概要
大日本帝国陸軍のビックリドッキリメカの一つ。
どの辺がビックリドッキリメカなのかって?
…タイトル画像を見てほしい。
機首に妙なものがついているのがわかるだろう。
これはピトー管ではない。75mm砲である。
12.7mmとか20mmとかそんな生ぬるいものではない。もはや戦車砲である。
(尤もキ109の75mm砲は元をたどれば高射砲であるが)
開発の経緯
第二次世界大戦中、B-29の空襲に悩まされていた陸軍が考案した迎撃機。
大型機としては優れた運動性を有する四式重爆撃機飛龍を元に、高射砲(八八式七糎半野戦高射砲)を元とした75mm砲・ホ501を機首に装備した機体である。
このホ501を以って、B-29をアウトレンジから攻撃するという計画だった。
リロードは手動とは言え飛行機にこんなものを積んだのだから、敵としてはたまったもんじゃない。
さらに試作1号機では爆弾倉の部分にロケットブースター(局地戦闘機秋水と同じ特呂ロケット)を装着する実験が、2号機では高々度性能強化のためにエンジンに排気タービン(ターボチャージャー)を装備する実験が行われた。
試作機2機がB-29迎撃のために出撃したが、ハ42(ハ104)エンジンの高々度性能不足のためそれほど戦果は挙げられなかったという。せめて改良型のハ214ルがあれば…
当然といえば当然である、単発戦闘機でさえ高高度を飛ぶB-29の迎撃に苦労したのだから、こんな重武装の元爆撃機では……。
上記のロケットや排気タービンの搭載が実用化されていれば結果は違ったかもしれないが、それも叶わなかった。機首ではなく、できるだけ砲身を機外に出さない形で仰角30~40度の「上向き砲」として装備していればもっと攻撃しやすかったのかもしれないが…
その後は上陸用舟艇迎撃用に温存され、そのまま終戦を迎えた。
諸外国(及び同じ大日本帝国)の仲間
B-25:B-25G・Hに75mm戦車砲を搭載(それぞれM4・T13E1両戦車砲)。対地攻撃・対艦攻撃を目的にしていたが、発射速度が遅く(人間が手で装填していたから当たり前)、もちろん照準も難しい。先に同軸装備の12.7mm機銃を斉射し、その弾道を見て修正・射撃するのが一般的だったのだとか。反跳爆撃の方が便利だったり、ロケット弾が使えるようになったので75mm砲は「いらない子」に。
Me262:対爆撃機用に一撃の破壊力に優れた50mm機銃BK5を搭載。しかしこの重量のおかげで飛行能力を損なってしまう。また軽量化のために余計な機銃は外してあるので「同軸機銃を斉射して照準修正・発射」という事も出来なかった。そもそも速度差がありすぎてロクに照準することすらできず、それなら標準装備(MK108の4連装)でいいじゃないかと気づいて採用されず。その上ロケット弾も採用されて立場ナシ。ほかにMe410などにも搭載。
モスキート:対戦車攻撃用の57mm戦車砲(クルセイダー巡航戦車などに搭載された6ポンド砲)を改造し、自動装てん装置を追加したモリンズ自動砲が誕生。しかし命中してもドイツ戦車には通用しない事に(作ってから)気づき、陸軍が不採用にしたため空軍が引き取ってモスキートに搭載した。用途は対Uボート攻撃用。予想されていたよりは成果をあげたらしいが、故障が多かった上、照準中に対空砲火を受けて相打ちになるケースもあり、使い勝手の悪さから少数生産に止まった。
二式複座戦闘機:胴体下に37mm戦車砲を搭載した乙型がある。対爆撃機用に搭載されたが、さっぱり命中しない上に装填に時間がかかるので、あまり頼りにはされなかったという。のちに改良した丙型が作られ、こちらはきちんと37mm機関砲を装備している。この機は襲撃機部隊に配備され、「二式双発襲撃機」と呼ばれてまずまずの評判だった。
Ju87スツーカ:対戦車攻撃用に両翼に37mm砲をポン付けしたJu87G型がある。当然ながらこんなもん付けたせいで運動性能がガタ落ちし、普通に操縦するだけでも難しくなってしまった。多分これで無双できるのはあのお方ぐらいだと思う。
Hs129:急降下爆撃機のJu87とは違い、最初から大口径機関砲による対戦車攻撃に用途を限定して作られた双発攻撃機。最初は20mm機関砲を搭載していたが、獲物である戦車の進化に伴い30mm、37mmへと武装強化し、遂には75mm砲を搭載した。攻撃を受けた戦車の砲塔が吹き飛ぶ姿から『空飛ぶ缶切り』とあだ名されたが、鈍重であったためドイツの制空権喪失に伴い活躍の場は失われた。
キ102乙:上記の二式複戦の後継として開発された戦闘機・襲撃機キ102の襲撃機型。機首に対戦車・対舟艇攻撃用の57㎜機関砲を装備していた。
ただしこの57㎜機関砲がやや重すぎ、運用した部隊では持て余し気味だったとも。
戦闘機型のキ102甲は37㎜機関砲を装備していたが、重爆撃機迎撃には十分な火力を持っていたものの、排気タービンの不調で思うような活躍はできなかった。
……こうして見ると飛行機に大口径砲を積むという発想はそれほど珍しいものではない。一次大戦でもスパッドS.XIIが37mm砲を(布張りの複葉機なのに!)搭載しているし、現代ではAC-130ガンシップが105mm榴弾砲を搭載している。
しかし対空用として搭載されたのは屠龍やP-39のような37mm砲がほとんどで、大きくても精々50mm止まりである。
75mm以上の大砲を搭載した機体の中で、それを飛行機相手に使おうとしたのはキ109くらいではなかろうか。
故に、概要に書いてある通りビックリドッキリメカなのである。
B-29の防御機銃に手を焼き、射程外から仕留めるべく高射砲を飛ばしてしまおうという発想から、日本軍の切羽詰まった状況が分かるだろう。