龍を継ぐ男
りゅうをつぐおとこ
猿渡哲也が手掛ける格闘漫画タフ・シリーズの一作で、『高校鉄拳伝タフ』(以下・前々作と呼称)『TOUGH』(以下・前作と呼称)に続く第3作となる。2016年から週刊プレイボーイで連載開始。
プレイボーイ掲載時の正式タイトルは『TOUGH外伝 龍を継ぐ男』であるが、単行本化にあたって外伝表記が外され『TOUGH 龍を継ぐ男』となっている。単行本刊行後も掲載誌では外伝表記がなされたままで、タイトルが2つ存在する事態となっている。
これまでの作品では宮沢熹一を主人公としていたが、本作では鬼龍の息子である新キャラクター・長岡龍星を主人公としてスタート。彼の他にも鬼龍の血を継ぐ子供や、鬼龍の遺伝子から生み出され前々作で死亡したガルシアのクローンが登場する。
かつての主人公である熹一は悪堕ちし、髪を伸ばして「NEO宮沢熹一」と名乗り、鬼龍の遺志を継ぎ暗躍するなど衝撃的な登場を果たす。だが物語が進むにつれ真意が明らかになり、ある目的のために悪に堕ちたフリをしていたことが明かされる(その後髪を切り、前作と変わらない容姿に戻った)。同時に、死んだと思われていた鬼龍も熹一と結託して死を偽装していたことが発覚し、再登場を果たした。
時系列に関しては諸説あるが、前作から10年以上経過しているとされている(詳しくは後述)。
従来作が売りとしていた超画力による戦闘描写や技のかけあい、個性的なキャラクター、独特なセリフ回しといった魅力は健在。
実母と共に長岡家に引き取られ育った青年・長岡龍星は、母の死を契機に大学への進学を蹴り、実の父である宮沢鬼龍を倒すために旅に出る。
鬼龍に恨みを持つ者の復讐に巻き込まれ、鬼龍の弟である宮沢静虎に助けられた龍星は、彼の下で活殺術・灘神影流を学ぶことになった。
そんな龍星のもとに次々と鬼龍の血を引く者が現れ、その影で悪に堕ちた宮沢熹一が暗躍。鬼龍は既に死んでいることが明らかにされる。
熹一の影を追う龍星。やがて大国の影の権力者による陰謀や、鬼龍の死にまつわる真相が明かされていく…。
前作終盤にて「今の世に殺人術など必要あるか?」という台詞があり、現代における暗殺術の必要性が問われる展開が存在したが、本作ではそれをさらに推し進めたような展開が随所に見られる。
前作ラストにて灘・真・神影流を打ち立て、道場を設立した熹一だが、本作では門下生が集まらず、経営不振で道場を潰してしまったことが明かされる。
一方で市井に幅広く人気を博し門下生を多数擁する灘心陽流は所詮エクササイズとこき下ろされ、門下生にすら「肝心な場面で暴力に勝てない」とも言われてしまっている。
展開自体に大小のツッコミどころこそあれど、「実用的な暗殺術は現代において必要とされず、人気を得ている武術はスポーツレベルどまりで実戦における実用性がない」という二律背反がわかりやすく描かれている。
また、本作では人工的に生み出された戦士や改造手術を受けサイボーグとなった格闘家、近代的な特殊装備を身につけたファイターなどが多数登場する。
裏社会の陰謀によって生み出され、権力者たちの思惑に振り回され悲劇的な人生を送る突然変異体、国家の意向によって望まぬ体に改造されてしまった格闘家といったテクノロジーの負の側面が描かれる一方、脚を失ったが最新型の筋電義足によってむしろパワーアップした武術家や、瀕死の重傷を負ったが改造手術によって再び活動できるようになった特殊部隊など、テクノロジーの正の側面も描かれている。
また、高性能な義足を得るために自ら脚を切断する者まで現れるなど、本作における最新テクノロジー描写はかなり徹底されている。
現実世界においても、技術の向上により義足のランナーが健常者より良い記録を出せるようになるなどの事例が報告されており、現実に即した描写と言える。
さらに、「突然変異の心臓」を巡る戦いにおいては米軍が開発したロボット兵器が次々と登場。
しかもこれが暗殺術の達人を容易に蹴散らすほど強く、格闘家がロボに一方的に倒される展開には「迷走」「これまでの作風に対する愚弄」との声も多数みられた。
一方、従来の格闘漫画やバトル漫画では「格闘技は銃器や戦略兵器には勝てない」というツッコミを回避するために「登場人物の戦力を戦略兵器以上にインフレさせる」「そういった兵器を登場させない理由づけをする」といった手法が取られていたが(武術で話を成立させるために文明崩壊後の世界を舞台とした北斗の拳が代表例として挙げられる)、本作では格闘家を最新兵器と対峙させており、今までの格闘漫画以上に踏み込んだ作風ともとれる。
作中においても度々「格闘技が最新テクノロジーに敵わない」ことへの憂慮や「現代において格闘技をやることの意味」への問いかけが行われており、本作では「時代に淘汰される格闘技の行く末」をテーマにしていると言ってもいいだろう(実際、作中において「滅びの美学」という言葉が出ている)。
ツッコミどころ
一方で、大小様々なツッコミどころ満載の展開(いわゆる猿展開)もまた顕著であり、従来作に見られた「性格や設定の唐突な変更」「キャラが突然退場し以降一切触れられなくなる(猿空間送り)」「実在人物モデルの登場人物に対する愚弄」「乱発される悲しき過去」といったお馴染みの展開に加えて
- 格闘技に関してだけは熱心な性犯罪者やチンピラが跋扈するなど荒みきった治安
- 目の前で刃傷沙汰が起こっても「撮影だろ」で済まし興味も持たない目の死んでる一般人
- 男も女も性犯罪に巻き込まれ哀しき過去を背負う
- 命がけで米軍から取り戻した人物を即座に米軍に返還する熹一達、自身の指示で龍星に移植した心臓を取り戻そうとする鬼龍など、鳥頭化の著しい登場人物達
- 後付けで幼女を毒牙にかける異 常 性 愛 者にされた中国武術家
- NEO宮沢熹一にワンパンで倒され脱糞する龍星と、それを後々までねちっこく蒸し返してくるキー坊。この展開により龍星は読者から「ウンスタ」呼ばわりされる羽目に
- 切断された脚が左右コロコロ入れ替わる
- ドルを円と誤記する痛恨のミス
- 多重人格者ジーキル・ハイド・テコンドーの達人パク
- 5vs5マッチを謳っておきながら大将が4人1組のチームであり、実質5vs8マッチ。美学をもてとは何だったのか
- 自称「男も女も平等に陵辱するジェンダーレス」のニコライ
- ポージングをして肉体美を見せつけながらスパム・メールまがいの扇動を行う怪人物キャプテン・マッスルと、明らかに怪しいメールを真に受けて続々と来日し龍星を狙う野蛮人たち
- あからさまな矛盾は修正しないのに敵キャラの語尾には妙に拘る単行本の校正。謎修正っぷりは彼岸島以上ともされる
- 性格・実力・言動など全ての面において過去作からの凋落が著しい鬼龍
- もはや意味不明の域に達している尊鷹の身体技能
など、ツッコミどころには事欠かない。
プレイボーイ編集部のやる気のなさも指摘されている。
特に最終ページのアオリ文・次号予告に顕著であり、「最終ページしか読んでない」「最後のコマしか読んでない」レベルの文が平然と掲載されている。ひどい時には「2週続けて一字一句同じ次号予告が掲載される」といった事例や「新キャラが目的を表明したコマに『この男の目的は…?』というすっとぼけたようなアオリ文が添えられる」といった事例すら見られ、もはや最後のコマすら読んでないのではとすら言われている。
矛盾点など
そんなやる気のない編集部のもとで、「漫画はノリとイキオイ」「突発性イイカゲン病」と自他共に認める作者の作風が素通しされた結果、設定や時系列などの矛盾が多数発生してしまっている。
特に酷いものだと「現在の時間軸で存命の人物が過去回想で自殺する」といった時間軸上の矛盾や、「前作で日下部覚吾の息子だったと判明したキー坊が、鬼龍の息子である龍星に『ワシらは異母兄弟や』と発言する」といった設定上の矛盾が挙げられる。
舞台となる時系列の考察に関しては混迷を極めており、「戦後72年」という発言から2010年代とする説や、NEO熹一の「数年前ハイパー・バトルでおとんと戦った」という発言からおおよそ2000年代とする説が存在する。
※通常「数年」とは2年以上10年未満の期間を表すことが多い。ただし熹一の「数年」が10年以上を示していると解釈すれば矛盾はしない。
また、本編から10年前の過去回想の時点で鬼龍が死を偽装して潜伏しており、少なくとも前作から10年は経過しているとされている。ただしこちらにも矛盾点があり、序盤で静虎が「鬼龍とは3年前に会ったきり連絡が途絶えている」と発言していたり、米軍から身を隠すための偽装であったにもかかわらず潜伏期間中に米軍で武術のインストラクターをしている描写が後にあったりと、10年という期間にも疑問が残る。
上述の通りツッコミどころや矛盾点は星の数ほどにものぼり、本作はリアル風格闘漫画の金字塔であると共にツッコミどころを楽しむ漫画としての側面も持ってしまっており、プレイボーイ最新号の発売と共に色んな意味でネットを賑わせている。
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