概要
仙山線の交流電化を行うにあたり、当時の国鉄が同区間で運行する電車の開発のため用意した試作車。元は戦前製の31系直流電車で、比較検討のため2両を異なる仕様で改造した。
改造当初は元の車両名のまま試験していたが、同年中に「クモヤ790-1」と「クモヤ790-11」に改称している。便宜上、本項では改称後の車両名で統一して記載する。
なお、デザインも2両で微妙に変えており、クモヤ790-11が「単純な切妻に角の丸い窓を3枚並べる」という、同世代車の改造で一定数採用した前面形状であったのに対し、クモヤ790-1は「3枚の連続窓と、その左右にも車体の角を削り取るようにして斜め方向を向いた窓を設置する、変則的な5枚窓」という、他に類の無い形状を採用していた(よってメイン画像はクモヤ790-1にあたる)。
特徴的な点
架線から取り込んだ電力を降圧後、整流せずにそのまま主電動機(単相誘導電動機)を駆動するという簡易的な構造をしていた。
- 単相電動機は基本的に自力で始動できない(※)ため、始動用電動機を別に搭載。
- 電動機の回転数制御もできないため(※2)クモヤ790-1では液体式変速機を、クモヤ790-11では電磁切替式遊星歯車変速機を採用。
- 誘導電動機の特性により、複雑な回路を使用することなく回生ブレーキが可能。
- 変速機の都合上、気動車のように推進軸を有し、片側の台車の1軸のみ駆動。
- 元はツリカケ駆動であったが、推進軸を有しているという特徴から、「車体装荷カルダン駆動方式」というカルダン駆動方式の一種になった。
- 運転最高速度の低さから、クモヤ790-1はパンタグラフではなくビューゲルを試験採用。
※:三相交流と異なり回転磁界が構成されないため。ちなみに、電圧こそ大きく違えど同じ単相交流を使う家電機器では扱う電力が小さいため自力で始動できる仕掛けが施されている。
※2:交流電動機は回転数が入力周波数に依存することが理由。近年の電車や電気式気動車の主電動機が交流電動機であるにもかかわらず、変速機なしで運転できるのはVVVFインバータにより自由自在に周波数が変えられ、また電動機の回転数や特性に合わせて適切な電圧もかけられるうえに、電動機も三相電動機を採用しており回転方向も自在に変えられるため。
しかし、実際に走行させると想定以上に性能が低く留まり、逆に整備性は想定よりも煩雑であったことから、いずれも量産には至らないまま1966年に廃車している。
余談
メイン画像の投稿者は「クモヤ791」と認識していたようであるが、これは同時期に北陸本線向けに用意された別の試作車を指す車両名で、本来別物である。
こちらは「モヤ94000→クモヤ791-1」となる1両が新造され、より本格的な構造で、適宜機器を載せ替えながら試験を続ける方式となっていた。試験場所も後に九州に変更されている。
デザインはクモヤ790-1とこの時代の急行用電車を折衷したようなもので、側面にはどちらにも由来しない4枚折戸が設置されていた(2枚は客車を中心に大量採用されたが、4枚となると1960年製造の157系貴賓車程度でかなり珍しい)。
(右側がクモヤ791)