ウル(北欧神話)
うる
母親はアース神族の女神シヴ。シヴの夫はトールだが、ウルは彼にとって義理の息子にあたる。
ウルの血縁上の父親は不明である。
その名は「栄光」を意味し、ノルウェーやスウェーデンにはこの語の入った地名も数多い。
このことは彼が広い地域で信仰されていた名残と考えられている。
北欧のキリスト教化後、(カトリック教会で用いられる)ラテン語形の表記「オッレルス」が生まれた。ラテン語で書かれた『デンマーク人の事績』でもこの表記である。
現存する「ウル」という語の最古の出典はドイツ最北部シュレースヴィヒ=ホルシュタイン州にあるトールスベルク湿原の泥から出土した「鞘尻(刀剣を収める鞘の先端)」に刻まれた碑文「ウル(または「栄光ある者」)の奴隷、しもべ」である。
スウェーデン首都ストックホルムの北でウルに捧げられた聖域の遺構と思しき保存状態のいい遺跡が発掘され「リッラ・ウッレヴィ(「小さなウル神殿」)」と名付けられた。
古エッダの詩篇「グリームニルの言葉」には、ウルがユーダリル(「イチイの谷」)に自身の館を建てた事が記されている。イチイは弾力性に富む事から弓の材料として適しており、写本の挿絵でもウルが弓を持っているものがある。
彼が用いる弓には、グングニルやミョルニルのような固有名詞は確認されていない。
北欧神話から引用した日本のビデオゲーム、アニメ作品に「イチイバル」という表記がみられるが、これはそうした創作作品が初出であり、原典資料にはみられない。
12世紀のキリスト教徒の著述家サクソ・グラマティクスの『デンマーク人の事績』では魔法の呪文を刻んだ骨の船を使い、海を渡った魔術師として登場する。
オーディン(オティヌス)は本書ではロシアの王女とされるリンドを騙して妊娠させ、これを問題視された他の神々によって追放される。代わりに王として建てられたのがウル(オッレルス)であるが、10年後に賄賂で王座を買い戻したオティヌスに追い出される。
スウェーデンに落ち延びた彼はデンマーク人に殺害されてしまう。