概要
『逆転裁判3』に登場する、成歩堂龍一と葉桜院あやめのカップリング作品に付けられるタグ。『逆転裁判』では数少ない、作中に恋愛描写がある公式カップリングの1つ。
2012年8月27日。弁護士を目指して『地方裁判所』の資料室を訪れ、勉強に励んでいた成歩堂の元に突然、1人の美女が現れる。彼女の名前は美柳ちなみと言い、偶然にも成歩堂と同じ『勇盟大学』の生徒であった。ちなみは彼に「一目惚れしたから付き合って欲しい。出会いの記念品として、このペンダントを受け取って貰いたい」と告げ「ハート型の金細工の中に、青緑色のガラスの小瓶が付いたペンダント」を渡した。美女からの突然の告白に舞い上がった成歩堂は即座に彼女からの申し出を受け入れ、2人は交際する事となった。
それから半年間、成歩堂とちなみの交際は続くが、暫くしてから彼女は「ペンダントを返して欲しい」と奇妙な発言を口にする様になった。ところが毎日お弁当を作って昼食を共にしたり、手編みのセーターとマフラーまでプレゼントしてくれる、献身的な理想の恋人との交際を中心とした幸福な日常の末に、すっかり色ボケしていた成歩堂は「ちなみの発言は照れ隠し」と思い込み、彼女の頼みを無視して行く先々でペンダントを見せびらかしては、出会う人々に「運命の人ちなみ」を自慢して回った。
2013年4月。業を煮やしたちなみは「過去の不祥事の証拠品であるペンダント」を奪還しようと強硬手段に走り、これが切っ掛けで成歩堂は彼女の本性と真の目的を知り「僕は一時的に、ペンダントの預け先として利用されていただけに過ぎなかった」と痛感し、ちなみとの恋愛関係は自然消滅する結末を迎えた。
それから6年後の2019年2月。弁護士となった成歩堂に、助手にして霊媒師の綾里真宵は「オカルト雑誌でも特集されている、人気の霊術道場『葉桜院』に行きたい。保護者同伴が必須だから付き添って欲しい」と言い出す。当初は寒さが苦手だからと真冬の豪雪地帯でもある『葉桜院』に行くのを嫌がる成歩堂であったが、真宵が見せて来た雑誌『お!カルト新年号』の特集記事に掲載されていた写真を見ると目の色が変わる。それには『葉桜院』の尼僧・葉桜院あやめが写っていて、彼女の姿は大学時代の恋人・ちなみと瓜二つだったのだ。「ちなみの現状からして、こんな場所にいる事は有り得ない」とは思うも、とても無関係だとは思えない彼は自分の目で真実を確かめる目的で、真宵ともう1人の助手・綾里春美に同行して『葉桜院』へと向かった。
『葉桜院』に到着した、その日の夜。ついに成歩堂とあやめは対面を果たすが、彼女は明らかに狼狽えていて、しかも「以前どこかで会った事はないか?」と問い詰められると、最大数である5つのサイコ・ロックを発動させて黙秘を貫いて姿を消した。その直後、真宵の特別修行の開始を契機として『葉桜院』を舞台とした殺人事件が引き起こされる。この事件は次回作の構想を練る為『葉桜院』に宿泊していた、絵本作家・天流斎エリスが境内で刺殺体として発見され、実際に彼女を七支刀で刺していた所が目撃された、あやめが逮捕されてしまい、成歩堂が担当弁護士となった。
事件に関する捜査と審理が進行する内、あやめとちなみの関係や2人の正体、成歩堂とちなみの交際に隠された真実が判明して行くと同時に『逆転裁判3』の物語は結末へと向かって行く。
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※ここから先ネタバレ注意※
恋路の行方
交際に隠された秘密
あやめの正体は、ちなみの双子の妹であった。2人は綾里キミ子と宝石商だった元夫との間に生まれた娘達で、キミ子が再婚後に出産した春美の異父姉妹に当たる。DL6号事件を切っ掛けに綾里一族の権威が失墜した事から「綾里家の利用価値はもう無い」と見限った父親は双子の娘達を連れて『倉院の里』を去った。そして彼は「子供は少ないに越した事はない」との理由で長女のちなみは自分の元に残すも、次女のあやめだけは『葉桜院』に預け、その住職を務める毘忌尼に育児を託した。こうして離れ離れになった双子の姉妹であったが、ちなみとあやめは影で連絡を取り合い、協力関係を築いていた。
子供達に完全に無関心で冷酷な父親の元に残った、ちなみは荒んで行った結果、父親への復讐心から犯罪者に身を堕としてしまい、双子の姉への行き過ぎた同情から密かにあやめも、彼女に言われるがまま犯行に荷担する様になった。
当然ちなみを追跡する者も現れ、その中の1人である弁護士・神乃木荘龍の毒殺未遂事件も該当案件だった。『地方裁判所』のカフェテリアで、ちなみは神乃木の取り調べに応じるフリをして、隙を突いて彼のコーヒーに致死量の毒を盛った。彼女はこの液状の毒薬を「ガラスの小瓶付きペンダント」に入れて、誰にも怪しまれない形で携帯していたのだ。毒入りコーヒーを飲まされた神乃木が倒れると、ちなみは資料室へと逃げ込み、そこにいた無関係の人間・成歩堂にペンダントを押し付ける事で証拠隠滅に成功し、まんまと警察からも逃げおおせたのだった。
その後ちなみは、ペンダントを取り返して証拠隠滅を完了させる為だけに、成歩堂との交際を開始するが、神乃木以外にも複数の犯行による犠牲者を何人も出していた彼女は、証拠不十分が原因で逮捕こそ免れてはいるものの、警察からは「過去数件の事件の最有力容疑者」としてマークされており、自由に行動する事は出来ずにいた。そこで、ちなみは双子の姉妹なのを良い事にあやめに「自分に成り済まして成歩堂と交際し、ペンダントを取り返して来い」と命令した。この命令には「ちなみ自身は成歩堂を“甘ったれで人を信じる事しか出来ない、鬱陶しい奴”と嫌悪しており、会うのも嫌がっていた」という背景もあっての事である。あやめは「この命令さえ完了させれば、姉が罪を犯す事も無くなる」と思い従った。
ここから姉に成り済ました、彼女と成歩堂の交際が始まった。当初のあやめは早く用件を済ませる事だけを考えていたが、成歩堂と交際を重ねる内、段々と彼の誠実さに心惹かれる様になり、最終的には本気で成歩堂を愛する様になった。それ故に毎日、彼に手作り弁当を差し入れて昼食を共にし、寒い時期になると手編みのセーターとマフラーをプレゼントしたりと献身的に尽くしていた。当時の成歩堂は理想の彼女との交際で有頂天になり、すっかり色ボケしていた。そんな状況下でも、あやめは「彼の人間性における長所」をきちんと見抜いて評価していた事からも、愛情の深さが窺える。2人は仲睦まじく、お互いを「リュウちゃん」「ちいちゃん」と呼び合っていた。
生まれつき大人しい性格だった為、彼女はペンダントの奪還を強行する事も出来ず、最愛の人と長く一緒にいたいと思う余り「早く命令をこなせ」と苛立つ姉に「もう少しだけ待って欲しい」と必死に懇願する事を繰り返す様にもなっていた。ちなみは妹の恋心にも気付き、いつまで経っても目的が達成出来ない状態に我慢の限界を迎えた彼女は「成歩堂を毒殺してペンダントを奪還する強硬手段」に出ようとする。この犯行はちなみによる完全な独断行動で、あやめにも隠していたので、妹が姉の犯行を阻止するのは不可能だった。
最初ちなみは「成歩堂の風邪薬に毒薬を仕込んで飲ませる計画」を立てた。しかし彼女の元恋人で「ちなみに交際当時から、毒薬の調達先として利用されていた事」を察して別れた、薬学部の生徒・呑田菊三が、またもや毒薬が盗まれている事から成歩堂の身を案じ、彼にちなみの犯行を明かす事で「もう別れた方が良い」と忠告した。自慢の彼女を犯罪者扱いされて激怒した成歩堂は、衝動的に呑田を突き飛ばしてしまい、電柱に叩き付けられた彼は気を失い、この時の衝撃で送電線の1本が切れて垂れ下がった。偶然、一部始終を見ていたちなみは計画を変更し「呑田を送電線を使って感電死させて、成歩堂を殺人犯に仕立て上げて、2人の口封じを同時に済ます計画」を即座に組み立て実行に移した。彼女は目撃者である証人を装い、成歩堂が被告人となった裁判にも出廷し、偽証を行って彼に罪を着せようと図るが、担当弁護士・綾里千尋に犯行と本性を暴かれてしまう。凶暴で醜悪な本性を現した本物の美柳ちなみが、自分の恋人の正体と誤解した成歩堂は激しいショックを受ける。
今更、自分が姿を現して事情を説明した所で、更なる事態の混迷を招く事にしかならないと察知し「自分の愚鈍な行動が間接的に事件を起こしてしまい、成歩堂の心に深手を負わせてしまった」と痛感したあやめは罪悪感から、姉の逮捕に紛れる形で彼の元を去って行った。その一方、成歩堂も恋人として学生生活を共にしていたちなみと、自分の裁判で最後に会ったちなみの人間性の乖離から「本当に両者は同一人物なのか」と疑い、彼女の逮捕直後には「今日現れたちなみは、もしかしたら、よく出来た偽物じゃないか」と千尋に話して呆れられたりもした。騙される形ではあったが、幸福な交際時代を忘れられず、ちなみの本心に対する確信も持てずにいた事で強烈な未練を残していた。
お互いを信じ続けた2人
ちなみの逮捕当日から生き別れとなり、お互いに「忘れられない人」となってから6年後。2人は『葉桜院』で運命的に再会する。
あやめは『葉桜院』で真宵を私怨から暗殺しようとする、ちなみとキミ子の犯行を協力者達と阻止しようと行動していた。彼女の協力者は2人いて共に正体を隠して行動していた。1人はゴドー=神乃木、もう1人は天流斎エリス=綾里舞子であった。結果的に真宵の身代わりとなって命を落とした舞子の死体に細工したのも、キミ子達に「計画は上手く進んでいる」と誤解させて目を欺く為であった。舞子殺害容疑で逮捕されたあやめだったが、ゴドーに指示された上で多くの現場工作を施していた。その一環として「舞子の遺体に七支刀を刺している場面」を運悪く毘忌尼に目撃されてしまい逮捕される事となったのだ。成歩堂の奮闘により、あやめは殺人に関しては無罪が立証された。裁判長は判決を下す直前「何か言いたい事はあるか」と問い、あやめは成歩堂に言っておきたい事があると言い出す。
そして彼女は「半年間ちなみに成り済まして、成歩堂と交際していたのは私」「もしも呑田殺害事件の前ちなみが成歩堂に殺意を抱いていると知ったら、確実に私は自分や姉の命が失われる結果となろうとも妨害していた」と告白した。今もなお純粋な心から自分を恋慕い救おうとしてくれた、あやめの真意を知った成歩堂は長年に渡る恋愛関係の呪縛から解放され、恩返しにと自分も本当の恋人であった彼女を救済する為の言葉を送る。「あなたは僕の思った通りの人だった。美柳ちなみが逮捕されてからも、それだけは信じていた」と語った成歩堂の誠意と信頼が込められた台詞に、あやめは万感の思いで涙を流して「‥‥ありがとう‥‥」と述べたのであった。
『3』のエンディングでは『葉桜院』での事件解決後、定期的に成歩堂が仲間達を引き連れて、あやめと面会している後日談が語られた。2人は共に純情なだけに、お互いに照れる事もしばしばらしい。この様に作中では「成歩堂とあやめが元の鞘に収まる予感」を抱かせる描写が成されている。
備考
カップリングの支持率
成歩堂の相手役としては、あやめの従姉妹・綾里真宵が候補に挙げられる事も多いが、この2人の関係は出会いから約10年後となる『逆転裁判6』の時代においても、依然として「兄妹の様なパートナー同士」に留まっている。よって「成歩堂が明確に恋愛感情を示した相手」は、後にも先にもあやめ唯一人とされている。これらの背景から「成歩堂とあやめのカップリング」を支持する声は未だに多く根強い。
「信じる者の幸福」
あやめの名前は清楚なイメージから「菖蒲の花」から名付けられた。菖蒲の花言葉には「信じる者の幸福」があり、成歩堂とあやめの関係性を彷彿とさせる。あくまでも偶然の一致ではあるが、お互いを心から愛し合い、信頼を貫き通した結果、救われた2人には相応しい花言葉と言える。他の花言葉は「優雅な心」「神秘的な人」「良い便り」「嬉しい知らせ」が並び「あやめ個人の象徴」としてもイメージに沿っている。菖蒲は人名として名前のみが登場するとは言え、信頼関係をテーマに掲げる『逆転裁判』に花を添える存在としては申し分ないと評価出来る。