12式装甲歩行戦闘車
ひとにしきそうこうほこうせんとうしゃ
開発は2000年代初旬、兵器名鑑の老舗である“ジェーン年刊”に寄稿された“次世代の兵器”という論評に端を発する。その論評では、陸戦の主体となっている戦車、攻撃ヘリコプター、装輪装甲車、そして作業用有腕・有脚作業機から発展した人型兵器であるAWGS(Armored Walking Gun System:装甲歩行砲システム)のそれぞれの弱点を挙げた。
- 戦車
- 装輪装甲車
- 野戦においては非常に高い機動性を誇り、市街地での小回りの良さと、戦車に比肩しうる火力を持つものも存在するが、2000年代の不整地での機動性は戦車よりも更に劣り、搭載キャパシティも戦車を上回ることができない(仮に出来たとしてもコストに見合わない)、何よりも防御力では戦車に全く太刀打ち出来ない。当然ヘリコプターに対抗することなど不可能である。
- AWGS(装甲歩行砲システム)
- 攻撃ヘリコプター
- 高速で戦場上空を機動し、対地目標に対する制圧能力は上記の兵器群に比べて圧倒的である。ならば、陸上戦の次の王者は攻撃ヘリコプターであるのか?否、戦闘ヘリコプターは上記の兵器群に対して被弾に圧倒的に弱く、陸上兵器とは違い戦場に長期間留まって制圧の支援を行う事が出来ない。火力も瞬間的には強力であるが、持続的な火力発揮能力は上記3種に劣る。そして何より、戦場の地形を利用して隠れることができない為、必然的に被発見率は上記の兵器群に対して突出して高く、被害確率は圧倒的である。
- 次世代の兵器はヘリコプター並みの機動力と、各種の陸戦兵器並みの長時間にわたる戦場支配能力、そして地形を利用して隠れる事が出来る能力を持った兵器が覇者になる。
- ないものねだりも甚だしいが・・・それを本気で作ってしまうとはだれが予測しえたであろうか。
このかぐや姫のおねだりのような荒唐無稽な要求性能に喰いついてしまったのが、各国の兵器産業であった。長く続く世界的な不景気により、兵器企業体は民需転換を図ったり、規模を縮小するなどして、何とか生き残りを模索していたものの目立った効果はなく、AWGSの出現である程度上向いたものの、それだけで業界の沈滞ムードを打破できることはなく、また、AWGSもそれほどの器を持ってはいなかった上に世界的な食糧危機も重なって、他の業界に比べても理不尽なほどの超不景気が襲い掛かってきたのである。世界中に対戦車ヘリコプターの供給が一段落してしまった事もそれに拍車をかけ、彼らはなんとか新製品を、それも革新的な新製品を求めざるを得なくなってしまった。
そして先の論評がこの歪な兵器群の扉を開く事になる。
世界の兵器産業と同じく日本の特機(兵器)産業群も、やはり不景気に喘いでいた。そして大胆な決断が発表される。米ボーイング社・三菱重工が提携し、ボーイングがブランドとして保持していたマクダネル・ダグラスを社名として冠したマクダネル・ダグラス・三菱(以下:MDM)なる巨大な兵器産業体が出現する。これは、不景気とはいえ潤沢なジャパンマネーとジャパンテクノロジーをただでさえ金のかかる兵器開発に流し込みたい米側と、特機産業生き残りをかけた日本側の利害が一致した結果として、日本は武器輸出解禁という副産物を持ちながらも、次世代兵器群への扉を開く母体を得た。
ところ変わって憲法第9条を堅持する日本国。世界の潮流に遅れまいと、AWGSの初取得を企図して防衛庁(ゲームの発売時期は1996年であり、流石に防衛省への昇格までは予測できなかった。逆に言えば、現状はそれ以外はほぼゲームの世界観通りに進んでいるようである)はSH計画を2000年代初旬に開始し、競争入札によって2009年にキャデラック・ケージ、小松(株)共同の2脚型機である9式装甲歩行車、クラウス・マッファイ、三菱重工共同の10式装甲歩行戦闘車(ドイツ連邦軍採用名ティーガー歩行戦闘車)を相次いで取得、調達を開始した。だが、先の次世代兵器論評は日本の兵器企業体にそれへの挑戦を強いる事になる。
そして、SH計画の終了から時を経ずして、競争入札に敗れたMDMは独自に先の次世代兵器論評に対応する兵器の研究をスタートさせた。防衛庁としてもSH計画をゴールとは見做しておらず、先の次世代兵器論評に対する研究を目的として“新SH計画”がスタートする。
計画開始から間もなく、MDMは同計画に参加し、AWGSに飛行能力(3次元起動能力)を付加するHIGH-MACS(高機動装甲歩行砲システム)というコンセプトを提唱、防衛庁側はこれを採用し、MDMは一気に次期歩行戦闘車開発計画の主幹企業となったのである。
新SH計画によって完成した機体は第二世代装甲歩行兵器として位置づけられ、2012年6月16日にプロトタイプ初号機がロールアウトし、性能テストが始まった。テストは順調に推移したが、9月に北海道で実施された実戦配備テストにおいてジャンプから降下した際に脚部が破損する事態が相次ぐ。後に重量過大下でのトラブルであることが判明し、脚部装甲を減少させ、アブソーバーを強化する事により、以降同様のトラブルの解消を以て、2ヶ月後の2012年11月に日本で「12式装甲歩行戦闘車」として老朽化した攻撃ヘリコプター・AH-1Sコブラに代わる対戦車装備に位置付けられ、陸上自衛隊及び日本外人部隊(アジア太平洋共同体・・・APCにおいて軍事的な人的貢献を求める加盟国の圧力と非難を躱し、日本国憲法第9条への改定を最小限度の抑えるために創設される)においては主力機として制式採用される。
同機の三次元機動能力を利用した目標捕捉能力は圧倒的であり、比較対象とした攻撃ヘリコプター・AH-64アパッチを凌駕し、同じく比較対象であったM1A2/A3戦車に対しても、高性能対戦車ミサイルによるアウトレンジ攻撃及び、三次元機動能力と120ミリ砲の組み合わせによるトップアタックで容易に無力化が可能であり、機動性にあっては本来の2足歩行による高い不整地踏破能力に加え、120ミリ砲及び各種火砲を装備した状態において、足底に装備されたコンバットタイヤ駆動でのローラー走行では時速70キロから80キロ以上、更に新型エンジン・ホワイトホールのアフターバーナー機能を使用して100キロ後半に近い地上速力を実現し、脚力に至っては最大20mも跳躍出来るジャンプ力を付加することに成功。空中においても、高度200メートル程度で飛行し、時速240キロ以上とヘリコプターに劣らない機動性を見せ、防御性能は重装甲の装輪装甲車並、隠蔽性能に至ってはF-117ステルス攻撃機を超える性能を持つ電波吸収素材によって、既存のレーダーによる捕捉が困難になるなど、これまでの陸戦兵器とは一線を画する性能に世界は衝撃を受けた。各国は既存のAWGSにコンバットタイヤを装備して機動性を付加した高機動型の開発を行う一方で、対抗手段として同様の“HIGH-MACS”の開発をスタートさせたが、そのゴールに辿り着いた国家は非常に少なかった。
機体サイズ
全高:8.0m
全幅:3.8m(空輸時には関節部を縮め、2.7メートルとなりC-130にて空輸可能)
本体重量:15t
全備重量:25t
主機:ホワイトホールガスタービンエンジンによる電気駆動方式
最高速度:
地上
ローラーダッシュ時:時速80km/h
ローラーダッシュ+アフターバーナー使用時:時速150km/h
三次元機動時(空中):時速270km/h
航続距離:450km
標準装備:
GAU‐8B 30ミリガトリング砲
運動エネルギーミサイル“KEM”
M256 120ミリ滑腔砲(低反動型)
70ミリロケット弾ポッド
乗員:1名
HIGH-MACSの保有・実用化に成功した国家は以下の三つ、正確には二つだけである。
- 日本
- 改良型の開発による発展
↑通常型
↑HEAVY-MACS(HIGH-MACS2)
↑LIGHT-MACS(HIGH-MACS3)
- 前述の通りに運用された。ただし、その後の開発推移によって改良型2機種の開発に成功している。
・HEAVY-MACS(HIGH-MACS2)
12式の強化タイプとして防衛庁からMDM社に発注された改良型。装甲の強化、新型武装へのアップデートなどが実施される、それに伴いエンジンはホワイトホールガスタービンエンジンからF400系ジェットエンジンに換装。燃料消費量の増大に対処するため、スペースドアーマー内に燃料を収容して航続距離の延伸を図るも機体は重量化、後方での輸送等の負担は増大し、様々な弊害を引き起こす。だがそれでも改良点は防衛庁の意向で新規設計は胴体部に絞られ、可能な限り改設計で対応している。
通称12式改と呼称され、第3次世界大戦及び戦後における戦闘に投入されている。
・LIGHT-MACS(HIGH-MACS3)
同じく12式の強化タイプとして完全新規設計の機体として開発が進んだもう一つの後継機プラン。2016年に正式化されたものの、本来であればHEAVY-MACSと同時期に試作が始まった機体であったことに加えて、設計の難航により計画は遅延、完成したのは大戦後となってしまった。しかしながら向上した運動性と軽量かつ強力で多彩な兵器の多装によって12式の正統な進化形としての性能を持つ。第3次大戦後の混迷を極める世界情勢に12式と同じくその身を投じることになる。
- アメリカ合衆国
- オプション充実による運用環境の改善
- ドイツ連邦共和国
- 独自研究による開発成功とオプションの充実による堅実な運用
- 日米とは別に、先の次世代兵器論評を検討し、同様のコンセプトに辿り着いた第2世代AWGS“ヤークトパンター”の開発に成功。降下猟兵師団などに配備され、第3次世界大戦中盤で日本外人部隊を苦しめた。地上での速力が12式、VW-1に対して勝っており、空中機動能力はより鋭い操縦性となった事もあって、投入当初は三次元機動能力を生かし切れないパイロットも少なくなかったという。VW-1 同様に多数のオプションを揃えており、両腕のスタブウィングには標準固定武装の30ミリガトリング砲のほか105ミリ滑膣砲に換装も可能。第三次世界大戦終結後にガスタービンエンジンを一機に減らし、コストダウンに成功した輸出仕様機・フォルクスパンターも開発されたが、こちらは不評であったとも言われる。また、さらに未確認ながら性能強化型も開発され、やはり第3次世界大戦終結後、北アフリカに投入されたとも言われている。
- ロシア連邦共和国
- 試作はすれど実用化できず。
- BMX歩行戦闘車を軽量化し、ガスタービンエンジンなどを装備したともいわれるが、実際のテスト記録が公表されていない為、詳細は不明である。第3次世界大戦に間に合わず、その後も戦場に現れた記録はない。
- 韓国
- 欠
- なし
コメント
pixivに投稿されたイラスト
すべて見るpixivに投稿された小説
すべて見る- GUNGRIFFON BLAZE
GUNGRIFFON the TEMPORARY END
創作に割ける時間と労力の都合上いつ完結できるか分からない状態となってしまったため、現在までに書き上がっている分を抜粋、編集し仮の終わりとさせていただきます。 ここまでお読みいただいた方、ありがとうございました。取っ付きやすいとはいえない架空戦記を読んでいただいて感謝の気持ちでいっぱいです。 チベットの独立や103機甲師団の悲劇など書きたいことはまだまだあるので、いつか完成させます。ありがとうございました!4,664文字pixiv小説作品 - GUNGRIFFON BLAZE
GUNGRIFFON EURASIAN CONFLICT1
拙作GUNGRIFFON BLAZEの第三次世界大戦編です。時系列ではBLAZEの方が後ですが、本作を読み始める前にさきにBLAZEを読むことをお薦めします。3,887文字pixiv小説作品 - GUNGRIFFON BLAZE
GUNGRIFFON BLAZE 1
一部のミリタリーファン、ロボットファンから熱く支持されるガングリフォンより、BLAZEを小説にしてみました。拙いものですがお楽しみいただけたら幸甚です。 ●呉武男 第1空中機動師団 第1空中強襲普通科連隊 対戦車中隊キマイラ中隊長。終戦時大尉。 敏捷性に乏しい機体に乗りながらも、丁寧な作戦前準備で大戦を戦い抜いたベテラン。リスクを嫌う堅実派で貯金が趣味。度重なる派遣で危険手当ががっぽりである。元サラリーマン。自分は勿論部下の機体も傷つけず帰還することから隊内での信頼は厚い。 ●黒井雄策 第1空中機動師団 第501機動対戦車中隊ガングリフォン中隊長。終戦時大尉。不破大尉の後任。 高威力の120mm滑腔砲を好み、機動力を駆使した距離100m前後の格闘戦を得意とする。撃破数は前大戦で随一だが被撃破率も高い。東ウラル核ミサイルサイロ制圧作戦"AURORA"に参加した経験を持つ。元格闘家。その闘いぶりから、PEUから「魔女の猟犬」と呼ばれ恐れられた。 ●レミ・シュライネン ドイツ連邦陸軍 特殊作戦師団 第26空挺旅団ザールラント 第264降下対戦車猟兵大隊 第二中隊隊長。終戦時少佐。 スポーツを愛好し、公私共に堂々とした振る舞いを好む武人。プロイセンの生真面目で武骨な男子といった風貌。真面目ではあるが、どこかの誰かのように「ふざけるな、俺のケツを舐めろ!」「情け無用!フォイア!」など言動が少々下品である。 大口径機関砲を用いた対地射撃を得意とする、対戦車戦闘の達人。9,386文字pixiv小説作品 - GUNGRIFFON BLAZE
GUNGRIFFON BLAZE 5-1
●19式装甲歩行戦闘車(12式装甲歩行戦闘車改・改) 2019年に正式採用が決定した12式装甲歩行戦闘車改の決定版。12式改の高性能はそのままに、アビオニクスとインターフェイスが改良されている。 特にヘッドマウントディスプレイによる全周囲視界を得た事で視界が劇的に改善されるとともにSAM、30mm機関砲のオフボアサイト能力を獲得しており、戦闘能力が飛躍的に向上している。 12式改のエンジンはゼネラルエレクトリックF404ターボファンエンジンをベースにしていたが、19式では発展型であるF414をベースにしたエンジンを採用している。結果として重量の増加を抑えつつ速力、運動性能が向上したものの燃料搭載量は増加しておらず、もともと問題視されていた稼働時間が更に短縮されている。しかしその運用は充分な事前準備を前提とした短期決戦を想定しているため、一概に問題とは言い切れない。エンジンの製造は石川島播磨重工業が担当している。 また、新式の砲である新型貫通砲を装備可能な事が兵装面の特徴である。この砲はこれまで多脚型AWGSや第四世代主力戦車にしか搭載されていなかった140mm滑腔砲をHIGH-MACS用の自動対戦車砲として設計したものである。140mm滑腔砲はその比類なき威力と引き換えに重量や反動の面から搭載可能兵器の幅が狭かった。しかし、主機であるF414エンジンの豊富な発電量に由来するアクチュエータの高出力とマクダネルダグラス三菱の高度な姿勢制御OSによって19式に搭載が可能となったのである。5,977文字pixiv小説作品 - GUNGRIFFON BLAZE
GUNGRIFFON BLAZE 4
●辺見ゆり MDM社航空宇宙事業本部/汎用機・特車事業本部 統合プロジェクトチームから日本外人部隊に出向してきたちょっとキツめのコンサバ系美人。2019年に正式採用することが内定している12式装甲歩行戦闘車改の実働試験を担当する。 とても美人なので外人部隊のむさ苦しい野郎どもから大人気だが、口説こうとした者がコテンパンに論破されて以来口説こうという猛者は現れない。「ターボファンエンジンと複合装甲を装備した男性が存在するならば恋人にしてもよい」とは本人の弁。 とてもいい匂いがする。クンカクンカ。7,780文字pixiv小説作品