概要
M1A4ジャガーノートとは、安里アサト原作のライトノベル『86-エイティシックス-』に登場するフェルドレス(多脚戦車)型の無人式自律戦闘機械(ドローン)である。
モチーフは実在したアメリカ陸軍の水陸両用空挺戦車M551シェリダン。
所属と開発はサンマグノリア共和国。最大の特徴として情報処理装置に共和国辺境に生息する人型の豚・有色種(コロラータ)を採用している。
というわけでその正体は屁理屈もいいところの「有人搭乗式無人機」、正真正銘の欠陥兵器である。こうなったのは戦時急造の突貫工事の末に戦闘用AIの開発に失敗したのが最大の原因だが、その他にも口減らしや差別感情など複数の事情がある。
要するに(中の人を)ジャガーノート。
それゆえに、搭乗者の事を「プロセッサー」(処理装置)と呼び、アニメ版でレーナが見ているモニターや公式サイトにおける戦死者の表記も「DESTROYD」となっている。
作中での通称は「アルミの棺桶」。
「動く棺桶」でないのは動く棺桶の先輩方に失礼だからかもしれない。
だって先輩方はコクピットハッチがちゃんと閉まりますから(後述)。
末期には4機編成の1個小隊を最小単位として6個小隊24機の1個戦隊で運用される。
ドローン扱いなので基本的に(中の人ごと)使い捨てであり、大損害は当たり前。
部隊の再編統廃合は日常茶飯事であり、全滅による解散も珍しくない。
主敵であるレギオンと比較すると火力、機動力、防御力のあらゆる要素が不足しており、真っ当な運用をしている限りだと同数であっても厳しい部分があるが、プロセッサーたちの奮闘努力を考慮しても何故戦線を支えられているのか不思議なくらいのやられメカっぷりを誇る。
運動性だけは、人類最高峰と名高いギアーデ連邦主力機ヴァナルガンドより上にみえる(特にアニメ版で顕著)が、これはあくまで軽すぎる重量を逆手に取った、思春期の肉体的成長に影響が出るほどの無理矢理な回避運動によるもので脆弱すぎる脚部がその機動に耐えられていない。
こんな有様なので、作中の展開や情報を考慮するにレギオン側が本気になれば共和国は瞬く間に地図上から姿を消していた可能性が高い。
この惨状にも拘わらず、多くの共和国民は政府のプロパガンダもあってジャガーノートが優秀な兵器であると信じ切っており、ガラクタを押し付けたという意識すらなかったりする。
性能諸元・武装
全長 | 10.7m |
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全高 | 2.1m(ガンマウントアームの兵装含まず) |
主兵装 | ガンマウントアーム |
副兵装 | 格闘用サブアーム×2、ワイヤーアンカー×2 |
装甲 | 小銃弾ならギリギリ耐える程度の薄っぺら |
機動性 | 履帯式戦車よりはマシ |
情報処理装置 | 人型の豚 |
脱出装置 | 無人機です。 |
エアバッグ | 無人機です。 |
生産数 | 1年辺り約10万(※) |
※毎年入隊する86の総数とほぼ同じ。つまり損耗率ほぼ100%。
武装
57mm滑腔砲
ガンマウントアームに接続する貧弱な主砲。標準装備。
威力過少、精度も劣悪であり、有効射程はかなり短め。
敵機へ接近することはまず大前提とした上で、それでも戦車型相手だと側面装甲は貫通出来ず、上面か後方を狙う必要がある。
重戦車型ともなるとほぼ全周にわたって装甲貫通は困難であり、後部上面のごく限られた範囲でなければ貫通は不可能。
遠距離仕様滑腔砲(仮)
アニメ版オリジナル。遠距離戦仕様が57mmの代わりにガンマウントアームに接続する。
機体全長の2倍の長砲身ゆえ折りたたみ式である。Wikipediaでは250mmとされているが外見を見る限りは大きすぎるような気が。
…が、この手の長距離砲にもかかわらず、砲身の展開は完全にマニュアル。
メカデザI-Ⅳ氏曰く、こう。胴体をわざわざ接地させ、前の二本の 足 で 無 理 矢 理 砲身を前方に回してようやく展開が終わる。リンク先の解説図を見る限り、その際には機体が揺れる程度の衝撃がかかっている模様。もちろん、耐久性はヤバいとのこと。
後述の試作機で発見された砲身が自重で歪む欠陥と歩行時の振動への対策としてこうなったのだが、これでは本当に問題が解消されたのか怪しい。
白豚は戦闘中に宴会芸でもやらせたいのか? やらせたいんだろうな。見てないんだろうけど。
アナハイムでも棺桶ぐらいマトモに作れるぞ?
まぁそれでも後述の試作品と比べれば、ちゃんと「前に弾が飛ぶ」ようにだっただけ進歩とは言えるが。
高周波ブレード×2
格闘用サブアームに装着する白兵装備。言うまでもなく射程は極小だが、刃さえ届けば戦車型すら細切れにするすさまじい切れ味を誇る。届けば。
射程が100m単位の時代にわざわざ白兵戦を挑もうなどとは自殺行為でしかないのだが、そもそも戦闘すること自体が半ば自殺行為であるジャガーノートを運用する上では、安全性をかなぐり捨てても威力と継戦能力を追求することは却って合理的と言えよう。
……などと考えたのは主人公であるシンエイ・ノウゼンただ一人だった模様。
一応マニュアルにも記載されている標準オプションなのだが、他に誰も使うものがいないので、実質的にはシン搭乗機の専用装備である。
記録上にも彼以外の運用者は確認されておらず(なぜ作った)、整備兵にすらその存在を失念され(なぜ作った)、要望された共和国側の人間も驚愕を通り越してドン引きし(なぜ作った)、開発部員にとっては見るだけで興奮物の希少生物扱いである(なぜ作った)。
ちなみにジャガーノートの脚部は白兵戦に伴う急激な加減速や跳躍に全く対応していないため、調子に乗ってばっさばっさとやっていると一回の戦闘で足回りがお陀仏(なぜ……)。
幸いと言うべきか、生産数に対して使用者があまりに少ないため、予備の調達には苦労しないようである。
12.7 mm重機関銃×2
格闘用サブアームに装着。
大多数……というかシンエイ・ノウゼン搭乗機以外の全てがこちらを選択しており、ジャガーノートの標準装備となっている。
レギオンと戦う上で火力不足は否めず、戦車型には完全に無視されてしまう程度の豆鉄砲だが、仲間が主砲を命中させるための支援と割り切れば多少は使い出のある武装である。
ワイヤーアンカー×2
勾配の登攀や貨物、僚機の牽引等を目して作られたと考えられる兵器。
ジャガーノートの関連機材にしては珍しく強度にかなりの余裕があり、牽引速度にも優れている。
このためプロセッサーたちは劣悪な機動力を補う手段として多用しており、熟練者ともなれば某クモ男よろしくの見事な三次元機動を見せる。
バリエーション
そんなものはなく、開発以来OSのアップデート程度の改良しか行われていない。
…と思いきや、末期には流石に夜戦仕様程度は配備されていた模様。
夜戦仕様
末期に試験的に配備されたタイプ。といっても通信機器を強化したのみである。
遠距離砲撃仕様試験機
プラモのシン搭乗verの初回特典にて登場。
試作機を最前線のそれも激戦区に配備するのは創作ではよくあること。
正式採用機と違い砲身を折り畳めない。
そのため創作では珍しく試作機より量産機のほうが性能がいい。
まぁその折りたたみ機構も上述のとおりなんですが。
それだけでなく発砲すると反動で機体がひっくり返り、砲弾はどこへすっ飛ぶやらさっぱりわからんと言う、欠陥を語る以前の未完成品である。
どうやらまともな発射試験をしないままに実機試験に踏み切った様子であり、機体ごと宙返りする羽目になったテストパイロットを激怒させた。
なお遠距離仕様運用試験の短編が付属するのはシン搭乗機の方なので購入の際は間違えないように。
弱点
- 重機関銃弾にぶち抜かれる薄っぺらな装甲
- 歩行制御プログラムの未熟による華奢で接地圧の高い四脚
- 貧弱な主砲
- 履帯式戦車よりはマシという程度の機動力
- プロセッサーの頭部ごと吹き飛ぶクラムシェル型コックピット
むしろ弱点でないところを探すほうが難しい。
そんなわけでレギオンからは装甲歩兵程度と判断されてしまっている。
特に最後の脆弱すぎて密閉の甘いコクピット(※上述)が曲者。
爆死したはずのカイエの吹き飛んだハッチと機体に挟まれて切断された頭部を回収され黒羊にされるという事態を招いている。
いわゆる「動く棺桶」はパイロットの墓標となるから「動く“棺桶”」なのであって、中で死ぬことすら出来ないジャガーノートに棺桶の名はもったいないとすら言える。
※装甲は小銃弾の7.62mmすら耐えられないという誤解が一部で存在するが、これはTwitter上で作者本人によって否定されている。ちなみにプラモデルの説明書にはアーマイゼの重機関銃に貫通されるとあるが、作者のツイートと照らし合わせるとこれは標準の7.62mm対人機銃ではなく対装甲用の14mm機銃を指していると思われる。
プラモデル
アニメ化に伴い、ライトノベルの非人型兵器としては異例の立体化。それも天下のガンプラのお膝元バンダイからである。制作委員会にバンダイがバンダイスピリッツ名義で参加しているのも理由の一つだろう。
HGで1/48スケール、シン搭乗機、汎用仕様、遅れて遠距離砲撃仕様の3種が発売。
共通して同スケールのレーナやスカベンジャーが付属する他、着座状態のパイロットも付属する(それぞれ、シン、カイエ、クレナ)。
また、シン搭乗機のキットには初回生産分限定で「遠距離砲撃仕様」の運用試験を描いた原作者描き下ろし特別短編小説が付属する。プラモにこの手の特典小説とはなかなか珍しい試みである。
…繰り返すが、遠距離仕様運用試験の短編が付属するのはシン搭乗機の方である。100%楽しみたいなら遠距離仕様とシン搭乗機の両方を買おう。
ついでに言うとメンバーのパーソナルマークのデカールも複数付属するのでファンなら更に多々買い続けることを推奨。
ラノベクラスタは「は?」と思うかもしれないが、ガンプラの方で連中がいつもやってることである。諦めよう。
これらから察するに、サ終があと半年でも遅ければ鋼鉄の祭典に参加できたかもしれない。残念ではあるのだが、まだ手札は残されているので続報を待とう。
関連イラスト
関連タグ
フェルドレス ジャガーノート(86) スカベンジャー(86) ファイド レギオン(86)
…他国が開発した実質的な後継機。こちらは使い捨てではなく紙装甲高機動型だが、(共和国のジャガーノートより多少上等な)アルミの棺桶呼ばわりは変わらない。