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概要
スキゾイドパーソナリティ障害(schizoid personality disorder)とは、精神疾患の中のパーソナリティ障害の一つ。精神医学上、「統合失調症スペクトラム障害」の一つにも分類され得る。
統合失調質パーソナリティ障害、シゾイドパーソナリティ障害とも。なお、英語の発音としては「スキゾイド」の方が近い。略称はSPD、SzPD、ScPD等。
※本記事では「スキゾイドパーソナリティ障害」または「SPD」と呼称する
人間関係の構築に興味が薄く、孤立・孤独を好む傾向や、感情の動きが平坦で、何事にも無関心に見えるといった特徴がある。
また、単純に性格ではなく、本人がこれらの症状によって日常生活を送る上で苦痛を感じている場合、また他の疾患・障害の合併症である場合に診断されるものである。
SPDの先頭部分「スキゾイド」(schizoid)は英語であり、意味は「統合失調症的傾向の」や「精神分裂病傾向の」など。
- 名称が示すように、SPDは「統合失調症スペクトラム障害」に属している。
- ただしSPDは、統合失調症や統合失調型パーソナリティ障害(STPD)と類似してはいるが別の障害である。詳しくは後述する。
症状の特徴
先に挙げたように、他者とのコミュニケーションに積極的でなく、親密な交流を好まないという人間関係における傾向に加え、感情の動きが鈍く自分の感情を把握し他者に表現することや、他者の感情の機敏を受け止めることが苦手といった感情にまつわる障害が特徴としてある。また、物事に無関心で、世間一般におけるイベントや、自身の生活における変化にもあまり受動的でないといった、活力が低いように見えるというのも特徴である。
SPD患者は極端なまでに周りへの興味・関心が薄く、人との交流を避け、口数も少なく、他人行儀でよそよそしい。また、人と深く関わる事で相手と自分が変わることを一番恐れ、必要以上に関わる事を避ける。
目に見えない内面的、精神的なものごとに価値を見出し、鋭い感性を持っているとも言われる。
他人への関心や干渉は少なく冷静だが、冷酷で攻撃的なサイコパスとは全く別の存在である。また、感情を受け止めることがあまり得意ではないものの、他人の心情を全く読み取れないわけではなく、むしろ他人の言動やそこから受ける影響には敏感である。
つまり、人よりも敏感であるがため、情緒の波を抑えるため、精神の均衡を保つため、他者との無闇な交流への関心を持たないようにしている、という解釈がなされている。
他人の言動に敏感で交流を避けるという点ではいわゆるHSPや回避性パーソナリティ障害とも似ているが、それらとは異なり孤独を恐れない。ぼっち飯などの「ひとり○○」も何故それが悲しいのか?と思ってしまうようである。他人との交流を好まないため、恋愛や複数人での遊びにもあまり関心がない。
あくまで周りに関心や興味が無い、極端に薄いだけで、ニートや引きこもりといった社会とのつながりが希薄な存在と必ずしもイコールではない。重症でなければ社会生活にさほど問題が出ず、少ないながらも友人知人を持つ人もいる。
感情を発露することや、「(団体競技など)全員で一致団結して物事を達成する」ような、他者と(深い)関係を持つことを強制される機会では苦痛を感じるという人が多い。
なお、周囲への関心が低く、感情も平坦なため、例えば「他人の不幸を喜んだり、他人の失敗を(スポーツなどの勝敗に関わる合理的な思想を超えて)強く望んだりする」ようなパーソナリティは、SPDとは別種であるといえる。
医学事典『MSDマニュアル』においては、SPDの特徴として「社会的関係から距離を取ることと全般的な無関心、また対人関係での感情表現の少なさの広汎なパターン」と述べられており、主な症状の例として以下が挙げられている。
- 他者からの孤立
- 感情表現の少なさ
- 症状の持続
このうち1と2について、簡単に述べる。
他者からの孤立
SPD患者は、他者と親密な関係を構築したいという欲求がないように見える。家族(やごく少数の親しい友人)を除いては、近しい相談相手や遊び相手もおらず、当然恋愛などにもほとんど興味を示さない。
趣味の時間でも、他者との交流を必要としないようなものを好む傾向がある。数学など人間的・感情的な部分が介入しない学問や、動物との触れ合いを楽しいと感じる人、一人向けのゲームや、一人で完結できるようなアイテムのコレクションを趣味に挙げる人も見られる。
身体的・感覚的な体験による楽しみをあまり感じない人が多いとされている。たとえば砂浜を散歩する時の、潮の香りや海風、砂を踏み締める感触などもそれほど興味を持たない。このため、身体的な快楽と精神的な交流の喜び両方の側面がある(恋愛における)他者との性行為にも関心を示すことはあまりない。
感情表現の少なさ
SPD患者は感情を周囲にわかる形で示すことがほとんどなく、また他者から示された感情に反応することも苦手である。自分が他人からどう思われているか、ということにあまり興味を持たない。
社会の一般的な行動様式(例えば「ある特定の場面では楽しくなくても愛想笑いしておく」といったこと)にも気がつかないことがあるため、いわゆる「KY」な人物に見えることも少なからずある。
SPD患者は感情を大っぴらに示さないため、一見すると「なにごとも楽しいとも思っていないが、特に辛いとも思っていない」ように見受けられることもある。また、本人も自身の状況をそのように捉えていることも少なくない。
しかしながら、実際には(特に社会的な交流の場において)精神的な苦痛を感じている、という人も多い。
診断
「精神障害の診断と統計マニュアル」によると、次のうち4つ以上を満たす事でSPDと診断される。
- 家族を含めて、親密な関係を持ちたいと思わない。あるいはそれを楽しいと感じない。
- 一貫して孤立した行動を好む。
- 他人と性体験をもつことに対する興味が無い。もしあったとしても少ししかない。
- 喜びを感じられるような活動が無い。もしあったとしても、少ししかない。
- 第一度親族以外には、親しい友人、信頼できる友人がいない。
- 賞賛にも批判に対しても無関心にみえる。
- 非常に淡白で超然とした態度、あるいは平坦な感情。
これらに加え、統合失調症や統合失調型パーソナリティ障害などの症状であったり、広汎性発達障害(とくに自閉症など)による傾向ではないと区別されることが診断の要点となる。
統合失調症については後述するとして、発達障害については(知的障害を伴わないような)軽度の場合、区別が非常に困難であるとの見方がある。発達障害の一つの特性として、上記に挙げるような行動や感情の傾向を示しているのか、それともパーソナリティ障害としてこのような症状があるのか、もしくは併発しているのかは専門の医師でもすぐには判断できないとされている。
ただし、発達障害が基本的に生まれつきのものであるのに対し、SPDは成人期にかけて徐々に形成されていくものである。このため、どちらにせよ幼少期の頃のエピソードや能力の傾向なども踏まえ、総合的に診断が行われるものである。
統合失調症や統合失調質パーソナリティ障害との類似
統合失調症の症状として、妄想や幻覚といった「陽性症状」のほかに、感情の動きが鈍くなり、表現に乏しくなるという「陰性症状」がある。また、生活への意欲が低下し、何事にも無関心になり孤独になってしまうという特徴もあり、SPDは統合失調症(の陰性症状)と似た傾向があることがわかる。
SPDについて、精神科医の益田裕介は「慢性期の統合失調症に近い印象」がある、と述べている。また、同じく精神科医の松崎朝樹は「幻聴も妄想もないけど統合失調症の陰性症状だけの人格」と述べている。
SPDは、DSM-5(『精神障害の診断と統計マニュアル』第5版)で定義された「統合失調症スペクトラム障害」に含まれることもある。つまり「統合失調症に連続している障害や病気」という大きな括りの中で、(統合失調症における陰性症状としての)「孤独を好む」・「感情の動きが鈍い」・「物事に無関心で活力がない」といった症状が強く出ているのがSPDである、というものである。
原因
『MSDマニュアル』で「この障害は、統合失調症や統合失調型パーソナリティ障害の家族がいる人でより多くみられる場合があります」と解説されている。
すなわちSPDの発症には、遺伝子がある程度影響していると考えられている。統合失調症や統合失調型パーソナリティ障害の既往歴がある家族(※ここでの家族は親・兄弟など、近しい親族)がいる、という患者も多い。
このほか、幼少期の家庭環境も発症に影響しているという可能性も指摘されている。虐待やネグレクトのほか、直接的な攻撃を行なっていなくても、子供に対して十分な愛情を注がない、よそよそしい、関心が低いといった親(養育者)の元で育ったことで、他者とのコミュニケーションにおける「あきらめ」としてSPD的な考え方が助長される、というものである。
治療
基本的には他パーソナリティ障害同様、認知行動療法やカウンセリングにより人間関係の考え方、社会の捉え方などを生きやすい方向に少しずつ変えていく、という治療法がとられる。
SPDそのものを治療する精神療法や薬物療法などはないが、他の精神疾患と併発している場合や気分障害などが強く見られる場合はそれらが用いられることもある。
SPDはうつ病との合併症が多い。『MSDマニュアル』には、「シゾイドパーソナリティ障害患者の最大半数が うつ病を少なくとも1回経験しています」と書かれている。SPD患者が治療のため訪れた精神科での診断や、カウンセリングによって発覚することもある。
良く分かる関連イラスト
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