キャルドン・ホックリー
きゃるどんほっくりー
「確保しているよ、君が乗る席はないが。勝つのは私だ、諦めるんだな」
演:ビリー・ゼイン
アメリカの鋼鉄王の一人息子である若き資産家でローズ・デウィット・ブケイターの婚約相手でもある。
愛称は「キャル」で、劇中ではもっぱらこの名前で呼ばれる。
婚約者であるローズを愛してはいるが、一方で彼女の心情や嗜好を省みておらず自身の財力をアピールするのみで、当のローズからは内心敬遠されていた。また自身よりも下位の人間に対する偏見意識も根強い。
1912年、イギリスサウサンプトン港よりブケイター母娘と側近であるスパイサー・ラブジョイと共にアメリカへ帰国すべくタイタニックに一等客として乗船。
船がアイルランドの寄港から立った夜、ローズを船尾からの転落から救い出した三等客の青年・ジャック・ドーソンと出会い、その礼としてローズの提案で彼を翌日のディナーパーティに招待する。そのパーティの翌日、ローズとのランチの席で昨日のディナーの後彼女がジャックと共に三等客のパーティに参加していたことに激怒しローズに罵声を浴びせテーブルをひっくり返したのを機に性根の醜さを露わにしていく。
タイタニック沈没の夜、自身の金庫を開けると中からジャックの描いたローズのヌードデッサンを発見したことで、彼女がジャックと惹かれ合っているのを悟りラブジョイに命じてジャックのコートのポケットにローズにプレゼントした「青き海の心」を忍ばせ彼を宝石泥棒に仕立て上げローズとの仲を引き裂こうとするも失敗。
彼女が完全に自分から離れ、出逢って間もないジャックと愛し合っていることが明確になると、これに逆上してラブジョイの懐から拳銃を奪い取り、沈みゆく船の中二人に向けて連射するも弾切れとなり結局取り逃す。
その後、デッキにて親とはぐれ泣いていた一人の幼女を抱え込み、船員に「自分はこの子の親で身寄りが他にいない」と虚言し救命ボートに乗り込むことに成功。(当時はレディーファーストが重視された時代であり、女子供を差し置いて成人男性が救命ボートに我先に乗り込むことは「紳士としてあり得ない」行為であり、キャルの行いは幼女のためというよりは自己保身のための行動だった。)
そして事故からは辛くも生還し、救助船であるカルパチアでローズを必死で探すも結局見つけ出すことは出来ず、以後二度と彼女と再会することはなかった。
当のローズもまた事故からは生還したものの、カルパチアの船員から名前を尋ねられた際に偽名を名乗ったことで、生存者にはカウントされなかった。
その後はローズとは別の女性と結婚し、父の死後はその遺産を相続するも、事故から17年後の1929年、世界恐慌の煽りを受けて破産したことに絶望し、自ら拳銃自殺をするという呆気ない最期を迎えた。
数少ない生還者でありながら、最期は折角拾った命を自ら絶つという因果な末路は、
- 生還者として逞しく生き続け、100歳という長寿を全うしたローズ
- そのローズに約束という形で生きる希望を与え、海へと消えたジャック
- 最期まで自らの責務を全うして死に、後世で評価されることとなった航海士たちや楽団の人々等の殉職者
- 最期は各々が覚悟を決めて船と運命を共にした犠牲者
と対比されていると言える。
更にラストのジャックとローズのタイタニックでの念願の再会の場では、多くのかつてのタイタニックの乗員、乗客たちが二人の再会を満面の笑みで祝福するも、そこにキャルの姿はなかった。
劇中(特にストーリー後半)では自己中心的且つ利己的で傲岸不遜な態度が目立つ性悪な人物として描かれている。それ故に、その最期は因果応報であるといえる。
また当初は彼との婚約が一因による絶望から自殺しようとしたローズがジャックとの交流で生きる決意を抱いたのに対し、一方のキャルは財力を喪ったことによる絶望で自殺したことや、タイタニック内にて拳銃でジャックとローズの命を狙った彼が後にその拳銃で自ら命を絶ったことも、皮肉さがより一層感じられる。ちなみに拳銃に関しては、先述の他にマードックの拳銃自殺を目の当たりにしていたことも挙げられる。
他にも、事故での生死問わず劇中で死亡が描写された当事者の中では唯一ローズのナレーションで語られるのみだった。ローズはラストで永眠を思わせており、側近のラブジョイも直接的な死亡描写はないがそれを臭わすシーンがあったために、登場人物の中ではかなりバッサリ切り捨てられた扱いを受けている印象がある。
上記の通り、彼は他者、取り分け庶民階級の乗客を見下し生命も軽んじていたことや、生き残るのに卑怯な手段を用いたことなどから、登場人物の中では悪役の印象が強い。
尤も、誰でも命も面子も惜しいのは当たり前であり、親とはぐれた幼女を保護し「紳士的に」救助ボートに乗り込んだキャルの手段を非難出来るものでもないが。(史実においては救命ボートに乗り込み助かった成人男性が「女子供を押し退けて救命ボートに乗り込んだ」と誹謗中傷され、自ら命を絶ったケースもある。)
同じ上流階級の一等客でも、劇中では元は庶民とはいえ救命ボートを沈没地点に向かわせるよう船員に指示し一人でも多くの乗客を助けようと協力したモリー・ブラウン、殆どは助からないと知るや生存は諦め「紳士らしく逝きたい」と誇り高い死を選んだグッゲンハイム氏、女子供が最優先だと救助を断り、寝台の上(史実では甲板デッキ)で最期まで抱き合っていたストラウス老夫婦などもいる。
劇中以外の史実においても「貴女には帰りを待つ家族が居る」と既婚の友人を優先して死んだエヴァンス女史、自身の危険を顧みず、女性客や子供たちの避難を助けて落命したエドワード・ケント等、階級問わず他の乗客に救命ボートに乗るよう促し犠牲となった一等客は少なくなかったことから、キャルの腐れぶりは決して上流階級故ではないといえる。
擁護論
ただし一方で、彼視点からしてみれば自身の婚約者を何処の馬の骨か分からぬ庶民の男に奪われたことも確かであり、それを踏まえてキャルに少なかぬ同情を抱く者もいる。
その一人が日本のお笑い芸人である品川祐であり、氏は2019年にテレビ朝日の番組『しくじり先生』に出演した際に『TITANIC』を「婚約者のローズを豪華客船に乗せたら、年下のチャラ男・ジャックに寝取られちゃった物語」と称しキャル目線での独自の解釈を説いた。
また彼自身は一方的とはいえ劇中ではローズを一途に愛していたのも事実である。更に大変高価な価値でありローズも気に入った「青き海の心」を彼女にプレゼントした際に「君が欲しいものは何でも手に入れてみせよう」と寄り添った他、ローズを助けたジャックに20ドルを礼としてあげようとするもそのローズの意見を聞き入れて翌日のディナーへの招待に変更したり、タイタニック沈没の最中には救命ボートに乗れるチャンスがあったにもかかわらずローズの身を案じてそれを自ら蹴る(これに対しラブジョイは悪態をついていた)など、中には彼女を気遣っていると捉えられる行動もあった。
これを踏まえれば、ジャックとローズの駆け落ちに対して逆上し二人を衝動的に殺そうとする気持ちも決して分からなくはない。更に劇中を見ればわかるように、ジャックとローズの交流期間は3日程度しかなく、少なくともそれよりは長くローズと付き合っているであろう彼からしてみればより一層怒りが増す要素になるのは言うまでもない。また本人も自覚はあるが、如何なる事情があれ婚約者がいる身でありながら他の男性と駆け落ちするローズの行動も(当時の価値観からすれば尚更)非常識極まりないのも事実である。
殊に彼が贈った「青き海の心」一つ着けただけの肌も露わな姿を晒したり、彼の高級車内で情事に及ぶ辺りは弁解の余地は全く無いといえよう。
ただし再三述べるように、そもそもの原因は彼の傲岸不遜な人格と態度にあり、上記の品川氏も最終的には「たとえ相手が悪くても対応次第では、自分の方が嫌われ者になってしまうので、決して感情的にならず、冷静に対応することが大事だ」と述べていることから、どの道キャルの劇中での横暴さは擁護の余地はないと言える。現にローズへのDVやジャックに在りもしない犯罪を捏ち上げてその罪を着せたのは許し難い暴挙である。
そんな終始自らのエゴのためだけにしか動かず他者を蔑ろにした彼が、唯一愛した存在であるローズと結ばれず、最後は破滅したのは当然の末路であったといえる。
ただしローズは自身の回顧録でキャルの死に関しても言及していることから、少なからず彼に対して思うところはあったのかもしれない。
実際そもそもキャルがローズとの婚約を承諾しなければ、ブケイター親子はタイタニックに乗船することはなく、当然そうとなればローズはジャックと出逢うこともないまま路頭に迷っていたことは目に見えていたことから、それを鑑みれば結果論ではあるが彼もまたローズを救った人物の一人にして、同時に決して物語には外せない重要人物の一人であると言える。この他に、自分が助かるために利用したとはいえ、迷子になって死を待つばかりだった少女を助けたのも事実である。これまた皮肉な話だが、キャルもジャックと同様に一人の女性を死の運命から救い出したのである。
これらを踏まえれば、キャルもまたタイタニックによって運命を左右された哀れな人物の一人であろう。総じると、彼は独善的且つ傲慢である一方、決して常識や倫理観、人情が欠落しているわけでもない完全な悪人とは言い切れない何とも人間臭い人物であると言える。横暴な態度もまた、婚約者に他の男と駆け落ちされたり、大半は死亡する海難事故に遭遇するなどといった非常事態に立て続けに遭った結果表に出てしまった節もある。ある意味では、劇中の登場人物で最もリアルな人間に近い人物であるのかも知れない。
尚、彼を演じたビリー・ゼイン氏は本作以前には『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズでのビフの取り巻きの一人や、『山猫は眠らない』シリーズに出演していた実力派俳優である。日本語吹き替え声優も、いずれのバージョンもベテランの演技派が起用されるなど、配役面ではかなり恵まれている(2001年の日本のTV初放映ではジャックに妻夫木聡氏、ローズに竹内結子氏と本職の声優ではない役者が起用されたが、その時のキャルの声は江原正士氏が務めた)。ちなみにTV版の担当声優である江原正士氏は、同監督作の『ターミネーター2』の敵役であるT-1000の吹き替えも担当している。
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映画のTITANIC見て衝動の末に書いたものです。 ローズ視点。ローズの家族や婚約の経緯は書いたヤツの捏造です。一個人の二次創作なのでアラが目立つのはご容赦を。 公開されてから25年も経つんですね…当時まだ子どもだった私はスクリーンで見ることは無かったです。だから見るとしたらDVDとかテレビで放送されるやつとか。 名作とはどの世代が見ても面白いと感じるもの、と聞いたことがあります。 三十路となった今見ても思うのは、レオ様の麗しさが神が手ずから作り上げたような美貌だなぁとか、ローズ役のケイト・ウィンスレットがホント美人だなぁとか、キャルは昔見たとき嫌な人だったけど今見るとちょっと不器用で可哀相なところあるなぁとか… その中で気になったのが、ローズとキャルの関係。 二人は婚約者同士という関係ですが、タイタニック沈没時でも二人の距離全然縮まってないんですよね…ローズが「アンタの妻になるくらいなら彼(ジャック)の情婦になるほうがマシ(意訳)」って…キャル、アンタ今までどんなアプローチしてたんだよ、まぁ本編での彼の言動見ておおよそ察しましたけど。 キャルって、当時の男性にしては紳士的で誠実なほうだったと思うんですが(自分なりにローズに歩み寄ろうとしてるし)ただ決定的に相性悪かったんだろうな、と。もしあのまま結婚していても遅かれ早かれ結婚生活破綻してたと思う。決定的な何かがあるわけじゃないけど、どちらかに瑕疵があるわけじゃないけど、些細な事の積み重ねがどんどん積もり積もってどちらかが爆発して修復不能なまでに夫婦仲崩壊するパターンかと。まぁキャルの本質が自分本位で独りよがりな好意だから(彼なりにローズのことは愛していたようですが…その好意ってローズが名家の令嬢でおまけに美人と男なら余所に自慢できる妻だから、ってのが大きそう。でも大声で怒鳴ったりするのはダメ)ローズはそれを察知して嫌っていたんでしょうね。感受性の強い娘さんだから、キャルの本性を無意識に見抜いていたのかもしれません。 そういやキャルって何歳の設定なんだろう?ローズが当時17歳だから、キャルの立場から推測して当時20代半ば~30前後くらい?低く見積もっても10歳くらい離れてるのか。だとしたら色んな意味で大人げなさ過ぎる… 長々すいませんでした。9,436文字pixiv小説作品