M16自動小銃
米軍制式採用の自動小銃。
ベトナム戦争の時期に採用・実戦投入され、バージョンアップされつつ現在まで制式ライフルの座を守っている。
なおM16は米軍制式ライフルとしての形式番号であり、アーマライト社及びコルト社の商品としての名称はAR-15。
発射の際のガス圧を利用するダイレクトインピンジメント式を採用している。
(ガス直噴式はリュングマンAG-42で実用化したため、社名からリュングマン式とも呼ばれているが一般的ではない)
ガスブロック、ガスチューブを介しボルトキャリア内に直に吹き付け、作動する方式となっている。
そのため、部品の部品点数の削減やフロント部分の重量を軽減、反動が通常のガスピストン式と比べてかなり軽くする事が出来る。
(機種にもよるが一般的なガスピストンだと一瞬にして銃口が跳ねあがって的に当てるのは「バン・・・バン・・・バン」と撃つのが限界だがM16は「ドン・こつん・・ぶわぁ~」という風な反動なため「バンバンバン」と撃てるという)
メンテナンスもガスピストン特有の掃除するのが一番面倒なピストン部分およびレギュレーターの掃除が必要ない(ガスチューブは消耗品なので問題があるなら外して交換する)ので掃除する箇所が一手間省け比較的簡易にする事が出来る。
一方でボルトキャリアの掃除自体はガスピストン方式の銃にも必要であるのだがDI式の場合は直接吹き付ける為ガスピストンの掃除よりかはいくらかマシなもののボルトキャリアの掃除に手間が掛かるのとメンテナンスの頻度が高い為、どちらの掃除が面倒と思うかは射手次第であるとも言える。
またガスピストンと違いバレル上方で重量物が移動しないため、射撃精度が向上するという利点もある。
驚く無かれその精度はカービンのM4でさえ100mでテニスボール程度の大きさで纏まるという精度を持つ。
欠点としてはガスがボルトキャリア内を通るだけでなく機関部内にも吹き込むため、機関部内の汚れが激しいだけでなく、一部のサウンドサプレッサーやフラッシュハイダーなどガス膨張室の役目を持ってしまう部品を銃口側につける事で機関部内に吹き込むガスが高圧になってしまい、発射サイクルが向上してしまうが、場合によっては(射手の顔前にある)チャージングハンドルが飛び出す、ボルト開放のタイミングが狂って薬莢が膨張しているタイミングで排出しようとしてしまいエキストラクターが薬莢のリムを引きちぎって薬莢を排出できない(そして二重装填となる)といった事も起きてしまう。
また、装薬の種類によっては燃焼時に刺激性ガスが多く生じ、それが機関部から漏れ出したりボルトキャリアを通って排出された際に射手の顔へとかかってしまうという問題もある。
またピストン式と比べて弾薬を選ぶと言われて低品質な弾薬を使うと動作不良が起こりやすくなる。(とは言えど市場に溢れているような5.56mm弾では安物ハンドロード弾のようなものを除けば適したものを使えばそうそう滅多にジャムる事はないとの事)
更にパトリオットピストルなどのように短銃身化した際にはガスチューブ短くしただけではガスを吹き付けるタイミングが早まってしまい、ボルトが速すぎるタイミングで後退してしまって動作不良を起こしてしまう為、ガスチューブが一定以下の長さになるような短銃身化はしづらいという問題もある。
しかし現在では2インチバレルのAR15(銃口から銃弾先端がはみ出しているという代物である)というのもあり動作不良無しで撃てたりする事例もある為一概には言えない。
要は銃身に合わせて弾頭形状、装薬量等を調整された弾薬を使えばよいのである。
(ガスチューブ長に関してはMk18等は単純に短い銃身を使用するのではなくカービンレングス銃身を使いガスブロックより先の銃口側を短くすることでこの問題を回避しており、民間市場でも短銃身向けやガスタイミング調整用のスパイラルガスチューブやS字型のガスチューブ等という奇妙な製品が出ている)
またM16系統のバッファーチューブ/レシーバーエクステンションによりストックの短縮可能距離に制限がかかり、横方向への折り畳みが出来ないといった欠点が生じている。
(民間用カスタムパーツでは機構をそのままで折りたたみ可能とするパーツが登場しているが、折りたたんだ際には射撃不可能となるという欠点がある。ちなみに.22LR仕様であればバッファーチューブは不要なため、折りたたみストック化も容易である)
一部の製品では部品のいくつかを変えることでこの欠点を解消しようとしており、コルトディフェンス SCW、H&K HK416C、トロイ M7A1 PDW等の一部の機種では短縮型バッファーチューブを採用しており、ストックの折りたたみや更に短く短縮するといった事も可能となったが、ロアフレームやボルトキャリア等のパーツが専用部品となっている。後に専用部品を必要とせずに短縮型バッファーチューブを使用可能としたPDWストックも登場している。
要するに汚れの激しさやバッファーチューブの携帯性以外の欠点に関して言えばM16に合わないサプレッサーやフラッシュハイダー、安物のハンドロード弾を使用しなければまったく問題はないとも言えるのである。むしろ弾薬に関して言えばDI方式を採用した銃が始めて軍に採用された事で有名なスウェーデンのリュングマンAG42に比べればユージン・ストーナーが開発しAR-10、AR-15に施したDI式はよっぽど弾薬を選ばないのである。(更に言えばDI式で十分に動作しないのであれば一般的なピストンであっても満足な動作は期待できないとは想像に容易い、また低速弾でのアドバンテージではピストン方式に勝っているという情報もある)
本体に関して言えば本体の主要部品に軽量なアルミ合金を採用しており、多くの部品でもプラスチックを多用してるために当時、歩兵ライフルと言えば鉄と木で出来ているという常識を打ち消した画期的なライフルであり、後の歩兵ライフルの歴史を作り上げたと言っても過言ではないだろう。
連射時にも反動を受け止めやすいピストルグリップ付きの直銃床(銃身からバットプレートまでが直線状に並ぶデザインのこと)形式である
また本体後方にバッファーチューブ(レシーバーエクステンション)がありその中にリコイルスプリングが入っているため反動軽減に役立っているという。
(しかし既出した通り折りたたむ事ができないと言った問題も出てくる為、リコイルスプリングをバレル上部へと移したLR-300という銃も出ているが、大幅に構造を変更しているため、互換性はほとんど無い)
これはジョンソンM1944LMGを参考にしていると思われる。
開発の経緯
原型となったAR-10は航空機メーカーであるフェアチャイルド・エアクラフト社の一部門であるアーマライト社の技術者であるユージン・ストーナーにより開発された。
1954年、NATO標準小銃弾を選定する際、アメリカはイギリスの「.30口径弾では強すぎる反動とマガジンの巨大化を招き、実用的でない」という主張を無視して、7.62x51弾のNATO標準化を強行し、これをM1ガーランドの後継となる小銃の弾薬とすることを決定してしまった。この結果誕生したのがスプリングフィールドM14である。
この際にアーマライト社はAR-10を出していたが、ストーナーの反対を押し切ってアーマライト社社長の指示によりスチールにアルミ合金を被せた銃身を使用したために銃身破裂事故を引き起こしてしまい、良好な評価がされていたAR-10の採用は中止となり、T-44がM14として採用される事となった。
しかし後にAR-10の試験を見学していた米本土総軍司令官ウィラードワイマン大将はユージン・ストーナーに1952年から始まったSCHV計画に参加する様にAR-10の縮小した銃を持ってくるように頼む。
そして出来上がったのがAR-15であり、1957年には使用弾薬の仕様が固まった。
この計画で提示されたライフルは、ウィチェスター、スプリングフィールドがそれぞれM1カービン、M14ライフルを小口径に焼きなおした物であるのに対しアーマライトはAR-10を縮小したAR-15を提示した。
前2者は大戦中のライフルの延長に過ぎないものであるのに対しAR-15はAR-10同様にまったく新しい近代的なライフルで性能も非常に満足が行く物であった。
しかしこの時はM14を採用したばかりであり、ここでまた新しい銃を採用するとなると経費だけでは無く現場での混乱や更に採用するに関わった陸軍や国防省の面を汚しかねないため採用は見送られ計画も白紙にされた
その後に親会社のフェアチャイルド社が製造する航空機の不振もあってAR-10はオランダのAI社、AR-15の製造権はわずか7万5千ドルでコルト社に売却されてしまった。
しかし、ベトナム戦争でM14を装備したアメリカ兵は、その取り回しの悪さや反動の大きさなどから、AK-47やSKSなどを装備する共産軍に対し不利な戦いを強いられることになってしまう
この事態を打開すべく、急遽既に白紙にされた小口径高速弾計画で提出された5.56mmx45弾をNATO新小銃弾に選定し、これを使用する新世代小銃として、コルト社に製造権が売却されていたAR-15を採用した。
皮肉にもNATO弾選定時のイギリスの主張が正しかったことがこの事によって証明された。
製造はコルト社が担当し、委託によりゼネラルモーター社やH&R社が製造したこともあった。(現在は製造権がアメリカ政府に移ったことでコルト社ではM16を製造しておらず、主にFNH USAで製造がされている。刻印もFN刻印が増えている)
1962年、まず最初の制式モデルであるM16がアメリカ空軍と南ベトナム軍で運用された。
この時1962年8月に南ベトナムに軍事援助として送ったM16・965挺がジャングル戦で戦果を上げその報告書が当時国防長官であったロバート・マクナマラを動かした
前線の特殊部隊に試験的に配備してみた所、報告書には「M14に比べて様々な点で勝っており、戦闘において高いアドバンテージを持つライフル」と評判は良かった
そして1963年11月に渋っていた陸軍も、ボルトフォワードアシストと呼ばれる部品を追加したモデルを、XM16E1として試験採用、約85,000丁を発注。1944年にはベトナム戦争で投入された
M14の汚名返上を期待されていたXM16E1であったが、しかし、その初期納入分はトラブルが頻発した、現場ではXM16E1不使用運動が起きたり、代替としてT223が支給されたり、敵から奪ったAK47が重宝されるなど一時期XM16E1の信頼は地に落ちることになる
主に起きたトラブルとしては前進不良、装填不良、不発などの作動不良が頻発し、また銃身が細いため損傷しやすく(このため着剣が禁じられた)、白兵戦の際に敵を殴ると強化プラスチック製のストックが破損したりと、耐久性にも問題があった。
耐久性に関しては5.56mmという小口径や強化プラスチック製の銃床が世界でも類を見ない試みだったことも原因であるが、だがそれ以上に信頼性の元となる動作不良に関しては本国でM14を使い訓練していた兵士がいざ戦場に行くと見たこともない銃を使わされた事が大きな原因であると言えよう。
事実、プラスチックとアルミ合金で作られた銃であることから兵士達の間で整備のいらない銃であるという間違った噂が発生し、構造上頻繁な整備は必須な銃であったのだが、ろくに整備もせずに運用していたことが発覚。(クリーニングキットやマニュアルが支給されていなかったのも原因の一つ)
更に弾薬が適正の規格ではない火薬を使って製造されていため、その弾薬を使うと作動不良を起こし易いという事など、運用面以外での問題が大きすぎたのである。
当時のアメリカ軍兵士達の間では(自分達の整備不足を棚に上げてではあるが)「マガジンを地面に落とすとはまらなくなる」という都市伝説が産まれた。
(実際にアルミ製マガジンは主にスチール製のマガジンが錆びやすいとの事で変更されたが他にも使い捨ても考慮しコスト削減のためにアルミ製になっており、変形しやすかった。が、リップ部分が変形して給弾不良を引きこす程度ならともかく、はまらなくなるような落とし方、変形はレアケースであるため都市伝説と見ていいだろう)
これを受けてメーカーの提示した弾薬の配備や兵士達にクリーニングの徹底、更に絵を追加した見易いマニュアルを配備し1967年に改良がなされたM16A1が制式採用され、動作不良は過去の物となり兵士達からの信頼を取り戻した。
が、一部の兵士(特に海兵隊)からの不信は拭い切れず、ベトナム戦争中にはM14をM16に完全に置き換えることは出来なかった。
その後、使用弾の変更に合わせて各部強化の上フルオートを廃止して3点バーストに切り替えたM16A2、A2のバーストをフルオートに戻したA3、A2のキャリングハンドルを着脱可能にしピカティニーレールを増設したA4が開発された。
現在ではM14は一般兵士用のアサルトライフルとしては完全に引退し、M16不信も大部分は払拭されているが、保守的な兵士の中には今でもM14などの.30口径小銃のほうが武器として優れているという主張を持つものも多い。
これはアメリカ特有のもので、19世紀末のモロ族との紛争の経緯で今でもアメリカで.45口径拳銃が神聖視されているのと似ている。
基本データ
全長 | 985mm(M16A1)/999mm(M16A2) |
---|---|
銃身長 | 508mm |
重量 | 3,350g |
口径 | .223 Remington弾(M16A1)/5.56mmNATO弾(M16A2) |
装弾数 | 20/30発 |
M16のアメリカ軍用モデル
M16
米空軍、南ベトナム軍に配備された最初期モデルで、先端に三つ又のフラッシュハイダーが装備されている。弾倉の装弾数は20発。
ハンドガードは三角断面で、ボルト閉鎖不良時はその都度分解しなければならないなど問題が多かった。
XM16E1
米陸軍に採用された最初のモデル。
陸軍の要求によりボルト強制閉鎖機構(ボルトフォワードアシスト)を追加、フラッシュハイダーは三つ又から鳥かご型に交換された。
ベトナム戦争におけるM16の動作不良の多くは主に本銃で発生した。
なお、ボルトフォアードアシストの追加は「ボルトが正常に閉鎖しないときは銃か弾薬にトラブルを抱えており、無理して使用することは危険である」と考えるストーナーにとっては不本意なものであった。(また、強制閉鎖機構を付けるなら後付ノブではなく銃の設計を大幅に変えてAKなどのようにボルトに直接ハンドルをつけて直に操作できるようにしたかった模様)
M16A1
XM16E1で露呈した欠点を改良したモデル。
ストック内にクリーニングキットを収納、マガジンキャッチ周辺に誤作動防止用のリブを追加。歩兵用操作マニュアルの導入etc.
本銃採用とほぼ同じ時期に、AKの30連発弾倉に対抗してM16対応の30連発弾倉が新たに導入された。
海軍では退役後、倉庫で眠っていた本銃のロアフレームはSPR Mk12の製造に使用された。
M16A2/M16A3
老朽化しつつあったM16A1を置き換えるべく、各部のさらなる強化を施したモデル。
ハンドガードをリブ付きの丸型に変更、ストックの延長、
仕様弾薬をM193からSS109(M855)に変更、ケースディフレクターの追加、
アイアンサイトやグリップの形状を変更etc.
また、新兵の撃ちすぎへの対策としてA2では3点バースト機構が導入された。
この3点バースト機構は信頼性に疑問の声があることから、
後にフルオートモデルであるM16A3が開発された。
M16A4
A2/A3のキャリングハンドルを着脱可能にしピカティニーレールを増設したもの。
左側にもセレクター刻印がされるようになった。
M4カービン/M4A1カービン
本銃をベースに製作された短縮モデル。
米軍に制式採用されたカービンライフルとしてはM2カービン以来54年ぶりの新規採用である。(M3はM2にナイトビジョンを装着したもの)
詳しくはM4カービンを参照
スナイパーとM16
ダイレクトインピンジメント式やクローズドボルト方式により精度こそあるものの、風に煽られやすい小口径軽量弾を用いるM16は狙撃、特に長距離狙撃には向かないとされるが、漫画界屈指の暗殺者・ゴルゴ13ことデューク・東郷はそのM16を常用している。(ちなみに5.56mmNATO弾は600m程度までであれば7.62mmNATO弾と比較しても風の影響による偏差は殆ど変わらない)
これは彼が「ひとりの軍隊」、すなわち狙撃以外の多種多様な状況に対応する必要があるためであり、そのためのライフルがM16であった、ということであろう。
ただしあくまでも前後の状況が完全に確保し切れない場合の不測の事態に備えての使用であり、完全に安全が確保された状況や、M16では破壊不可能な対象への狙撃、M16の持ち込みが不可能な場合、特にこだわる事無く別の銃を使っている。
(例えば1km以上の距離が有る場合、ボルト式の30口径以上のライフルを使用する。また対象物が重装甲である場合、対戦車ライフルを使用することもある。)
とはいえ宇宙空間で完全に無反動で射撃するために制作した特殊なライフルなどは、M16をベースに改造したものであったりする。
また、現実のスポーツシューティングやタクティカルシューティングでもM16(AR-15)系統のカスタム銃が使用されることが多く、M1911や自動装填式ショットガンと共に愛用するシューターは多い。
ちなみに、世界一腕の立つ殺し屋もM16タイプの銃を用いているが、狙撃用にカスタムを施したゴルゴ13の銃と違い彼の場合は正確には完全な突撃銃で狙撃には全く不向きなM4を使用しておりその理由は不明である。
そもそも独特のライフル保持の方法(ストックは肩に担ぎ、左手はそえるだけ)をとる彼のことなので、その選択基準は我々には理解しがたいものがあるのかもしれない。
一方でアメリカ海兵隊でも2010年頃にはM16A4にスコープつけ簡易狙撃銃として使用している兵士の写真もある、もっともこれはあくまでSPR(後に説明)等が配備されるまでの繋ぎとして使用しており、
一般的にアメリカ軍ではマークスマンライフルとしてはM14系のライフル、狙撃兵の武装としてはM700系ライフル等が使われる。
また、M16の7.62mmNATO弾仕様であるナイツSR-25を次期狙撃銃M110として採用し、運用している。
イラク戦争においては都市部では大口径弾を必要とするような長射程の狙撃は少なく、以前から言われていた5.56mm弾の威力不足もACOG等の低倍率光学照準機器の普及により効果的に命中させていないためである事が分かり、ボルトアクションライフルでは不可能な速射(連射ではない)を必要とする事態が発生したために5.56mm狙撃銃が必要となり、M16やM4をベースとしたMk12 SPRやRECCEといった軽量狙撃銃が開発・運用されるようになった。
命中に関しても低倍率光学照準器の普及と訓練内容の見直しにより的確な急所への命中が可能となった。
長距離から頭部に当てることが可能となった為に米軍兵によるゲリラへの処刑ではないかと問題になったほどである。