概要(原作)
紂王の長男にして殷の東宮(王太子)。弟に殷洪がいる。母の姜氏が謀反の罪によって拷問死すると、遺言に従って母を陥れる手伝いをした姜環を討ち果たすも、そのせいで今度は自身が謀反人とされてしまう。母方の実家である東伯・姜桓楚の元に逃れる途中で追っ手に捕まり、弟ともども刑場で処刑されることになった。だが、そこで広成子の放った黄巾力士にさらわれ、周の武王を補佐するために広成子の下で修行をすることとなる。
その後、広成子より三面六臂の体と強力な宝物を与えられ、西岐軍への合流を命じられる。その際広成子に誓いを求められ、殷に寝返ったら『「犂鋤の厄(※)」を受けても構わない』と誓約した。だがその道中で申公豹から弟・殷洪の死を知らされると豹変して復讐を決意。西岐討伐軍に加わった。裏切りを知った広成子の説得にも頑として応じず、宝貝・番天印を駆使して西岐軍を苦しめる。だがやがて劣勢となって囲まれ、最期は燃灯道人の術によって山に体を挟まれ、武吉により犂鋤の厄を執行されて絶命した。その後亡霊となって紂王に最後の諫言をしている。姜子牙により執年歳君太歳神に封神された。
※犂鋤(りじょ)の厄
犂=「り」、または「からすき」。古代中国におけるスコップ。鋤=「じょ」、または「すき」。干草や土などを掻き分ける、先端がフォークのように鋭く何本にも枝分かれしているアレ。つまり『犂鋤の厄』とはそうした農作業具で殺される刑のこと。仮にも戦士や王侯貴族・将軍が、『敵国の戦士の殺人用の武器』で命を奪われるならともかく、『戦士ですらない農民の農作業具』に殺されるという点で、とんでもない屈辱を与えるムゴい刑とされている。
概要(藤崎竜版)
紂王の第一子。殷の皇太子。原作と異なり、異形の姿となることはない。
母(姜妃)が妲己により投獄され自殺をしたのち立場が危うくなり、朝歌を出る。
その際に黄飛虎の護衛兵に偽装した妲己の刺客により暗殺されかけた所を太公望に助けられ、力を付けるべく崑崙山へ仙人界入りをする。
仙人界で広成子の弟子として修行し宝貝「番天印」を授かるも、殷への侵攻を決めた周に反発。殷の王太子として太公望らと敵対する。原作と異なり申公豹に誑かされておらず、師から宝貝を授かった時点で既に反抗の意思を固めていた。
戦いの最中、太公望をかばった弟を誤って討ってしまい、錯乱。その隙を突かれて太公望により封神される。兄弟仲は非常に良かった様子。
アニメ「仙界伝封神演義」では、弟と呼び方がかぶってしまうので、「いんちゃお」と呼ばれる。
所持宝貝
番天印
成人男性の腕や足ぐらいの太さの、「番天」と印字面に彫られたピストン式印鑑のような形状の宝貝。使用者の意思を受けて戦闘形態に移行する際には、番天印を使う側の腕を巨大甲虫めいた生物的な装甲で、肩口から手先まで完全に覆い尽くし、その生体装甲の腕の先から「番天」の印字彫面がせり出し、砲口と化す。攻撃の際は番天印の力で、狙撃対象に上述の彫面そのままの「番天」と書かれた光の印を浮かび上がらせ、その『番天』の印をロックオンサイトとして、そこ目掛けて腕の砲口から自動追尾レーザーを発射する。
破壊力は、一発でも兜を被った人間の頭が粉々に消し飛ぶというなかなかに恐ろしいレベルだが、真に恐ろしいのはそれだけの破壊力のホーミングレーザーを、一度に大量に押印(ロックオン)&発射可能という点。
その特性ゆえに一対多の殲滅戦で特に戦果を挙げる(師匠の広成子のミリタリー趣味が現れたものか)宝貝であり、殷郊はこれで、宝貝相手ではなすすべもなく逃げ惑うしかない周の大勢の兵士たちに押印を行って太公望の反撃を封じる人質とし、実力に勝る太公望の左腕を撃ち潰すことに成功している。
なお、原作版である安能務の小説及びその原典である許仲琳の中国古典小説版では、番天印の形状は握り拳以上の大きさの金印(フジリュー版で描写されたような現代によくある「棒状の印鑑」ではなく、古代中国によくある「台形に小さな持ち手がついた」形状の「金属インゴットの印鑑」)であり、中空に放り投げたら一目散に標的の向かって飛んでいき、頭に強烈にぶつかって標的を昏倒させる(特段の妨害がない限りは基本的に百発百中)という性能である。
上述の漫画作中の番天印のデザイン及び性能は、この原典小説版における「印鑑型の形状」「基本的に放たれれば百発百中」という要素から藤崎竜氏が超解釈アレンジして漫画に登場させたゆえのものと思われる。
その他作品における殷郊
- 中国の諸経典・神話など
武王伐紂平話、捜神大全などに太歳神(災いをもたらすこともある強力な神将)の前世として登場。母后(もしくは祖父)が処刑されたり、伯父と共に追放されたりと苦汁をなめるが太公望に出会い周に仕官。敵を滅する魔法の武器を振りかざして妲己を征伐する姿や、母后が生んだ肉塊から誕生する逸話は封神演義本編の哪吒に酷似したエピソードを持つ。
封神演義と概要は全く変わらないが、救うのは仙人ではなく彼らに雇われた人々が砂嵐の日に刑場へ忍び込んで弟の洪王子と共に救出された。周が殷討伐に動きだした際、親姫発派の師匠と配下の童子に呼び出されて参戦するかどうかを聞かれるが、弟と一晩話し合った上できっぱりと拒絶する。その後、権力を捨てて静かに暮らすハッピーエンドを迎えた。
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(以下、ネタバレ注意)
「仙界伝弐」において
漫画本編終了から数年後、成長して周の武王・姫発に仕える将軍となった黄天祥が主人公として活躍するWS版ゲームにも登場。
世界を揺るがす騒乱を解決するために、かつて封神された者たちにも力を借りるため封神台内部の各封神者の駅を渡り歩く天祥が、殷郊の駅を訪れた際に出会う。
天祥は彼にも力を貸してほしいと乞うが、「殷周易姓革命で滅ぼされた殷の王太子」として、「滅ぼした側である周の将軍」となった天祥にも敵意を向けて襲い掛かる。天祥に倒された後、それでも殷郊を撃滅する気がない天祥に、なおも亡国王子としての意固地に近い執念で天祥に番天印を放つが――なんとそこに、先に天祥と会って話を聞いていた殷洪が飛び込み、天祥を庇って番天印のレーザーの前に身をさらしてしまう。
レーザー群の着弾光が、飛び込んできた弟の姿を呑み込んで爆ぜていく―――。
かつて自分の宝貝が、他者を庇おうとした弟を殺めたかつての悲劇的光景を再現してしまったという事実に打ちのめされ、再度絶望に襲われた殷郊だったが………
光が収まったそこには、なんと、怪我ひとつない無事な殷洪の姿。
その殷洪の唐突な飛び込みにさえ即応してみせた天祥が、伸縮自在な帯状の刃にもなれる愛刀・妖精飛刀の刀身を一瞬早く殷洪の全身に巻きつけ、番天印のレーザーから守りきったのである。
「弟を再度誤殺しかけた」というショックと、その弟が助かった安堵、さらにその弟からの改めての「真に世と万民を思うなら天祥に力を貸そう」という説得と、天祥が弟を助けてくれたという事実……それらに絆され心動かされた殷郊は、未だ亡国王子としての意固地自体は捨てきれないものの、天祥の招きに応じ、師父の広成子やかつて敵対した周・崑崙の道士たちがいる天祥たちの新たな本拠・崑崙山2への同行を決めるのであった。
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黄天祥…仙界伝弐で明かされたことだが、幼少の頃には「殷王朝の王子」と「殷の最高軍事司令官の息子」として、殷洪も交え、何度となく一緒に遊んだ幼馴染でもあったため、互いに社会的立場抜きではタメ口で呼び合えるほどの親しい仲である模様。