背景
日本語はその言語の成立過程において、著しい子音の後退が起こった言語である。
例えば「R」音と「L」音の区別がなく、どちらも両者の中間的な音で発音され、「Q」音や「Kh」音、「Th」音に限ってはそもそも存在しない。
同様の傾向はセム語派に対する印欧語でも見られるが、日本語は世界でも類を見ないほどにその特徴が先鋭化されている。
このことは日本語話者が英語などの外来語を学習する上での大きなハンデとなっているばかりか、逆に幼少期から子音と母音を明確に弁別して考える印欧語話者にとって、日本語を習得困難な言語たらしめている大きな理由でもある。とりわけ、日本語話者のアラビア語やスラブ語習得は無理ゲーレベルであり、比較的文化的に近しい中国人や韓国人にとっても日本語は「読み書きはなんとかなるが、会話は極めて習得困難」な言語としてよく知られる。
この子音の後退に伴って、中でもカオスな様相を呈したのが、「サ行」「ザ行」および「タ行」「ダ行」である。 /> サ行において「さ、す、せ、そ」は「S音」であるが、「し」のみは「シャ行」同様の「Sh音」である。
また、タ行に至っては本来の「T音」で読まれるものは3つしかなく、「ち」は「チャ行」と同じ「C音」の借用、「つ」に至っては他の母音では一部の方言を除いて消滅してしまった「Z音」である。
濁音はさらに複雑で表記上は「ざ、じ、ず、ぜ、ぞ」「だ、ぢ、づ、で、ど」が存在する。
このうち、「ざ、ず、ぜ、ぞ」「だ、で、ど」は本来の表記通り「X音」「D音」で確定しているが、「じ、ぢ、ず、づ」の所謂「四つ仮名」については明確な音価が確定しておらず、各地の方言によってどこまで弁別するかが異なる。
四つ仮名の区別をめぐっては、以下の4類型が存在する
じ | ぢ | ず | づ | 備考 | |
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グループ① | Ji | Di | Xu | Du | 四つ仮名を全て別の音で読む |
グループ② | Ji | Ji | Xu | Du | 母音が「u」の場合のみ子音を区別する |
グループ③ | Ji | Ji | Xu | Xu | 母音のみを区別し、子音は区別しない |
グループ④ | Xu | Xu | Xu | Xu | 母音も子音も区別せず、全て同じ音で読む |
グループ②は大分弁のみが該当。
グループ①は薩隅方言、宮崎弁、筑後弁、佐賀弁、土佐弁しか現存しない。
そして、グループ④の、四つ仮名の区別を喪失したグループが「ズーズー弁」と呼ばれる。
具体例
よく東北弁の別名のように誤解されるが、これは学術的に全く正しくない。
ズーズー弁であるか否かは言語学的な区分とはあまり関係ないことがわかっている。
東北弁の大半、とりわけ津軽弁や南部弁などの、比較的メジャーな方言が軒並みズーズー弁であることも事実だが、茨城弁や宮古弁のように、東北弁であってもズーズー弁ではない例もあるし、富山弁や出雲弁のような関西弁系の諸方言にも、ズーズー弁は存在する。
蔑称として
れっきとした学術用語だが、ズーズー弁話者の多くを占める東北地方出身者の中には、この言葉を一種の差別用語であるとして忌み嫌う人間がいるので注意が必要である。とりわけ、関西人がこの言葉を使ったときに極めてナイーブな反応を示す東北人は多い(これは、古くから朝廷(=京都)により蝦夷地として差別されてきた歴史や、サントリー社長による舌禍発言の影響という側面もある)。
そのため、幾度となく言い換えが検討されてきた表現もあるが、現状「裏日本式音韻」など、かえって失礼にあたる語しか考案されておらず、少なくとも2022年現在は未だ学術用語として利用されている。