※エネミーとしてのスプリガンは「スプリガン(FGOのエネミー)」の項目を参照
概要
2部6章『妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ』では、同じ名を"襲名"したひとりの男が登場する。
妖精國の六つの氏族「土の氏族」の長にして、鍛冶の街ノリッジを治める親女王派の領主。
同氏族は所謂ドワーフに値するのだが、彼自身は金の長髪と刈り込んだ顎髭を持つエルフ似の姿をしており、似た容姿としてはオーロラ達「風の氏族」に近い。
妖精にしては異質な、権謀術数に長けた政治家タイプの人物であり、状況がどう転ぼうと自分の損失が最小限になるよう立ち回れる等油断ならない。
かつて領主の座を奪われたボガードからはゲス扱いされており、昔は「キャップレス」という名だったとの事。自身が経営する商社にも、二つの名が入っている。
邪魔されず知識を集める事を喜びにしている様で、女王からの褒美も含め積極的に外界の知識を招集しているらしく、同世界には存在しないサクソン人やニホン人の存在も知っていた。
なお伝承のスプリガン同様、美術品などを貯めこんでいる。
関連タグ
Fate/GrandOrder 妖精円卓領域アヴァロン・ル・フェ
※この先アヴァロン・ル・フェ後編のネタバレ注意!
氏族長スプリガンの正体と思惑
異聞帯における彼の在り方が汎人類史の人間の在り方に似ていたり、サクソン人やニホン人のことを知っているような場面が前編で見られたが、それもそのはず、彼は元々汎人類史から漂流した人間だからである。
このブリテン異聞帯には、汎人類史からあらゆるものが漂流してくることがあるのだが、彼はこれに巻き込まれてやってきた漂流者だった。カルデアに対して「ナカムラ某などという人間にも戻れない」と発言しており、フルネームこそ明かされなかったものの、おそらく主人公と同じく日本人であったことが窺える。
回想によると、元々はカルデアにいる彼らが活躍していた頃薩摩にいた、西洋文化や交流に憧れてイギリス留学を希望していたとある下級武士の若者であったらしい。
だが肝心の選考考査に外れてしまい、それでも諦められず研修船の乗組員となって念願の外遊を果たすものの、休息の合間に当たりを散策中、運悪く妖精國に漂流してしまったのだった。
妖精國で人間であることを、ましてや一氏族の長が隠し通すなど一見すれば不可能なように思えるが、このブリテン異聞帯において妖精は一体一体特色があるため、匂い・魔力量・カタチといった人間と妖精の判別条件をクリアしてしまえば、簡単に誤魔化せてしまえる。
漂流した後は妖精に捕らえられて奴隷とされていたものの、紆余曲折を経て人間であることを隠せるようになった後は、キャップレスという名で先代スプリガンの補佐を行うようになり、その後先代を誅殺しスプリガンの名を襲名、今の地位に落ち着いたという訳である。
そのため、見た目は妖精のように変化し若く保っているものの、中身は突如異邦に流され二度と故郷に帰れない上に10年以上の奴隷人生を送ることになっても腐らず耐え、さらに氏族の長まで実力と謀略でのし上がり今も現役の90歳越えの爺というとんでもないガッツに溢れる人物でもある。
そして、妖精社会に取り入る手段として土の氏族を集中的に標的とした。なぜなら土の氏族は、心の移ろいやすい本質を持つ妖精の中ではまだ「信用」という概念を持ち、そのうえ根底には「技術という安定した価値観」を重んじるため、優れた技術さえあれば人間である彼にとって「たやすく扱える存在」である。
余所者の自覚が強いスプリガンは自身の安心できる居場所が最も重要であるという考えを持っており、予言の子もモルガンも彼にとっては二の次である。
ノリッジの巡礼の鐘も他の氏族であれば全力で守るところを、あくまで鐘を鳴らしたのは予言の子であって、自分は全く関係ないという事を示すため、敢えて兵を引かせ、鳴らすよう陽動している。
そして自分の信じてきた人物達に裏切られたと思い込み、全てを失った男や正体を晒されてしまい、壊れ果てた少女を利用し、モルガンを打倒するに至った。
モルガンとバーヴァン・シーの関係を見抜き、そのあり方を逆用しつつもモルガンの見ている「少女らしい夢」を喝破するなど、刹那的な生き方しか選べない妖精たちと比べて遙かに人間らしい権謀術数や観察眼に長けており、妖精國に生きた人間としてのスプリガンの知謀がなければ、打倒モルガンは不可能であったと言ってよい。
戴冠式の後
モルガン打倒後はノクナレアを即位させてノクナレアに大厄災を退けさせ、社会の混乱が収まったところで、改めて暗殺なり理由を付けて追放するなどして、その後はオーロラを扱いやすい傀儡の女王として即位させ、自身は価値ある芸術の収集を自由に行うなど気ままな余生を考えて動いていた。
だが、この計画はスプリガンの思わぬ所で瓦解する。
オーロラがノクナレアを早々に暗殺してしまったため、妖精國は社会の混乱の歯止めが利かないまま大厄災を止める手段を失ってしまったのだった。
刹那的で自分勝手な妖精たちにはまとめ上げる王が必要不可欠であり、自分の共謀者オーロラも、彼女なりに未来への展望や権力への執着、統治者としての信念があり、自分とは相互に利用している…スプリガンはそう考えていた。
だが、オーロラは考える頭も持たずに「自分の嫌いなものは手当たり次第排除して自分だけ賞賛されていたい」という人物であり、モルガンもノクナレアもその価値観に従って排除しただけだったのだ。
権謀術数に長けた人間の常識としては、そんな身勝手な振舞をしながら氏族長としてトップで居続けることは不可能だったが、無垢な風の氏族の妖精たちはオーロラを無邪気に祭り上げ続けてしまったのだ。
モルガン打倒の際には大いに生きた人間としての知謀が、このときばかりはオーロラの本質を見抜き損なうと言う失態を招いてしまったのだった。
彼が主に相手にしてきたのは技術を第一とし、信用という概念のある土の氏族…言い換えれば、まだ人間に理解しやすい価値観の妖精たちであり、彼の妖精に対する理解がそこで止まってしまっていた事が、彼の計画失敗を招く事となった。
手塩にかけて育てた軍隊を心苦しくも見捨てて本拠地ノリッジへ退く羽目になり、この時にオーロラが自分の手に負えない存在であることにようやく気づいたが、その時点では何もかも手遅れであった。
ノクナレアの死によって始まった北の妖精と南の妖精による戦争と、大厄災が同時に迫る中で、最も安心できる場所である金庫城に今まで集めた美術品と共に立てこもった。
部下たちももう領主も何もないとスプリガンを見放して去って行く中、自分が見出した美術品の価値が崩れないこと・金庫城の堅牢性を自分に言い聞かすように一人喚き散らし続けるが、圧倒的な規模の大厄災の姿を実際に見た事で我に返り
「──────────なんと」
「…………………なんと」
「……いやいや。我ながら、熱しやすく冷めやすい」
「滅びてしまえ、とは言いましたが……あんなものを見ては、狂乱も去るというもの」
「……まったく。取引先を見誤ったばかりか、引き際の熱までこぼしてしまうとは」
「うん。確かに、愚かな傀儡を望みはしました。ですが、それにも限度がある」
「突き抜けた俗物ほど手に負えないものはない。下に見ていた私の方こそ、道化だった」
「しかし─────」
「ブリテンを滅ぼすのはモルガン陛下でもカルデアでもなく、愚かな女の思いつきとは」
「どれほど栄えていても、はじまりの土台は小さいもの」
「小さな虫のひと噛みで、あっさり崩れてしまうのですなぁ」
諦観の苦笑を浮かべながら物語から消えた……
おそらくは城の崩落に巻き込まれ最期を遂げたものと思われる。
その権謀術数に長けた性格や立ち位置から、物語上の役割としては主人公の敵側の存在ではあるが、本人の意図によらず、ブリテン異聞帯という地獄の環境に漂流してしまった苦労の経緯や、作中でのオーロラの性質への見誤り、そして最期の描写などから不思議な愛嬌のようなものを感じるマスターも多かった。
確かに警戒すべき人物ではあったが、その毒牙はカルデア一行ではなく妖精國を構築したモルガンに向けられており、またその毒牙が自らの視点を曇らせ、決定的な計画失敗を招いてしまうこととなった。
なお、その技術力の高さなどについてはモルガンなりに一定の評価をしていたようで、チョコ礼装では反逆を起こした身であるにもかかわらず、「どうかと思わないでもないが評価していた大臣」としてスプリガンを象った人形が載っている。
スプリガン自身もまた、モルガンが創り上げた妖精國の有り様と傲慢な彼女自体は気に食わなかったものの、建国に至った理由たる『汎人類史の物語にある様な、皆が幸せに暮らす理想の世界にしたいという憧れ』に関しては、かつての自分と重ねて共感出来た部分もあったのか、「少女の夢のようだった」とさほど否定している訳では無かった。
余談
前記した通り素性がナカムラ某であるため、ファンからはエネミーとの区別の意味も兼ねて「スプリガン中村(ナカムラ)」または「中村スプリガン」と呼ばれることが多い。