曖昧さ回避
ふうふ(高橋留美子)
短編集単行本「るーみっくわーるど」第3集に『商魂』『ダストスパート!!』と共に収録された。同単行本の筆頭収録作。なお「高橋留美子傑作短編集」シリーズでは「るーみっくわーるど3」収録作品の中で唯一、未収録となっている作品である。
しかし実は初出はビッグコミックオリジナルの10月15日増刊号。少年向け(少年サンデー作品)がメイン収録となっている「るーみっくわーるど」としては異例の作品収録となっている。(同じ本に収録されている『商魂』も平凡パンチの12月増刊が初出)
おそらく現代なら、収録誌の事も鑑みれば高橋留美子劇場の方に収録されるであろうタイプの作品といえる(本作が描かれた当時は、まだ「高橋留美子劇場」の枠設定がされていなかった)。傑作短編集への収録が見送られたのも、このあたりの作品性質が影響したものとみられる。(あと現代の事情的に物語の内容が「もはやシャレ(ギャグ)にできない」というのもあるかもしれないが)
ある意味では『めぞん一刻』『高橋留美子劇場』のルーツのひとつとも言える作品。
あらすじ
安アパートに住む、新婚の吉行夫妻。
どこにでもいる新婚にありがちなバカップル夫婦であるが、この夫婦にはとんでもない趣味があった。それは夫婦喧嘩である。
実は、この夫妻、三度のメシよりも喧嘩が大好き。しかも苛立ちや怒りから喧嘩をするのではなく、呼吸をするように「楽しみ」で凶器攻撃急所攻撃なんでもありルール無用の喧嘩をするのが大好きなのである。些細なきっかけから隙を見つけては殺し合いにすら発展する喧嘩を嬉々として繰り広げるバトルジャンキー夫妻こそが吉行夫妻であった。しかし実はご近所はそんな夫妻に困り果てていた。
夫婦が喧嘩をする度にアパートは揺れ、ご近所に騒音が鳴り響き、アパートの別世帯の部屋では家具の倒壊や食器の落下(そして破損)が起こり、遠く離れた家でも伝わる衝撃と騒音で子どもが泣き喚き犬が吠え周辺住民が睡眠を阻害されるなど、決して笑えない被害が頻発してしまっていた。
ついに業を煮やしたご近所は吉行夫妻に「あと一回、夫婦喧嘩をしたら出て行ってもらう!」と最終通牒を突き付ける。またご近所への被害賠償も吉行家の家計を非常識に圧迫する笑えぬ額となっていた。
やむなく夫妻は自分たちに喧嘩禁止令を敷き、夫婦喧嘩を控えようとする。しかし夫婦喧嘩が出来ない夫妻はストレスがマッハで溜まっていき、生活や仕事に支障が出るようになる。
結果、苛立ちを隠せない夫は、仕事の同僚である女性から飲みに誘われ、ストレス解消の甘言に惑わされて、ついついそれに応じてしまう。夫の忘れ物を届けに来た妻が、その現場を目撃してしまっているとも気付かずに……。
登場人物
- 吉行 誠(よしゆき まこと)
- バカ夫妻の旦那。三度のメシより喧嘩が大好き。喧嘩ができるとなったらヤのつく自営業の方々も嬉々として殴るクレイジーケンカマニア。妻との喧嘩でストレス解消ができているため、会社では穏やかな好青年で通っている。
- 吉行 香苗(よしゆき かなえ)
- バカ夫妻の妻。やっぱりケンカ大好き。夫との喧嘩では体力の不足を補うために皿投げなどの凶器攻撃を行う。親いわく、結婚してから(旦那と心おきなく喧嘩するため)顔が穏やかになったもよう。PIYOPIYOエプロンの愛用者で、このエプロンに闘魂ハチマキをつけた姿はなかなかのインパクトがある。
- 下の階の奥さん
- 吉行夫妻による夫婦喧嘩の最大の被害者。夫妻の夫婦喧嘩によるアパートの揺れで皿を台無しにされてしまい怒り心頭となり、同様の被害に悩む近所の奥様方と徒党を組んで吉行夫妻に苦情を申し立てる。どっかの一号室のオバチャンにちょっと似ているが、吉行夫妻のせいでストレスをため込んでいるせいか表情が常に険しい。
- 赤子を抱いた奥さん
- 下の階の奥さんと共に徒党を組んで吉行夫妻に苦情を申し立てた奥さんのひとり。吉行夫妻の夫婦喧嘩のせいで抱いている赤子が昼夜を問わず泣き叫び、その泣き声のせいで向かいの一軒家の飼い犬が吠え、そしてまた自分の赤子が泣き、そして更に向かいの飼い犬が……という悪循環に陥っており、その苦しみを吉行夫妻に訴えた。
- 口ぶりからして自身もアパート住まいで、向かいの一軒家を羨んでいる旨がうかがえ、自分が羨んでいる相手にも苦しめられている上で、その原因の一端が自分の子どもなので苦情も言えない(のみならず頭も下げないといけない)というストレスフルな環境に置かれている模様で、その怒りの全てを「そもそもの原因」である吉行夫妻に向けた。
- おまわりさん
- 銭湯の前で夫婦喧嘩を始めた吉行夫妻にビビった通行人に呼び出された制服警察官。吉行夫妻の姿に「いつものバカ夫婦じゃ」と呆れ果てながら通行人に教える。
- お茶汲みお姉さん
関連タグ
るーみっくわーるど:収録単行本
高橋留美子劇場:本来のジャンル