概要
東方Projectに登場する八雲紫が『東方鈴奈庵』に登場した際の姿を描いた作品に用いられるタグ。
本作における紫の二つ名は「 幻想郷のゲートキーパー 」。
『鈴奈庵』では第四十三話に上記の二つ名や具体的なセリフ、活動などを伴って登場するが、前話にあたる第四十二話においてもその姿が描かれている。
また同作第一話においてもイメージカットながら紫と思しき人物のシルエットが描かれているほか、ファンの間では第三十五話において二ッ岩マミゾウが語る内容のイメージとともに描かれている「手袋をつけた右手」について、その周辺に描かれた長い髪や背景の模様、そしてマミゾウの想像する内容などから、これは紫なのではないか、ともされている。これは第四十七話の幻想郷創設についてのシーンに象徴的に登場する「手袋をつけた手」についても同様。
『鈴奈庵』作中シーン中において確実に紫であると思われるキャラクターの登場のある)、または明確に紫として登場のあるエピソードをもつ話は次の通り。
- 第四十二話 「人妖百物語 前編」
- 第四十三話 「人妖百物語 後編」
- 第四十八話 「本居小鈴の葛藤 前編」
- 第四十九話 「本居小鈴の葛藤 後編」
- 第五十一話 「博麗霊夢の誤算 後編」
- 第五十二話 「八雲紫の安寧 前編」
- 第五十三話 「八雲紫の安寧 後編」(『鈴奈庵』最終話)
この他第五十話にもイメージとして紫が描かれているシーンがワンカットある。
また第五十一話終盤での博麗神社屋根上での登場時は満月をバックにした紫がほぼ見開きで描かれているなど、『鈴奈庵』最終節に向けた巨大な存在感を示している。
そして『鈴奈庵』単行本最終巻である第七巻表紙は、この第五十一話にみられる満月をバックにした紫の全身像となっている。
紫については『鈴奈庵』第一話でも紫と思しきシルエットが登場しており(後述)、また作中では時折存在が仄めかされたり後半から最終盤にかけては本人も登場するなど、『鈴奈庵』各所でその様々な影や姿を見ることができる。
活動
とある夏の夜に博麗神社で開催された百物語に語り手として参加した。
順番は本イベント主催の小鈴、それに続いたマミゾウに次いだ三番目。
近年外の世界からやってきたマミゾウの語る怪談について紫は外の世界の話は幻想郷住人では理解できないとして、紫自身の「 実体験 」を語る。
紫曰く、「 最新の 」と銘打って語ったマミゾウの話自体も「 ちょっと古い 」。
紫は扇子を手に、いつもの飄々とした様子で「 みんなが共感する身近な話 」として話術の抑揚も豊かに怪談を披露し始めるのであった。
本イベントは実際には人間妖怪その他さまざまな種族が参加していたが、一部を除いた人間側には参加者はすべて人間であると認識されており、紫も妖怪とは認識されていない模様である。ただし本話中で紫は身体の角度を変えたり扇子を使うなどで露見しないようにではあるが人々の目の前で自身の能力を行使してもいる。
紫は本作では博麗神社だけではなく人間の里にも足を運んでおり、さらに『鈴奈庵』主人公にして一般の里の人間である本居小鈴にもその想いから個別に接触する(次述)など、活動の足跡こそ秘めやかなものではあるが『鈴奈庵』後半での紫は物語の深い部分に影響を及ぼしている。
本居小鈴との対話
先の百物語では小鈴と面識を持っていたことが後に語られており、再度小鈴と接触した際も小鈴は紫を覚えていた。紫と小鈴は鈴奈庵で二人だけで対話することとなる。
紫は小鈴に「 普通じゃない無いもの 」への憧れがあることを見抜いていた。
紫が小鈴に語りかけるところによれば、その憧れが高じていけば、「 妖怪退治の専門 」である博麗霊夢にとって強い処置に出ざるを得ない対象として見られてしまうほどの状況を生み出しかねない状態にあった。紫は小鈴の妖怪観を問い、さらに(小鈴はそのつながりをここまで紫に明らかにはしていないが)「 最近出会った妖怪達 」を思い返してみるよう促す。
小鈴は自身の見てきたものや人々の言葉を思い返して悩むものの、最終的には自分自身の体験と想いとで紫に率直に答える。そして紫はその回答が自らの目指すものに望ましいものであったこともあり、自らも妖怪であることを小鈴に明かした。
「 私は貴方を救いに来た 妖怪ですから 」
(紫、『鈴奈庵』。対比的に妖怪退治者としての霊夢の話題も受けて)
この後に紫が小鈴に何を語ったかは不明であるが、直後に小鈴はとある行動をおこし、それはやがて小鈴本人だけでなく霊夢や霧雨魔理沙をはじめ、マミゾウらも巻き込んだ一つの騒動へと進んでいくこととなる。そしてこの紫の暗躍と想いとが、『鈴奈庵』の最終エピソードへとつながっていくのである。
余談ながら、このときの鈴奈庵での小鈴との会話中、紫が相手と顔なども近い場所に位置しつつ、人差し指だけを伸ばした手を小鈴の額に当てたり顔の前にかざすシーンがあるが、これと同種のシーンは『東方茨歌仙』でもみられている。
小鈴の場合は紫からの小鈴が思考を巡らすことを促すようなシーンであるが、『茨歌仙』では同作主人公の茨木華扇が、やはり紫から同様のアクションを示されている。
『茨歌仙』で紫は、華扇と二人だけで対話している折、華扇が紫の言葉から得た紫(もしくは広く「妖怪」全体)の思惑への気づきを口にしようとしたところ、紫はそれを制するように華扇の口に人差し指を寄せたり眼前に顔を寄せつつ指を華扇の口元付近にかざしている。
こちらもまた「妖怪」が会話のテーマとなっており、おりしも二つの書籍作品の主人公たちは、いずれも紫と二人だけで相対し、共通した対話のテーマ中で、紫からの同種のアクションを受けている。
両者の違いは、先述のように華扇の方は制するようなアクションで小鈴の方は物事を思い出すように促すアクションであること、紫の手が逆(『茨歌仙』では左手、『鈴奈庵』では右手をそれぞれかざす)であること、『鈴奈庵』では紫が手袋を着用していることなどの点。指をかざす位置も華扇には口元、小鈴には額付近と違いがある。
ただし手の違いについては、元々『茨歌仙』で当該のシーンの時間での紫は左手を動かすことが多く、『鈴奈庵』での当該シーンの紫は扇を手にした右手に表情がより多いというそれぞれの個性もまたある。
衣装
紫は東方Project各作品において複数の服装で登場しており、多数の衣装バリエーションをもつキャラクターである。初登場の『東方妖々夢』でのデザイン以降で大きな違いのある衣装としては『東方萃夢想』や『東方永夜抄』などでの白いフリルドレスの上に道士服風の前掛けを身に着けたコーディネートなどがある。
それぞれの衣装については「八雲紫」記事の「容姿」の各項目も参照。
紫は衣装に限らずその「姿」そのものについても時代に合わせて変化させている様子であることが稗田阿求によって語られており、その記録は御阿礼の子のはじまりである稗田阿一にまで遡ることができるという。
『鈴奈庵』における紫もまた、例えば後述の第四十三話時など人々の前に姿を見せる際には季節感とイベントの趣旨とにあわせたコーディネートで登場しており、紫の、各々のシーンを感じ取り、表現するセンスが描かれるものとなっている。
本作での紫全体に共通するものとして、概ね正面に大きな赤いリボンを結んだ帽子を着用していること、手に扇を持っていることが多いことなどがある。また豊かな金髪とその先の方を赤いリボンで留めていることは他作品でも見られる要素であるが、一方で本作での紫に特徴的なものとして瞳の色もまた金色であることが挙げられる。
服装
- 第四十三話(第四十二話)・浴衣
第四十三話では夏場のイベントともあって浴衣で登場している。
漫画作中と『鈴奈庵』第六巻単行本設定資料集及びカラー背表紙などで模様の位置などのデザインが異なっており、本編中では模様の花柄は左胸元や両袖、左足前方向、臀部側面などに見られるが、設定資料集では全体にちりばめられたものが描かれている。
帯はいずれも無地か。
カラーは『鈴奈庵』単行本第六巻裏表紙によれば、薄い青色から空色、水色といった薄い青系統のカラーの地にオレンジ色・橙色といった赤と黄色の混ざったカラーの模様といった構成。
通常版では手袋をつけていない右手も描かれている。
帽子は他の紫の服装デザインでも見られるような、正面に大きな赤いリボンのついた縁の全周にフリルがあしらわれたものと同じもの。
四十三話時点ではそれ以前のものを含めいずれもストーリーの展開の都合上足元が描かれることがなく、四十三話においても紫は浴衣姿で正座しているため、その詳細は不明である。設定資料集でもその足先は開かれた境界の向こう側に下ろされているために見ることができないデザインとなっている。
本作では首にリボンなどのアクセサリはなく、手袋も身に着けていない。
夜であるためか日傘も所持していない。
扇子は手にしており、シーンにあわせて開いたり閉じたりする。
この他『鈴奈庵』第六巻単行本裏表紙(ハード部分)にもこの浴衣姿の紫が描かれている。
境界の上に座るような様子であるなど設定資料集とシーンは類似しているが、バストアップの方向や扇子の持ち手、ウインクの際の閉じた目などが異なるため、そのデフォルメ性と合わさってまた異なる「鈴奈庵紫」のイメージを見ることができるものとなっている。
なお、pixivに発表された作品では上記のカラーパターンが公開される前から漫画版本編でのモノクロの様子からそのカラーを想像する試みもなされている。カラー発表前から様々な可能性を考察する試みは東方Projectの書籍作品の他のキャラクターでも多数なされており、『鈴奈庵』での紫についてもまたファンの間でもそれぞれごとの多様な可能性が展開されている。
- 第四十三話・就寝時
同話において紫が語った内容のイメージにあわせ、就寝時のものと思われる紫の様子も描かれている。
この話の内容については「 ついさっき 」のこととしているため、夏場の装いとも見ることができる。
ただし妖怪として紫が寒暖の影響をどの程度感じるかなどは不明。
寝間着と思われる比較的ゆったりとした装いで、こちらでは肩と襟元にフリルがあり、襟元正面にはさらにボタンがついている。袖は長袖で、腕袖口にもボタンの留めがある。
また就寝時でも上記のようなものと同様の帽子を身に着けているなど、この帽子はその見た目そのままにナイトキャップとしての機能もある様子である。
一方でワンシーンのみ、帽子をつけていない紫のそのままの頭や髪を見ることのできる貴重なカットもある。
同シーンではさらに枕や掛布団、頭の上のベッドに見られるような柵状のものといった紫の就寝環境の一部を見ることも出来る他、イメージ的なものながら紫の語る「 天井の照明 」といった紫のプライベートな生活環境の一部を垣間見ることも出来る。
- 第四十八話以降
第四十八話以降は先述の『萃夢想』や『永夜抄』でのコーディネイトであるフリルドレスと道士風前掛けという服装で登場する。
この内、特に襟元の留めの意匠の他、前掛けの前後を留める腰付近のベルト様のデザイン、腕のふくらみをつくる二本のベルト様のデザインなどが本作では特徴的。
大きなリボンが前面に飾られた帽子もいつも通り。
これに手袋をはめ、パンプス様の靴を履く。ソックスにあたるものは足首付近に重ねが生まれている。
また、手袋の上から扇を手にする。紫はこの扇を使用して、着席して相対している小鈴の目の前で境界を開き、例の「目」が満ちる向こう側の空間を覗かせている。
こちらの全身像は足を組んだ着席状態のものではあるがその姿について第四十八話最終コマや第四十九話扉絵などに描かれている。
『鈴奈庵』での紫は各シーンでほぼ着席した状態や腰を下ろした状態で登場しており、明確に立った状態の様子が描かれているのはイメージカットなどを除けば最終話のみである。
この二種類の状態の他に「座った」状態とも「浮いた」状態ともとれる姿も描かれており、それが先述の『鈴奈庵』単行本第七巻表紙に見られている。
この表紙のカラーデザインからは先述の腕や腰のベルト様のデザインが『永夜抄』等と同様の赤系統のカラーであることや首元の紐の留めの意匠が前掛けの外郭部分などと同様の黒色であることなども見ることができる。足元はスカートの影がかかっているので正確なところは不明であるが、靴のカラーはおそらくは黒から藍色を含む濃い青色付近のカラーか。
またこの際の基本的な姿勢や右手の様子などは口元が閉じている様子などを除いて第五十一話の見開きのカットと同種のものともなっている。
髪型等
明確に本人の登場がある第四十三話ではその豊かな金色の髪を『萃夢想』などで見られるような帽子の中に後ろ髪をまとめて収めたスタイルで登場している。
『妖々夢』や『東方香霖堂』などでのドレスやワンピース時のような下ろした状態ではない。
また紫が長い髪先をまとめる際に多用することの多い赤いリボンについては、本編中では確認できないが設定資料集のデザインでは側頭部に流す横髪などの先にリボンで結んでいる。
第四十八話以降の姿では後ろ髪をアップにして帽子の中に納めることなくそのままおろしている。また後ろ髪についてはリボンでまとめるなどの様子は見られていない(第四十九話着席状態での後姿及び第五十一話)。後ろ髪をおろしたことで、特に屋外では豊かな髪が風にそよいで流れる様子も描かれている。
側頭部分の髪やその留め方は第四十三話とも同種のもの。
瞳の色は、先述の通り髪色と同系統の金色。
この本作の紫に見る、他キャラクターとはまた違った春河もえによる独特で神秘的な瞳の描き方は、第四十八話周辺に実際時間的に近接したデザインを見る範囲では紫の他には八意永琳(『東方深秘録』)などにもみられている。
多くの場面で扇をいずれか片方の手に所持しており、開いたり閉じたり境界を開く媒介にしたりとシーンや表現によって様々に活用する。
一方で、他作品で見られるような日傘は本作では所持していない。
四十三話での存在位置
『鈴奈庵』四十二話及び四十三話では百物語を語る舞台となった櫓の俯瞰のカットが複数回描かれているが、紫の着席している位置ははっきり描かれていない。
仮に紫が「最初から最後まで櫓の上で参加していた」と仮定した場合、紫が着席し得る空間としては四十二話のカットでは東風谷早苗の右隣に描写されてないスペースがあるが、続く四十三話にて紫が話し始めて以降の周辺の人物たちの目線などからするとマミゾウ(四隅の一角)の横いずれか方向にして小鈴や阿求の正面方向、あるいは博麗霊夢や霧雨魔理沙、魔理沙と小鈴の間に着席する濃色の服の少女等との関係性から、この描かれていなスペースではなく西行寺幽々子や魂魄妖夢らの着席する場所の付近に座って話をしていた可能性がある。
さらにこのスペースは第四十三話でも俯瞰の様子が描かれているが、紫はここに描かれていない。
その後のカットでも紫の姿は確認できない。
幽々子や妖夢は『鈴奈庵』では設定資料集でも紫とともに描かれているなど『妖々夢』、または『妖々夢』以前からの紫や幽々子などの縁について本作でも感じられるものとなっている。
紫が話している間を除いて俯瞰のカットでは紫がこの櫓の上で他キャラクターと共に描かれている様子が見られないことから、紫は「最初から最後まで櫓の上で参加していた」のではなく話に参加するタイミングだけどこからともなく現れ、さも最初から参加していたかの如く話し始めたのかもしれない。
ただし個別のカットでは先述のように四十二話でも紫と思しきシルエットが見られているので、自身の出番前からどこかで、何らかの方法でこのイベントに紫なりのスタイルで参加していたことは確かな様子である。
百物語は怪異を呼び込むとされ、霊夢などもこれを警戒していたが、イベントでは実際に紫という「 妖怪らしい妖怪 」(※1)が参加した。
おしゃべりが好きという幻想郷のゲートキーパーは、自然に静かに人の輪に交わり語り、そして満足そうな、晴れやかな笑顔を残していつの間にか消えていたのかもしれない。
※1:阿求評、「幻想郷縁起」、『東方求聞史紀』。または十六夜咲夜評、『東方外來韋編』。
両者ともこの百物語イベントにも参加している。
なお、始終自身のペースで周囲に不思議をもたらした紫であったが、その一方で『鈴奈庵』第六巻特装版カバー裏表紙では通常版裏表紙及び『鈴奈庵』本編中とはまた異なる表情も描かれており、紫の、旧知の人物の意外な一面に対する反応を見ることができる。
その他の機会
- 第一話
魔理沙が妖魔本の種類を語る際のイメージ的なカットであるが、筆を手に書き物をする紫と思しきシルエットが描かれている。
この際の服装は『萃夢想』などで見られる服装。畳などの上に直接座っているのか、椅子に座っているのかなどの詳細部分は不明。
机の傍らでは香を焚いている。
その斜め後ろには八雲藍と思しきシルエットがあり、さらにその藍の周辺は揺らめく香の煙とともに八匹の蝶が舞っている。
- 第三十五話
マミゾウが語る、人間の間の都市伝説や噂の流行とそれを利用した妖怪たちの活発な活動を是とし、あるいはその発端を生み出した可能性すら想像される「 孤高の妖怪 」のシーンについて、ファンの間では先述のようにそれは紫ではないかとも想像されている。
実際に紫は当時最近の騒動である『東方深秘録』(深秘異変)で最大限顕在化した都市伝説の怪異、そしてその由来ともなった『東方紺珠伝』での月騒動について例えば『東方緋想天』の時の博麗神社倒壊の騒動の際のような直接介入を行っている様子が全く見られていない(2016年12月現在)。
むしろ紫はそれらによってもたらされるであろう「 変化 」が幻想郷をさらに変えていくことを肯定してるなど、マミゾウの想像する「 活性化 」を望んでいると思しき「何者か」のメンタリティとも近似する。
紫は『東方茨歌仙』では幻想郷の生態系などの基本的な要素を傷めない(例えば外来種の侵入防止)外の世界との交流(例えば宇佐見菫子関連)ならばそれでさえ肯定する様子も見せている。
その信念に基づいて密かに行動する紫の様子などは『萃夢想』の他『東方儚月抄』(第二次月面戦争)や『茨歌仙』(ホフゴブリン関連や菫子への対処等)でも語られており、暗躍にも長けている。
マミゾウはその存在が人知れずもたらす影響力に背筋を冷やしているが、後には先述のようにそういった影響を生み出すことのできる紫と百物語イベントで実際に相対することともなったのである。
なお、『鈴奈庵』では人間の里をめぐる妖怪たちのパワーバランスの在り方などが描かれているが、紫もまた人間の里に対して監視者を置くなどしている(『茨歌仙』)。
「八雲紫の安寧」
先述のように、『鈴奈庵』における紫の暗躍は本作最終節に結ばれていくものである。
紫は小鈴の動向を鑑み、独自の行動を起こすわけであるが、これは小鈴だけでなく霊夢や魔理沙らの動きも含めつつ、さらに広くそういった面々の未来をも視野に納めたものであった様子で、本作中の紫のスタンスについてはZUNもまた『鈴奈庵』単行本第7巻あとがきでそれとなく語っている。
特に小鈴に対する一計には霊夢のこれまでの妖怪退治の歩み方を大いに計算に入れており、紫のプランは一連の動向に中心的に関わる小鈴らしさ、霊夢らしさ、そして霊夢周辺の今の在り方の各方面に眼差しを向けるものでもあった。
紫は『鈴奈庵』の最終盤周辺に近接した時間(同作最終盤よりは前の時間にあたる)である「文々春新報」(『東方文果真報』)の取材において霊夢の在り方について否定も肯定もしておらず、特に霊夢の性格もあって博麗神社に顔を出すようになる妖怪の集まりについて否定していない。『鈴奈庵』でも同様に霊夢のスタイルを否定していない。『東方香霖堂』などでの霊夢によれば結界をむやみに操作するような紫の望ましくない行動があれば紫は介入を行ってくるとしており、このことから『鈴奈庵』などでの行間部分には霊夢のスタイルに対する紫の黙認的なあるいは静かな肯定の姿勢を見ることも出来る。
「文々春新報」では取材者である射命丸文に多くを語ることはなかったが、その後の物語である『鈴奈庵』のエピソードにおいて紫は霊夢の性格を見たうえでそれに沿う形で事を成そうとしているなど、霊夢に対する包容的で、かつそれを把握しての上手を往く接し方が見られている。
『鈴奈庵』での紫の二つ名は「幻想郷のゲートキーパー」であり、紫が語る霊夢は、そんな紫が守る幻想郷の境界の内部の力学である「 人間と妖怪 」という二つの大きな存在の「 バランサー 」である。
『鈴奈庵』では、しかしそんな「 バランサー 」が、本人の自然なスタイルの故に特定の事象について手が届かなくなってしまい、やがては誰彼にも大きな不幸をもたらしかねないとみた全てを俯瞰する「ゲートキーパー」が、自らの思う安寧をもたらすべく動き出すのである。