女相撲
おんなずもう
大相撲では長らく「土俵は女人禁制である」とされており、昨今ではその賛否を巡って議論が繰り広げられているものの、歴史的に見ると余興・興行として女性による相撲の取り組みはしばしば行われてきた。
また、神事の一環として女性が相撲や相撲を元にした所作を行うという例もある。
歴史の中で最も最初に女相撲が行われたと記録されているのは、日本書紀(巻第十四)に登場する雄略天皇の時代である。
とても腕の良い猪名部真根という木工職人がおり、石を台にして木材を手斧で割ってみせる程の器用さだったが、それを不思議に思った雄略天皇は「誤って石まで打ってしまう事はないのか」と聞くと、決して無いという。
そこで雄略天皇は采女(お付きの女性たち)を集め、仕事をしている横で服を脱がせて褌姿で相撲を取らせた。流石の真根も気が散って手元を誤ってしまい、雄略天皇は嘘をつかれた事に怒り、彼を処刑しようとした。
しかし、真根の職人仲間たちがそれを聞きつけて駆けつけ、優れた技術が失われる事を憂う歌を詠むと雄略天皇は反省し、処刑を中止したという。
邪魔しておいてミスしたら処刑というのも理不尽な話だが、実は「相撲」という言葉が最初に使われたのは以上のような顛末を示したくだりだったりする。
江戸時代に入ると、両国で座頭相撲(目の見えない人による相撲)の男性力士と女性力士が相撲を取るという、変則的なハンデキャップマッチを見世物にした興行が人気を博した。
この評判を受けて大阪でも女相撲の興行が流行し、滑稽本や黄表紙の題材になるなど、ブームとなっていたようである。
その人気ぶりを示した文章では「関取ともなれば三十日で百五十両」ほどの給料を貰っていたとされており、庶民の年収が二十両や三十両とか言われていた時代の事と考えると大スター・高給取りであった事が窺える。
しかし、男女の取り組みであるという事からスケベな目線で見られる事が多く、中には興行人・世話人等に金を渡し土俵上でわざと醜態を演じさせる、興行もお色気をウリにするなど、そっち方面に走っていったために風紀を乱すとして寺社奉行から禁止されるに至った。
幕末の頃になると再び復活しており、同様の興行が再び行われたが、名古屋帯の華美なまわしや甚句節手踊りといった見どころが設けられており、明治時代に行われた興行スタイルへとつながっていった。
明治時代に入ると風紀を乱すという事から男女相撲や女相撲において、女性力士が裸で相撲を行うことが禁止されたが、明治中頃になると肉襦袢を着、猿股を履いて行うものとして復活した。
取り組みだけでなく相撲を題材にした舞踊や歌、力技曲芸が披露され人気を博した。
こうした人気は昭和の時代に入ってからも健在で、各地で興行を行っており、戦後期までは人気を博していたものの、それ以後にはあまり盛んには行われなくなった。
土俵が女人禁制である事の理由付けとして提示される事が多い神事としての側面についてだが、実際の所、室町時代の記録では勧進相撲で芝居(見物人の事)から取手に挑戦する人を募るというくだりにおいて、比丘尼(尼さん)が挑戦者として手をあげた記録が残っており、少なくともこの時代までは勧進相撲に女性が飛び入り参加しても問題は無かったようである。
明治にも、女相撲の興行において奉納相撲が行われたという記録もあり、清池八幡神社で行われた奉納女相撲の様子を描いた絵馬なども現存している。
昭和(1960年代)になると、新聞に雨乞いの儀式として行われる女相撲が取り上げられた記事が出ているが、女性が相撲を取ると雨が降る理由について記事内で「本来女人禁制のはずの土俵で女人が相撲を取る事で神様が怒って雨を降らせる」…と、現在巷でよく聞く説明がなされているものの、この説とは真逆の「神様は女相撲に目がなく、女相撲を奉納すると喜んで雨を降らせてくれる」
という伝承が残っている地域、異説も数多く存在しており、行われた理由は必ずしもそうであるとは限らないようである。
そのため、現在でもしばしばこの点については識者の間で議論が繰り広げられている。
現代における女相撲、及び競技化
このように見世物としての側面と競技としての側面が混在してきた女相撲だが、1990年代に女性による競技相撲として新相撲が成立した。
当初このように名前を変えた理由としては、前述のように「女が相撲を取るのはけしからん」という
向きが少なからずあったためで、そうした批判を避ける目的であったと言われている。
2007年に行われた大会をきっかけに「全日本女子相撲」という名前が使われており、実質的な女子相撲であるという事がおおっぴらになり、競技名も「女子相撲」扱いされている。
当初は「新相撲は相撲ではない」という事にするため、土俵ではなく体操用品のようなマットや土俵と同じサイズのウレタン製の俵が付けられていたが、海外での大会や上述のような方針転換をきっかけに土の土俵が使われるようになっている。
競技人口は日本では少なくマイナー気味だが、ヨーロッパでは挑戦する人が多い人気競技となっている。
ルール自体は大相撲と細部が異なり、ぶちかましや顔面への張り手は禁止されているほか、体重による階級制となっており、超軽量~重量までの4つの階級+無差別級の全5階級ある。
大相撲と違いトーナメント方式になっているなど、近代レスリングや柔道と近いルールを採用している。
こうした流れから、女子相撲大会が地域おこしなどとして催される事も珍しくなくなってきており、
特に岡山県は上齋原神社で奉納相撲として催されている「奉納おんな相撲大会」は毎年全国区のニュースでも報じられている。
また、バブル期以降はキャットファイト等と同じく、エロスを強調した見世物として行われる事がしばしばあり(上で述べた歴史を考えると先祖返りとも言えるが)、ショーパブ・キャバレーやビアガーデンの客寄せ、アダルトビデオの企画等として行われる事もある。
変形として、泥の入ったプールで行う泥レス、ローション相撲などもあるが、後者は思うように動けない様や勢い余ってズッコケてしまう様が面白おかしい事からバラエティ番組などの企画として使われる事があり、地上波でも放送される。
前述のようないやらしい見世物にはしないとは言え、男女混合の場合もあり、ウェイトのある男性を女性チームが押し出したら勝ちとする変則ルールで行われる事もある。
これを真似し、結婚式やイベントの余興で行うという事も少なからずあるようだ。
pixiv上では女相撲を題材にしたイラストはまわしだけの姿によるもの(R-18区分となる)から
上記の女子相撲スタイルの作品まで幅広く投稿されている。
関連作品・キャラクター
- つっぱり大相撲…相撲を題材にしたゲームの元祖。シリーズの一部に女性力士が登場する。
- 四条雛子…KOFシリーズの登場キャラクター。お嬢様学校に通う財閥令嬢だが、ファイトスタイルは相撲。参戦理由は「通っている学校(女子校)に相撲部を創設し、学校に認可してもらう為」とされる。
- 黒木洋美…ハイスクール・フリートの登場キャラクター。普段は戦艦の機関士として活動するが、艦内で行われた赤道祭の相撲大会でクラスメイトから嘗て地元の相撲大会で優勝したことがあると語られ、対戦相手を全て大技で瞬殺して優勝するという桁外れの強さを披露した。
- 山岡荘八の『織田信長』…歴史小説。冒頭で少年の信長が女の子達に相撲を取らせ、強い母親が強い子供を産むという理念を開陳した上で勝者に側室の座を約束している。
- タイムスクープハンター…シーズン4第3話「女相撲じんせい土俵際」にて大正時代の女相撲の状況を肉襦袢と猿股を着用して行う状況及び警察とのトラブルの状態を再現しているモキュメンタリー。
YOUは何しに日本へ?、世界!ニッポン行きたい人応援団:女子相撲の大会で前者はアメリカ代表、後者はポーランド代表の選手を追跡取材、それぞれ放送した。
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