概要
2021年4月29日から小説家になろうで発表されており、2024年6月21日にカクヨムでも連載。
作者はみわもひ。
書籍版はオーバーラップ文庫から出版、挿絵は花ヶ田が担当。既刊8巻(2025年現在)。
コミカライズ版はガルドコミックスから出版、うさとるが担当。既刊5巻(2025年現在)。
ちなみにこの作品のタイトルは書籍版とコミカライズ版のものであり、更に書籍版では副題が記載されている。Web版では「創成魔法の再現者 ~『魔法が使えない』と実家を追放された天才少年、魔女の弟子となり正しい方法で全ての魔法を極めます。貴方の魔法は、こうやって使うんですよ?~」という名称である。
作風は魔法や異世界を舞台にした追放ものをベースに様々な要素を組み込んだものとなっている。
あらすじ
名門貴族家に生まれ、将来を有望視されたエルメス。
しかし、貴族が代々継承する強力な魔法「血統魔法」を受け継いでいない無能だと発覚する。
家を追放され死の淵に立たされる時、少年は伝説の魔女と出会った――。
全ての魔法を再現する最強の魔法を駆使し、少年は世界の常識を覆す!
(コミックガルド連載ページより引用)
登場人物
主要サイド
- エルメス
本作の主人公。短い銀髪とエメラルドの瞳を持つ。貴族だった頃の名前は「エルメス・フォン・フレンブリード」。
魔法の名門フレンブリード侯爵家の次男として生まれ、更には膨大な魔力を持って生まれた事で幼少期は父ゼノスから籠愛を受けていた。しかし7歳の頃に血統魔法を持たないと発覚すると一転、3年間も地下牢に幽閉されて酷い扱いを受けた末に実家から追放されてしまう。絶望の最中にローズによって命を拾われ、15歳になるまで彼女に師事し魔法を学んだ。ローズの教えを無駄にせず、かつて失った思いを取り戻し、そして『自らの魔法を見つける』目標を完遂するべく王都へと帰還。ある事情でクリス達に追われたカティアと再会、トラーキア家の使用人兼カティアの護衛役として雇われる事となった。
幼少期は魔法に憧れを抱く無邪気で明るい性格であったが、ローズから巣立った頃は年不相応の冷静さを持ちながらもあらゆる感情が希薄となっている。とはいえ、親しい人を侮辱されて平静でいられるほどに感情が喪失した訳ではなく、本気で怒らせると容赦ない一面を見せる。
上記の通り血統魔法こそ持たないものの、代わりにローズから受け継いだ創成魔法『原初の碑文(エメラルド・タブレット)』とそれによって組み合わせた魔法の数々で戦っている。
- ローズ
エルメスの師匠というべき人物。赤の長髪と碧眼を持つ、年齢不詳の美女(地の文では見た目は20歳前後と推測される)。
追放された身で元騎士団の暴漢達に襲われたエルメスを助け、彼の魔法の才能に目に付けていた。王国の人々から「歩く災害」「空の魔女」と呼ばれており、血統魔法の他にも様々な魔法を展開するなど、その実力も計り知れない。一方で血統魔法を「神から授かった天稟」ではなく「一つの魔法しか使えない呪縛」と捉える他、ユースティア王国の現状に頭を悩ませている場面が見られる。
このように、魔法使いとしてはトップクラスであるものの、それ以外が一切興味がなく、とりわけ料理を始めとする家事全般は壊滅的(そのせいで漫画版では出迎えたばかりのエルメスに「醜態」を晒してしまった)。あまりのダメ人間ぶりに見かねたエルメスが家事全般を担当するも、彼が王都に向かうと告げると泣きながら引き止めてしまった。
血統魔法は『流星の玉座(フリズスキャルヴ)』。
- カティア・フォン・トラーキア
名門公爵家であるトラーキア家の長女。紫紺の髪と瞳を持つ。
エルメスとは幼馴染の関係であり、彼が無適正と判明されても気に掛けていたが、アスターによるエルメスの追放を止める事は出来なかった。5年後には婚約者であるアスターに婚約破棄された上に冤罪をかけられて追われる身となったが、王都に帰還したエルメスに助けられて事なきを得た。
エルメスの追放から不断の努力を重ねており、礼儀作法、政治、教養諸々を完璧と言えるレベルで収めたが、自らの血統魔法を十全に扱えない事から『欠陥令嬢』と蔑まれていた。これは貴族としての責務に優先するがあまりに自らの本当の想いを蓋にしたのが原因であり、後にエルメスからの助言で克服した。
また、公爵令嬢という肩書のせいか打算で近づく者が多く、本当の意味での『友人』はエルメスのみである。尚、そのエルメスには分かりやすいほどに想いを寄せているが、如何せん素直になれないのか理由を付けては傍にいさせようとしたりしている。
幼少期に亡くした母の約束を守る為に、自らの魔法で民を危機を救おうとしている。一方で貴族の債務を果たす為に働き過ぎている事を傍付きのメイドであるレイラに指摘されていた。
血統魔法は『救世の冥界(ソテイラ・トリウィア)』。
敵サイド
- アスター・ヨーゼフ・フォン・ユースティア
第二王子。エルメスたちと同世代で、今代最強の血統魔法を授かった次期国王の最有力候補。
その本質は自分の器の矮小さを認められず、尤もらしい理由にすり替えて欲望を満たそうとする暴君。自分の意に反する人物に対して言いがかりを付けては陥れ、時は自らの手で処断している。
エルメス追放の元凶であり、血統魔法以外の面で自身よりも優れていた彼への恐れと嫉妬から、歪んだ人格を形成した。その血統魔法も強力な性能に頼った力押しに過ぎなかった。
カティアを一方的に婚約を申し込んだが、その5年後では自分の行動を咎めていた事を目障りと感じて婚約破棄。新たにサラを自らの婚約者とした。
血統魔法は『火天審判(アフラ・マズダ)』。
- クリス・フォン・フレンブリード
フレンブリード侯爵家の長男。エルメスより5歳年上。
次に生まれたエルメスの魔力が規格外であった事で父ゼノスに見向きもされない日々を送り(漫画版でもゼノスに魔力と魔法を扱き下ろされた場面が描かれていた)、その彼が無適正により牢獄に放り込まれた事を知ると、今まで積もった鬱屈をぶつけるかのようにと言わんばかりに暴虐を働いていた(その中には自らの血統魔法をエルメスにぶつけていた場面がある)。尚、エルメスはその事を知っていながらも、父親に持ち上げられた事や魔法の勉強に夢中になっていたせいであまり気に掛けてやれず、それに恨みを抱いたクリスからの仕打ちを甘んじて受け止めていた。
上記の理由から次期当主に返り咲き、エルメス追放と前後しアスター派閥に入る。5年後にはカティアを追跡したが、王都に帰還したエルメスの妨害に遭い、敗れてしまう。
侯爵家跡取りとして申し分のない魔法の才を有し、アスターの右腕として任命された程である。しかし上記の通りエルメスの魔力にはやはり劣っており、加えて授かった魔法に胡坐をかいて研鑽を行わなかった事がエルメスとの戦いの敗因となった。
血統魔法は『魔弾の射手(ミストール・ティナ)』。
- サラ・フォン・ハルトマン
ハルトマン男爵家の令嬢。ブロンドの髪と碧眼を持つ美少女。
カティアに代わるアスターの婚約に仕立て上げられたが、その実態は影響力を持たないお飾りのような存在。
血統魔法を二つ所持する「二重適正」であり、学園では低い家柄も相まって周囲から疎まれてしまったが、カティアによって助けられた。
優しくて気弱な性格であるが、悪く言えば自らの心を軽んじている。その為、アスターに怯えるような様子で従っており、結果的にカティアを陥れてしまった(エルメスからもその事を指摘された)。
血統魔法は『星の花冠(アルス・パウリナ)』と『精霊の帳(テウル・ギア)』。
その他
- ゼノス・フォン・フレンブリード
フレンブリード侯爵家の現当主。
魔法の名門と呼ばれながらも、ここ数代は有用な魔法使いを排出できず、領地の経営不振も重なってすっかり落ち目になったフレンブリードをかつての『公爵家』に返り咲く事に躍起となっている。
その事から子供を野望を成就させる為の道具としか見ておらず、才能ある子には過剰に甘やかし、そうでなければ冷淡に扱う等、子供の才能に対して異常なまでに拘っている。その為、膨大な魔力を持った事で可愛がっていたエルメスが無適正だと知ると一転して憎悪をぶつけており、牢獄に放り込んだ後に勘当させた(しかも自らの手を汚さぬ様に、エルメスに多少の金銭を与えた上で貧民街に放り込んで暴漢達の標的にさせた)。
- レイラ
トラーキア家の使用人。年齢は二十代半ば程。
主人であるカティアの幼馴染であるエルメスが『無適正』を理由に追放された事に悲しみ、そして生存に安堵していた(彼女に限らず、使用人を始めとするトラーキア家はエルメスを味方にしている)。
気が良くておせっかい焼きであり、エルメスに想いを抱いているカティアがにデートを勧めている。
- ユルゲン・フォン・トラーキア
トラーキア公爵家の現当主であり王国の法務大臣。長い紫の髪と碧眼を持つ男。
エルメスとは知り合いであり、追放を経て帰還した彼をカティアの護衛として雇った。一方で、創成魔法を得た彼になぜわざわざ王都に戻ったのかを試す形で質問をしていた。
- シータ・フォン・トラーキア
故人。紫の髪と瞳を持った女性。
血統魔法を重視している王国において、魔法と貴族の本来あるべき姿(自分たちが幸せでありつつも、その力で大切な人や弱き者が幸せを守り抜く)を実践している数少ない人物であり、カティアに対してもそれを説いた。
エルメス達が6歳の頃、民衆を襲った魔物の大群にたった一人で立ち向かい、王都の増援が来るまで命を散らしたが、その意志は現在のカティアに受け継がれていた。
また、生前ではローズとの関わりを持っている。
- エルドリッジ伯爵
トラーキアの隣領を収めている貴族。
全体的にでっぷりとした体型と丸っこい顔をした中年男性という外見をしている。
性格は傲岸で、魔法の強さこそが全てと考えており、更にはトラーキア家との協定をも破ってまで迷宮での成果を自分の手柄にしようとした。一方で背後から襲撃した魔物にも気づかない等、危機察知能力の無さも見受けられた。
カティアが欠陥令嬢と蔑まれたのをいい事にトラーキア領にある「迷宮」の奥深くにある古代魔法具を掠め取る算段であったが、威嚇同然に魔物へ攻撃を仕掛けたエルメスに屈辱を与えられてしまった。
その後はエルメス達が亀甲龍(トータス・ドラゴン)が討伐した頃合いに(エルメス達を始末してでも)古代魔法具を奪い取ろうとするも、それに憤ったエルメスやカティア達の逆襲に遭って逃げ帰った。
血統魔法は『天魔の四風(アイオロス)』。
- カール・フォン・ハートネット
西方で伯爵家を営んでいる貴族。
カティアが魔法の欠点を克服した事を聞きつけて記念パーティーに自らの次男に縁談を申し込もうとしており、断られてもなお食い下がっていた。
しかしアスターの婚約破棄に懐疑的な発言をした事で、その場に現れたアスターに言いがかりを付けられて拘束されるが、ユルゲンの権限によって釈放された。
- ノルキア子爵
とある村の領主。中背中肉で、とにかく平凡な貴族。
村人から近くの森で発見された迷宮を二週間も亘って放置しており、催促されても「今しばらく自分たちで対策しろ」と手紙で一蹴した。
尚、その最中に子息の縁談相手を探し、丁度カティアの噂を聞きつけて会場に赴くも、その場に現れたアスターがカティアの評価を貶めてしまい破談となった。噂に踊らされる形でカティアを名声を地に落とさせようと躍起になったが、カティア達によって大氾濫は討伐されて失敗に終わった。
エルドリッジ伯爵とは別ベクトルで貴族の負の側面を見せており、彼の場合は人命よりも政略を優先し、あろうことか自らの不手際で発生した大氾濫をカティア一人に半ば押し付けていた。
用語
- ユースティア王国
魔法文明が発達している国家。
王侯貴族は一族代々から受け継がれている血統魔法で他国の侵略や魔物の脅威から民を守り、代わりとして高い特権と地位を手にしている(因みに王侯貴族には苗字とミドルネームに「フォン」と名付けられている)。また、民衆も『汎用魔法』を行使する者が多いため、魔法が王国の深い所まで根付いている。
一方で魔法や身分を優先する思想が国中に蔓延っており、王都に至っては生まれた時から与えられたものに安住している。当然、魔法を骨子にする王国を円滑に回す為に優れた血統魔法を持つ者が上に立つ仕組みとなっているが、こういった土壌で育った王侯貴族の多くは自分より下位の者を見下す傲慢さを持っている。早い話、そういった人間が上に立てば邪魔者となる人間を犯罪者に仕立て上げて、下の者はその意見を絶対視し、少しでも疑い逆らう事を悪としている。それ故に噂に踊らされて賛同する等、自分で考える事を放棄しており、国としては致命的な欠点を抱えてしまった。王国の暗部を知り尽くしたローズは「怠惰で陰湿な連中の溜まり場」と侮蔑していた。
- 血統魔法
一族相伝の強力な固有魔法。
かつてユースティアの魔法使いたちが一生涯をかけて作り上げた魔法を後世に伝えるにはあまりにも膨大過ぎる難題があったが、それを自らの血筋に埋め込む事で解決した(流石に子孫を残せない者はその息子や孫の中で事情を説明した上で納得してもらった者に施した)。
これによって子孫は高度な技術である魔法を無条件に行使し、血脈が絶えない限りは魔法が消える事はないが、基本的には一人に一つの血統魔法しか使えない欠点がある。
ローズによると「魔法は確かな理念と論理を基に組み上げられた為、然るべき手順を踏んでいれば誰でもあらゆる魔法を扱える」ものであり、血統魔法はその習得の過程を省略した事で、生来から魔法を一つだけ使える代わりに、それ以外の魔法を習得できる可能性を潰したとも言える。さらに言えば血統魔法の持ち主は、授かった魔法を熟知しないまま魔法を扱っているに等しい為、魔法の隠された効果や本質への勘違いに気付かず、結果として魔法の機能不全に繋がる事もある。また、魔法を発動する際に術者の感情によって大きく左右されており、魔法の種類によってその部分が大きく反映される事もある。
本来、血統魔法を持った貴族は人々を襲う魔物に対抗する責務を背負っているが、いつしかこの魔法自体が「神から授かった天稟」と解釈され、貴族を貴族たらしめる重要な『要素』となった。受け継いだ血統魔法がより強力な者と劣っている者(血統魔法自体が弱いか、上手く扱えない等)の格差は歴然となり、血統魔法を授からなかった者に至っては貴族ではないと言わんばかりに実家を追放されてしまう。稀にその血統魔法を複数所持する人材が出てきており、その希少さから数世代に一人の逸材として扱われる。そういった背景からユースティア王国の貴族は「血統魔法の優劣が全てが決まる」と言わんばかりに異様なまでに重視しており、中にはそれが行き過ぎて『貴族である事』に異様なまでに固執する者が少なからずいた。
とはいえ、強力な血統魔法を授かっても決して無敵という訳ではなく、貴族王侯の中にはそれに満足して研鑽を怠る者もおり、どん底から這い上がって鍛錬を怠らなかった者と相対すれば敗北を喫してしまうケースもある。
- 汎用魔法
「誰にでも使える魔法」をコンセプトにユースティアの魔法使いたちが開発した魔法。血統魔法と比べると性能は劣るが、手軽に使える上に汎用性も高い。
その性質上、王国の民衆にも広まっており、王国の魔法文明を根底から支えているなど、王国には欠かせないモノとなっている。
- 創成魔法
原初の碑文(エメラルド・タブレット)。ユースティア王国の魔法に対する考え方に反発したローズが独自の理論で開発した魔法。
- 外典魔法(オルタネイト)
魔物が扱う魔法をローズが見出し、エルメスによって再現した新たな魔法。ローズによって名付けている。
性能も血統魔法より強力であるが、詠唱も異なったものとなっている。
魔法一覧
- 原初の碑文(エメラルド・タブレット)
ローズによって開発され、弟子となったエルメスが扱う創成魔法。
ヒスイの光を放つ半透明の緑板を出現させていく。
眼前にある魔法の構造・理念・効果を分析し、解析結果を基に再構成させる事によりほぼ同じ魔法を再現する。所謂魔法のコピーではなく、一回再現した魔法(の作り方)を記憶していればいつでも行使出来る。しかも別の魔法を習得すれば使えなくなるわけではなく、寧ろ習得すれば権限なく強くなれる。それだけにローズはこの魔法を「最高傑作にして最強の魔法」と褒め称えている。
しかし、それらを実際に習得するには高い観察力と知識、並びに構築力と応用力といった様々な技術が必須であり、血統魔法のような複雑な魔法を初見で再現するのはまず不可能。但し、『魔法の射手(ミストール・ティナ)』に関しては追放前にクリスから何度も「体に叩き込まれた」事もあってか、例外としてぶっつけ本番で再現に成功した。
逆に言えば、汎用魔法でも問題なく習得可能であり、寧ろこの魔法を応用する事で「強化汎用魔法」へとパワーアップしていく。こちらは威力こそ血統魔法に及ばないが、詠唱の省略や手数の多さなどのメリットもある。更には魔物が使う魔法さえも例外ではなく、そちらは外典魔法(オルタネイト)と名付けられた。尚、血統魔法を持った者の場合、身に宿る血統魔法によって他の血統魔法を習得する事は不可能であり、開発者であるローズでさえも上記の汎用魔法を強化させた「血統魔法に近いレベル」でしか再現できなかった。その性質上、血統魔法を重視する貴族社会を根幹から揺るがしかねない為、ユルゲンから人前でみだりに使わないように釘を刺された。
詠唱は【斯くて世界は創造された 無謬の真理を此処に記す 天上天下に区別無く 其は唯一の奇跡の為に】。再現した魔法の発動は【術式再演ーー『〇〇(魔法名)』】。
名前の由来は、伝説的な賢人ヘルメス・トリスメギストスが著者とされるテキスト『エメラルド・タブレット』。エルメスもヘルメスのフランス語読みとなっている他、地の文でもエルメスの瞳の色について言及している。
- 流星の玉座(フリズスキャルヴ)
ローズが扱う血統魔法。
無数の魔力光線を流星のように天から降り注いでいく。数ある血統魔法においてトップクラスの威力を誇っており、ローズの切り札と位置付けている。
詠唱は【天地全てを見晴るかす 瞳は泉に 頭顱は贄に 我が位階こそ頂と知れ】。
名称の由来は、北欧神話における全世界を見渡せる高座『フリズスキャルヴ』。詠唱の内容の一部はその持ち主であるオーディンのエピソードに由来している。
- 魔弾の射手(ミストール・ティナ)
クリスとゼノンが扱う血統魔法。恐らく、フレンブリード侯爵家相伝の魔法。
背後から展開した光弾を射手の如く撃ち抜いていく。威力も調整できる。
詠唱は【六つは聖弓 一つは魔弾 其の引鉄は偽神の腕】。
名称の由来は、北欧神話にて光の神バルドルを絶命させた植物『ミストルティン』(ヤドリギ)。詠唱の内容はオペラ『魔弾の射手』を意識していると思われる。
- 救世の冥界(ソテイラ・トリウィア)
カティアが扱う血統魔法。
冥界から死霊を召喚並びに操作させ、高濃度の魔力塊として展開させる。トラーキア公爵家相伝の魔法の一つで、それに相応しい位に強力な魔法であるが、術式の複雑さも段違いとなっている。
死霊を操る性質上、周囲から畏怖の対象となっており、この魔法は「この世への未練」を始めとする強い感情を必要としており、術者の感情によって性能が左右される部分が特に反映されている。
その感情を霊魂が共感できる一定の志向を与える事で性能を強化させることが可能だが、反対に魔法を扱う感情が乱れてしまうと極端に威力が落ちてしまう。
詠唱は【終末前夜に安寧を謳え 最早此処に夜明けは来ない 救いの御世は現の裏に】。
名前の由来はギリシャ神話における魔術と冥府の女神『ヘカテー』。また、ヘカテーが救世主を意味する称号の女性形『ソテイラ』、ラテン語で「十字路の」を意味する形容語『トリウィア』と呼ばれており、この女神も元はトラーキアで信仰されていた。
- 外典:炎龍の息吹(ドラゴンブレス・オルタ)
赤竜が使った魔法を『原初の碑文(エメラルド・タブレット)』で再現した外典魔法。
掌に渦を巻く業火を凝縮し、竜の息吹のように放出して焼き払っていく。その威力は鉄壁な防御を誇る魔物を結界もろとも貫通して撃破した程。
詠唱は【集いて穿て 炎の顎(シュライエン フェルド)】。
- 天魔の四風(アイオロス)
エルドリッジ伯爵が扱う血統魔法。
周囲に大きな嵐を巻き起こす。
詠唱は【集うは南風(ノトス) 裂くは北風(ボレア) 果ての神風無方に至れり】。
名前の由来はギリシア神話並びに「オデュッセイア」における風の神アネモイの主『アイオロス』。詠唱に出てくる『ノトス』と『ボレア』はそれぞれ南風と北風を司る神から取られている。
- 星の花冠(アルス・パウリナ)
サラが扱う血統魔法。
青い光を対象の身体に吸い込ませて傷を治していく。
詠唱は【天使の御手は天空を正す 人の加護に冠の花 大智に満ちるは深なる慈愛】。
名前の由来は5種の魔法書を合本した「レメゲトン」の内、星に関する魔術の書であり、善なる精霊についての情報が記されている『アルス・パウリナ』。
- 精霊の帳(テウル・ギア)
サラが扱う血統魔法。
格子状の光を出して対象を封じ込めていく。その頑強さは大型の魔物ワイバーンの攻撃を持ってもビクともしない。
詠唱は【果ての願いは神羅に至り 熾天の想いは万象の影に 築き上げるは無垢なる世界】。
名前の由来は5種の魔法書を合本した「レメゲトン」の内、悪魔と天空の精霊(善悪双方)を使役する方法を記した書『テウルギア・ゴエティア』。
- 火天審判(アフラ・マズダ)
アスターが扱う血統魔法。
全身に凄まじい炎を纏わせていく。その火力も『外典:炎龍の息吹(ドラゴンブレス・オルタ)』を上回っており、『精霊の帳(テウル・ギア)』語と閉じ込めた魔物を焼き払っていく。
詠唱は【光輝裁天 終星審判 我が炎輪は正邪の彊 七つの光で天圏を徴せ】。
名前の由来はゾロアスター教の最高神『アフラ・マズダ』。終末の日に善と悪を再び分ける裁定者である他、火が善(清浄・正義・真理)の象徴として崇められいる。詠唱にも配下である7柱の善神も組み込まれている。
魔物
人間に脅威を与える異形の怪物。
出自を始めにその殆どが謎に包まれているが、人類の殺戮を行動原理としており、時には自らの命を度外視してでも人間を執拗なまでに襲っていく。生殖機能も備えている為、放置すれば次々と繁殖するだけでなく、より人類の殺戮に優れた生物へと進化していく。
また、魔法に高い親和性を持つ魔法生物でもある事から、魔力を糧とし、高い魔力に引き寄せられる性質を持っている。中には魔法を扱う個体も存在し、高位な魔物が扱う魔法はかの血統魔法さえも凌駕している。異形の建造物である迷宮は、内部が複雑に入り組んでいる事から巣窟として適しており、最奥に「迷宮の主」が待ち受けている。討伐すれば有用な素材がドロップして儲かり、更には迷宮の主の背後や隠し部屋でレアな魔法具を入手できるメリットもある。反対に迷宮を放置すれば魔物が繁殖し、一定の数を超えた時に迷宮から魔物の大群が溢れかえる「大氾濫(スタンピード)」が発生する。それ自体が人里に甚大な被害をもたらす災害であり、複数の貴族が協力する必要がある。こういった点から迷宮もまた魔物と同じように危険視され、貴族は近隣の住民に被害が出る前に対処する義務がある。
- 亀甲龍(トータス・ドラゴン)
トラーキア領にある「迷宮」の主。見た目は四足歩行をする巨大な亀であり、血のような赤い眼をしている。だが、古くは玄武とも呼ばれており、れっきとした竜種として分類されている。
鋭利なトゲの生えた甲羅を持ち、頭部や脚部、尻尾にも鋭く硬い鱗に覆われており、漫画版では全体的にワニガメを思わせるデザインとなっている。
その鈍重そうな外見に反して俊敏な動作と跳躍力を誇っており、侵入してきた者達には退路を塞ぐように着地している他、攻撃すらも回避している。
当然、防御力もかなりのもので、他と比べて装甲が薄そうな首の部分に強化汎用魔法を打ち込まれても効き目がなかった。その防御力すらも攻撃力として機能し、前腕や尻尾を駆使した強力な攻撃を仕掛けている。
しかも強固な結界魔法も扱える為、血統魔法などの強力な攻撃さえも防いでいる。そんな魔物が己にとって本当に危険だと判断すれば手足を引っ込めた上で結界を展開して全力の守りに入る事もある。しかし同じ魔物の魔法を再現した『外典:炎龍の息吹(ドラゴンブレス・オルタ)』により結界を突破され、硬い甲羅に籠もったせいで内側から焼かれて敗れ去った。