クレイユ村
くれいゆむら
カルバード共和国北西部、ヴィシー群のシェダル大丘陵の麓に存在するおよそ千人が在住する農村。東方系、中東系を初め反移民主義の影響が強い北部では珍しく移民系の住民が多く在住している。導力革命以前の石造りの建物と大きな風車に田園風景が特徴。素朴な村ながら風光明媚で郷愁を感じさせる上に導力車で数時間という程々の距離で導力バスも運行しているために首都方面からの観光客も多い。
名産はそばであり、宿酒場では村で栽培されたそば粉を使用したガレットが振舞われている。農作物の質も良く、首都から取り寄せる業者も多い。
オレド自治州やレミフェリア公国、大陸北部の自由都市圏にもほど近く猟兵団も物資の買い出し及び宿泊目的で利用しており、住民達も彼らの利用を受け入れているために猟兵団の間では暗黙の非戦闘地域となっている。
導力映画の黎明期、映画の舞台として撮影に使われたことでも業界内では有名である女優にとっても思い入れが強い。
七耀暦1207年頃にはある一団も訪れるほか、アークライド解決事務所も仕事で訪れたことがある。
ちなみにシェダル大丘陵ではリベール王国の古代兵器と似た巨像が出土している。
だが、平穏温厚であったはずの村が、《百日戦役》や二度の《クロスベル事変》、《ヨルムンガンド戦役》のような最悪にして最大規模の悲劇に巻き込まれてしまう。
反移民主義テロの黒幕であるオラシオンの旧貴族達からの資金提供を受けていたマフィア・アルマータが、開発していた新兵器である《反応兵器》のデモンストレーションの舞台としてここを選んだのである。
アルマータの首領であるジェラール・ダンテスを追っていたディンゴ・ブラッドを含め、数多くの罪のない村人や観光客を巻き込みながらジェラールは反応兵器を発動させる。
アルマータが使用した反応兵器によってクレイユ村は文字通り跡形もなく消滅してしまい、住民達はほぼ全員が命を落としている。共和国のみならず、大陸中を震撼させる大事件になった。しかも、折り悪く事件当時クレイユ村は収穫祭を行っていたためにそれを目当てに訪れていた観光客も巻き込まれる形となり、共和国の歴史に残る大惨事となってしまい、後の通信誌などにも史上最悪のテロ行為と記述されている。
当然のことながら共和国政府はCIDと軍、警察を通して調査に乗り出すとともに遊撃士協会が事態収拾のために動き出し、裏社会での対抗勢力の黒月はもちろんのこと七耀教会もアルマータとスポンサー達を『外法』として抹殺するべく動き出し、身喰らう蛇もこれ以上は計画の支障となると判断したアルマータ、それと連携する暗殺組織『庭園』を諸共に皆殺しにするべく行動を開始する。更に各国の軍や政府、情報機関の依頼を受けた猟兵団など、表と裏の様々な勢力がそれぞれの思惑で動き出す。
この事件を受けてリベール、クロスベル、帝国の英雄達も共和国にいる仲間の連絡と前後して行動を起こしている。
尚、兵器開発に出費していたスポンサー達もこの結果にはさすがに青ざめ、慌ててアルマータと手を切ろうとするが既に遅く、スポンサーの一人であるクインシー社代表取締役のエドモン・オークレールが七耀教会典礼省直下の僧兵庁から『外法』認定される上にA級遊撃士の娘に逮捕され、エトワス社の社長や同様の旧貴族達も逮捕されることとなる。
なお、人種に隔たりの無い村という側面が反移民テロの対象として選ばれた理由ではないかという推測も作中ではあったが、実際に理由は東方系に中東系の住民も仲良く暮らしている珍しい村だったので、スポンサーにアピールする意味でも格好の標的だったとメルキオルがジェラールに進言した結果だった。
ある意味推測通りの理由なのだが。当然そのスポンサーたちもそこまでの事を考えていたわけではないのでクレイユで起きたことを本気で恐れていた(もっとも、七耀暦1204年に発生したクロスベルの通商会議襲撃も旧貴族達が黒幕で、そちらも場合によってはオルキスタワー倒壊とそれによる都市部の壊滅というクレイユと同等かそれ以上の大惨事を引き起こした可能性もある)。
メルキオルは当然、これらのスポンサー達の反応を嘲笑していた。おそらく、移民排斥を分かりやすく実行してやったのに、結果に青ざめた彼らの醜態自体が滑稽に映ったのもあるだろう。
実行犯のジェラールの目的は恐怖を知らしめること。
真の恐怖の前には誰しもが平等というただそのことを示すためだけに、罪もない子供も含めたクレイユ村の人々の命を奪ったのである。
年が明けてもクレイユ村は共和国軍により封鎖されており、犠牲者の親族が弔いにすら訪れる事すら敵わない状況となっている。
複数の団体や企業が協力して慰霊や村の再建を目的とした基金活動が行われ、目標額に達しても引き続きクレイユ村のための活動は継続される見込み。
基金で集められたミラはクレイユ村住民の親族への寄付や慰霊施設の建設、村と共に失われた特産品産業の再興などに充てられつつ、いずれ封鎖が解除された際に村を再建することも目標に積み立てられている。
反応兵器はその原理上放射線が撒き散らされてしまう性質があるのだが、消滅後のクレイユ村の科学部隊による調査において、これらが確認されていないという謎が作中で提示されている。
カトルは「通常のプロセスをスキップして起爆すればそういう事もありえるかもしれない」と予測を立てている。
そもそも反応兵器はデビット・キャラハン教授が作ろうとしていたものだが完成させることはできなかった。
しかしシャードによる《爆縮レンズ》と特級封印指定物である古代遺物《聖魔剣アペイロン》で強引に起爆させるという本来必要なプロセスを無視して結果にだけたどり着いた代物がクレイユ村で使われたものである。
この謎については現状黎の軌跡Ⅰ及びⅡの両方で明かされていない(Ⅱの序盤でも改めてこの謎について言及されている)。
アルマータ――クレイユ消滅の実行犯。真の恐怖を示すために悲劇を起こした。尚、この時何も知らずに反応兵器を運んでいた古株のロビン・グラスゴーは事件後に自分が何を運んだのかを悟り、その後も脅迫同然でオラシオンに反応兵器を運んでいる。
???――エレボニア帝国とリベール王国の国境付近に存在した小さな村が壊滅した事件。これ自体の犠牲者は数十人規模だが、権力回復のための戦争の口実作りというある意味で最低最悪の理由で起こされた。決定的な違いとして、帝国の圧力によりこれに起因する被害者側であるリベールもこの事件を口外しないという約束を結ばされているため、事件自体が自然災害という形で隠蔽されてしまい世間には広く知られていないことが挙げられる。
旧貴族――アルマータのスポンサー。ただ、さすがに村一つが消滅する大参事は彼らの慮外であり、結果的に支援した側であるアルマータからも既に用済みと切り捨てられ、アルマータから提供された証拠により失脚することとなる。