1350次元
せんさんびゃくごじゅうじげん
概要
「遊☆戯☆王デュエルモンスターズ4 最強決闘者戦記」、通称「DM4」は2000年12月7日にコナミから3バージョン同時に発売されたゲームボーイカラー専用の遊戯王のデジタルゲームである。
全8弾からなるDMシリーズの多くがOCGとは全く異なるルールだったが、このDM4においては後にも先にもない極めて特殊なレベル設定が採用されている。
これによりDM4では、これまで遊戯王OCG、DM2や真DM、DM3で活躍していたモンスターとは全く異なる面々が新たに脚光を浴びることになった。
具体的には
レベル1〜4の下級モンスター(生け贄なし)は、攻撃力・守備力が1350以下
レベル5・6の上級モンスター(生け贄1体)は、攻撃力・守備力が2000以下
レベル7・8の最上級モンスター(生け贄2体)は、攻撃力・守備力が2750以下
それを超える攻撃力または守備力を持つモンスターはレベル9以上となり、生け贄が3体必要となる。
中でも戦線を支える下級モンスターの上限である1350の攻撃力を持つモンスターは、このゲームにおいて非常に重要な存在となっている。
1350次元の住人はデュエルモンスターズ界において、攻撃力または守備力が1350でかつ下級モンスターという、数体しか存在しない稀有なモンスター達なのである。
そしてこのDM4というデジタルゲームにおいて、それまでの有象無象の1体のような扱いから、一躍主役に躍り出たモンスターであると言える。
ちなみに「1350次元」という名称は、遊戯王ARC-Vにおいてスタンダード次元やシンクロ次元など、自身が住む世界や他の世界のことを「○○次元」と呼ぶことに由来している。
1350次元の住人
このゲームにおいて6体しか存在しないモンスターで、その全てがコスト150というデッキキャパシティが十分に増えるまではやや重いカードになっている。
これらのモンスターは全て遊戯王OCGにおいてはモンスター効果を持たないメインデッキのモンスター、つまり通常モンスターである。
また現在の遊戯王OCGにも、下記の6体以外で攻撃力または守備力が1350で、もう片方の数値も1350以下というモンスターは、第9期に登場した「アモルファージ・ルクス」しか存在していない。
マーダーサーカス・ゾンビ
No.98 ATK1350/DEF0 アンデット族/悪魔魔族
パスワード:92667214 ドロップ:キース
自身に対応する強化魔法が、他の全メンバーに対応しているものと1つ以上被っているという特長がある「荒野」フィールド最強の下級モンスター。
しかし他の1350次元のモンスター達が全てのロムで最初から使用可能であるのに対し、このカードはペガサスに5回勝利した後の海馬デッキでしか使うことができない。
舌魚(たんぎょ)
No.543 ATK1350/DEF800 魚族/水魔族
後述するベヒゴンと同じ召喚魔族で守備力があちらよりも低く、対応するフィールド魔法だけでなく強化魔法までもが全て被っているため、4枚目以降のベヒゴンとして扱われがちなモンスター。
しかしこのカードとベヒゴンの両方が存在するからこそ、「海」は対応する元々の攻撃力が1350の下級モンスターを計6体積める唯一のフィールドになっている。
ちなみにベヒゴンが水族であるのに対してこちらは魚族なので、融合素材として使う場合はあちらとの明確な差異が出てくる。
苦手な雷魔族の下級モンスターで最も攻撃力が高いのは地雷獣。
ベヒゴン
No.550 ATK1350/DEF1000 水族/水魔族
下級モンスターでかつ攻撃力1200以上のモンスターが多数名を連ねる水魔族の頂点に立つ、1350次元のモンスターの1体。
苦手な雷魔族は種類数が少ない上に、最高攻撃力が地雷獣の1200止まりなので、召喚魔族で倒されることが少ないという点が特に優れている。
対応する強化魔法は舌魚と全く同じで、その数が極端に少ないという欠点こそあるが、その中でも「猛獣の歯」はマーダーサーカス・ゾンビと共有することが可能となっている。
レオ・ウィザード
No.578 ATK1350/DEF1200 魔法使い族/黒魔族
遊戯王OCGでの不甲斐なさは仮の姿、その正体は「闇」フィールドの支配者にして、1350次元の住人達のリーダー格。
攻撃力1350の5体の下級モンスターの中で最高の守備力を持ち、汎用性の高い強化魔法である「闇・エネルギー」「ブラック・ペンダント」「悪魔のくちづけ」に対応し、さらに苦手な幻想魔族が少数で貧弱ゆえに魔族相性で倒されにくい黒魔族という非の打ち所がない性能となっている。
DM4に収録された全モンスターの中で唯一の、遊戯王OCGでは上級モンスターなのに、DM4では下級モンスターになっているカードでもある。
ディスク・マジシャン
No.643 ATK1350/DEF1000 機械族/悪魔魔族
パスワード:76446915 ドロップ:エスパー絽場、ペガサス
1350次元のモンスター達の中では、唯一フィールド魔法によってステータスを強化することができず、逆にフィールド魔法によって弱体化してしまう種族のモンスター。
しかも苦手な「海」フィールドは、上記の舌魚とベヒゴンの存在からメジャーであり、当然「海」デッキにおけるそれらとの併用も困難を極める。
ただ自身が苦手な白魔族には強力なモンスターが少ない上に、レオ・ウィザードなどの黒魔族が苦手とする幻想魔族に強いため、幻想魔族への対策カードとしては一線級のモンスターと言える。
さらにレオ・ウィザードと「闇・エネルギー」「ブラック・ペンダント」を共有できるため、元々汎用性の高いこの2つの強化魔法の価値をより大きいものにしてくれている。
アンブレラ・キメラ
No.878 ATK650/DEF1350 鳥獣族/悪魔魔族
パスワード:90460034 ドロップ:人形
「昼寝をしていたら何故か傘がくっついて離れなくなった」というあまりに壮絶な生い立ちを持つ「1350次元の幻の6体目」とも呼ばれる「山」デッキ最強の壁カード。
このゲームで唯一の守備力1350の下級モンスターにして、DM4が初出のゲームオリジナルカード、そして未だOCG化されていないモンスターである。
守備表示なら無強化でも上記の5体のモンスターの攻撃を受け止めることができ、マブラスなどの攻撃力1300以上の炎魔族との融合で攻撃力2300の紅陽鳥になることもできるという、融合素材としてのポテンシャルにも見所がある。
1350次元の闇黒
引き裂かれた下級モンスター達
OCGでは共に下級モンスターとして戦ってきたモンスター達は、DM4では上記の通り1350という数値を境に、下級モンスターと上級モンスターに分かれていくことになる。
これによりただ独り上級モンスターから下級モンスターとなったレオ・ウィザードを筆頭に新たなヒーローが誕生することになるが、その一方でDM3以前よりも立場が悪くなってしまったモンスターも少なくなかった。
1350次元の出現は、それまで日の目を見なかった多くのモンスターを幸福にした一方で、それ以上に多くの不幸なモンスター達を生み出してしまったのである。
特に攻撃力か守備力のどちらかが1400で、もう一方の能力値も1400以下のモンスターは、捨て値同然のコスト5という屈辱の烙印を押され、デュエリスト達から蔑まれていた。
これに該当するモンスターは意外に多く、代表的なカードには以下のようなものが存在する。
●マーダーサーカス・・・僅か守備力50の差で「最強の幻想魔族の下級モンスター」になり損なったマーダーサーカス・ゾンビの生前の姿。皮肉にも「死」が彼の運命を変えた。
●ハーピィ・レディ・・・アンブレラ・キメラなどを生け贄にして出てくる、孔雀舞の相棒にしてこのゲームにおける彼女のデッキの事故要因となる残念なカード。
●エルフの剣士/砦を守る翼竜・・・遊戯が使用するモンスターで、専らやられるのがお仕事の噛ませ犬の代表として有名だが、今作ではデッキに入れる価値自体が皆無なので噛ませ犬にすらならない。
●ゴキボール・・・インセクター羽蛾の代名詞とも言えるカード。DM4における羽蛾とのデュエルで生け贄1体で出てきたのが「ヘラクレス・ビートル」ではなくこいつの方だと一安心。
●水の魔導師・・・OCGにおけるベヒゴンの融合相手で、OCGではベヒゴンより攻撃力が50高い以外全て同じステータスというベヒゴンの完全上位互換。DM4の説明書ではレベル4と誤植されていた。
●属性リクルーター・・・キラー・トマトをはじめとするOCGでは第2期に登場し使用率も高かった攻撃力1400の6種の属性リクルーター達。ゲームではこのDM4が初登場だが、今回は6体全てモンスター効果も持たない低性能カードとなっている。
レオ・ウィザードという存在
1350次元の住人のリーダー格であるこのモンスターは、OCGにおいては端的に言うならば、下級モンスターになるはずだった上級モンスターに他ならない。
と言うのもOCGの第1期においては、攻撃力と守備力の合計値を700で割った値でレベルが設定されており、具体的には合計値700×3=2100までがレベル3、700×4=2800までがレベル4、700×5=3500までがレベル5という具合になる。
つまり「レベル4のモンスター」というものは「ステータス合計値が2200以上2800以下」のモンスターを指し、下級モンスターであるということはその合計値が2800以下であることを表し、同時に上級モンスターであるということはその合計値が2900以上であることを表す。
ただ、その中には上記の法則に当てはまらない例外がいくつか存在していた。
特に下級モンスターと上級モンスターを分かつレベル4と5の境界線においては以下のようなものが存在する。
●設定されたレベルが本来のものよりも低い・・・アクア・マドール(3200/レベル4)と岩石の巨兵(3300/レベル3)
●下級(2800以下)と上級(2900以上)の狭間の合計値2850・・・全部で5体のモンスターが存在し、モリンフェンのみレベル5の上級で、それ以外の4体はレベル4の下級。
●設定されたレベルが本来のものよりも高い・・・レオ・ウィザード(2550/レベル5)
上記のようにレオ・ウィザードとモリンフェン以外の上級モンスターは、全てその合計値が2900以上になっていた。
モリンフェンはともかく、合計値2550で上級のレオ・ウィザードと、合計値3000オーバーで下級のアクア・マドールと岩石の巨兵はどう見ても普通ではないレベル設定である。
つまりレオ・ウィザードは振り分けの際に何かの手違いがあったとしか思えないレベルを設定されてしまったために、不当に虐げられてきた深い悲しみと大きな闇を抱えたモンスターなのである。
そしてDM4における下級モンスターのステータスの最高合計値は攻撃力・守備力が両方1350の時の2700なので、レオ・ウィザード以外のOCG第1期の弱小とされる上級モンスター達には、下級モンスターになれるチャンスなど最初から無かったということになる。
1350次元の創造にレオ・ウィザードが何らかの形で関与している可能性は非常に高いが、その真相は今となってはもはや誰も知る由もなく、今後それが誰かの口から語られることもないだろう。
1350次元の末路
前述の通りDM4にのみ存在していた世界であり、当然と言うべきかその後のデジタルゲームでは1350次元のモンスターが目覚ましい活躍を見せることはなかった。
さらにDM8においては1350次元のモンスターのほとんどが自身に割り振られていたナンバーを新たに収録された他のカードに置き換えられて未収録に、つまりゲームそのものからリストラされてしまっている。
だが1350次元は決して滅びはしない、今日もこの次元の住人達はホビーオフやマンガ倉庫で叩き売られているDM4の世界の中で、新たなデュエリスト達が来るのを待ち続けていることだろう。
1350次元の再生
DM4の発売から実に20年以上の月日が流れた2025年2月27日に、遊戯王デジタルゲームの初期タイトルを10作品以上収録した商品「遊戯王アーリーデイズコレクション」(PC / Nintendo Switch)の発売が決まり、その収録タイトルの1つとしてDM4が収録されることが発表された。
この商品におけるDM4は何とオンライン対戦にも対応しており、これによりOCGでは第12期にあたる令和の時代に、彼等の勇姿が見られる日が再び来ることになった。
また「遊戯王アーリーデイズコレクション」の発売に関連する企画として、攻撃力1350の5体のモンスターがデザインされた特製デュエルフィールドが抽選で当たるキャンペーンが発表された。
無作為に選ばれたDM4における収録カード群のドット絵を背景に、デュエルフィールドの中心部に上記5体のOCGにおけるカードイラストが配置されているというものになっている。