概要
フルネームは、ラーズ・テイラー・達治・ヌートバー（Lars Taylor Tatsuji Nootbaar、日本名：榎田 達治〈えのきだ たつじ〉、1997年9月8日 - ）。
ファンからの相性は、Noot（アメリカ国内）、たっちゃん・達治（日本）。
父親のチャーリー・ヌートバー氏はオランダ系アメリカ人、母親の榎田久美子氏は日本人。ミドルネームの“達治”は母方の祖父の名前が由来（ちなみに、祖父の達治氏は2023年現在もご存命で、埼玉県東松山市に在住）。
右投左打。
長打力はあるが、選球眼にも優れ、フォアボールでの出塁等チャンスメイクも得意としている。また広い守備範囲と強肩も魅力。
2018年のMLBドラフト8巡目（全体243位）でセントルイス・カージナルスから指名され、プロ入り。契約後、傘下のA-級ステート・カレッジ・スパイクスでプロデビュー。56試合に出場して打率. 227、2本塁打、26打点、2盗塁を記録した。
2019年にAA級にまで昇格するも、翌年の世界規模の新型コロナウイルスの流行によってMiLB(マイナーリーグ)は活動停止状態に陥り、大学のオンライン授業とアルバイトを両立させながら自宅でトレーニングを続けるというハードなスケジュールをこなすことになった。
そして、2021年6月22日にMLB(メジャー)昇格を果たした（デビュー戦はデトロイト・タイガース戦で、3打数無安打に終わったものの、犠牲フライを打ちMLB初打点を記録している）。MLB1年目は58試合に出場し、打率.239、5本塁打、15打点を記録。
2022年は主にライトでの起用が続き、MLBで108試合に出場して打率.228、14本塁打、40打点を記録した。
2022年までのMLB選手としての成績は比較的平凡であり、お世辞にもスター選手と言えるような存在ではなかった。当然、日本人の間でも相当なMLBファンでもない限り殆どその名を知られていない無名の存在であった。
彼の名が一躍広く知れ渡るようになったのは第5回WBCに日本代表として出場してからである。
WBC後のシーズンは自チームが低調に苦しむ中で健闘しており、得点圏打率ではリーグトップになる活躍を見せる等WBC前と比べると格段に成績をあげている。
最終成績は111試合出場、打率.261、14本塁打、46打点。
2024年は開幕前に故障者リスト入りしていたが、4月に復帰。
侍ジャパンでの活躍
第5回WBC
2023年1月4日、第5回WBC日本代表（侍ジャパン）のメンバー入りを果たしたことが報じられ、26日正式に外野手枠の選手として発表された。日系人且つNPB（日本野球）でのプレイ経験が一度もない野球選手が侍ジャパンに選ばれるのは彼が初となる。
彼の招聘に当たっては大谷翔平選手の専属通訳である水原一平氏がSNSのメッセージで勧誘を行い、これをヌートバーが二つ返事で快諾したことで実現したとのこと（なお、水原氏はチーム合流後も日本語が話せないヌートバーの通訳を担当する等、チームメイトやファンとの橋渡し役として大きな役割を果たしている）。
ちなみに久美子氏によれば、選抜された後、自分自身を「侍ジャパン」と呼んでいたとのことで、日本代表に選ばれたことをとても喜んでいたことが窺える。また、代表選出後は日本の国歌の『君が代』を一生懸命練習したという。
栗山英樹監督が会見にて「直接話したら、100％全員が好きになる。そんな愛すべき人柄だし、魂を持った選手」と彼のキャラクター性を評価してはいたものの、当初侍ジャパン初の日系人MLB選手、しかも上記のように日本では殆ど無名の存在な上、先述の通りお世辞にもMLBでは結果を残してきたとは言いがたいということで、注目と同時にチームの輪に溶け込めるかは直前まで不安視されていた。その上、読売ジャイアンツOBで元メジャーリーガーの高橋尚成氏からは「いらない」とまで言われる始末であった。
侍ジャパンに合流時、栗山監督からは日本名の“達治（たつじ）”に因んで「たっちゃん」と呼ばれており、他の代表選手たちも背中に「たっちゃん」という文字に日本とアメリカ二つの国旗を並べたたっちゃんTシャツを着て練習を行い、彼を歓迎した。
彼も来日した当初はさすがに緊張した様子であった（加えて、今後自分と同じように日本代表でプレイする日系人選手や、日本の母方の親戚たちの為にも無様なプレイはできないと気負っていたのも原因だったという）が、持ち前の明るく人懐っこい性格や大谷らメジャー組の尽力、さらには上記のように代表選手たちの温かい歓迎もあり、早々にチームに溶け込むことに成功した。
日本代表としての初試合は大会直前の壮行試合として組まれた3月6日の阪神タイガース戦で、第一打席で綺麗に二遊間へ打ち返して代表初安打を決めた。
そして、いざ大会本戦が始まるとチームのリードオフマンとして抜群の選球眼を活かして出塁を重ねて多くのチャンスを作っただけでなく、守備でも際どい所に飛んだフライをダイビングキャッチで捕球する等の数々のファインプレーを連発し、ファンを沸かせた。
加えて、試合中のベンチでのリアクションも大谷と並んで派手で分かりやすく、チームメイトの活躍をまるで自分のことのように大喜びする様子等から、観客や試合を視聴していたファンからは「どこか愛嬌があって可愛いらしい」「アメリカ人でありながら日本のチームの一員であることに誇りを持ってプレイしている様子に好感が持てる」と次第に彼を好意的に見るファンが増えていった。
こうして、開幕前の心配が嘘であったかのように1次リーグ開始後はあっという間にチームメイトやファンからも受け入れられ、グッズも品薄になって入手が困難になるなど一躍侍ジャパンのスーパースターの1人となった。
当然、一部で燻っていた彼の不要論も、大会開幕後はそんなものなどなかったかのようにあっという間になりを潜めてしまった。
1次リーグ第2戦の対韓国戦では円陣の中心で声出しも担当。
この試合では相手投手から死球を受けるハプニングに見舞われた（この際、ボールを当てたキム・ユンシク投手を凄まじい形相で睨みつけている）ものの、試合終了後のヒーローインタビューでは「凝ってた部分にぶつかったから、ほぐれてよかったよ」という粋なジョークで会場を沸かせ、最後は「日本大好き！みんなありがとう！」とファンへの感謝の言葉を述べて観客から万雷の拍手を浴びた。
準決勝以降はアメリカの現地メディアからも取材を受けており、ネイティブの英語で侍ジャパンの雰囲気を伝えるなど、アメリカへ向けた広告塔としても活躍。なお、インタビューによると今大会で覚えた日本語は「最高」と「さぁ、行こう！」らしい。
結果的に、ヌートバー自身の決勝点によって侍ジャパンはこの大会で3大会ぶり3度目の優勝を果たし、ヌートバーも胴上げ選手の1人となった（なお、アメリカではあまり胴上げの文化がなかったのか、このセレモニーにはかなり驚いたらしく、胴上げされた際には明らかに怖がっており、現地のテレビ局もこの模様を見て「日本代表のチームメイト達はヌートバーを投げ飛ばそうとしているのか？」と戸惑っていた）。
今回の経験が彼にとっても非常に大きなものになったことは言うまでもなく、ヌートバーは大会閉幕後「(2024年からMLBによって18秒以内に投げなければボールが1つ追加が導入されたり声掛け回数が5回から4回に減少される規程が盛り込まれる)3年後の第6回大会でもまた日本代表でプレイしたい」「できるだけ長くMLBでプレイしたいと思っているが、いつの日か自身のキャリアのどこかで日本でプレイできたら」と述べている。
大会後、ヌートバーのインスタグラムはフォロワー数が90万人近く増加し、日本メディアもMLBに戻った後のヌートバーを日本人MLB選手と同列の存在として、彼の動向を追うようになっている他、早速日本の企業（森永製菓、zoff）のTVコマーシャルに起用される等、すっかり日本の著名人の一人に名を連ねる様になった。日本でのスポンサー契約の総額は自身の年俸を超える可能性もあるという話もあり、チームメイトのポール・ゴールドシュミットからは「来年はカージナルスと日本企業のどっちが君に多く金を払うんだ？」とジョークを飛ばされたという。シーズン終了後は日本に来日し、クライマックスシリーズのゲスト観戦やイベント・テレビ番組に出演した。
また、大谷からは選別としてグランドセイコーの高級腕時計をプレゼントされた。彼曰く「彼との約束の品。（第6回大会の開催される）2026年に(前述記載の)侍ジャパンに戻ってこなかったり、他のチームで出場したりしたら返さなくてはいけないんだ(つまり、同じ様に合流して欲しいとの事)。」とのことである。
なお、ヌートバーはこれまで日本球界でプレイしたことがなかったため、今回の侍ジャパン入りの際に急遽彼の応援歌が作られることとなった（厳密には侍ジャパンの汎用応援歌の流用）。
応援でもフレーズには「達治」コールが入っている。
日の丸を背負いいざ
世界へ立ち向かえ
大和魂見せてやれ 戦え侍
かっとばせー！タ・ツ・ジ！！
日本野球との関係
ヌートバー自身はWBC以前、日本で野球をしたことはないが、実は幼少期から日本野球と深い縁がある。
母の久美子氏は高校時代にソフトボール部に所属しており、日本にいた頃から読売ジャイアンツの応援に行くほどの熱心な野球ファンで、U-18のWBSC野球日本代表選手を数名ホームステイで受け入れたことがある。
その時の代表は当時甲子園を沸かせた斎藤佑樹や田中将大の世代であり、当時9歳だったラーズ・ヌートバーはバットボーイとして彼らと交流し、全選手からサインをもらったという。
また、後に彼を侍ジャパンに招き入れた栗山監督はこの時キャスターとして日本代表の試合に同行していた。
大会後に栗山監督の語ったところによると、この斎藤佑樹との縁が、決め手のひとつであったらしい。ヌートバーがオンライン通話で栗山監督と初対面した時には斎藤佑樹からプレゼントされたヤング侍の帽子を被って現れ、栗山はこれに完全に心を打たれたとも語っている。
やがてヌートバーもリトルリーグのオールスターに選ばれると、彼は自分の生まれから「日本を代表しています」と自己紹介しており、メジャーリーグで試合に出場する時もスパイクに日本の国旗を入れたり、バットには自身のミドルネーム「TATSUJI(達治の事)」を刻んでいるなど日本への思いは昔からずっと強かったようである。
また、この日本代表の活躍もありニュースサイトやニュース番組におけるMLBの日本人選手の一覧にヌートバーが加わることとなった。
ペッパーミル・パフォーマンス
ヒット時に両手でコショウをひくようようなポーズをするパフォーマンス。
元はヌートバーの所属するセントルイス・カージナルスで流行していたもので、彼の来日と共に持ち込まれ、第5回の侍ジャパンの間で流行している。
ファンの間でも話題となっており、WBC開幕後、ペッパーミルが飛ぶように売れたという。
ヌーイング
ヌートバーに対するファンの声援のことであり、こちらも所属するセントルイス・カージナルスで行われており、打席に立ったり、活躍した際に(Nooot!)とファンがヌートバーに送ることが恒例となっている。日本でも侍ジャパンのメンバーとして試合に出た際、観客からヌーイングが行われるようになった。
余談
上記のダイビングキャッチなどで舌を出している様子が確認できるが、幼い頃から、プレイ中無意識に舌を出してしまう癖があるとのこと。
ニックネームの“たっちゃん”から、日本の野球漫画『タッチ』の主人公：上杉達也（タッちゃん）を連想したファンも多いとか。実際、Twitter上では作者のあだち充や、アニメ版で浅倉南の声優を担当した日髙のり子がこのことに言及している（参考）。
なお、ヌートバーは試合中にこの『タッチ』に絡めた応援ボードを目にしており、最初は何のネタなのかわからなかったものの、後日チームメイトやスタッフから元ネタについて説明されて納得したとのことである。
2023年のWBCに韓国代表として出場したトミー・エドマン（韓国系アメリカ人のメジャーリーガー）はカージナルスのチームメイトであり、とても仲が良い。
しかし、皮肉なことに、ヌートバーが攻守に渡って大活躍し、日本でも鰻登りに評価を上げたのに対し、エドマンはプレイに精彩を欠いたことで韓国国内の野球ファンやマスコミから酷評されることとなり、大会後の両者の評価ははっきりと明暗が分かれてしまったと言える。
また、2017年まで日本のプロ野球でプレイしていたマイルズ・マイコラスともチームメイトである。
母親の久美子氏も非常に明るく饒舌で、大会中は日本メディアでも引っ張りだこだった。某野球の上手い芸人(当時無職)と意気投合したり、自分にインタビューするのがあの大魔神佐々木主浩だったと気づいた時には感激のあまり卒倒しそうになったりと、ラーズのリアクションとノリの良さは母親譲りのようである。
ちなみに久美子氏は前述したzoffのCMで息子と共演している。
子供時代、久美子氏が叱るときに度々「何やってんの！」と日本語で怒っていたことがあったらしく、この言葉だけはどう聞いてもネイティブな日本人の発音で、用途も意味も完璧に理解して使っている（ドキュメント映画『憧れを超えた侍たち』の終盤、優勝後のシャンパンファイト中にシャワーを浴びていた近藤健介に冗談交じりで使っているシーンがある）。
