概要
鬼切り夜鳥子とは、ゲームデザイナーの桝田省治初のライトノベル作品。ファミ通文庫から全五巻が発売されている。挿絵は俺屍シリーズでお馴染みの佐嶋真実。
作品ができるまで
桝田省治の事務所に俺屍小説版等の執筆経験のある海法紀光が遊びに行った時、この作品の企画書を見つけ、小説にしてみたいと言ったのが事の発端である。
桝田氏は海法氏に執筆を依頼するが、第1章まで書いたところで海法氏が体調不良で寝込んでしまい、続きが送られなくなってしまう。
そこで桝田氏は、自ら執筆することにした。
これが氏の小説家としての活動の始まりである。
ストーリー
陸上部所属の活発な女子高生桂木駒子と久遠久は幼馴染。
ある日久遠は学校で化け物に襲われる。その窮地を救ったのが、全身に刺青をまとい、式神を自在に操る駒子だった。
「儂か?儂はヌエコ。鬼切りの夜鳥子だ」
祖先の陰陽師である夜鳥子の霊が取り付いた駒子は、現代に蘇った鬼五体を討伐することを久遠に告げる。
駒子、久遠、とろいが頭はキレる巨乳の委員長三ツ橋初美、お調子者の荒木乱雅の四人と、駒子に取りついた夜鳥子は、現代に蘇った鬼退治への戦いに身を投ずることになる。
登場人物
桂木駒子(かつらぎ こまこ)
主人公。ポニーテールの似合う活発な私立高校2年生。
部活は陸上部で400メートルハードル走の県の記録保持者。1巻で校舎が新設される際、重ね塚と呼ばれる結界で封印されていた鬼がでてきたので、先祖の陰陽師の夜鳥子の幽霊に取り付かれ、持ち前の正義感から鬼切りを手伝うはめになる。
久遠の事が好きで彼の事を「Q」とよんでいる。
身体には夜鳥子が使用していた式神を継承し、その為式神の刺青が浮き出ている。
夜鳥子に取りつかれているため、夜鳥子と駒子の意識は一つの体に同居している形になる。鬼切りの際と、主人格が夜鳥子に変わる際はポニーテールを解き、(挿絵では)目の色が赤くなる。
そして(式神を使うせいでセーラー服が破れるため)素っ裸になることが多い。
でも上半身だけではなく下半身まですっぽんぽんになる必要なくね?……とか言ってはいけない
久遠久(くどうひさし)
駒子の幼馴染。あだ名は「Q」。祖父は寺の住職で後述の荒木の名付け親。
身長は180センチで成績は上位、なかなかのイケメンで性格もいいらしい。
家族ぐるみの付き合いがある駒子とは相思相愛である。が、(駒子の鈍さや彼の煮え切らない性格のせいで)なかなか恋人に発展しない。
実は夜鳥子の恋人であった求道の生まれ変わり。
現代より100年後に目覚めるはずだったが、夜鳥子が封印していた塚が壊れて鬼が出てきたため、無理やり半覚醒した。四巻以降、彼にも駒子同様求道の精神が同居する。
三ツ橋初美(みつはし はつみ)
駒子の親友で同じクラス。巨乳で眼鏡をかけたショートヘアのクラス委員長。
視力は2.0なのに、二巻の京都修学旅行編頃から(荒木乱雅等の男子受けを狙ったのか)伊達眼鏡を常時着用する。
音楽と体育以外の成績は入学以来学年トップ。東大や京大といった難関大学を狙える程。その頭脳を生かして駒子達の窮地を救ったりする。
生き物が好きで、妖怪だとしても好きという変わり者だが、男子は苦手。喋るのがのろいが、怒ると怖いらしく、男子には人気がある。実家はお好み焼き屋で弟が3人いる。
二巻の修学旅行で、昔鴨川にかかっていたあの世とこの世を結ぶ三つの橋を代々鎮護していたのが「三ツ橋」家。つまり彼女の先祖だとわかる。
駒子とは中学が別で高校で知り合った。当初は挨拶をする程度の仲だが、第一巻で鬼に憑かれ、それを救ってくれた駒子と鬼を斬る手伝いをする縁から仲がよくなった。最終巻ではあらゆるものの魂と肉体を蘇らせることが出来る禍ツ星を受胎することになり、出産する。
荒木乱雅(あらきらんが)
童顔でお調子者。クラスのムードメーカー。語尾にプリーズをよくつける。駒子の従姉の陽に惚れている。
ちなみに「らんが」と名をつけたのは、住職だった久遠の祖父(現在は鬼籍の模様)。
二巻の京都修学旅行編にて、人間ではない高次の存在に守護されていることが分かる。(どうやら京都の五山送り火に関係しているらしいが、詳細は不明)
夜鳥子曰く「持って生まれた無比の強運の持ち主」。だが本人はそんな天運に気付いていない。
夜鳥子(ぬえこ)
平安時代後期に生まれた葛城一族の娘。
血縁上は安倍晴明の孫であり、(二巻で判明。後述の胡蝶の項を参照)その類まれなる彼女の力を葛城家の懐刀として当時の一族は利用することにし、彼女の体に御せなかった鬼等を封じていた模様。(三巻他の夜鳥子の台詞より)
「眠り姫」なる封印術にて数百年眠っていたが、源平の乱前後に目覚めた模様。
もう一度眠り姫になる覚悟をしていたが、眠り姫を行える術者がもういないため、その時代を生きていくことになる。
式神の種類(物語の登場時より)
・右手のシオマネキの潮丸
・大腸に巣くう百足の百爺
・両胸の赤唐獅子青獅子の玉と虎
・背中の大蜘蛛の足の阿修羅(アスラ)(夜鳥子曰く、最強の式神。故に通常四本までしかだせず、五本以上を出そうとすると自我が食われてしまう)
・両太ももの双頭の大蛇の虚・襤褸
・頭部の烏の八咫
・舌の蛭の式神昼子
を所有していたが、後に毒蛾を舞から継承し左手に宿し、クラゲを鬼である水虎から退治した後に手に入れており、それぞれ名前をつけている。
式神は他者への肉体的接触による譲渡が可能で、「玉・虎」は三ツ橋へ、水虎は雪虎と名を変え、三ツ橋を介し久遠へ渡った。体の刺青は全て式神が宿っているため、他者へ式が移ると体の刺青も消える。
式の強さは刺青の大きさに比例する。
ということは巨乳の三ツ橋の「玉・虎」の威力は……
本当は鬼となった人を斬るのが嫌で、(だが、鬼を斬るのは大好き。「特に命乞いする鬼を嬲るのは最高!」by夜鳥子の台詞より)斬った際はひっそりと泣く繊細さを持っているが、人前ではその様なそぶりは見せず葛城に生まれた宿命として受け入れている。
源氏の追っ手に追われている際に求道と知り合い、彼に惹かれていく。
源氏によって夜鳥子をおびき寄せるために江刺の葛城一族が捕らわれてしまい、夜鳥子は皆を救出する際、赤ん坊である「駒子」を葛城一族から託される。そして夜鳥子は「駒子」を守るため命を落とす。
後にこの赤ん坊が成長して主人公の桂木駒子の先祖になる。
最終巻では、あらゆるものの魂と肉体を蘇らせる事が出来る禍ツ星の依り代として使用された水子を救うため求道とともに赤ん坊に宿り、昔なじみの夫婦(お辰と八郎)に貰われていく。
求道(くどう)
夜鳥子の恋人で鞍馬寺の退魔士。師である虚空坊の命で、十二匹の鬼を斬る事と、鞍馬寺から出家する源義経のために夜鳥子の盗んだ膝丸、鬼切の二刀を奪還する命を受けている。
性格はお調子者で楽観的。夜鳥子に会った際一目ぼれをしている。坊主の端くれなので医療の心得があり、薬草の取り扱いができる。
父と母と妹がいたが、母と妹は鬼に取り憑かれ父親を食ってしまう。その後京都の鞍馬寺の僧によって母と妹は殺され、自身も鞍馬寺に退魔士見習いとして拾われる。このような過去から鬼を斬るのに抵抗があり、鬼を斬らずに封ずる方法を模索する。右手には「日輪ノ印」の刺青、左手には「魔王ノ印」と呼ばれる刺青があり、「日輪ノ印」は鬼に取りつかれた人の身体から鬼を追い出すための印だったが、物語の途中で右手の平に傷を負ったため使用不能に。代わりに同じ模様の書かれた板数枚を使って鬼を人から追い出す「日輪ノ陣」を開発。
左手には「魔王ノ印」が彫られている。能力の詳細は不明だが、鬼化しそうになった夜鳥子を救うためこの印を使用。夜鳥子は助かったが、代わりに求道は数十年老化してしまった。
ちなみに、「俺屍2」のラスボスも左手で同様の術を使う……(こちらは土属性の大技だが)
(虚空坊から転生の秘訣を教わったのか)800年間転生し、夜鳥子が生き返る方法を探している。
最終話で禍ツ星の依り代として使用された水子を救うため、夜鳥子とともに赤ん坊に宿り、昔なじみの夫婦(お辰と八郎)に貰われていく。
口癖は「大丈夫か?」「大丈夫だから!」。これは生まれ変わりの久遠にも受け継がれている。
貴人(たかひと)
安倍晴明の式神で、正体は九尾の狐。本来は晴明の式神「十二天将」の主神なのだが、夜鳥子に色々ひどい目にあわされ、時には彼女のミスの尻拭いまでさせられている。かなり強い式神なのに・・・
1000年以上生きており、現代では京都の晴明神社に住んでいる。いろんな人間に変身することができ、時に夜鳥子や駒子に辛口の忠告をしながらも、(渋々ながら)主に情報面で鬼切りの手伝いをしている。
虚空坊(こくうぼう)
求道の師匠。現代では鞍馬寺に住んでいる。
(詳細は不明だが)転生能力を持っており、元は人間だが、転生するたびに記憶も戻り、記憶が戻った際は国外の人間に転生していても日本に帰巣本能が起こってしまうという。今まで女性の天狗はいなく、生殖能力があるのかは不明。1600年ほど転生をしているとのこと。
因みに俺の屍を越えてゆけシリーズで神として登場している虚空坊岩鼻と彼は同一人物。
詳細はリンク先を参照。
舞(まい)
江刺の葛城一族の娘で、母親の形見の毒蛾の式神「丹」を体に宿している。京都弁を話す。
父と母は、夜鳥子が眠り姫から目覚めたとき阿修羅(大蜘蛛の足)が暴走し殺されている。
この事から夜鳥子に恨みを持っており、江刺から暫く夜鳥子と同行していたが、ある時その恨みを源氏の追手に付け込まれ、夜鳥子と対決。自我を式神に乗っ取られかけていたところを同じく暴走した夜鳥子に殺され死亡。
式神の「丹」は彼女の名前である「舞」と名付けられ、死後夜鳥子の左手に宿る。
胡蝶(蜜虫)
安倍晴明の伴侶であった優れた陰陽師。蜜虫とは蝶のこと。すなわち胡蝶のもう一つの名。今作のラスボス。
二巻で夜鳥子が語ったところによると、
晴明は胡蝶が亡くなった後、彼女の陰陽師としての才を惜しみ、葛城一族の女を依代にしあの世から呼び戻した。(この身体が蜜虫)
その後、二人の間に男児が授かる。それが夜鳥子の父。この男児は源氏の手から守るため葛城家に養子に出され、そして夜鳥子が誕生。(母の詳細は不明)
しかし年月が過ぎ、胡蝶の霊を蜜虫は制御できなくなり、やがて胡蝶は悪鬼と化す。
夜鳥子の父をはじめとする葛城家の者が何人もやられたが、胡蝶を封ずる事に成功。(余談だが、生前の胡蝶は夜鳥子に性格や容姿もそっくりだったという)
だが現代にて復活。二巻で葛城の血を引く者達を何人も依代にした「人蟲」を造り京都を混乱に陥れる。人蟲が夜鳥子によって斬られ、駒子の従妹で舞妓見習いの「陽」(ひなた)に取りついていたことが判明。
一度は夜鳥子の活躍により陽の身体から退治されるが、四巻で再び陽に取りつき再登場。
あらゆる肉体と魂を蘇らせることが出来る禍ツ星ノ御子を受胎した三ツ橋を狙い、自らの完全復活を目論む。
夜鳥子のアスラ同様巨大な蜘蛛の足を式神として召喚。その足は赤く、胡蝶は「曼珠沙華」と呼んでいる。
用語
膝丸、鬼切(髭切)
かつて有名な鬼を切ったとされる刀。詳細はリンク先へ。
眠り姫
詳細は不明。だが作中の描写から封印術の一種だと推察できる。「鬼切り」と並ぶ夜鳥子のもう一つの通り名でもある。
左一文字、右一文字
十和田湖の刀匠、だんびら八郎により膝丸と鬼切に似せて作られた刀で、人間を斬ることはできず、鬼のみを斬ることができる。
俺の屍を越えてゆけとの関係
鬼切り夜鳥子は、もともと俺屍の続編用に考えていた設定を入れた小説であり、夜鳥子の生きていた平安時代後期が舞台の三巻は「そのまま1の一族の後日談として読める」(桝田氏のTwitterより)とのこと。
作中で葛城一族がかつて異形のものと交わっていた事、(三巻で一族が「花乱火」の併せを使っている)酒呑童子を斬った功を源頼光に譲ったこと、など「俺屍」との繋がりを示唆する文が所々散りばめられている。三巻から約五十年前の俺屍2に出てくる夜鳥子は設定が所々違うが、ほぼ同一人物らしい。
しかし、これはあくまで桝田氏の考えた「一族」の設定であり、葛城一族は俺屍プレイヤーには無関係である。(氏の発言にも似たような趣旨のがある)
個々の一族史を紡げるのが俺屍の売りであるのに、決まった一族を公式側が押し付けるのは全くナンセンスである。従って、この作品は俺屍のパラレルワールド的存在と捉えるのがいいだろう。