アトラム・ガリアスタ
あとらむがりあすた
「では、戦争だ」
「戦争、戦争、戦争……ああ、野蛮な響きだね。名にしおうイゼルマがそんな選択をするとはなんと嘆かわしいことか」
プロフィール
概要
2014年版TVアニメ「Fate/stay night[Unlimited Blade Works]」の登場人物。
キャスターを召喚した最初のマスター。
金髪褐色肌の整った顔立ちの青年。魔術協会の新参者でどこぞの誰かさんのように箔をつける為に財力に物を言わせ聖杯戦争に参加した(ただしその実力は天と地ほどの差がある/後述)。
「なに、ゲーム版では中肉中背の中年とか書かれていた? うん、それはきっと幻なんだ。気にしてはいけない。キミ、啓蒙をもっと高めたまえよ……脳内に瞳を作りたまえよ……そう……一緒にヤーナムで交信しなさいよ……」by奈須きのこ
人物像
柔らかな物腰と気さくさを装うが、性根は小物かつ冷酷。
性格は一般人の命などまるで介さない典型的な魔術師。
金で買った爵位を持ち、協会内での地位は一般魔術師よりは上だが、生粋の名門には劣る。
事件簿マテリアルによると、キャラクターの路線は『成功して実力もそこそこある慎二』。そのような経緯のため、もともとのコンセプトが慎二リベンジだったロード・エルメロイⅡ世とは自然な成り行きで妙な共感をしてしまう。
事件簿の作者である三田誠も『基本的には悪人だが、悪人だから善性や愛すべきところがないかといえば、そんなことはないのだった。』と評するなど、単純なようでいて深掘りされるたびにそれまでとは一風変わった側面を見せる人物である。
第五次聖杯戦争での略歴
元々は竜殺しのセイバーを召喚しようと企んでいたが、召喚に必要な聖遺物を手にいれる事に失敗。その代わりに、(クラスには不満があるが)竜召喚能力を期待できるメディアを呼び出すも、彼女に竜の制御法がない為に、使用出来ないことを知って失望する。
更に、自身が数十人の子供を生贄に作り出した魔術道具を彼女は一瞬で作り出したため、その腕前に自尊心を傷つけられ、手厳しく八つ当たりをおこなった。
令呪で宝具「破戒すべき全ての符」をアトラムへ使用しないように命令し、別のサーヴァントとの契約を目論見、言峰綺礼を介して同じ魔術協会から参戦したバゼットにキャスターの始末を依頼する(この時点で恐らく既にランサーは言峰と契約状態だと思われる)。
しかし、その浅知恵は既にキャスターに先読みされており、「破戒すべき全ての符」を自分自身に使用されたことで主従契約が破棄される。さらに工房を破壊され、これに激怒したアトラムは残りの令呪二画で自害命令を下すも、主従契約が破棄されているためにただ無駄遣いしただけに終わり、マスター資格そのものも喪失する。
最期は自分が先にキャスターを裏切ったにもかかわらず、彼女を「裏切りの魔女」と罵り、最期まで身勝手さを翻す事はなく、彼女の手によって殺害された。
結果として召喚したサーヴァントとのトラブルと自らの裏切りが原因となり、開戦前に脱落するという、アトラム自身が「遊び半分で参加していた」と見下すケイネス以上に最悪の末路を迎えた。
能力
魔術師としてのレベルはケイネス・エルメロイ・アーチボルトを100+α(特殊礼装分)、コルネリウス・アルバを100、遠坂凛を20〜30、衛宮士郎を10〜20としたとき、彼は20くらい。ケイネスやアルバと比べると圧倒的に弱いとされる。
スヴィン・グラシュエートの見立てでも、個人の魔術師としての純粋な力量は大したことはない、エルメロイ教室のOBならば誰もがもっと術式を洗練させているという。
しかしアトラムの恐ろしさは魔術のみに依存しない戦闘スキルであり、スヴィンからの『誰かと戦うための魔術としては十分以上の完成品だが、それでは魔術師ではなく魔術使い』という挑発に激昂したふりをしつつ罠に嵌めるなど、戦う者としては一流である。熾烈な戦いに慣れた彼からすれば、黴臭い権力闘争に明け暮れていた魔術師など物の数ではない。
アトラムの魔術は『原始電池』と呼ばれるもので、ホイヤットラプヤ遺跡で発掘された世界最古のものの系譜にあたる。それが魔術の手で連綿と伝わり、科学とは全く異なる道のりを経てきたもの。かつてこの魔術を伝えてきた一族のひとつが没落する寸前に金で歴史ごと買い上げ、もともと鉱石や代償の魔術を研鑽していたことも相まって電力へ自らの魔力を乗せることにも成功した。
ガリアスタの一族はこれをもとに、古代の多くの地域で神威や神鳴と崇められてきた『力』を制御することで繁栄を享受してきた。戦闘時には「猛れ(ガッシュアウト)」という一言とともに電撃が巨大な手となり雷速で襲い掛かる。
その他、この原始電池を応用し、一族に連なる数十人の魔術師で儀式を行うことで天候制御の魔術を行える。これにより土地そのものを傷つけ、敵対する魔術師の霊地に潜む防御機構を無効化することが可能。さらに部下たちの扱う1小節で雷を発生させる魔術の威力を引き上げる。
なお、アトラム本人はこれをメディアの逸話に残る「鏖殺の術式」に例えるほどに自信満々だが、神代の魔術は1小節で現代の爆撃機にすら匹敵するため、現代の魔術師がどれほどの研鑽を重ね、儀式を連ねたところでその足下に辿り着けるかどうかというのが実情である。
開発
武闘派としての側面が目立つ彼だが、科学と魔術を融合させることに忌避感を持たないため、意外にも魔術的な機械の開発に秀でているという側面を持つ。
一例として、ロード・エルメロイⅡ世へ向けて送られた最期のビデオレターを封入している封筒が挙げられる。
この封筒は一見して何の変哲もない封筒であるように見えるが、その裏面に魔力を通すことで文字が浮かび上がるようになっている。そしてこの文字が疑似的な魔術式となり、本来の紙幅では記載しきれないほどの情報量を読み手の魔術回路で再生することができる。
ようするに、これはコンパクトディスクにも勝る、魔術の記録媒体なのである。
また、キャスターとの不和の原因となった魔力結晶の製造装置はFate/strangefakeでも登場している。
こちらはかつてアトラムが開発したシステムをアメリカ最大のマフィア組織、スクラディオ・ファミリーが奪って改良したものだが、偽りの聖杯戦争にマスターとして参加したスクラディオ・ファミリーの幹部であるバズディロット・コーデリオンもアトラムについて「こういうものの開発に関しては天才だった」と評している。
(なお、そこから「魔術師としての技量は低かった」と酷評が入るまでがワンセットである)
以上のように、彼の開発品は登場した作品の後半や他作品において思わぬ形で登場し、その作品に影響を与えることが意外と多い。
外部出演
ロード・エルメロイⅡ世の事件簿
2~3巻『case.双貌塔イゼルマ』で初登場。聖杯戦争への参加の為、金にモノを言わせ魔術協会からの参加枠を勝ち取ったり、聖遺物を手にいれるためにイゼルマに対して攻撃を仕掛けるなど、聖杯戦争直前の様子が描かれている。
事件の解決後は、エルメロイⅡ世が気に入ったのか、週に一度くらいの頻度で彼の元に訪れている。
作中で第五次聖杯戦争が始まってしまうため途中で命を落とすのだが、まさかの活躍を果たす。
ちびちゅき!
某きのこ校長が作り出した平和な世界の住人として平和な日常を送っている……のだがBBに誑かされて彼女に大金を貢ぐ羽目になったり、カフェでレジを担当していたキャス狐から10割増し料金を請求されたりと、散々な目に遭っている。
Fate/EXTELLA
今作自体には登場しないが、奈須きのこ氏の公式ブログ「竹箒日記」に掲載されている、『EXTELLA』時空の前日譚であり設定資料集である「EXTELLA/zero」にて、なんとキャス狐のマスターとして登場している。前述の『ちびちゅき!』の件はまさか伏線だったり……?
プリズマ☆イリヤ
劇場アニメ『雪下の誓い』にて、原作漫画では一コマのみしか描かれず詳細不明だったキャスターカードの使用者として登場。
かつて第四次聖杯戦争に参戦しキャスターのカードを夢幻召喚するも、その瞬間に魔術師としての次元の違いを体感してしまった事で自信を完膚なきまでに粉砕され、そこから立ち直る間もなく「闇」に飲み込まれて死亡。その後エインズワースによって人形に置換され、第五次聖杯戦争にて彼らの手駒として衛宮士郎と戦った。
元々人形に置換された人間は大なり小なり精神の欠落が見られるが、彼の場合はそれに加えて生前のトラウマから深刻な記憶障害を患っており、「自分こそが本物の魔女であり、カードをインストールしている時だけ本来の姿を取り戻している」と誤認している。UBWにおける彼の末路を考えると非常に皮肉な境遇と言える。
Fate/GrandOrder
本人は登場しないが、概念礼装「原始呪術」にその姿が描かれている。効果は「自身の弱体耐性を25%アップする」(限界突破で30%に強化)というもの。
余談だが、シナリオ本編に登場するイアソンとはキャラクター造形に似通った部分が多く、共にキャスターの関係者ということもあってファンの間で比較されることがある。
関連人物
Fate/staynight(UBW)
第五次聖杯戦争(の開戦前時点)で召喚したサーヴァント。
自分が機材を使って生み出した魔力結晶を手のひらに即興で作り出した彼女に自尊心を傷つけられ、八つ当たりする。その末路については、前述の“第五次聖杯戦争での略歴”を参照。
ロード・エルメロイⅡ世の事件簿
バイロン・バリュエレータ・イゼルマ
バリュエレータの分家であるイゼルマの当主。
闇オークションでとある聖遺物をめぐって彼と争い、落札された。のちにこの遺物を簒奪すべく、私兵達を率いて双貌塔へと侵攻する。
創造科のロード。
戦闘に長けたアトラムにとって大抵の権力闘争に明け暮れる魔術師は敵ではないが、君主(ロード)、それも三大貴族の一角ともなれば話は別だった。双貌塔へ攻め込む前に、互いに干渉しない契約を取り付けている。
バイロン卿に加勢する形で参戦したエルメロイ教室の生徒。フラットと共にアトラムの私兵達を相手に無双していたところ、その場に来たアトラムとも戦闘になった。
アトラムが魔術のみに依存しない戦闘スキルという点で自分の遥か上を行っていることを戦慄と共に悟らされるが、そのスヴィンが後に戦士でもある神代の魔術師から戦士としての才を惜しまれていることや、Fate/strangefakeでは魔術使いの傭兵達の間でもスヴィンとフラットの揃っている現場からは手を退くのが定石とされていることが明かされており、逆説的にアトラムの戦闘センスの高さが窺える。
アトラムに加勢する形で参戦した冠位人形師。彼女の放った挨拶代わりの一撃はスヴィンの幻体の半ばをもぎ取りながら彼を弾き飛ばし、アトラムが張り巡らせていた不可視の電撃網も散り散りにした。
双貌塔へ攻め込む前の時点では警戒すべき対象の頭数に入っていなかったが、彼女の魔術の冴えを直接目にしたことでその認識はあっさりと覆された。
スヴィンと同じく敵対していた魔術師。参戦してきた橙子に対してどうあがいても勝ち目がないことを悟り、影人形を残して早々に逃げ出した。
その影人形(2体目)越しに「ええと橙子さんですよね?お金がほしいのなら、その褐色の人をぶんなぐって、そっくりの人形をつくって家を乗っ取った方が効率的ですよ!みんなで幸せになりますよ!」というとんでもない提案をされたことで橙子の矛先が一瞬アトラムに向きかけ、肝を冷やす思いをする事となった。
なお、アトラム人形については「美意識にそぐわない」という理由で却下され、苛立ちながらも狙われずに済んだことで安堵するという複雑な心境となっている。
現代魔術科のロード。アトラムに対し囚われたスヴィンとフラットを解放するための賭けとして、『征服王のマントの切れ端』を担保に探し求めている聖遺物の在り処を教える提案を行った。
双貌塔の一件後は彼のことを気に入り、週に一度の頻度で買った呪体や仕入れた礼装を自慢するべくⅡ世の下を訪れるようになる。
内心ではⅡ世のことを認めていたため、彼が第五次聖杯戦争の参加を辞退することを知った際には憤慨しており、投げかけた言葉も表向きは失望だが、その芯からは無念さが滲んでいた。
Ⅱ世の内弟子。横柄かつ高慢な態度で対等な付き合いではなかったが、彼女にⅡ世の好物(できれば賄賂になりそうなもの)についての相談することがあった。
アトラムは決して良心的とは言えない人間だったが、それでもⅡ世に近しい人物の一人であり、彼の何かを幾ばくかでも共有していた者であったため、彼の訃報が届いた際には『彼の敗北を悲しむことは、ほかの誰かの死を喜ぶことに他ならない』と自分を戒めたⅡ世とは逆に、「……それでも、拙には辛いです」とその死を悼んだ。
立場的には敵寄り、かつⅡ世のことが大好きな人でなし繋がり。
アトラムがⅡ世のもとを訪れるようになってからは、この三者間で密やかな外交戦が行われていた。また事件簿マテリアルによると、アトラムが聖杯戦争に飛び立つ前に一度だけ、この三人が手を組んだ怪奇事件もあったとされる。
その他関係者
アトラムが敗北した場合、手紙をはじめとした多くの知らせが必要な相手へと届く手筈となっていた。これはアトラムが当然の義務であるとして生前から行っていた手続きであり、たとえ自分の死後であろうと、きちんと始末をつけるのは貴族としての役目だという彼の自負である。
その中にはⅡ世へ宛てたビデオレターも含まれており、彼が「受け取ってほしい。せめてもの礼だ」と添付した情報は、後に事件簿シリーズ最後の謎の解決へと繋がっていくこととなる。