そこに自由はあるか
恋と空戦の12000キロメートル
概要
著:犬村小六、イラスト:森沢晴行、によるライトノベル。全1巻。
この作品の世界を舞台にした新たな物語『とある飛空士への恋歌』、スピンオフ作品『とある飛空士への夜想曲』がある。また、劇場版アニメが2011年10月1日より公開された。
海の切れ目である『大瀑布』を挟んで睨み合う『神聖レヴァーム皇国』と『帝政天ツ上』との『中央海戦争』を背景に、レヴァームの傭兵パイロットである主人公が次記皇妃である公爵令嬢を本国まで護送する任務を請け負うことから物語はじまる。
題名の『とある飛空士への追憶』とは、ステルス戦闘機が空を征するほどの後年になって、長らく秘匿されてきたこの『海猫作戦』の全貌を解明した作中世界のノンフィクション作家が自著に付した題名というスタンスをとっている。
著者いわく、モチーフは『ローマの休日』と『天空の城ラピュタ』のこと。
主な登場人物
- 狩乃シャルル(CV:神木隆之介):混血の傭兵でデル・モラル空艇騎士団のエースパイロット。ファナの護送を請け負う。
- ファナ・デル・モラル(CV:竹富聖花):レヴァームの公爵令嬢にして次記皇妃。
- 千々石 武夫(CV:富澤たけし):帝政天ツ上海軍空艇兵団のエースパイロット。狩野とファナを追う。
- 狩乃チセ(CV:新妻聖子):シャルルの母。天ツ人。かつてはデル・モラル屋敷で働いていた。
- ディエゴ・デル・モラル(CV:てらそままさき):デル・モラル家当主。ファナの父。
- カルロ・レヴァーム(CV:小野大輔):レヴァームの皇太子。楽天家の無能。
- ドミンゴ・ガルシア(CV:仲野裕):シャルルに作戦命令を下した空軍東方派遣大隊長官。
- ラモン・タスク(CV:星野充昭):海猫作戦を立案した海軍中佐。
内容
作者は第2作『恋歌』以降において現実のエースパイロットである坂井三郎や岩本徹三らの手記を考証資料としてあげており、こうしたことから本作は太平洋戦争を意識したストーリーであることが窺える。
ヒロインの実家はレヴァームが占領している天ツ上の領土の総督のような立場で、戦争により天ツ上から侵攻を受けているこの植民地からヒロインを脱出させるのが主人公の任務だが、問題はこの2人の背景描写である。
「公爵家の令嬢であるヒロインが大人の事情による政略結婚で祖国『神聖レヴァーム皇国』の皇太子の元に嫁ぐことになるが、感性豊かだった感情はすり潰れていて自分の人生について半ば諦めている」、「主人公の本来の祖国『帝政天ツ上』は過去にレヴァームとの戦争に敗れ、現在の公爵領サン・マルティリアにあたる地域を占領されたことでそこにいる天ツ人は日常の非人道的な扱いに苦しみ、両国の混血児『ベスタド』である主人公はレヴァーム人と天ツ人の双方から迫害を受けて育ってきた」
…といった具合であり、ラノベ作品としてはかなり重めの内容になっている。
この身分と人種差別による軋轢は以降の飛空士シリーズでも重要な要素として扱われている。
(但し、本作はそんな鬱描写が吹き飛ぶような爽快なラストで締めくくられるため安心されたし。)
文明レベルは現実における第二次世界大戦前後相当となっているが、船舶や航空機のエンジンには『水素電池』(作中では錬金術師が偶然作ってしまったとされる)が用いられている、『大瀑布』と呼ばれる海の段差を越える為に揚力装置によって飛行する『飛空艦』が整備されている、といったように所々にオーバーテクノロジーが用いられているため、SFやファンタジーな雰囲気にもなっている。
劇場アニメ
2011年10月1日より全国ロードショー公開された。キャッチコピーは「そこに自由はあるか。」。
2012年2月24日にはBD及びDVDが発売されている。
制作スタッフ
原作 | 犬村小六(小学館「ガガガ文庫」刊) |
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監督・絵コンテ | 宍戸淳 |
脚本 | 奥寺佐渡子 |
キャラクターデザイン | 松原秀典 |
メカニックデザイン | 山田勝哉 |
総作画監督 | 田崎聡 |
作画監督 | 櫻井邦彦、金錦樹、香月邦夫、渡邊和夫、今村大樹、高炅楠 |
演出 | 中川聡 |
美術 | 橋本和幸 |
VFXスーパーバイザー | 加藤道哉 |
音楽 | 浜口史郎 |
音響監督 | 清水洋史 |
撮影 | 棚田耕平 |
CG監督 | 設楽友久、籔田修平 |
色彩設計 | 小針裕子 |
編集 | 木村佳史子 |
プロデューサー | 高橋亮平、宮本秀晃 |
アニメーション制作 | マッドハウス |
制作 | トムス・エンタテインメント |
主題歌
『時の翼』
作詞:池田綾子 / 作曲・編曲:井内啓二 / 歌:新妻聖子
関連動画
特報
本予告
海外版
評価
刊行当初は何ら特別な宣伝が行われてはおらず、ストーリーも1巻ぽっきりで伏線を回収しきっている点からも続刊ありきで執筆されたわけではない節が窺える。
が、本作の最大の特徴である「貴族の姫君と傭兵パイロットとの身分違いの恋」と「レシプロ戦闘機によるかなりガチめな空戦描写」が絡み合った独特のストーリーが徐々に口コミで話題になり、ついに各種メディアミックスが相次ぐほどにバズるに至る。
なんとラノベ作品でありながら、広範囲の階層に受けたという理由でハードカバー版で一般文芸で再販までされた。
この結果、作者である犬村小六の株価も上昇し、これ以降から同作と世界観を同じくする『飛空士シリーズ』の執筆に取り掛かることになる。(※本作が第1作目)
なお、ラジオドラマや小川麻衣子によるコミカライズは好評であったものの、劇場アニメ版は何とスタッフ多数が原作未読&監督がストーリーの整合性を把握していないという状態で制作された(劇場版DVD/BDオーディオコメンタリーより)ために原作やコミカライズ版では重要となる描写がほぼカットされる事態になってしまう。
当然ながら評判は今一つで、ファンからは現在まで黒歴史として扱われている。そのため後発作品の映像化が危ぶまれたが、第2作『とある飛空士への恋歌』は無事にアニメ化にこぎ着けた。