概要
アンズーは様々な神話や伝承、シュメルの「ルガルバンダ叙事詩」「ルガルエ」「アンギム」やグデアの円筒碑文、アッカドの「アンズー神話」等に登場する。
通常はライオンの頭部と鷲の身体を持つ姿とされるが、アッカドの円筒印章の一つには男性の上半身に鷲の下半身で描かれたものも存在する。
アンズーは最高神エンリル及びその息子ニンギルスの象徴とされ、嵐などの大気の力・雷の化身たる聖獣である。アッカドの叙事詩「アトラ・ハシース」では天候神アダドが人類を滅ぼすために洪水を起こす場面で、アンズーが天を爪で裂き咆哮で大地を砕く描写がある。
また、叙事詩「エンメルカルとルガルバンダ」ではエンリルがおいた森の番人とされ、自分の雛たちに食事を与え、羽で着飾らせて歓待したルガルバンダに、返礼として彼が望んだ超人的な腕力と脚力を与えている。
ギルガメシュ叙事詩第12書板の元になった、シュメルの伝承「ビルガメシュ、エンキドゥ、冥界」にも姿を見せており、イシュタルの聖なる園に植えられたフルップの頂きに巣を作り彼女を悩ませたので、ビルガメシュに撃退されて子供たちと共に山に逃げ帰る場面がある。
神殿に掲げられた奉納額や円筒印章にもアンズーはしばしば描かれ、古い物では紀元前30世紀初めにまで遡り、空を飛ぶ横向きの姿が円筒印章に彫り込まれている。
また、シュメール各地では、翼を大きく広げたアンズーが、左右に配置された鹿、山羊、獅子に爪をかけたデザインが施された出土品が多数出土されている。これは地母神ニンフルサグ(鹿)、水神エンキ(山羊)、戦闘神ニンギルス(獅子)を表し、アンズーはそれらの神よりも上位の存在エンリルを象徴するとされている。
アンズー神話
アッカド語版「アンズー神話」におけるアンズーは、神々と敵対する存在として描かれる。なお、古バビロニア語版では、ニンギルスが主人公とされている。
古代メソポタミアでは最高神が神や人の運命全てを記した「天命の書板(トゥプシマティ)」を保持し調印するとされ、神々の代表者としてエンリル(シュメル語版ではエンキ)が所有していた。
アンズーはエンリルの警護を任としていたが、日ごろから天命の書板とそれによる権勢を目にし続けるうちに自身の物にしたいという欲求を覚え、エンリルが沐浴している間に書板を盗み出し住処のあるクル(山、辺境の意)に逃亡する。
アンズーが書板を持てば、彼の命令が最高神の命令として通ることになってしまうため、エンリルはすぐに奪回に赴く神を選定した。初めは天候神アダドに依頼したが、書板の呪力で粘土にされてしまうことを恐れて依頼を断ってしまう。後に火神ギッラ、イシュタルの息子シャラにも声がかかるが、アダドと同じ理由で断られ、最後にエア神の推薦によりニヌルタが選ばれる。
ニヌルタは七つの悪風を伴ってアンズーに迫り、戦闘を開始する。
しかしアンズーは天命の書板の力によって、ニヌルタが使う弓と矢を構成する全ての材料に働きかけてその攻撃を無力化してしまう。苦戦したニヌルタがエア神に助言を願ったところ「とにかく戦いを続けて疲弊させる」ように命じられ、助言に従ったニヌルタは最終的にアンズーを撃破し、天命の書板を取り返すことに成功した。
新アッシリア時代にはアンズー退治に成功したニヌルタを記念して、メソポタミアの暦で9月のキスリム(現代の11、12月)に国中の神殿で「リスム」と呼ばれる徒競争が行われている。また、紀元前9世紀のアッシリアの王アッシュールナツィルパル2世が建立したニヌルタ神殿にはアンズー退治をモチーフにした浮彫装飾があり、そこでのアンズーは獅子の胴体に翼とかぎ爪を持つ怪物然とした姿で描かれている。
創作での扱い
女神転生シリーズのアンズー
青い羽を持つ獅子頭の怪鳥という原典とほぼ同じ姿をしており、シリーズを通して衝撃属性に特化したスキル構成の中堅悪魔として扱われている。
「天命の書板」との関係はゲーム中でもちらほらと見られ、『デビルサマナー ソウルハッカーズ』以降の新デザインでは両手に書板らしき物を持ち、『真・女神転生NINE』では専用プラグインソフトとして「トゥプシマティ」がある。
『デビルサマナー 葛󠄀葉ライドウ対コドクノマレビト』では、敵に使役された複数体ではあるが、より高位な死神チェルノボグを引き裂くという活躍をしている。
『ペルソナ』シリーズでは「4」と「5」に「法王」のペルソナとして登場するが、おそらく天命の粘土板を盗み出したエピソードに由来すると思われる(「法王」は規律に関する意味も持ち合わせる)。
また、5ではなぜか隠しペルソナの集団合体素材として指定されている。
ファイナルファンタジーシリーズのアンズー
詳細は「ズー」へ。
関連タグ
ズウー:怪奇児童誌『世界の魔術・妖術』に記載された魔神。元ネタはアンズーだという考察がある。
グリフォン:使用部位が微妙に違うが、同じく獅子と鷲の合成獣。
アラエル:姿が似ている天使。ある意味今の姿と言えるだろう