北号作戦
ほくごうさくせん
太平洋戦争末期、フィリピンを舞台としたレイテ沖海戦に敗北したことにより、日本は南シナ海の制海権を失い、資源地帯の東南アジアと日本本土は切り離された。その状況下であっても物資を本土に運ぶため立案された、(商船に比べれば)高速重防御な軍艦を用いた強行輸送作戦が北号作戦(ほくごうさくせん)である。
この作戦の目玉が、航空戦艦となり物資積載に都合のいい格納庫を備えた伊勢型である。本来そこに積まれるはずの航空機は、レイテ沖海戦の前から陸上に送られて空っぽであった。
1945年2月10日、作戦が発動され、日向(旗艦)、伊勢、軽巡洋艦大淀、駆逐艦朝霜、霞、初霜の6隻(日向・伊勢・大淀はエンガノ岬沖海戦の小沢部隊の生き残り。任務を完遂するという意味を込めて完部隊と命名)は、現在地のシンガポールから積めるだけの物資を積み、日本本土への帰還を目指して出港した。途中何度か空襲や潜水艦の攻撃に合うも、スコールに逃げ込んだり主砲で撃退したりするなどの臨機応変な対応が功を奏し、1隻の脱落もなく2月20日に呉に到着する。海軍上層部では「半分戻れば上出来」と予想していたが、「完部隊、一隻の脱落もなく無傷で日本本土に到着」の報せを聞き狂喜乱舞したと伝えられる。この様に味方に被害が全く無かった事から、キスカ島撤退作戦同様に奇跡の作戦と呼ばれる。そしてこれは日本海軍最後の作戦成功となった。
この作戦はアメリカ軍の意表を突いた形となり、完部隊の指揮官である松田千秋少将が戦後にアメリカの参謀に尋ねたところ「いや、あれはすっかりやられた」という答えが返ってきたという。
米軍は完部隊の出撃自体は把握していたが出撃の意図がわからず、戦艦2隻でフィリピンに侵攻するものと考えて迎撃体制を敷いていたのだ。しかも虎の子の機動部隊は硫黄島攻略戦のために出払っており、フィリピン近隣の水上部隊をかき集めて迎え撃つつもりであった。ところが完部隊がフィリピンの鼻先をそのまま通過していったものだから、米軍としては完全にしてやられた格好となったのである。
完部隊が持ち帰った燃料は南方から運ばれた最後の燃料となり、(呉で防空砲台となる事に決まった)伊勢と日向が自艦用に搭載していた燃料は戦艦大和に移された。大和と第二水雷戦隊はこの燃料を携え、最後の戦いである坊ノ岬沖海戦に臨む事になる。
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