泡沫に神は微睡む
ほうまつにかみはまどろむ
小説家になろうで連載中の作品。
著者:安田のら イラスト:あるてら
神が存在し、人間を含めたあらゆる生物はその身に精霊を宿して生まれる世界観で、精霊が存在しないが為に迫害・追放された主人公が自身の特異性を知り、やがて大きな運命に翻弄される物語。
いわゆる追放ものであり、ざまぁな要素もあるが、割と「ざまぁ」の影響が洒落にならない規模になってたりする。
独自の言い回しや、明治時代を思わせる雰囲気、そこに精霊等の現代ファンタジー風要素がミックスされているのが特徴。
※以下公式からの引用
この世界に産まれたものは、必ずその身に精霊を宿す。
いかなる生物であろうと例外なく、精霊は宿るはずであった。
しかし、高天原と呼ばれる島国で武家の長男として生を受けた雨月晶は、精霊を宿さずに産まれたため、家族から疎まれ、ついには故郷から追放されてしまう。
それから3年、晶は故郷から遠く離れた南の地で、穏やかに日々を営んでいた。
だが、平穏な日々は終わりを告げ、晶は自分を知る旅へと、一歩、足を踏み出す。
- 晶(雨月 晶)
主人公。舞台となる島国、高天原における華族=貴族の中でも最上位の八つの家の1つ、國天洲に存在する雨月(うげつ)家の長子であった。
しかし、その身に精霊が宿っていなかった為、ヒステリックを起こした母からは投げ捨てられ、父や親族からは失望・侮蔑・嘲笑と、およそ子供が浴びるには酷過ぎる程の悪意を向けられて育った。
更に、弟は神霊使いとして天才であった為、徹底的に存在しない者として貶められ、汚い大人や華族に対する嫌悪感を裡に秘めている。
親族で唯一祖母は彼の味方であり、晶の指導役にして雨月家に婿入りした華族、不破直利は彼を憐れみ、10歳で姓を剥奪され追放される晶に生きる為の助言を与えていた。
そうして流れついた新天地、珠門洲で3年を過ごしていたが、実は呪符を作成する才能が桁外れ、更に瘴気を浴びても痛いで済む等、作中世界の常識から見ても異端な特性を備えている。
当初は祖母の遺言に従い、生き残る為に日々を過ごしていたが、急に絶大な力と『神無の御坐』(後述)の立場を得て、自分なりの戦う意味を見出していく。
- 朱華(はねず)
高天原における五柱の神の一柱で、珠門洲を治める火の神。
選ばれしもの以外はその名を口にできない為、「あかさま」と呼ばれている。
見た目は10歳程度の少女で、朱に金糸を縫い込んだ華やかな単衣に、長い金髪と蒼の瞳が特徴。
神らしく人とは異なる感性の持ち主で、晶を気に入っているが、彼個人を見ている訳では無いものの、何の後ろ盾も無かった晶にとって最大の味方と言える。
- 輪堂 咲
ヒロインの一人。
八家第五位、輪堂家の三女で、ポニーテールで快活な印象の才女。
文武両道の大和撫子で、精霊器の薙刀使い。
人界に仇なす脅威、『穢レ』との戦いの為に、晶が所属している洲都守備隊の8番隊に援軍として派遣され、山狩り中に晶に助けられたのを契機に、顔を合わせる機会が増えていく。
そして晶の正体が判明すると、その教導役として任命され、諸外国の陰謀に立ち向かった際に距離が縮まる。
- 奇鳳院 嗣穂(くほういんつぐほ)
ヒロインの一人。
珠門洲の頂点に君臨する奇鳳院家の才女で、朱華からの神託を受ける次期当主。
容姿端麗で頭の回転も早く、僅かな情報から晶が追放された経緯を推察する程。
政を担うだけあって、あり得ないレベルの失態に気付きもしない雨月家を切り捨てる等、大事の為に小を切り捨てられる人物。
とは言え、晶への対応を間違えれば国1つ簡単に滅びる為、情に振り回されず判断できる彼女の存在は非常に重要。
婚約者を決める事になっていたが、晶が「珠門洲に属する神無の御坐」である為、晶の正室になる事が決定。
咲に最低限の情報を開示し、ついでに彼女を側室にして晶を繋ぎ止める等、色々としたたか。
あくまで神無の御坐や自身の使命から正室になった為、恋愛感情等無かったのだが、ファーストキスを捧げて以降は割と満更でもない様子。
- 久我 諒太
八家第二位、久我家の跡取りで、咲と共に派遣された青年。
傲慢で下々の人間が犠牲になろうと気にも止めない等、悪い意味で華族らしい人物。
得物は太刀の精霊器で、一撃の威力を重視した精霊技を行使する。
嗣穂の婚約者候補に選ばれていたが、本人は咲に惚れている。のだが、恋話に疎い晶ですら『脈が無い』と察する程、肝心の咲からは意識されていない。
「久我の神童」として持て囃されていたが、神霊使いの晶の弟に敗北し、それを切っ掛けに性格を強制するつもりが変な方向に拗れてしまう。
咲と一緒に派遣されたのも、咲が彼のブレーキ役として同行した為。
協調性皆無なので連携も乱す等、初期の頃は実力はあるが人間性が終わっていた。
当然晶の事も見下していたが、アリアドネ聖教の奸計を打ち砕く際に晶に全てを託す等、ほんの少しだが彼を認め始める。
その後、咲が自分等眼中に無かった事を察し、少しだけ大人になった。
- 帶刀 埜乃香(たてわきののか)
壁樹洲の上位華族、帶刀家の末席である少女。
諒太の側室として、わざわざ他州から珠門洲に呼び寄せたが、久我を盤石にしようとする諒太の父の思惑が、晶の存在によってご破産になっているのは知らない。
他州から嫁いできたが、あまりにも優秀過ぎた為、久我家で華族の出迎えを任されたりと、発言力が想定外に高くなってきている。
当の本人は夫を立てる様な淑やかな女性で、後ろから諒太を支えるブレーキ役。
諒太との関係は割と良い模様。
- ベネデッタ・カザリーニ
神の時代が終わりかけている大陸にて、数多の国の神を隷属させてきた一神教、アリアドネ聖教の聖女。
故郷である波国(ヴァンスイール)から、唯一神と崇めるアリアドネの名の下に、世界の龍脈の始点となる高天原を掌握する為に来訪。
様々な思惑が渦巻く中、個人的にも晶に興味を示し、和平という名の高天原の隷属を強いてくる。
実は神にとっての巫女に相当する人物で、王家の直系たる非常に重要な存在。
それ故に、敵地に赴く行為に咲は理解が追いつかず、万が一があればアリアドネ聖教にとって致命的となる。
呪術主体の本の神器による後衛、と思われていたが、真の力を解放すると褐色の肌となり、生命以外を対象とする絶対封印の力を行使してくる。
予定通り敗走した後、何食わぬ顔で正式に高天原に来訪し、招かれた奇鳳院家で「アリアドネ聖教の為、そして個人的にも晶を諦めるつもりは無い」事を遠回しに告げる等、かなりしたたか。
- 高天原
舞台となる国。
貨幣の単位は円・銭・厘。
五つの州からなる連合国家の様な島国で、神の血を引く「三宮の御杖代」が央洲を統治し、高天原の東西南北に分かれている洲を統治する「四院」、そしてその下に「八家」が仕え、それ以外にも華族(貴族)が存在。
各州には女神が存在し、四院の当主や次期当主となる女性が側仕えの巫女の様に付き添う。
神の真名は特別な存在しか口にできない為、神との関係が良好であっても不敬に値する。
神の存在が環境にすら影響を与えているが、精霊や神は通常なら人の世に直接干渉はせず、契約による制約等人を庇護するシステムが根付いている。
- 神無の御坐
人と神を繋ぎ止める存在。神の伴侶。
晶が迫害された原因でもあり、精霊を宿さない=精霊を必要とせずに一人で歩める存在、と言える。
神の真名を口にできる唯一の存在で、神の力をその身に降ろし、加護や寵愛を受けても自滅しない規格外の器。
八家の人間に稀に生まれてくる存在で、生まれてこなかった時代は、人為的に作られた代用品の様な存在、つまり神の血を引く家系、巫女等が繋ぎ止めている。
神からすれば、逢瀬するだけでも規格外な力を与える対価に相当し、その入れ込み具合は他の全てよりも優先される程。
口伝でのみ伝えられるが、特徴が精霊を宿していないぐらいしか無く、更に肝心の雨月家ではその事実が失伝していた事、そして他の州に流れた結果、最悪戦争になりかねない事態に発展する。
- 穢レ
本作における敵。
瘴気の塊で、存在自体が猛毒の呪詛の様な存在。
下位の「穢獣」は瘴気に汚染された生物だが、中位の「化生」になると生物の範疇から逸脱、上位の「怪異」になると倒しても蘇ってくる。
- 精霊器
霊鋼と呼ばれる金属を精製、鍛造して造られる武具の総称。
精霊の力、精霊力を流して精霊術の補助を行え、希少さと強力な性能から、基本個人での所有は認められていない。
ちなみに戦闘での破損や紛失は、割とよくあるんだとか。
文字通り神の力を宿す武器。より正確には、その神の象(領域)を鍛造した器物で、支配領域たる神域が形となった神にとっての半身に相当。
精霊器よりもはるかに強力な代物で、その神の権能を行使する。
晶は珠門洲の至宝たる神器、『寂炎雅燿』と『落陽柘榴』の二本の剣を与えられている。
- 氏子籤祇(うじこせんぎ)
簡単に言えば、その州(国)に属する事を示す戸籍登録。
神との簡易的な契約であり、引いた紙には精霊の位階や相性に基づく階級が示され、その土地に属する代わりに加護を受けられる呪術でもある。