概要
最初にホンダの商標としてフィットが使用されたのは、1986年から1993年まで生産販売されていた2代目シティのグレード名であった。
車名としては1997年~2000年に販売された原付スクーターのDio Fitが最初である。
しかし一般に「フィット」というとホンダの看板車種の一つとして知られるコンパクトカーのことを指すため、本記事でもそれについて扱う。
歴代
初代GD1型(2001-2007年)
ロゴの後継車種として発売。
前席の下にガソリンタンクを配置する「センタータンクレイアウト」を採用して広い室内とラゲッジスペースを得て、さらに走行性能と低燃費も鼎立したため、日本市場では好評を得る。同じコンセプトですでに人気を集めていたライバルのトヨタ・ヴィッツ、およびマツダ・デミオを破り、さらに2002年には国内における年間販売台数で33年間トップを守り続けたトヨタ・カローラをも陥落せしめるという歴史的快挙を達成した。当初月間販売台数は8,000台だったが、発表後1ヶ月で目標の6倍となる48,000台を記録。この数値は3代目トヨタ・プリウスが登場するまで日本車歴代トップだった。
変速機はCVTを皮切りにAT(北米仕様)、MTの3種類が設定され、4WDも選べるなどバリエーションに富んでいた。
初代のプラットフォームは、のちにモビリオ、モビリオスパイク、フィットアリア、エアウェイブなどに流用される。
2代目 GE6/7/8/9型(2007~2013年)
プラットフォームを刷新しつつも初代のスタイリングの面影を残し、スポーツグレードのRSが設定された。
2010年には日本のコンパクトカーで初めて6速MTを搭載している。
2011年にはパラレル式マイルドハイブリッドの「IMAシステム」を採用したフィットハイブリッドが、2012年には電気自動車仕様のフィットEV(リースのみ)が追加された。見た目はほとんど変わりないが、床下収納が大きく減っているという機能面での違いがある。
なお、グランツーリスモ6ではチュートリアルとして最初に買うことになるのがこの車であることがプレイヤーからネタにされた。
3代目 GK3/4/5/6型(2013年~2020年)
プラットフォームとパワートレインを全面刷新。
エンジンがSOHCからDOHCに切り替えられ、外見もスポーティで精悍な印象となった。
全長は先代比で40mm以上延びている。
インド仕様では1,500ccのディーゼルエンジン仕様車もラインナップされている。
先代に引き続きハイブリッド車種やRSを設定、ハイブリッドは1,500ccに統一された。
このハイブリッドシステムは、2代目までのホンダIMAシステムから刷新された「スポーツハイブリッド i-DCD」というフルハイブリッドシステムを搭載している。
7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)とモーター1個を組み合わせたシステムで、奇数段のギアがモーター走行を、偶数段のギアがエンジンでの走行を受け持つ仕組みとなっている。また先代のIMAシステムでは不可能だった「ゼロ発進からのモーター走行」および「モーター単独での走行(EVモード)」を可能としている。
ハイブリッドの最上級グレード「ハイブリッドSパッケージ」(2017年型からHYBRID Sに改称)のみパドルシフトを搭載しており、馬力も他グレードより引き上げられている。
ただし、システムの複雑さが災いしてトラブルが頻発し、5度のリコールに見舞われた。また、使い心地の面でも初期型ではクリープ現象が発生しにくい、(特に低速域での)ギアの切り替わり時にギクシャクする、坂道での渋滞時に故障しやすいといった不満も多く挙げられた。
こうした不満はデュアルクラッチトランスミッションの特性に起因する面でもあるが、現在ではリコール時のミッション交換やプログラム調整、マイナーチェンジなどを経て改善されている。
しかし坂道での渋滞時にクラッチが過熱しやすいという欠点は乾式クラッチを採用しているため抜本的対策ができず、2022年には日光いろは坂でホンダのハイブリッド車ばかりが立ち往生している、という形で顕在化してしまった。ホンダ曰く「アクセルの操作だけで発進と停止を繰り返すとトランスミッションに負担がかかるので(MTで言う半クラッチが常時続いている状態)、平地と同じようにブレーキを確実に踏んで発進と停止を行えば回避できる」とのこと。
4代目 GR1/2/3/4/5/6/7/8型(2020年~)
2019年10月の東京モーターショーで世界初公開され、2020年2月より販売開始。
プラットフォームとパワートレインは先代と同じであるが、外見は初代・2代目に通じるデザインとなり「原点回帰」と呼べる柔らかい印象となった。
デザイナーは韓国人が担っており、柴犬がモチーフとなっている。
引き続きハイブリッドグレードも設定しているが、i-DCDは廃止され、CVT+2モーターの組み合わせによるストロングハイブリッドシステム「e:HEV(イー・エイチイーブイ)」に変更され、名称も「フィット e:HEV」に改名された。
この「e:HEV」は低中速域ではエンジンは発電のみに使われ、走行はモーターで行われるという、基本的には日産の「e-POWER」と同じ仕組みで作動する。しかし高速巡航時はモーターを休止し、エンジンを動力として直結させて走行する機構が盛り込まれている点が大きく異なる。
モーターはストップ&ゴーが多く回生ブレーキで発電する機会の多い低速走行に向くが、そうした機会がない高速走行には向かず、エンジンが発電に使われ続けてしまう。それよりはエンジンそのもので走行した方が、発電にエンジンを使い続けるより高効率であるとの理由からである。
グレード数も多く、安価な「ベーシック」、売れ筋グレードとなる「ホーム」、16インチホイールと専用ツートンカラーが設定された「ネス」、本皮シートなどを採用し高級感を高めた「リュクス」、クロスオーバーSUV志向の「クロスター」(メインイラスト)を含む5種類にそれぞれFFと4WD、ガソリン車とe:HEVが設定される(全20種の組み合わせ)。
その一方でMT車は廃止され、ガソリンエンジンは1300ccに統一。リアブレーキもディスクブレーキに統一された。
スポーツグレードに関してはRS廃止でしばらく設定がなかったが、2021年にe:HEVにモデューロX仕様車が追加されている。
2022年10月にマイナーチェンジを実施した際、エンジン排気量をガソリン・ハイブリッド共に1500ccへと向上を図ったほか、グレードに手が入れられており、スポーツグレード「RS」を復活させた(その代わりに「ネス」は廃止された)。このRSには専用サスペンションや走行モード切替スイッチ(エコモード、ノーマル、スポーツ)や、アクセルオフ時の減速度合いを調整するパドルが追加され、ハンドルも他グレードが2本スポークなのに対して3本スポークと差別化されている。ただし引き続きMT車は設定されていない。
この代では人気が激落ちしており、ライバルのトヨタ・ヤリスシリーズや日産・ノートに大きく水を開けられている状態、また、ヤリスとノートは賞を3冠以上取っているのに対し、この代のフィットは賞なしという点でもライバル2車種と明暗を分けた格好となってしまった。販売台数にしても2022年を例に挙げればノートが11万台も売り上げて実質登録車販売台数トップに躍り出、ヤリスも約8万台程度(※)とまずまずの実績を残しているのに対し、フィットは約6万300台と、ノートの半分程度しか売れていない。さらに2023年1月には同じコンパクトカーであるスズキ・ソリオにも負けたという有様である。
しかもノートはハイブリッドオンリーなのに対し、フィットはハイブリッド・ノンハイブリッド両方用意されているのに、である。そんなこともあってか、ヤリスシリーズとノートが2020年代のコンパクトカーの成功作および名車と言われるのに対し、当代のフィットは2020年代のコンパクトカーの大失敗作とか近年のホンダの迷走ぶりを象徴する迷車と言われており、不人気ぶりはホンダの大失敗作であるロゴの再来とまで言われている。
失敗の要因としては、グリルを廃したフロントや、軽自動車のような2本スポークのハンドルなどがチープである・没個性的ととらえられていることが主な要因とされる。ちなみにフロントグリルレスのデザインは、失敗作として挙げられたロゴとも共通している(さらにグレードでは廃止されたスポーツグレードのネスは存在意義が疑問視されるほどの中途半端な装備であった)。
また、先代のハイブリッド車でリコールを連発したことにより、フィットという車種自体のイメージに傷がついてしまった点も影響している。
ついでに言うと同じメーカーの車種で、価格帯が重複する軽自動車のN-BOXや、基本設計が古くなったはずのコンパクトミニバンのフリードと比較されるため、身内に食われている状況でもある。
現在のホンダはスズキ・ダイハツよりも下の4位に転落しているほか、4輪の販売網再編に伴い、日本がその他の地域として扱われた事から、ブランドイメージが落ちた本車はフルモデルチェンジを待たずに廃止される可能性が非常に高い(近年ホンダは不採算車を大量に整理しているほか、日本市場のみであるがマイナーチェンジをしたばかりにも関わらずフルモデルチェンジを待たずに廃止した前例が既に存在していることから、現状のホンダを考えるとフィットの早期廃止の可能性は無視できない状態である)。
※アレ!?と思うかも知れないが、ヤリスシリーズは確かに2022年は17万台近く売れてはいるが、過半数の約9万台はSUVのヤリスクロスなので念のため。
ただし、ライバルとなるコンパクトカーが軒並み3気筒エンジンを搭載しているのに対し、フィットは4気筒エンジンであるため、エンジンの騒音や振動が少なく疲れにくいという長所がある。
また、日本では不評なデザインも、世界的に威厳のあるデザイン賞であるレッド・ドット・デザイン賞を2021年に受賞しており、ヨーロッパではそれなりに評価されている模様。
追記
- 初代は発進時に時々振動するが、これはジャダーといってCVTの出力側に配置した湿式多板クラッチが原因であるとされる(これは初代の派生型のほか、同じく湿式多板クラッチを採用したスズキのSCVT車でも多数報告されている)。2代目以降は一般的なトルクコンバータ方式に変更されたため、ジャダーは発生しない。
- 南北アメリカ大陸、中華人民共和国、中華民国では「フィット」の名称が使われているが、その他の地域では「ジャズ」という車名で販売されている。
モータースポーツ
日本のサーキットレースカテゴリーの一つであるスーパー耐久のST-5クラスにおいて、いくつかのチームが採用している。
2014年からワンメイクレース「FIT1.5チャレンジカップ」が鈴鹿サーキット(三重県)にて開催。
現在はツインリンクもてぎ(栃木県)とスポーツランドSUGO(宮城県)で「東日本」地区、鈴鹿と岡山国際サーキット(岡山県)で「西日本」地区とそれぞれ分散で開催している。
本格的なカーレースへの第一歩と位置付けられていることもあり、ナンバープレートの無い車両のみの参加となり1,500cc車しか参加出来ない。
ちなみにホンダは、2012年よりフィット以外の車種でも排気量1,500cc以下ならば参戦可能の「1.5チャレンジカップ」を主催していた。
派生・兄弟車種
初代
パートナー(2代目)
理念・S1
2代目
フィットシャトル(ステーションワゴン)
シティ(3代目)
3代目
グレイス(別名:4代目シティ)
フリード(2代目)
XR-V(ヴェゼルの兄弟車)
グライツ(グレイスの兄弟車)