ガトー級
がとーきゅう
概要
77隻(改良型であるバラオ級を含めると200隻以上)建造された、第二次世界大戦当時のアメリカ海軍の主力潜水艦である。最初はタンバー級として扱われたが、数が揃うにつれてガトー級として扱われるようになった。級名は、一番艦のガトーによる。
ハーダー・アルバコア・フラッシャー・シルバーサイズ・ワフー・ラッシャー・トリガー等が駆逐艦複数撃沈、空母撃沈、撃沈数二ケタなど輝かしい戦果を残した一方で、戦果を残せないまま戦没した艦もあり、全体では20隻が戦没している。
このガトー級だけで日本軍の戦闘艦(戦艦、巡洋艦といった広義の軍艦や駆逐艦といった戦闘用の補助艦艇を内包した、広義のもの)の3割、商船の6割以上が撃沈されたといわれている。
ほとんどが魚の名前が由来となっている。例外はサソリが由来の「スコーピオン(USS Scorpion, SS-278)」。
このガトー級が改良されてバラオ級・テンチ級が誕生し、サーゴ級以前の旧式潜水艦を置き換えた上で、さらに日本のシーレーンを徹底的に破壊した。これらも多数の戦闘艦を撃沈・撃破している。
戦後に他国に貸与された艦もあり、日本にも「ミンゴ(USS Mingo,SS-261)」が初代「くろしお」として海上自衛隊に貸与されている。このミンゴも戦時中には駆逐艦「玉波」を撃沈しており、昨日の敵は今日の友とはよく言ったものである。
ガトー級の活躍は大戦中にはとどまらず、サブカルチャー的にもアスロック米倉を生み出したり、多くの艦娘のトラウマの元凶になったりして、その存在感を後世に残している。
なお、ここに掲載されているのは主に戦艦・空母・巡洋艦・駆逐艦・潜水艦といった戦闘艦を撃沈した艦である。つまり、ここには戦闘艦を狙わずシーレーンを破壊し尽くした通商破壊のエースは記載していない。それでもこの数である。輸送艦、タンカー、補助艦艇、民間船舶を含めた総合的な戦果・被害は計り知れない。
元となったタンバー級潜水艦
そもそも、ガトー級自体タンバー級の改良型なので、こちらでも少し触れておく。
主なガトー級潜水艦
ここからが本題。
ガトー(USS Gato,SS-212)
ネームシップ(1番艦)であり、タンバー級13番艦。トラザメの一種が由来。
※2隻分ズレているのはSS-204とSS-205が「マッケレル級」であり、別設計の別艦級であるため。
残念ながら、どこぞのソロモンの悪夢とは無関係である。
(そもそも、本来の発音は「ガトー」ではなく「ゲイトー」である)
もちろん、ソロモン諸島で起きた諸海戦にも参加したわけでもない。
しかしそれでも・・・
艦娘じゃなくて艦息じゃないかという突っ込みはナシで。
戦闘艦の撃沈はないが、11隻の艦艇を撃沈している。
グロウラー(USS Growler,SS-215)
4番艦。由来はオオクチバス(ブラックバス)。
キスカで第18駆逐隊(霰、不知火、霞、陽炎)を壊滅させ、「駆逐艦退治人」の異名を持つ。
最期は駆逐艦「時雨」達に撃沈されたとされている(記録がなく、あくまで推測である)。
主な戦果:駆逐艦「霰」「敷波」撃沈、駆逐艦「不知火」「霞」大破
ガードフィッシュ(USS Guardfish,SS-217)
6番艦。由来はカワカマスの一種。
この艦までが最初は「タンバー級」として扱われていた。
漫画・アニメ「ジパング」においてイージス艦「みらい」に向け魚雷を発射したのが彼女。
そして「みらい」の米倉一尉の手で発射された対潜ミサイル「アスロック」による反撃を受け、至近弾で通信アンテナや艦体を破損する。
つまり、このガードフィッシュこそがアスロック米倉を生み出した全ての元凶である。
なお、実際のガードフィッシュが哨戒を開始したのはミッドウェー海戦より後の1942年8月。
作中で「みらい」を攻撃した6月6日時点では、まだニューロンドンで準備中である。
主な戦果:駆逐艦「海風」「羽風」、哨戒艇「第一号(元駆逐艦、峯風型初代「島風」)」
※ぜかましのモデルとして知られるのは二代目の島風型駆逐艦である。
アルバコア(USS Albacore,SS-218)
7番艦。由来はビンナガ(ビンチョウマグロ)。
どこぞのブラウザゲームの影響で一躍彼女も有名となった。(参照:またアルバコアか)
有名になった理由は色々あるが、軽巡洋艦天龍を撃沈したというのが一番大きい。
(同軽巡洋艦をモチーフとした同名キャラクターの人気は非常に高い)
マリアナ沖海戦で一航戦及び第一機動艦隊の旗艦だった最新鋭空母・大鳳を、日本側の不手際・慢心や不幸も重なり魚雷1本の命中弾のみで撃沈、出オチにしてしまった。
当のアルバコアの側でもその『戦果』は後々まで把握できていなかったという。
この大戦果は日本側には「大失態」として受け取られ「失敗百選」にも掲載されている。
(該当する失敗百選がこちら)
1944年11月7日、津軽海峡で機雷に触れて散った。
バーブ(USS Barb,SS-220)
9番艦。由来はコイ科の魚。
第二次世界大戦における敵艦撃沈トン数No.3。
主な戦果:空母「雲鷹」
ボーンフィッシュ(USS Bonefish,SS-223)
12番艦。由来はソトイワシ(断じてマリオのゲームに出てくる骨だけの魚ではない)。
スラバヤ沖海戦で英軍兵士を救助した駆逐艦「電」を容赦なく真っ二つにした。
(命がけの戦場では友軍を救った恩など一切無意味、関係ないのである)。
同行していた姉妹艦・響と持ち場を変わってすぐの惨劇であった。
1944年6月19日、5隻の海防艦に攻撃され戦没。
主な戦果:駆逐艦「電」
ダーター(USS Darter,SS-227)
16番艦。由来はペルカ科の魚の一種。
その直後に座礁、処分された。
ドラム(USS Drum,SS-228)
17番艦。由来はスズキ目の魚数種類の総称。
初めて日本の「軍艦」を沈めた潜水艦である
(ちなみに駆逐艦は狭義の軍艦としては扱われていなかった)。
現在は博物館船として展示されている。
主な戦果:水上機母艦「瑞穂」
ブルーギル(USS Bluegill,SS-242)
31番艦。
この艦は知らなくとも「ブルーギル」という名前だけは聞いた事があるはず。
琵琶湖やらに跋扈している、さるやんごとなきお方が持ち込んだとされるブラックバスに並ぶ外来魚、あのブルーギルが由来である。
主な戦果:軽巡洋艦「夕張」
カヴァラ(USS Cavalla,SS-244)
33番艦。発音の都合上、資料によってはキャバラ、カバラと表記されていることもある。
由来はコバンアジ科の魚の一種。
マリアナ沖海戦において真珠湾攻撃以来の歴戦の空母「翔鶴」をマリアナの海に沈めた。
現在はテキサス州ガルベストンに展示されている。
主な戦果:空母「翔鶴」、駆逐艦「霜月」
デイス(USS Dace,SS-247)
36番艦。由来はコイ科の淡水魚で、ウグイの仲間のデイス。
姉ダーターと共に栗田艦隊に襲い掛かり、摩耶を撃沈した張本人。
映画「火垂るの墓」の清太・節子兄妹の父(摩耶の乗組員という設定である)の仇ではないかと推測されている。
(※劇中で摩耶に搭乗しているのは戦前の観艦式であるため異動となっている可能性もあり、あくまで推測の域を出ない)
戦後はイタリア海軍に譲渡され、潜水艦「レオナルド・ダ・ヴィンチ」となった。
主な戦果:重巡洋艦「摩耶」
フラッシャー(USS Flasher,SS-249)
38番艦。由来はスズキ目の魚、フラッシャー。
第二次世界大戦における敵艦撃沈トン数No.1(幻の駆逐艦「イワナミ」を含めなければNo.2)。
敵艦艇21隻を撃沈している。
主な戦果:駆逐艦「岸波」、軽巡洋艦「大井」
ガビラン(USS Gabilan,SS-252)
41番艦。由来はトビエイ。
五十鈴の撃沈はバラオ級「チャー」との共同戦果となっている。
主な戦果:軽巡洋艦「五十鈴」(バラオ級「チャー(SS-328)」との共同戦果)
ハーダー(USS Harder,SS-257)
46番艦。由来はボラの一種。
第二次世界大戦屈指の戦果を残した最強の駆逐艦殺し。
サミュエル・D・ディーレイ艦長の指揮の下、マリアナ沖海戦直前、タウイタウイ近海で4日間に駆逐艦3隻を沈めた化け物。
そして、この駆逐艦3隻撃沈が引き金となって日本軍主力艦隊は予定より早くタウイタウイから引き上げ、マリアナへ向かわざるを得なくなった。
そしてマリアナ沖海戦が勃発、日本は知っての通り空母3隻を喪失する大敗を喫することになる。
まさに第二次世界大戦最強の潜水艦の一角と呼ぶに相応しい真の黒幕である。
そんなハーダーだが、1944年8月24日にマニラ沖で撃沈され、ディーレイ艦長も戦死している。
ちなみに、ハーダーに纏わる有名な言葉がある。
"Expended four torpedoes and one Jap destroyer!"
邦訳「4本の魚雷とジャップの駆逐艦を消費した!」
これは「雷」撃沈時にサミュエル・D・ディーレイ艦長が実際に記した言葉である。
この攻撃で雷乗員は全員戦死しており、かつて雷乗員がスラバヤ沖海戦で(米軍にとっての友軍である)英軍の兵士を救出し、病院船に引き渡したエピソードを知っていると、戦争では恩も何もかも関係なく、あくまで「敵」との殺し合いである事を実感させてくれる、あまりに悲しい一言。
「敵」である雷とその乗員は単なる戦果の糧として「消費」されてしまったのである。
主な戦果:駆逐艦「雷」「早波」「谷風」「水無月」
(※「早波」「谷風」「水無月」が4日間に失われた3隻)
そして、そのハーダーを討ち取ったのは第22号海防艦と第102号哨戒艇であったが、この第102号哨戒艇、実は日本軍に鹵獲された元米駆逐艦クレムソン級駆逐艦33番艦スチュワート(USS Stewart, DD-224)であり、“かつての味方”の最期に関わる事となった。
更に、
・上記の「雷」はスラバヤ沖海戦で撃沈されたクレムソン級駆逐艦34番艦ポープ(USS Pope, DD-225)(言わばスチュワートの妹)の乗組員を救助している
・「早波」は「島風」(ガードフィッシュの項目とは異なりこちらは俗に『ぜかまし』と呼ばれる方である)と共に第102号哨戒艇と船団護衛任務を行っている
・「谷風」も「日章丸(初代)」(かの有名な『日章丸事件』を起こしたのは2代目)の護衛を第102号哨戒艇に引き継いだ事がある
などなど、ハーダーが沈めた駆逐艦4隻の内3隻と(間接的・直接的問わず)関わりがあるため、それらの艦を沈めたハーダーの最期に関わってしまったというのは、何とも皮肉な話である。
ラッシャー(USS Rasher,SS-269)
58番艦。由来はメバルの一種。
第二次世界大戦における敵艦撃沈トン数No.2(実質No.1)。
主な戦果:空母「大鷹」
改良型・バラオ級潜水艦
これらは艦級が異なるが、元はと言えばガトー級の改良型。
日本で言う「特型駆逐艦」のような分類をすれば、バラオ級はガトー級(元を辿ればタンバー級)に含まれる。
こちらも主な戦果を残した艦だけでもこれだけの数がいる。
他にも24隻の敵艦船を撃沈した「タング(USS Tang,SS-306)」なんてのもいる。
元は同じなので、ガトー級と同じく、艦名は魚の名前から付けられている。
太平洋戦争で唯一戦艦(戦艦金剛)を撃沈したシーライオンや、潜水艦が撃沈した1隻の軍艦の中で最大の記録(空母信濃撃沈)を持つアーチャーフィッシュを擁する艦級だが、戦争後半に就役した為に戦果を残せなかった艦もおり、全体では10隻が戦没している。
ちなみに、この艦級はタスク(USS Tusk,SS-426)が台湾に譲渡され、海豹 (ROCN Hai Pao, SS-792) として未だに現役である。
バラオ(USS Balao,SS-285)
バラオ級のネームシップ(1番艦)。
ガトー級との通算で74番艦。由来はサヨリ。
戦闘艦の撃沈はなく、戦果は計6隻、31920トン。
ボーフィン(USS Bowfin,SS-287)
由来はアメリカに生息するアミアカルヴァ。
ボーフィンという名前は聞いた事がなくとも、どの日本史の教科書にも、彼女が引き起こした悲劇が載っているはずである。
それは、米潜の雷撃による対馬丸沈没。
多数の学童が犠牲になった悲劇。その張本人である『米潜』こそが、このボーフィンである。
対馬丸には軍属の人間も乗り込んでいたため戦時国際法違反にも問えず(※軍の輸送船とみなされ、正当な攻撃対象であった)、学童の遺族は泣き寝入りした。
現在は「真珠湾攻撃の復讐者」として凱旋、ボーフィン・サブマリン・ミュージアム&パークとして真珠湾に展示されている。
日本ではたびたび悲劇・事件として語り継がれている対馬丸沈没だが、米国には単なる『戦争を生き延びた英雄』の一戦果でしかなかった。
対馬丸と共に沈んだ700人以上の学童がいたことを、当時のボーフィン及びその乗組員に知る術はなかったのだ。
対馬丸を撃沈した際に多くの学童が犠牲になったことはボーフィン・サブマリン・ミュージアム&パークのホームページなどでも触れられている。
主な戦果(被害?):貨物船「対馬丸」など商船15隻、海防艦1隻
アーチャーフィッシュ(USS Archer-fish,SS-311)
由来はテッポウウオ。
空母「信濃」撃沈は潜水艦が撃沈した軍艦の中で最大の記録。
2隻しか撃沈していないにもかかわらず、その撃沈トン数は59800トン。
これは信濃があまりに巨大すぎたためである。
主な戦果:空母「信濃」
シーライオンII(USS Sealion,SS-315)
詳細はこちら→シーライオン
由来はアシカ。魚ではないが気にしない。
彼女は二代目で、先代のサーゴ級シーライオンは開戦直後にフィリピンで戦没。
太平洋戦争で唯一戦艦を撃沈した潜水艦。