"Dracula" というタイトルは映像作品に限定しても複数が該当するため、本作に限定する意味で邦題の『魔人ドラキュラ』が用いられる。
概要
現代において「ドラキュラ伯爵」あるいはより広義に「吸血鬼」と言われた場合、多くの人々が自然に思い浮かべるであろうイメージ(夜会服にマント、高貴かつ精悍な凄みを持った黒髪の紳士)は、映画『魔人ドラキュラ』によって確立されたといっても過言ではない。
このイメージはドラキュラという名称の由来である歴史上の人物ヴラド三世とも、ブラム・ストーカーによる原作小説『吸血鬼ドラキュラ』(1897年)に登場する伯爵とも少なからず乖離しており、後年にはこれら原典を意識して描写されたドラキュラ作品もあるが、詳しくない人には変わり種と思われてしまうほどである。
ユニバーサル・ピクチャーズ製作、脚本はギャレット・フォート、監督はトッド・ブラウニング、1931年2月公開。
小説『吸血鬼ドラキュラ』を原作とする正規の映像化は本作が初となる。1922年の非正規映画については『ノスフェラトゥ』の記事を参照。
製作
ユニバーサルの二代目社長カール・レムリ・Jrが映画化の権利を取得し、伯爵役には『ノートルダムのせむし男』(1923年)でカジモドを、『オペラの怪人』(1925年)でエリックを演じたロン・チェイニーが内定していたが、1930年にチェイニーが咽頭癌で急逝。享年47歳。
急遽チェイニーに代わる伯爵役の俳優が検討され、舞台演劇で伯爵役を演じた実績のあるハンガリー出身の俳優ベラ・ルゴシに白羽の矢が立つ。
内容
原作の設定や展開は大胆に改変されており、登場人物の立場も大きく異なる。
- 序盤でトランシルヴァニアのドラキュラ城に招かれるのはレンフィールド(ドワイト・フライ)であり、正気を失い伯爵の下僕となってイギリスへの渡航を手引きし、その後セワード精神病院に入院する。
- セワード医師(ハーバート・バンストン)はミナ(ヘレン・チャンドラー)の父親で、ジョン・ハーカー(デヴィッド・マナーズ)はミナの婚約者。
- ミナの親友であるルーシー・ウェストン(フランシス・デイド)がアンデッドとなるのは原作通りだが、アーサー・ホルムウッドとクインシー・モリスは登場しない。
- ドラキュラ伯爵は精神病院に隣接するカーファックス修道院の地下墓所を拠点としており、ヴァン・ヘルシング教授(エドワード・ヴァン・スローン)が伯爵の心臓に杭を打つ場面は直接は描かれない。
等の変更点がある。
スペイン語版
『魔人ドラキュラ』は英語版と並行して、ジョージ・H・メルフォード監督によるスペイン語版も作製されている。
英語版のスタッフとキャストが朝にセット入りし、夕刻までに撮影を終え、夜は同じセットでスペイン語版のスタッフとキャストが朝まで撮影を行う、という手法がとられた。
こちらではスペイン出身の俳優カルロス・ヴィラリアスが伯爵を演じており、英語版のミナに相当するヒロインのエヴァはルピタ・トバーが演じている。
現在販売されているBD版『魔人ドラキュラ』には多くの特典映像と共にスペイン語版も収録されているので、細部の演出を見較べてみるのも面白いだろう。
続編
1936年に『女ドラキュラ(Dracula's Daughter)』が、1943年に『夜の悪魔(Son of Dracula)』が作製されている。
前者はブラム・ストーカーの短編小説『ドラキュラの客(Dracula's Guest)』の映画化ということになっているが、実際には後者と同じくほぼオリジナルのストーリー。
1944年には『フランケンシュタインの館(The House of Frankenstein)』でドラキュラ伯爵本人が復活登場するが、翌年の『ドラキュラとせむし女(House of Dracula)』も併せてジョン・キャラダインが伯爵を演じており、後世のドラキュラのイメージにはルゴシと同等以上の影響を及ぼしているともいえる。
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