞察力が弟の辛敞を救っている。
天子のお供として曹爽が弟と宮中を離れた時、司馬懿は兵を挙げて武器庫を制圧、城門を閉じてしまった。曹爽に仕えていた辛敞は上官から曹爽の元に参じるように命令を受ける。しかし、明らかなクーデターに動揺した辛敞は姉の元に走り、「君主の元に行くべきか、それとも司馬懿に付くべきか」と相談した。
「確かに難しい局面ですね。しかし、司馬懿様程の方がこのような大業を起こしたからには、そうせざるを得ない事情が有ったのでしょう。明帝(曹叡)様はお二人に後事を託されたのに曹爽様の専横は良く知られています。それは国家に対する不忠であり臣下としての道に外れています。両人の才覚を見れば、司馬懿様が事を成し曹爽様は処刑されるでしょう。」
「ならば、城を出ずに司馬懿殿に協力した方が良いのでしょうか?」
「それでは、あなたが不忠の臣となりましょう。あなたが仕えているのはあくまでも曹爽様です。臣下たる者、いかなる時も主君に義を果たすのが務めです。城を出ない道理はありませんよ?」
姉の言葉に決意を固めた辛敞は兵を纏めて城を出て曹爽の元に参じた。
周囲の臣は徹底抗戦を主張した。しかし、司馬懿の「兵権の返還と官職剥奪を条件に命は許す」との言葉に戦意を喪失した曹爽は降伏し、結局は三族皆殺しとなってしまった。
辛敞は「危急の時に主君に忠を尽くした」と評価されて処刑を免れた。彼は姉の聡明さを大いに讃えた。
性格を見抜いて行動を読む
鍾会が鎮西将軍に任命された時、彼女は羊祜に
「鍾会様が鎮西将軍に任命されたとか。西に出兵するようですが何故ですか?」と尋ねた。
羊祜は「蜀漢攻略の為です。今回の遠征で滅亡させるおつもりです。」と答えた。
「遠征ですか・・・鍾会様は独断で事を運ぶ傾向が有ります。それに、強い野心もお持ちの様子。何事か起こらないか心配ですね。」と語り、羊祜は慌てて「叔母上、口を慎んでください。誰が聞いているのか分かりません。」と言った。
そして、いざ出兵の時になると、鍾会は彼女の息子の羊琇を参軍として求め、従軍することとなった。彼女は息子に
「気を付けて行きなさい。職に対してはその務めを思い、道義に対しては態度を思い、父母に心配をかけない。これが君子の習いです。しかし、戦場において思いだけが必要なのでしょうか?気を付けてくださいね。」と伝えた。
羊琇は鍾会の元で蜀攻略戦を行い、蜀を滅亡させることに成功する。しかし、案の定鍾会は謀叛を起こす。全軍が大混乱に陥り、多数の将兵が討ち取られていく。羊琇は母と伯父の会話を聞いており、母の助言もあって鍾会の行動には常々警戒していた。その為、自陣営は混乱せず、速やかな退却で無事に帰還した。
登場作品における辛憲英
三国志大戦
1には未参加。2・3はバージョンアップに伴う追加カードとして登場。どちらも武力1弓兵で戦力としては心もとない。3では柵追加でちょっと強化。計略はどちらも「賢女の教え」。知力強化の効果で2ではその極めて長い効果時間が特徴だったが、魏自体高知力武将が多く、知力を強化する意義が薄かった。魏と言う勢力が「教え無双」のようなコンボに向かなかった事もあるだろう。
3では同時に追加された「英知の大号令」とのコンボ等に注目が集まっており、今後の研究が期待されている。
なお、絵柄は優しい女教師と言った風で人気がある。
真・三國無双
辛憲英(真・三國無双)を参照