解説
1985年に京都大学・慶應義塾大学・立石電機(現:オムロン)・アステック(現:アールワークス)によって共同開発され、1987年に完成した。
開発当時は、パソコンでは連文節変換が既に実現されていたが、ワークステーションでの日本語入力システムは一般的に、単語ごとまたは文節ごとに変換していた。このシステムは、ワークステーションでも「Watashino Namaeha Nakanodesu」と入力して正しく「私の名前は中野です」と一括変換できるような連文節変換を実現することを目指して開発されたことから、その文字列の頭文字を取ってWnnという名前が付けられた。「中野」は日本語処理開発チームの立石電機側の窓口となっていた人の名前である。
ちなみに"i"はintelligent・individual・integrated・internationalの4つのiに由来する。文脈や現在の日時から時制や季節を判断する機能、ワイルドカードにより予測候補を絞り込む機能(インクリメンタルサーチ)、多言語対応などの機能を擁する。
携帯電話では、三洋電機(鳥取三洋電機→三洋電機コンシューマエレクトロニクスを含む)、京セラ、パナソニック モバイルコミュニケーションズ、シャープ(2010年以降発売の機種)、ソニー・モバイルコミュニケーションズ(POBoxとの組み合わせ)、米国モトローラ、韓サムスン電子の製品にWnnシリーズが組み込まれている。
特にNTTドコモのFOMA共通プラットフォームであるオペレータパック(OPP))には標準でiWnnが採用され、それまでATOKを採用していた富士通(現:富士通モバイルコミュニケーションズ)、ケータイShoinを採用していたシャープの機種でもiWnnが採用されるようになった。またソニー・エリクソンの機種では初期にはWnnの辞書部分のみを提供しており、その後基幹部分も含め搭載された。iWnnが搭載されるようになってからもPOBox Proの機能が優先となるためiWnnの機能に対応するのは比較的遅い。例えばワイルドカード予測に対応したのはiWnnの発表から約3年が経過した2011年に発売されたS006搭載のPOBox Pro 5.0Eからだった。
ゲーム機、テレビ(プラズマ・液晶)、DVDレコーダーに組み込まれる例も見られる。例えばニンテンドー3DS(任天堂)では日本語入力システムがそれまでのニンテンドーDSブラウザーで用いられていたATOKからiWnnに変更されている。
iWnn IME
Androidのスマートフォンでは、たいていこの日本語入力システムを採用したり、iWnnをベースに独自にカスタマイズが施されたりしている。なお、近年発売されたものではGboardがプリインストールされていることが多く、iWnnを搭載した端末は減少する傾向にある。
素のiWnnは、一般語の変換精度は他より劣るが、固有名詞の語彙はやたら充実している。地名や施設名の変換精度は高い。近年の辞書更新では、人名の変換候補や記号がかなり増えてきた。
変換候補について
- iWnnでは環境依存文字を含んだ変換候補が表示される。例えば「たかはし」の変換候補は「高橋・高梁・高椅・高槁・高槗・高端・高階・高𣘺・髙槁・髙槗・髙橋・髙端・髙𣘺」のように多くの変換候補が表示される。さらに「松㟢・黑澤・獠太」などのように他のIMEでは変換候補に出ないような人名も候補に出ることがある。
- 長い固有名詞が予測候補に出ることが多く、漫画やゲームの名称、アーティスト名やVTuberなども多く出てくる。
- 熟語の候補は少なく、現時点で「一顧・嘲弄・所与・推断・痩躯・筆誅・老爺・警句・逡巡・胡乱・残滓」などは変換できない。
- 以下のように、打ち言葉も変換候補に出てくることが多い。
ファッ!?
ゴルァ!
(震え声)
あっ…(察し) ▼「あっさっし」で変換
おkwwww ▼「おけ」で変換
こマ?
そマ?
kwsk
ksk
(ry ▼「りゃく・いかりゃく」で変換
ネ申 ▼「かみ・ねもうす」で変換
- Androidで提供されている「Wnn Keyboard Lab」はiWnn IMEの先行開発版。それと併せて「Wnn日本語拡張パック」(無料)をインストールするだけで、Android版のスマートフォンにプリインストールされている日本語入力システムに引けをとらない変換精度で入力できるようになる。次期のモデルが出る前に辞書が更新されることが多いので、いち早く最新の変換語彙を確認することができる。Wnn日本語拡張パックにはクラウド辞書の機能もあり、無料で利用できるが、無料では全てのクラウド候補が表示されない。1年間の定期購入を利用することですべてのクラウド候補が表示されるようになる。デベロッパーへのお問い合わせで、クラウド候補のリクエストもでき(人名や作品名などの固有名詞、難読語や俗語、機種依存文字が含まれている語など、なんでもOK)、最低でも数ヵ月は待てば(全部ではないが)要望された語がクラウド候補に反映されるようになる。クラウド候補の更新は不定期。
補足
- かつてXperiaの日本語入力キーボードはPOBoxを採用しており、予測・変換候補エンジンはiWnnをベースにしているので、iWnnで変換できる語はPOBoxでも変換できるようになっていた。2019年冬春モデル以降のXperiaからは、POBoxに代わってGboardがプリインストールされた。
- SHARPのスマートフォンは「S-Shoin」を採用しており、変換候補エンジンはiWnnをベースに、Wnn日本語拡張パックのクラウド候補に収録されている語の大部分を取り入れているので、変換語彙は難読語・人名・作品名も含めかなり充実している。なお、近年はGboardがプリインストールされており、S-Shoinが搭載されていないことが多い。
- Galaxyシリーズの日本語入力もiWnnが搭載されており、S-Shoinと同じくWnn日本語拡張パックのクラウド候補に収録されている語が取り入れられている。ただし、最新の機種であっても最新の辞書が搭載されていないことが多い。
関連タグ
Android版のATOKは新語・流行語や日本語語彙の候補が多い。また、それぞれのジャンルの拡張辞書も無料でインストールできる。PC版のATOKと同等の変換語彙を擁したsuper ATOK ULTIASという日本語入力システムもあり、これはARROWSなどにプリインストールされているが、他のメーカーのスマートフォンには提供されていない。なお、買い切り版のATOKは2021年10月末にサポートが終了し、現在は月額制のATOKが2種類提供されている。
Androidでは人気のIME。着せ替え機能が豊富で、クラウド候補では多数の予測変換候補や顔文字が出現する。
あまり人気はないが、手書き機能やキーボードでのコピー&ペースト機能を備えているので比較的使いやすい。最近では難読語や人名の候補が大幅に増えている。