そこに自由はあるか
恋と空戦の12000キロメートル
概要
著:犬村小六、イラスト:森沢晴行、によるライトノベル。全1巻。
この作品の世界を舞台にした新たな物語『とある飛空士への恋歌』、スピンオフ作品『とある飛空士への夜想曲』がある。また、劇場版アニメが2011年10月1日より公開された。
海の切れ目である『大瀑布』を挟んで睨み合う『神聖レヴァーム皇国』と『帝政天ツ上』の『中央海戦争』を背景に、レヴァームの傭兵パイロットである主人公が次記皇妃である公爵令嬢を本国まで護送する極秘作戦「海猫作戦」を請け負うことから物語はじまる。
題名の『とある飛空士への追憶』とは、ステルス戦闘機が空を征するほどの後年になって、長らく秘匿されてきたこの『海猫作戦』の全貌を解明したノンフィクション作家が自著に付した題名というスタンスをとっている。
著者いわく、モチーフは『ローマの休日』と『天空の城ラピュタ』のこと。
主な登場人物
- 狩乃シャルル(CV:神木隆之介):デル・モラル空艇騎士団所属の傭兵エースパイロット。22歳。ファナの護送を請け負う。天ツ上とレヴァームの混血であるため激しい差別を受け育ってきたが、空挺騎士団では差別されることもなく仲間として受け入れられている。
- ファナ・デル・モラル(CV:竹富聖花):レヴァームの公爵令嬢にして次記皇妃。18歳。「光芒五里に及ぶ」と称えられるほどの美貌を持つが、自身の意志が意味を持たない貴族社会と厳しい貴族教育に精神を摩耗してしまっており、周囲に対して関心や意思を一切示さない。
- 千々石 武夫(CV:富澤たけし):天ツ上海軍空艇兵団のエースパイロット。海猫作戦を阻止するため、狩乃らを追う。
- 狩乃チセ(CV:新妻聖子):シャルルの母。天ツ人。かつてはデル・モラル屋敷で働いていた。
- ディエゴ・デル・モラル(CV:てらそままさき):デル・モラル家当主。ファナの父。
- カルロ・レヴァーム(CV:小野大輔):レヴァームの皇太子。高い理想を抱く次期皇王であるが楽天家の無能。ファナに対して軍用無線で恋文を送ったことが原因で海猫作戦の機密漏洩を起こす。
- ドミンゴ・ガルシア(CV:仲野裕):シャルルに作戦命令を下した空軍東方派遣大隊長官。階級意識が激しく、シャルルを見下している。
- ラモン・タスク(CV:星野充昭):海猫作戦を立案した空軍中佐。市民階級出身ということもあってか、純血のレヴァーム人ながらシャルルに対して好意的に振る舞う。
内容
作者は第2作『恋歌』以降において現実のエースパイロットである坂井三郎や岩本徹三らの手記を考証資料としてあげており、こうしたことから本作は太平洋戦争を意識したストーリーであることが窺える。
本作では、東方大陸を治める帝政天ツ上と西方大陸を治める神聖レヴァーム皇国の2ヶ国以外の国家が確認できず、南北に伸びる落差1300mの巨大な海の滝「大瀑布」によって東西に分断された広大な海が広がるばかり世界が舞台となる。
天ツ上とレヴァームは100年前の接触以来対立を続けており、60年前には1度目の全面戦争を経験している。その際はレヴァームが勝利し、天ツ上の一部領土の割譲を受けて自治区として植民地化している。
ヒロインのファナはこの自治区「サン・マルティリア」を統治する総督の娘であり、レヴァーム皇子カルロとの結婚を控えているが、2度目の全面戦争が勃発。天ツ上がサン・マルティリア奪還作戦を展開し、レヴァーム本土との往来が困難となってしまう。そこで次期皇妃たるファナを極秘に本土へと脱出させる極秘任務「海猫作戦」が立案され、主人公シャルルへと下命される。しかし天ツ上はレヴァームの暗号を解読しており、傍受した無線により海猫作戦の全貌を把握していた。天ツ上海軍の空母機動艦隊が待ち受ける危険な海域へ、シャルルとファナは単機翔破を挑むこととなる、というストーリーである。
文明レベルは現実における第二次世界大戦前後相当となっているが、所々にオーバーテクノロジーが用いられているため、SFやファンタジーな雰囲気にもなっている。
船舶や航空機の動力源にはエネルギーを消費せずに海水を酸素と水素に分解して水素発電を行える『水素電池スタック』(作中では錬金術師が偶然作ってしまったとされる)が用いられている。そのため飛行機は見た目こそレシプロ機であるが、実態はモーターによってプロペラを駆動させる電動飛行機である。また、作中の海を分断する落差1300mの滝『大瀑布』を越える為、水上艦船は揚力装置によって飛行する空水両用艦として発展を遂げている。作中では主翼により揚力を獲得するものを「飛空機」、揚力装置により揚力を獲得するものを『飛空艦』と呼び、明確に区別されている。
劇場アニメ
2011年10月1日より全国ロードショー公開された。キャッチコピーは「そこに自由はあるか。」。
2012年2月24日にはBD及びDVDが発売されている。
制作スタッフ
原作 | 犬村小六(小学館「ガガガ文庫」刊) |
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監督・絵コンテ | 宍戸淳 |
脚本 | 奥寺佐渡子 |
キャラクターデザイン | 松原秀典 |
メカニックデザイン | 山田勝哉 |
総作画監督 | 田崎聡 |
作画監督 | 櫻井邦彦、金錦樹、香月邦夫、渡邊和夫、今村大樹、高炅楠 |
演出 | 中川聡 |
美術 | 橋本和幸 |
VFXスーパーバイザー | 加藤道哉 |
音楽 | 浜口史郎 |
音響監督 | 清水洋史 |
撮影 | 棚田耕平 |
CG監督 | 設楽友久、籔田修平 |
色彩設計 | 小針裕子 |
編集 | 木村佳史子 |
プロデューサー | 高橋亮平、宮本秀晃 |
アニメーション制作 | マッドハウス |
制作 | トムス・エンタテインメント |
主題歌
『時の翼』
作詞:池田綾子 / 作曲・編曲:井内啓二 / 歌:新妻聖子
関連動画
特報
本予告
海外版
評価
刊行当初は何ら特別な宣伝が行われてはおらず、ストーリーも1巻で綺麗に伏線を回収しきっている点からも続刊ありきで執筆されたわけではない節が窺える。
が、本作の最大の特徴である「貴族の姫君と傭兵パイロットとの身分違いの恋」と「戦闘機によるかなりガチめな空戦描写」が絡み合った独特のストーリーが徐々に口コミで話題になり、ついに各種メディアミックスが相次ぐほどにバズるに至る。
なんとラノベ作品でありながら、広範囲の階層に受けたという理由でハードカバー版で一般文芸で再販までされた。
この結果、作者である犬村小六の株価も上昇し、これ以降から同作と世界観を同じくする『飛空士シリーズ』の執筆に取り掛かることになる。(※本作が第1作目)
なお、ラジオドラマや小川麻衣子によるコミカライズは好評であったものの、劇場アニメ版は何とスタッフ多数が原作未読&監督がストーリーの整合性を把握していないという状態で制作された(劇場版DVD/BDオーディオコメンタリーより)ため、原作では大きなウェイトを占めていた心理描写や、物語上キーポイントとなる重要な描写の大部分が削除・変更されている上、「作品タイトルは作中に登場するノンフィクション作品の題名」という設定も削られてしまった。また、キャストは主人公シャルル役が声優経験の浅い頃の神木隆之介、ヒロインのファナ役は声優どころか演技自体の経験が浅いグラビアアイドルという布陣であった。当然ながら評判は今一つで、ファンからは現在まで黒歴史として扱われている。
そのため後発作品の映像化が危ぶまれたが、第2作『とある飛空士への恋歌』はアニメ化にこぎ着けた。しかしながら、「とある飛空士への恋歌」も尺不足・予算不足によりクオリティは低く、評判は今ひとつである。他シリーズ作品の「とある飛空士への夜想曲」「とある飛空士への誓約」についてはメディアミックス展開自体なされないままとなってしまった。