概要
フィン物語群で語られるフィアナ騎士団の一員。
若さと愛の神、妖精王オェングスを育ての親に持つ。
二本の槍と二本の剣を武器とする。 それぞれ、槍はゲイ・ジャルグとゲイ・ボウ、剣はモラルタとベガルタという名称である。
グラーニャ姫との恋路
コーマック王の娘でエリン(アイルランド島)一の美女と名高いグラーニャ姫からは、「金髪、そばかす肌、黒髪の英雄、やさしい、ハンサムで 男らしい顔だちでいい声をしている」と、べた褒めされている。
性格も良く、忠義心と友情に厚く、主君と友の危機には一、二もなく駆け付ける。また騎士としての矜持を強く持ち、魔術に頼ることをよしとせず、戦いでは常に先陣を切り、撤退に際しては殿を申し出る。
彼の容貌は美しいだけでなく、妖精によって贈られた“魔法の黒子(ほくろ)”を顔に持っていて、出会った女性を虜にしてしまう。
騎士団団長フィン・マックールの花嫁候補だったグラーニャ姫と恋に落ち、彼女を連れて逃避行をする。後にフィンに許されて二人は結婚する。
しかしこの確執がディルムッドが死ぬ原因を生みだしてしまう。
この騒動、元はディルムッドの黒子が原因なのだが、グラーニャがフィンを老人と知ったことで一層ディルムッドに傾いたという側面がある。さらにグラーニャもグラーニャで、ディルムッドに何度も丁重に断れた上でフィンとの婚約を勧められたことに業を煮やし、ケルトの戦士にとっての確約宣言である“呪的誓約(ゲッシュ)”を持ち出して「自分を攫って逃げさせる」よう誓わせてしまう。
つまり、歳甲斐なく結婚を望んだフィン、そのフィンの近くで呪いに等しい黒子を持っていたディルムッド、恋の熱に浮かされゲッシュを持ち出してまでディルムッドに愛されたがったグラーニャと、故意も他意もない交ぜの三者三様の事情が絡んでいる。
……が、少なくともディルムッドの落ち度は在って二割だろう。
ゲッシュに従い、フィンの元からグラーニャ姫を攫ったディルムッドに、当然フィンは激昂。
逃げる二人を執拗に追いまわし、ディルムッドとグラーニャは長い逃避行生活を強いられる。
その果てに安住の地を手に入れ、ようやく二人は落ち着きを取り戻した。
そしてここにきて、フィンも若い二人を赦すことを決め、グラーニャは念願かなってディルムッドと夫婦となった。
悲劇的な最期
しかし安息は長くはなかった。
ある日、グラーニャは父コーマック王とフィンを、この地に招いてもてなしたいとディルムッドに嘆願する。
ディルムッドもこれを承諾し、二人の王を自分たちの館に招いた。
もてなしの日の夜、外で犬が騒ぐことから、ディルムッドは夜警に出かけることにした。
グラーニャはゲイ・ジャルグを持っていくべきと心配するが、ディルムッドはグラーニャを宥めると、ゲイ・ボウとベガルタだけを持って出て行ってしまった。
山の中でディルムッドはフィンと再会する。フィンは部下が猪の足跡を見つけて、猪狩りに勇んで出かけてしまったと話し、それを聞いたディルムッドは犬の騒いだ原因が猪と合点し、「猪相手に逃げ出すわけにはまいりません」として、猪を狩ることを決める。
フィンは慌てて止めに入るが、ディルムッドはそのまま猪を追っていってしまう。
フィンは猪を見つけ、戦いを挑む。
だが猪の毛皮と剛毛は、ゲイ・ボウを弾き返し、ベガルタに至っては粉々に粉砕してしまったのだ。
この猪、名をば「サングリア・デ・ベン・ブルベン」(ベン・ブルベン山の猪)といい、かつてディルムッドの父が殺した執事の息子の亡骸に、執事がドルイドのアンガスの杖を使って魔術を掛け、猪として蘇らせたものである。
つまり歴とした魔獣である。
フィンはこれなる猪が彼の魔獣であり、猪が執事の呪詛で「ディルムッドを殺す呪物」にされていることを知っていたので、猪狩りに向かおうとしたディルムッドに警告していた。
必殺の槍を館に置き忘れた挙句、かつての主君からの警告を無視したことを嘆くディルムッドだったが、時既に遅く、猪はディルムッドを容赦なく突き飛ばし、致命傷を負わせる。
最後の力を振り絞り、猪の頭蓋にゲイ・ボウを突き立てたことで、ディルムッドの辛勝となった。
瀕死で帰還したディルムッドを見たグラーニャと、フィンの孫・オスカーは、フィンに「両手で掬った魔法の水」を施して欲しいと懇願する。
しかし、重症のディルムッドに心を痛めるグラーニャの姿を見て、捨てたはずのフィンの嫉妬が再燃して、水を施すことを躊躇してしまう。
オスカーから「分けて頂けないなら、私かあなたが死ぬことになる」とまで迫られるも、フィンは嫉妬を振り切ることが出来ずに二度水を零し、三度目を汲んで帰ってきたときにディルムッドは息絶えてしまった。
ディルムッドの死を嘆くグラーニャの元に、自分の杖が魔獣を生んでしまった事を悔やんでいたアンガスが訪れ、遺体を生きているかのように保存し、そこに魂を入れ、毎日少しだけ話せるようにしたという。
ディルムッド・オディナをモチーフにしたキャラクター
詳細はランサー(Fate/Zero)、ディルムッド・オディナ(セイバー)を参照。
本作品に登場したことで日本での知名度は上がったが、本来フェニアンサイクルはフィン・マックールが主人公であり、ディルムッドは終盤のライバルキャラ程度の立ち位置でしかない。
- 女神転生シリーズ
魔神転生Ⅱにて種族妖精・幻魔の悪魔として登場。後半のオディナは省略されている。
ビジュアルはクー・フーリンの色違い。
剣刃編第5弾にて彼をモデルにした『双銃機神ディルム・ダイナ』が登場。
魔槍のゲイ・ジャルグとゲイ・ボウは槍ではなく、銃になっている点が大きな特徴である。
作中に登場する主人公の悪友ダストは泣き黒子を持った腕利きの槍使いで、主君を裏切り女性を連れて逃避行した(元)騎士、というディルムッドとよく似た特徴や過去を持っている。
本編のはるか過去の物語ナイツ・オブ・フィアナにて、似た名前のラザル・ディアミッドが登場した。ただし彼は最後までフィンの友であり続けたキャラクターで、いわばディルムッドのIFにあたる存在と言える。
関連タグ
日本武尊:美男子であり、数々の苦難を乗り越えていくも、最後はイノシシ(山の神)の祟りによって足を掬われた点が共通する。