悪の天才少年ビーティー!
妖しく華麗な戦慄がはしる!
概要
荒木飛呂彦が初めて本格的に連載した漫画作品。全5エピソード、単行本全1巻。他、連載前に掲載された読み切り版が荒木飛呂彦短編集「ゴージャス★アイリン」に収録されている。
西尾維新・出水ぽすかによるスピンオフ『魔老紳士ビーティー』、羊山十一郎・雀村アオ・松谷祐汰によるリブート版も存在する(後述)。
麦刈公一という1人の少年の視点から、彼の奇妙な友人・ビーティーの巻き起こした(或いは公一共々巻き込まれた)様々な事件を紐解いてゆく。
主要な登場人物
ビーティー
本作の主人公。ビーティーとは彼のイニシャル「B.T.」からつけられた仮称で、本名は明かされていない。読み切り版の公一の弁によれば、年齢は12歳。
成長期前なのか、小柄で体格的に恵まれている方ではないらしく、エピソード中「チビ」と罵られる事も少なくない。しかし鋭い頭脳と器用な指先に、上級生や大人を敵に回しても怯む事の無い豪胆さ、そして自らの行動に罪悪感を一切感じない悪魔的精神を併せ持つ、大胆不敵な少年である。劇中で敵対した相手は、トリックや口車で翻弄し、彼の言う「然るべき報い」へ追い込む。時折、自分の耳を撫でる癖があり、公一いわくこの時は「気兼ねや良心といったものがまるでない考えをしている時」だとの事。
連載版初回の「サマーキャンプ事件」の時点では、公一が通う学校へ転校したばかりだった。キャンプ中のとある出来事をきっかけに、公一と親しくなる。
手品を嗜んでいる。公一との初対面時は、彼をからかうようにピンポン玉を口から複数吐き出すマジックを披露した。読み切り版でファーストフード店に入っていた時も、コインとハンカチを用いたマジックを公一にお披露目している。
化石や標本を蒐集しており、恐竜の化石を展示中のデパートから盗み出そうとするエピソードもある。また、自室の壁や棚にはそれらのコレクションがずらりと並んでおり、他に人形や仮面、鍵やミニチュアのギロチンなども飾られている。
事件のさなかで敵が公一に危害を及ぼした時は、語気を荒げて非難する様を見せる一方で、自分にとって無関心だったり無関係な人物だったら、どうなろうが構わないと考えている節がある。読み切り版でも、想いを寄せる人に殺人の容疑が掛かっている事に関し、「(無罪の証拠が無かったら)でっちあげるさ。どっかのだれかを、むりやり身代わりの犯人にしてやる」と、言い放っている。また、争いを制した後に「慰謝料」と謳って相手から金品を抜き取ったり、泥棒の相方として公一を強引に計画へ巻き込もうとするなど、インモラルな側面も劇中幾度となく描かれている。
先述の短編集の空きページに、リアル調に描き下ろされたビーティーのイラストが掲載されている。それは、後年発表され1億部を超える世界的な作品となった『ジョジョの奇妙な冒険』にて、作中屈指の悪役として知られる事となるディオ・ブランドーと酷似したものとなっている。
カラー掲載時の髪の色は定まっておらず、改版の度に変わっている。「週刊少年ジャンプ」本誌掲載時や1984年発売の単行本では明るめの茶色だったが、2000年に発売された集英社文庫版表紙では紫、2004年発売のコンビニコミック『魔少年ビーティー 対 バオー来訪者』の表紙に描き下ろされた絵ではピンクになっている。
麦刈公一
(画像左)
本作の語り部を務める平凡な少年で、ビーティーの学友。作中怯えたり泣き出す場面が多いものの、転入して間もないビーティーがリンチを受けている時は単身助けようとする優しさを見せる。
行く先々で事件の巻き添えになるなど、度々痛い目にも遭っているが、ビーティーの智謀により窮地から救われる事も多く、彼のことは1人の友人として大切に思っている。物語の節々では、「親友」と言ってもいる。
ルックス・性格・語り部ポジション・名前の読み方など、数多くの共通点がある為、後年の『ジョジョの奇妙な冒険』第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する広瀬康一のモデルは彼なのでは、と推測する声も上がっている。
おばあちゃん
海外に居るため家を留守にしているらしい両親に代わり、ビーティーの世話をしている老婆。
ビーティーすらも彼女の素性のすべてを把握していないという謎の多い女性。きな臭い組織とも関わりがある様子。また、ビーティーのイタズラを咎めるどころか、寧ろ奨励しているような素振りも見せている。
自身の目的のために、ビーティーのイタズラをも利用する一面を有しているが、同時に孫としてビーティーを愛している様子で、劇中では優しくハグしている。
黒メガネをかけており、その眼差しは劇中では明らかになっていない。
各エピソードのゲストキャラクター
読み切り版「有罪くずし事件の巻」
- コイン勝負を仕掛けた学生
ビーティーに賭けで勝負を挑む。冒頭僅か4ページのみのやり取りだが、その顛末はビーティーが如何なる少年であるかを読者の心へ鮮烈に刻み込む。
- 中川冬子
ビーティーが密かにあこがれている年上(15歳)の学生。公一いわく、完璧な魅力を備えたミステリアスな少女。後述のルポ・ライター殺害の容疑をかけられる。
- ルポ・ライター
顎ひげを生やした人物。中川冬子の財布を拾い、回収に来るよう彼女を自宅へ呼び出した。財布に入っていた学生証の写真を見て下心を抱き、訪れた冬子をそのまま手籠めにしようとするも、抵抗されハサミで背中を刺される。
- 公一の叔父
ルポ・ライター殺害事件の現場に出向いていた、警察(サツ)回りの新聞記者。ビーティーに取材した情報を流す。
- 刑事
事件を担当した刑事。冬子の尋問を行った。その際に用意されたコーヒーは下品に飲んでいた。
第1話「サマーキャンプ事件の巻」
- 黒山
サマーキャンプに参加した乱暴者の生徒。嘘の情報で他の生徒を泣かせたり、仲間の赤川に対しても水着の中に羽根をむしったトンボを入れるなど、他者への嫌がらせを好んで行う。女子達にちやほやされるビーティーに嫉妬し、因縁をつけて薪運びを押し付けようとするが、毅然と断ったビーティーを赤川と2人がかりで暴行する。
- 赤川
眼鏡をかけており、黒山とつるんでいる。しかし雑用を強いられたり、上述のようなイタズラに遭うなど、対等の関係性というわけではないらしい。
第2話「イタズラ死体事件の巻」
- 伊達
ビーティーと公一が通う学校の生徒会長であり、剣道部の主将。実家は寺で資産家。成績優秀で周りからの信頼も厚い。美貌、楽才、ユーモアを備えた、絵に描いたようにオールマイティな人物だが、人格に難があるらしく、部活中のビーティーへ通りすがりに侮辱的な言葉を浴びせる。辱めに遭わせたのはこれが初めてではないようで、怒りが収まらないビーティーはそばにいた公一に伊達との過去の因縁を吐露する。
- 二の森
剣道部の部員で、ビーティーと公一の上級生。彼も伊達を快く思っておらず、ビーティーの話に乗って伊達への制裁計画に加担する。
- 兵頭天妃子
ビーティーが想いを寄せている上級生の美少女。伊達と親しく、ビーティーはこの事からも伊達に恨みを募らせていた。
第3話「おじさんX事件の巻」
- おじさん
ビーティーと公一が、山奥の湖にて出会った中年の男。最初はにこやかに接近するが、少年達に付き添いの者がいないと知るや態度を豹変させ、コートの下に着込んだナチス風軍服を露わにする。そして自らを「強制捕虜収容所の所長」と名乗り、ビーティー達を「捕虜」として拘束する。
本人いわく、素性は普通の会社員で妻子ある身との事だが、時々人気の無いこの場所に来ては、サディストの軍人になり切って、犬猫相手に「遊んで」いたらしい。偶然見つけたビーティーと公一を、今回の遊び相手としたが……。
- 曹長
おじさんに付き従う、大柄な男。乱杭歯で、知性をあまり感じさせない顔立ちをしている。彼もまた軍服に身を包んでおり、おじさんから「曹長」と呼ばれていた。ビーティー達の自転車を分解して退路を断った後に、おじさんの命令に従って二人をロープで縛り上げた。
第4話「恐竜化石泥棒事件の巻」
- 西戸
恐竜化石展を開催していた、とあるデパートの警備員。展示品の窃盗目的で侵入したビーティー達と対峙する。一介の警備員でありながら、バックヤードで遭遇した公一を相手に「このデパートの影の支配者」と自称したり、公一が怯える様を愉しむなど、言動に異常性がにじみ出ている。尚、作者のデビュー作「武装ポーカー」の登場人物、ドン・ペキンパーに容貌が酷似している。
なお、「バオー来訪者」劇中にも、容貌が酷似した人物が登場している。
- おばあちゃんを訪ねた女性
冒頭でビーティーの自宅に彼のおばあちゃんを訪ね、そのまま帰宅した女性。実はある組織の人間らしく、とある事件の証拠を見つけるためにおばあちゃんに相談していた。デパート内でも、ビーティー達と鉢合わせしている。
第5話「そばかすの不気味少年事件の巻」
- 公一の両親
父親は眼鏡をかけた、穏やかな中年男性。自宅から、ビーティーとともに車でピクニックに赴こうとした際、バック中にマナブにぶつけて怪我をさせてしまう。ビーティーに「いちおう(警察に)届けたほうが良いのでは?」と言われても、事を荒立てたくないのか、誤魔化そうとしていた。
母親は髪を後ろでまとめた女性で、眠っているマナブの事を「カワイイ」と言っていたが、料理にケチを付けられ、物を壊され、散々な目に合う。
- タロー
麦刈家の飼い犬。非常に賢く、人の合図を理解し「ストロベリー・ジャム(伏せ)」「アップルジュース(前転)」「バナナパン(飛び出せ)」など、食べ物のキーワードで命令を聞く。
マナブとの賭け代にされてしまうが……。
- マナブ
そばかすだらけの少年。苗字は不明。陰のある顔からは不気味な雰囲気を漂わせている。出庫中の車にぶつけられ軽いけがを負うも、「病院は嫌いだが、休みたい」と申し出て家の中で休み、目覚めたら昼食の席に勝手につく。その後も家に居座り続け図々しい態度を徐々に露わにし、ついには麦刈家の物品を我が物顔で漁りはじめる。
- マナブの家族
父母、兄と姉に、祖父の5人の男女。元気になったマナブを引き取りに訪れたのかと思われたが、彼らも麦刈家に居つき始め……。
余談
- この頃の絵柄について「白土三平の絵柄の影響を強く受けている」と作者はジャンプ誌面にて述懐しており、コマ割りなども近年の作品とはかなり異なっている。しかし、独特の擬音や特徴的な不気味さ、単純な力押しでは終わらない頭脳戦など、後の『ジョジョの奇妙な冒険』に繋がる要素が早くも随所に見られる。バイオレンス色の濃い『バオー来訪者』に並び、ジョジョのルーツとも言える作品かもしれない。
- イニシャル「B.T.」の由来については幾つかの作者コメントがあり、「特にモデルはなく、語感でこうした」と言う趣旨の物もあれば、後年では「漫画家の寺沢武一からとった」と言う物もある。
- 作者の映画遍歴に影響されていると思われるキャラクターや描き込みが散見される。特にイタズラ死体事件の巻では、表紙や腹話術人形のデザインに『時計じかけのオレンジ』へのオマージュらしきものが見て取れる。
- 頭数や体格差に頼り、暴力でビーティー達を一時的にねじ伏せたキャラは複数名存在するが、最終話に登場した不気味少年ことマナブは、ビーティーの本領である権謀術数で単身渡り合った唯一のキャラである。作者いわく「ビーティーに匹敵する能力を有する不気味少年の登場したエピソードは、評判が良く、『敵』『ライバル』の重要さを学んだ」との事。また、このエピソードは藤子不二雄A作品『魔太郎がくる!!』の「不気味な侵略者」との類似性が指摘されている。
スピンオフ・リブート
魔老紳士ビーティー
2021年10月19日発売の「ウルトラジャンプ」11月号に、60年後を舞台にした読み切り『魔老紳士ビーティー』が掲載された。原作は西尾維新、作画を出水ぽすかが担当し、扉絵は魔少年ビーティー単行本の表紙絵を踏襲したレイアウトになっている。
2023年12月19日に発売された「JOJO magazine 2023 WINTER」に、その続編となる新エピソードが収録された。
魔好青年ビーティー
2024年12月18日に発売の「JOJO magazine 2024 WINTER」にて、『魔老紳士ビーティー』と同じく原作:西尾維新 / 作画:出水ぽすかのタッグによるスピンオフ『魔好青年ビーティー』が掲載された。
リブート版
2024年3月4日発売の「最強ジャンプ」4月号に、脚本:羊山十一郎 / コンテ構成:雀村アオ / 作画:松谷祐汰によるリブート版読み切りが掲載された。