紙越空魚
かみこしそらを
CV:花守ゆみり
本作の主人公兼語り部。埼玉の大学に通う、文化人類学を専攻する女子大生。ネットロアや実話怪談を好み、その知識は豊富。平素から廃墟探索を趣味としており、その際に見つけたとある扉を通じて「裏世界」の存在を知った。友達は少ないタイプで、裏世界で知り合った仁科鳥子に誘われ、探検と研究、お金稼ぎのために裏世界に行くようになる。特殊な家庭環境で育ったことからやや鬱屈しており、万事直截な鳥子に対して疎ましさと憧憬の綯い交ぜになった感情を抱く。
人の視覚を侵す「くねくね」との遭遇・接触を経て生還したものの、右目が鉱石のような瑠璃色に変異し、裏世界の怪異を視認、透視、看破できるようになってしまう。
いかれたピクニックの中で鳥子のことを意識するようになり、「冴月が見つからなきゃいいのに…」という思いに苛まれながらも、彼女の裏世界探索に付き合うことになる。主な武装は鳥子に渡されたマカロフ。
過去に母親が早くに亡くなってから、父親と祖母が怪しげなカルトにはまってしまった。そのために、家庭が崩壊してしまう。廃墟巡りは、入信させようとするカルト教団から逃れるために、潜り込んで寝泊りする事も兼ねていた(下記「赤い人」も参照)。
幼少期は家の事もあり、学校生活も彼女にとっては良いものとは言えないものだった。
高校の時の体験から、「人をいじるのが得意な奴は嫌い」。また、カルトに追われた体験か
ら、「自分が知らぬ間に、他者に自分の情報を握られ行動される事」も苦手。
小桜からは「コミュ障サブカルオタクに見せかけて依存性サイコパス」と評された。
このせいか、鳥子、小桜以外に親しい友人は、劇中には登場していない(大学の、同じゼミの生徒たちとはそれなりに交流はしているが、それほど親しくはしていない様子)。
後輩の瀬戸茜理からは慕われているが、空魚本人は若干うっとおしく感じており、毎回塩対応している。
ただし、本人は全く自覚しておらず、その気もないが、DS研の職員・辻は、空魚の事を「天然の人たらし」な一面があると評価している。
それに同意した鳥子曰く「空魚の周りにいる人って、仲良くなりやすいのかも」「(なんでと空魚本人から尋ねられ)連帯感と言うか、愚痴の言い合いというか……」。
さらに、「ああいうとき(無意識に他者を口説いている時)の空魚って、かっこいいからたちが悪いのよね……」とも言っている。
猫が好きで、「猫の忍者」の怪異に襲われても、攻撃したり傷つけたりする事を避けようとしていた(理由は「猫かわいいから、撃ちたくない」)。
とはいえ、猫を除けば、たとえ相手が人間(を模した存在)であっても、自分及び自分の友人を害するような存在には、躊躇なく攻撃できる一面も有する。「須磨海岸」の怪異である不良たちに迫られた際にも、相手が人間そっくりだったにもかかわらず、迷わずに銃で撃っている。
鳥子と裏世界を探索するようになってから、表世界に帰還した際には、鳥子に連れられ居酒屋に赴き打ち上げを行う。その際、鳥子がいつも多めに料理を頼むため、それを食べきるのに苦労していたりする。
また、裏世界の探索時に弁当を持ち込むようになった際、鳥子とともに自分も弁当を作って持ち込んでいる。作ったのはおにぎり弁当だが、自作したのはおにぎりのみで、おかずはスーパーのお惣菜や冷凍食品を詰めただけのお手軽なもの。それでも鳥子は喜んで口にして、互いの弁当をシェアしていた。
誕生日は5月5日。好きな食べ物は「アジの南蛮漬け」。
嫌いな食べ物は、「一晩おいてべっちゃりした揚げ物」。
好きな暇つぶしは「ゲームのプレイ動画の視聴」、ひそかな夢は「猫が飼いたい」。
彼女の名前『紙越空魚』は作者が20年前書いていた小説の登場人物から取られたもの。
鳥子というキャラクターはその時点では存在せず、裏世界ピクニックを書く際に空魚と対になるような名前として考えられた。
原作本文では描写されていないが、挿絵では八重歯があり、コミカライズ、アニメでも踏襲されている。
また、小説の挿絵ではいかにもサブカルオタクめいた眼鏡っ子であり、各媒体の容姿もこれに準じているが、実は原作中において眼鏡をかけているとは描写されていなかったりする。
注意して読めば確かに、眼鏡に言及しそうなシチュエーションでも一切の言及がなく「かけてない」事が読み取れるが、そも挿絵は眼鏡っ子であることと、彼女の言行イメージから、大半の読者は眼鏡っ子であることを疑っていなかったと思われる。
この点については、作者が原作七巻の発売に合わせてツイートで「ネタばらし」している外部リンク
ファイル1で、くねくねと遭遇した際。その様子を見続けた事で、右目が変異してしまう。
この目で目標を見る事で、裏世界の怪異を視認し、透視や看破が可能になる。
正確には、看破するというより、「一つの事象について、いくつもの様相を渡り歩くように『認識』している」と、空魚は自身で仮説を立てている。
この目を用いる事で、裏世界のグリッチを感知するのみならず、他者を見て認識する事で、その者を別の存在に変えたり、他者を狂気に近づけさせて怪異に対抗できるようにしたりと、様々な使い方ができる。更には、呪いや声といった、通常の視力では認識できないものすら、見る事が出来る。
当初は黒のカラコンでごまかしていたが、そのうちに面倒になり裸眼を晒している。周囲からはオッドアイ気取りのカラコンと思われているようだ。
空魚にとっては、裏世界は「自分の大切な場所」であり、他人が入り込んだり、関わったりする事を好まない。
あの静かな空間そのものを、自分の場所として独占したいと考えており、それゆえに当初は鳥子にも良い感情は抱いていなかった(自分のお気に入りの場所に、勝手に入り込んできた邪魔者と感じていた)。
しかし、裏世界の怪異と遭遇し、自身も死にかけ、鳥子に助けられた後。
鳥子とともに裏世界の探索を続けていくうちに、鳥子に心惹かれ、そこから二人で『共犯者』としての関係を深め、その心情も変化していく。
現在でも、裏世界そのものの危険性は理解し、それを承知しているものの。知らない人間が裏世界に関わったり、入り込んだりする事は好まない。
きさらぎ駅に在日米軍のペイルホース小隊が部隊ごと迷い込んだ際にも、「被害者を助けたい」という気持ちはあったが、同時に「裏世界の事を無関係な他者に知られたくないし、居てもらいたくもない」という気持ちも強かった。
いわゆる、ネット上に書き込まれている「実話怪談」を漁り、読む事が好きで、その知識も豊富。
しかし、都市伝説に関しては殆ど興味がない。
これは
「都市伝説は、あくまでも『噂』。情報の出所がはっきりしない、ソースが無い」
「実話怪談は、直接怪異に遭遇した当事者の『体験談』。体験者と報告者が明確に存在している」
……という、空魚自身の定義から。
実話怪談も、仮に創作であっても、情報の出所がはっきりしている。その事から、空魚の中では都市伝説とは全く異なる概念であると分けられている。
この違いは、空魚が学生時代に「ここではないどこかに逃げ出したかった」という切実な思いから生じたもの。
当時の彼女は、誰が言い出したか定かではない噂=都市伝説ではなく、誰かが体験し、誰かが書いた「実体験」の実話怪談を求めていた。彼女にとって実話怪談は、そういった「実体験の『報告書』」として捉えている。
そして、空魚自身も怖い体験をしたいわけではない。実話怪談に興味を抱いているのは、「ここではないどこか、未知の世界に行きたい」「そのためならば多少の恐怖くらいに負けていられない」という想いゆえである。
ちなみに他者からは、「都市伝説と実話怪談を、ネット上に記されている話=ネットロアである事からごっちゃにしている」事から、誤解される事も多い。
瀬戸茜理からも、「紙越センパイは、都市伝説の知識凄いですよね」と当初間違われていた(ファイル10)。
また、トーチライトの「牧場」での訓練でも、るながアメリカの都市伝説「キメラハウス(あらゆる恐怖が詰め込まれた建物で、入った者は出てこれない)」の事を語った時。「都市伝説は専門外」と言った空魚は、るなに「えー? がっかりですね、見損ないましたよ」と言われている(ファイル29)。
空魚の母親の死後、父親と祖母はカルトに入信。神棚と仏壇を捨て、奥羽山脈の田代峠に何度も通う様に。自宅は信者らの集会所となり、空魚の学校でも噂になるのみならず、空魚自身も入信させられそうになっていた。
下校時に誘拐されかけたり、寝泊まりしていた漫画喫茶へ放火もされ、行く当てもなく廃墟でキャンプしていたところ。『柔らかく赤い人』に抱きしめられている夢を見るように。それに心地良さを覚え、空魚は亡くなった母親を思い出していた。
その際に『あの人たち要らない?』と訊かれ、空魚は『要らない』と返答。
やがて、目が覚めた後。食料もお金も尽きたため、嫌々ながら自宅に戻り、灯油を用意して待っていた。
が、数日たっても誰も戻らず、警察から『山中で、窪地に溜まっていたガスにやられ、(祖母と父親を含む)信者らは全員死亡』と連絡が来る(この時に、死体は見せてもらえなかった)。
父と祖母がカルトに寄付したため、家に財産などは残って無かったが、この事件の後に奨学金で大学に進学。
奨学金を返せる当てもなく、悩んでいたところで鳥子と出会い、劇中に至る。
ちなみにこのような壮絶な過去を、本人は「よくある話」と思い込んでいるようで、「たいした話じゃないんで、聞き流して」と、聞かせた小桜に言っている。
(聞かされた小桜の方は、あまりの内容に呆然として、言葉も無かった)
なお、この「赤い人」は、後になって空魚の前に再び現れる。
当初は鳥子に惹かれる空魚が振り回され、時折見せる閏間冴月への依存に苛立たされるということが多かった。
鳥子がこの世で『最も親密な関係』として挙げた共犯者であることにこだわっており、ファイル7で鳥子が瀬戸茜理を共犯者としようとした時は必死で拒絶していた。
しかしふたりで様々な事件を切り抜けていくうちに鳥子からも好意を寄せられるようになる。
しばらくは自身の劣等感もあり鈍感系主人公のような対応をしていたが、ファイル14にてお互いに「好き」を応酬し、ファイル15ではディープキスされたことでさすがに自覚。
以降はその好意を知ったうえで、どのように受け止めるべきなのか戸惑っている状態である(6巻現在)。
ただし裏世界で共に居たいと思う人間は鳥子だけだということはたびたび口にしている。
のちに、8巻ファイル24にて、鳥子から「私の事をどう思っているのか」と尋ねられ、一週間の猶予を与えられる。
その際に、自分自身と鳥子の事を見直し、改めて考えていくうちに、ある怪異と遭遇。
その後に、鳥子のマンションへと赴いた。
この時も、「恋人」「恋愛関係」といった「世間一般で、理解され押し込めたがっているような関係性に押し込められる」事には抵抗していたが、
鳥子と互いに話し合い、ある一線を越え、「二人だけの特別な関係」を結ぶ事に。
ちなみにこの際にも、性欲めいた欲求はほとんど生じておらず、上記関係を結ぶ前に鳥子と事に至ろうとした。しかし、互いに経験が無いゆえか全くうまくいかなかった(鳥子からの愛撫をくすぐったいと感じていた)。
しかし、その後に鳥子が「一人でしちゃおうかな」と口にしたとたん、それを「見たい!」という強い欲求が生じ、そこから自身の目を用い、二人してある一線を越えた。
この時の行為は普通のそれではなく、異常性を有した、ある意味二人にしかできない特別な行為であった(ファイル26)。
後に別の場所で、他者が似た事を行っているのを二人で目撃する(ファイル27)。
空魚とそっくりの、いわゆる『ドッペルゲンガー』。
ファイル4『時間、空間、おっさん』から登場。最初は、空魚のスマホに、空魚自身から発信したメッセージの画像に映っていた。
その姿は空魚に瓜二つではあるが、いつも空魚が着ているパーカーのフードを深くかぶっている。空魚いわく『瑠璃色の右目がぎらついている』『(顔つきは)内面の感情が露わになったように醜く歪んでいる』。
後に、裏世界に小桜とともに偶然入り込んだ空魚の前に出現。空魚を、裏世界に入り込んだ鳥子のもとへと導いた。
当初は、自身の脳内で見せている存在と空魚は予測。後に、ある程度の実体があるらしい事から、怪異を成立させる『現象』の一つと仮説を立てていた。
ずっと後になって、空魚の中学高校時の環境から『自身を客観的というか、他人事のように見ている感覚になる事があったから』という、生じた原因らしき事を鳥子に述べている。そのため、実際にドッペルゲンガーを目にしても、空魚は『あーそりゃいるよな、納得』といった感覚だった。
ファイル4の後にも、何度か空魚の前に出現。ファイル19『八尺様リバイバル』でも、空魚に向けて霞の居たゴミの山を指差している。
この時点では、空魚以外には見えていなかった。しかし後に(ファイル22『トイレット・ペーパームーン』)、ドッペルゲンガー自体も鳥子の前に出現している。その際に、鳥子は空魚本人と勘違いしており、寝床に誘い一緒に眠っている。
ただしこの時には、鳥子いわく「すごく辛そうだった」「(鳥子に対して)罪悪感があったんだと思う」と、かつてのドッペルゲンガーとは異なる様子を見せていた。
(後にある事で、空魚自身に妙な優越感を抱いた表情を見せた)。
アニメ版での声優の花守氏は、基本的に明るい少女や少年の役に定評があり、声色もそれに見合った明るいものが多いが、この空魚はそれらとは正反対のややハスキーかつ暗めな印象の強い声色になっており、多くの視聴者を驚かせた。
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