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界磁添加励磁制御の編集履歴

2018-03-03 19:08:35 バージョン

界磁添加励磁制御

かいじてんかれいじせいぎょ

界磁添加励磁制御は直流モーター搭載鉄道車両制御の一つである。

直流モーターの基本

直流モーターは、外周部の界磁コイルで発生させる磁力と、電機子(回転する部分)のコイルで発生させる磁力の吸引反発を利用して回転力を得る仕組みである。

また逆に、界磁中でコイルを回転させると、界磁力と回転速度に比例した電力を発電できるという特徴もまた基本である。

正確には直流直巻電動機と呼ばれ、電機子コイルと界磁コイルが直列に接続され、両者には全く同じ電流が流れる。以後、この直列の回路を主回路と呼び、そこから枝分かれする回路をバイパス回路と呼ぶ。


界磁をコントロールする理由

界磁の制御は、電機子電流と一蓮托生であるべき界磁電流を外部からコントロールして、モーターの物理的性質をフル活用するために必要な手段の一つである。

回転速度が上がるとモーター自身の発電電圧が電源電圧に近づくため、逆向けに取り付けた電池のようにモーターに供給する電流を阻害し始める。これが高速域での加速を鈍らせ、電車の速度を頭打ちにさせる物理的な要因である。

高速域でさらに回転力を上げたい場合は、ここで敢えて界磁電流を弱めて発電力を抑えることによって、電機子電流を再び増加させるという「損して得取れ」手法が編み出された。


例えば、界磁を80%に落とすことで回転力は80%となるが、同時に発電力も80%になるため、その結果仮に電機子電流が2倍になれば、何もしないときに比べて160%の回転力となる。


モーターの速度と界磁の強さにおける回転力の比

定格速度の0%60%100%150%200%
界磁100%100400-50-100
界磁80%804216-16-48
界磁60%6038246-12
界磁40%403024168
界磁20%2018161412

 ※停止時の界磁100%での回転力を100とする


  • 電力回生のために使う

上記の逆バージョン。発電力は界磁と回転速度に比例するので、逆にブレーキを掛けたいときに界磁力を強めることで、モーターからブレーキ力と発電力が取り出せる。速度が出ているときに行うと電源電圧(1500V)よりも十分高い電圧が発生するため、パンタグラフを通して電力に架線に戻すことができるようになる。これが電力回生の基本ルールである。

モーターが定格速度を下回ると、いくら界磁力を強めても発電電圧が1500Vを超せなくなり、そこで回生の打ち切りとなる。

(打ち切り速度の参考)モーター単体だと定格に等しい40~50km/h、モーターを直列つなぎにしてさらに絞り出すと20~25km/hぐらい。


界磁をコントロールする手法

大手私鉄では、2系統の界磁コイルが巻かれた特殊なモーター「直流複巻電動機」を使い、一方の界磁力を半導体でコントロールして全体の界磁力を加減算する、界磁チョッパ制御なる方式が広く利用されていた。しかし国鉄には「特殊形状のモーターを大量投入する金銭的余力がない」「そのモーターの特性(過渡特性)が一部鉄道車両には適さない面があり、国鉄車両に要求される長距離運転に不利」「民間企業が独占する技術を使えない」「会話の通じない組合がいる」等の理由があり、採用されることは無かった。

そんな中、国鉄で新たに界磁チョッパ制御に相当する半導体界磁制御の研究開発が始まった。


弱メ界磁制御に用いていたバイパス用端子に別の電源を接続し、同一線路別回路を構成することで実効界磁束線を増減させ、界磁制御を実施するという手法は戦前からあった。しかし従来はこのために必要となる、別回路の実効電流値を制御する高速スイッチング素子に磁気増幅器が使用されていた。しかし磁気増幅器自体重い上その上に交流補助電源が必要となり、当時は電力用となると電動発電機(MG)しかなく、高額になる上に重量が嵩むデメリットが大きかった。ただしそれでも一部の私鉄では積極的に採用され、また国鉄でも機関車では量産化した例もあった。

ただ、国鉄電車としては101系910番台の試作にとどまり、デメリットのほうが大きいとされ発展しなかった。


軽量な半導体スイッチング素子が登場し、さらに補助電源もこの時点ではまだMGが主流だったとはいえ昭和30年代当時に比べると遥かに小型軽量化された。ついでに一般車冷房が常識の時代となったためどちらにしても大容量MGを抱えて走るのがデフォルトになっていた。

そこで従来の磁気増幅器に変えて、半導体スイッチング素子による直巻モーターの界磁制御の手法が開発された。これが界磁添加励磁制御である。


界磁接触器主回路と同じように、バイパスルート用にも複数の抵抗器を用意し、回路組み換えによって抵抗値を可変させて界磁電流を階段状に切り替える。この抵抗器への回路を開閉するスイッチを界磁接触器と呼ぶ。原理上主回路電流に対して界磁電流を弱めることしかできないため、一般的に回生には使えない。
磁気増幅器式バイパスルートに別電源で作ったカウンター電流を常に流しておき、カウンター電流の強弱で界磁電流の逃げやすさを調節することで界磁力をコントロールする(直巻他励界磁制御)。使用される素子を界磁調整器と呼ぶ。回生時はカウンター電流がそのまま界磁電流に転用され、電機子の回転数に合わせて必要な起電力を掛けることができる。しかし、磁気増幅器の時代は本体が重い、補助電源装置が重く、しかも当初は満足なレギュレーター(電圧安定素子)が無かったため架線電圧変動の影響を受けやすい、後の半導体ほどにはきれいなチョッピング電流ではなかったため主回路にも悪影響が出るなど、デメリットも大きかった。ただし、それでも量産ベースで採用した例は少なくない(例:小田急2600形)。
界磁添加励磁制御簡単に言うと上記磁気増幅器式を半導体スイッチング回路に置き換えた形式。磁気増幅器よりも遥かに軽く、補助電源のMGも小型軽量化が進み、またレギュレーターも半導体の発展で改良されたため架線電圧や主回路電流の影響を受けにくなった。半導体の交流位相制御回路による電流も滑らかで応答も早い。と、従来の磁気増幅器による他励制御の欠点をほぼ克服しメリットだけを大きくした。
(参考)界磁チョッパ制御界磁コイルを2つ持つモーター(複巻電動機)を使い、メイン界磁コイルは通常通り主回路に、サブの方はモーターと並列につなぐ。サブ界磁電流を半導体の直流チョッパ回路で強弱することによって2つの界磁力の合計値をコントロールする。こちらも主回路電流とサブ界磁電流がある程度独立しているので、回生時にも強いサブ界磁力を掛けることができる。

以上のように、本方式は抵抗制御方式をベースとしており。従来のモーターと同じものが使えるということもあって、あまり新機軸を採用したくなかった当時の国鉄にはうってつけだった。


その後

本方式に先駆け、電力効率の抜本的な改善を目指して開発された電機子チョッパ方式は、改善した性能に見合わないほどの高コスト機器であり、お金がないくせに車両の大量置き換えが必要だった末期の国鉄には厳しいものであった。

本方式を最初に採用した205系と211系は省エネ性能とコストダウンを両立し、大成功をおさめた。基本は抵抗制御方式であり、起動時の熱損失は看過する方針であったため、電機子チョッパ並のストイックさは見られないものの、軽量ステンレス製車体の恩恵など、トータル性能が評価された形である。

電機子チョッパ制御の場合、回生電流は必ず主回路の半導体を経由するため、高速域ではその保護のためあまり回生力を高められない(まして当時の半導体素子は高価な割にヤワだった)。

しかも低速域はそもそも運動エネルギーが小さく(エネルギーは速度の2乗に比例)、回生電力も微々たるものとなる。

対する界磁添加励磁または界磁チョッパの場合、回生電力が通る主回路には半導体が挟まっておらず、高速域での回生ブレーキの大電力もなんら差し支えない。

界磁チョッパ制御と比較しても安価で幅広い範囲で回生制動ができるため、国鉄型の末期、JR各社の初期には多くの車両に採用された。


量産が開始された1985年にはすでにVVVFインバーター制御の車両がボチボチと出始めていたが、早期に大量生産に踏み切ったのは近鉄JR西日本ぐらいで、他社、特に同一形式大量増備が基本となる国鉄→JR各社、東武営団などは技術的系譜が根本的に異なる交流誘導電動機のVVVFインバーター車導入は運用面でのハードルが高く(一度導入してしまえば安上がりだが、そのために多くの社員を教育しなおさなければならない)、試験的なものにとどまっていた。


ただ多くの大手私鉄ではすでに導入されていた界磁チョッパ制御車の増備が続けられた。私鉄においては、界磁添加励磁制御は回生ブレーキを持たない旧型抵抗制御車の性能刷新改造や、その電装品流用車の製造のための技術として使われ、新製は最小限にとどまった。


一方、国鉄が1988年に解体されJRグループとなった後も、そもそも電化区間が無かったJR四国とその殆どが交流電化でそれに特化した制御方式を採用したJR北海道JR九州以外の各社は国鉄型電車の技術系譜を受け継ぎ、特にJR東日本では最終的に205系だけで1,000両以上を製造している。205系の総製造数は1,461両(うち20両がJR西日本製造分)で、国鉄在来線形式としては103系、113系、101系に次ぐ大量製造形式である。


界磁添加励磁方式で製造された世代が次世代に移行するのは1993年の209系がきっかけとなる。新製期間だけで言えばあまり長いとはいえない。しかし本格的な世代交代が始まるのはJR東日本においてE231系による103系置き換えが一段落した2002年ごろから。この時点で初期車はすでに18年を経過しており、決して短命とはいえない。なお私鉄の界磁添加励磁車で早期に姿を消した形式があったのはそれらが抵抗制御車からの改造だったためである(それにしたって営団5000系で東西線撤退が2007年である)。JR西日本に至っては廃車されたのは潮風で床下機器をやられる本四備讃線向け213系のみ。私鉄においても、東武鉄道の200系なんか「いつまで使う気かな、ん?」状態である。


採用例

日本国有鉄道


東日本旅客鉄道(JR東日本


東海旅客鉄道(JR東海)

JR東海の界磁添加励磁制御は、補助電源を直流としているため、添加励磁制御には位相制御回路ではなく、DC-DCコンバータが用いられる。DC-DCコンバータは、直流の補助電源をインバータにより単相交流に変換し、さらに降圧・整流して直流の添加電流を得る。インバータにはパワートランジスタを用いている。

  • 211系電車(5000番台・6000番台では全車ロングシート)
  • 213系電車(5000番台)
  • 311系電車(1989年)
  • 371系電車(1991年、廃車)

西日本旅客鉄道JR西日本)


東武鉄道


帝都高速度交通営団→東京地下鉄

  • 5000系電車(1989年改造(一部)、廃車)

名古屋鉄道

  • 100系電車(1989年。100系116F・200番台車のみ(200系は除く))
  • 1800系電車(1991年)
  • 5300系電車(1986年。動力装置転用時に改造。日本の私鉄では初の採用例)
  • 5700系電車(1989年。モ5650形のみ、モ5750形とモ5850形のペアは、界磁チョッパ制御
  • 6800系電車(1987年)

京阪電気鉄道

  • 2200系電車(1987年改造、一部車両のみ)
  • 2400系電車(1987年改造)
  • 1000系電車(1991年改造)
  • 5000系電車(1998年改造)

その他



  • 東葉高速鉄道1000形電車(1995年、営団5000系電車改造、全車廃車)


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