「今日も胡椒を挽きました!」
概要
MLBの球団の1つであるセントルイス・カージナルスでチームがタイムリーや本塁打を打った際に行われるパフォーマンス(チームセレブレーション)。「ペッパーミル・パフォーマンス」というのは日本での呼称で、現地では「ペッパーグラインダーポーズ(Pepper Grinder Pose)」と呼ばれている。
当時カージナルスは11勝13敗と負け越しており、そんなチームの現状を見た捕手のアンドリュー・キズナーが、“Grinding out everybody at-bat.”(全ての打席において歯を食いしばってやり抜け)とチームを鼓舞する発言をした。
“grind”という単語は本来、「細かく砕く」・「すり潰す」といった意味を持つが、スラングとして「身を粉にして働く」「目標に向けて努力し続ける」といった意味合いもある。
そして、これを聞いた外野手のラーズ・ヌートバーが「grinding out」に「Grind pepper(胡椒をひく)」という言葉をかけることを思いつき、ペッパーミル・パフォーマンスを始めたのである。
このユニークなパフォーマンスは瞬く間にチーム内に浸透していき、遂には本物のペッパーミルを持ち込んでパフォーマンスをしたり(ちなみに、この時使用していたペッパーミルはファンから贈られたものらしい)、果ては実際にペッパーミルで胡椒をひいて生還してきた選手の頭にぶっかけるといったこともやりだしたとか。
なお、このパフォーマンスのおかげ…かどうかは何とも言えないが、この後チームは不調を脱し、その年ナショナルリーグ中部地区において3年振りの地区優勝を果たすに至っている。
日本で一躍大ブームに
その後、発案者であるヌートバーは侍ジャパン(野球日本代表)のメンバーに選出され、2023年3月に実施されたWBCに出場する。
侍ジャパンでは、兼ねてよりチームの団結力を高めるために何か共通のパフォーマンスをしようという話題が持ち上がっていたもののそれが中々決まらず、最終的に「最初にやったパフォーマンスを皆でやる」ということになった。
そして、3月6日に行われた阪神との壮行試合の際、リードオフマンとして1番で先発出場していたヌートバーが安打を放った際にペッパーミル・パフォーマンスを行うと、続いて大谷翔平をはじめとする他のチームメイトも次々に真似をするようになり、以降チーム内でヒットを打った際にこのパフォーマンスを行うのが定着した。
なお、このパフォーマンスがお披露目された壮行試合の模様はテレビで全国放送されていたため、当然、お茶の間でも「あれはいったいなんだ?」と話題になった。
そして、開幕後に日本代表が1次ラウンドで快進撃を見せると、応援にペッパーミルを持ち込む観客や、テレビの前でペッパーミルをお供に観戦する者も現れるようになり、ペッパーミルが全国各地で飛ぶように売れたという(品切れを起こした店もあったとか)。
他競技でもサッカー日本代表の堂安律やフィギュアスケートの坂本花織(世界選手権で演技終了後に見せた)、競馬のクリストフ・ルメールが行った一方、高校野球では、第95回選抜高校野球大会で東北高校(宮城県、WBC日本代表のダルビッシュ有の母校)の選手が相手のエラーで出塁した際にこのパフォーマンスを行って、一塁球審から注意を受けている。その日、日本高校野球連盟などから声明も出されたが、ネット上では「そんなことでいちいち目くじらを立てるな」「プロの選手がパフォーマンスをして良くて、高校生がパフォーマンスをしてはダメというのはおかしいだろう」と高野連の姿勢を批判する声があった一方で、「プロとは違い、学校生活(≒教育活動)の一翼も担ったイベントなのだからこの判断は当然」「パフォーマンスをしていいかどうかではなく、相手のエラーで出塁したのにこのパフォーマンスをしたことの方が問題では」といった擁護論もあり、論調は真っ二つに割れている。
なお、ヌートバーは決勝ラウンドに望むために渡米した後、メディアの取材でこの問題を知ったが、「そこまで話題になっているなんてすごいことだね」と述べるにとどめ、高校野球でパフォーマンスをすることに対する是非には言及しなかった。
ちなみに…
侍ジャパンでは「最初にやったパフォーマンスを皆でやる」と決めていたため、最初にヒットを打ったのがヌートバーでなければ別のパフォーマンスがチーム内で浸透していた可能性もある。
記事冒頭の実況は、2023年3月11日に行われたWBC1次ラウンド第3戦のチェコ戦において、テレビ朝日の清水俊輔アナウンサーが発したもの。