概要
墜落防止の安全装置の一つ。開発は60年代、積極的になったのは70年代以降。
実用化は1974年以降でEGPWSは1993年以降、2002年以降製造のすべての航空機はTAWSの装着義務がある。
現行の「すべての地形回避システム(EGPWSおよび将来的にそれらに代わるシステムを含む)を包括する総称」をTAWSという。
一般的にはGPWSの名称で知られているがこれは従来型の名称で、現在は機能を強化・拡張(Enhanced)したEGPWSが使用されている、が名称で区別されていない。
TAWSは現在ほぼ全ての民間航空機に装備義務がある。(座席数の少ない小型機は装備対象外である)
軍用機には装備義務はないがおおむね装備しているとおもわれる。また回避行動を自動化したAuto-GPWSがあり既に強いGで失神した新人パイロットの命を救っている。
従来型と強化型の違いはGPSの対応と地球上の95%以上の地形情報を相互参照して運行者の補助、これは旧型で問題だった降着装置展開状態での無警告と手遅れの回避が目的である。
機体に異常がないのに墜落するCFITを回避するための装置のため、意図的な墜落・制御不能・整備不良・燃料切れでは役に立たない。
GPWSは他の計器と共有している気圧高度計(海面高度)とは独立した電波高度計(絶対高度)を使用しておりGPWSの出す警告は比較的危機迫った状態と言える。
この電波高度計は電波干渉や機器保護(他の計器を破壊してしまう)の観点から出力が抑えられており2,500feet(約750m)以下の絶対高度(絶対距離)でしか動作しない。
GPWS 動作モード
EGPWSには7のモードがある。
- モード1 危険な降下率について
低高度飛行中の機首下げの大きい状態を警告、また異常な低高度での降下を警告をする。
- モード2 航行上の障害になる地形について
針路上の障害を警告する。
- モード3 離陸時の降下について
離陸時に予測計算された上昇率を大きく下回ると警告する。
離陸してから高度1,000feetを超えるとこのモードは無効になる。
- モード4 地上接近と安全ではない状態について
安全なクリアランス(高度/距離800feet)が確保できない低高度状態を警告する。
- モード5 グライドスロープと降下について
精密進入(ILS方式)時に降下経路より低く飛ぶのを防ぐ。(この警報は他の警報の半分ぐらいの音量)
降下経路は空港周辺の地形を考慮して設定されているので無視すると山・丘・森などの地形に墜落する原因になる。
非精密侵入(VOR/DME方式)時は動作しない。
- モード6 意図しない状態の回避について
強すぎるバンク角を警告する。
降下時の高度の読み上げと着陸決心高度の通知も行う。
- モード7 ウインドシアの検知と警報
局地的な風向・風速の変化が激しい状態を教えてくれる。
特に速度の出ていない着陸時は非常に危険で墜落を招く。
警告音声について
GPWSの警告は2種類ある。
- caution
注意するべき状態と安全ではない状態(unsafety)の警告。
PULL UP以外のだいたいの警告がこれにあたる。
- warning
直ちに対応しないと危険な状態の警告。
PULL UPがこれにあたる。
音声一覧
基本的にはボーイングのものを参考。メーカー、時代、航空会社によって異なることもある。
考えられる機材:従来型GPWS EGPWS エアバス社が使用していたGPWS マクドネル・ダグラス社が用意した音声を使用したGPWS それら以外のTAWS
音声 | 意味 |
---|---|
Sink rate | 降下率に注意/機首を戻せ |
Don't Sink | 降下するな/機首を下げるな |
Too low terrain | 高度が低すぎる/上昇せよ |
Terrain Terrain | 進路に地形 上昇せよ |
Caution Terrain | 同上 |
Glide slope | (※1)グライドスロープより低い |
Bank angle | (※2)バンク角に注意/水平に戻せ |
Too low gear | 降着装置 が出ていない/を出せ |
Too low flaps | 高揚力装置 が展開されていない/を展開しろ |
Caution Windshear | 上昇気流のウインドシアに注意 |
"Beep" Windshear Windshear Windshear | 下降気流のウインドシアに備えよ |
"Beep" Head windshear Head windshear Head windshear | 向かい風ウインドシアに注意 |
Go-around Windshear ahead | 着陸を中止して復行せよ、前方にウインドシア |
PULL UP警報
音声 | 注釈 |
---|---|
"Whoop" "Whoop" PULL UP! | 警報音2回とPULL UPの基本形 |
Altitude | 女性声優 B717が使用 |
Terrain ahead PULL UP! | DC-8とTu-154は同一音声 旧版のA380が使用 |
Obstacle ahead PULL UP! | 現行のA380が使用 |
軍用機は高音域のほうが聴き取りやすいので女性声優
アントノフ機は警報音が鳴るだけ
旧ソ連機(イリューシン機とヤコヴレフ機)はロシア語あり
マクドネル・ダグラス機のは女性社員の声を使用したもの、PULL UPの音声はない(多分)
(※1)グライドスロープ:地上から指向性電波を発射して航空機に滑走路への適切な進入角を示して誘導する装置。
基本的に低視程・悪天候になりやすい空港ほど高カテゴリーのILSが設置される。
無視すると空港手前の地形に墜落する原因になる。
(※2)バンク角:機首を軸に航空機が旋回する時に横に傾く角度。
安全のため通常30度以内に収めるがそれを超える見込みがある場合はコンピューターが補正制御し、それでも傾けば警告が発せられる
(※3)ピッチ角:主翼を軸に航空機が昇降する時の機首の角度。
機首が上がれば減速しながら上昇、機首を下げれば加速しながら降下する。
低速での機首上げは失速を招くので危険。
類似システム
TAWSを名乗る製品もありGPWSのモード1〜5の機能を装備している等ややこしい事になっている。
ツポレフ機の事故でTAWSの名が出てくるが、これらは旧型で従来型GPWS相当ある。
ACSS TAWS
TAWSを名乗る製品、ACSS社のTAWS、前述したGPWS・EGPWSには存在しない機能について紹介する。
- 前方地形レーダーと回避警告音声
電波高度計の情報を視覚的にしたもの、安全ではない状態と回避するべき状態を音声警告する。
- 危険な進路変更の抑制
左右に進路を変えた時に危険がある場合の警告。
音声 | 意味 |
---|---|
Terrain ahead | 安全ではない/上昇せよ |
Terrain ahead PULL UP | 回避するべき/直ちに上昇せよ |
Avoid Terrain | 回避するべき/進路を戻せ/直ちに上昇せよ |
ヘリコプターにもEGPWSはあるが基本的に地形がある事のみを警告する。(PULL UPすると後退してしまうため)
代表的な事故・事件
エールアンテール148便墜落事故 1992年 間違った降下角設定
備考:当時は搭載義務がなかった
フライング・タイガー・ライン66便墜落事故 1986年 管制ミスとGPWSを無視
中国南方航空3456便墜落事故 1997年 視界不良とCRM不全、GPWSを無視
サンタバーバラ航空518便墜落事故 2008年 正規手順逸脱と視界不良による迷子、GPWSを無視し続け危険回避を怠った
ポーランド空軍Tu-154墜落事故 2010年 大統領特別輸送機 視界不良とTAWS無視
備考:ここは軍用空港で通常着陸でも警報が鳴る
アエロペルー603便墜落事故 1996年 ピトー管・静圧孔閉塞による盲目飛行、機体操作と警報内容の矛盾による混乱 独立動作するGPWSの電波高度計だけが正しく動作していた
ピトー管閉塞の原因は整備ミス、「正規のマスキングテープ」が在庫切れだったので「ダクトテープ」で代替し、剥がし忘れた
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