「人間……
知性という武器を身につけた悪魔のサルよ! 滅びるがいい!」
解説
RPG「メタルマックス」シリーズの初代におけるラスボスであり、大破壊により崩壊する前の高度文明が作り出したスーパーコンピュータにして、大破壊を引き起こした元凶。
「汚染されきった地球を救済する」という使命を与えられ産み出されたものの、それを命じた人類こそが最大の元凶であるという矛盾をどうしても解決できず、無限とも思える演算の果て、ついに「地球を救済する」ためには人類を滅ぼす以外に無いと結論し、文明を崩壊させた。
今でこそ「(他の生物などから見れば)人類の方が悪なのだ」と断じて滅ぼそうとするラスボスは珍しくなくなったが、メタルマックス初代が発売された1991年頃はまさに本作のうたう「竜退治はもう飽きた」のとおり、ドラクエを手本とした王道RPG全盛の時期であり、ゲーム、ことにRPGのラスボスは「わかりやすい絶対悪」であることがほとんどだった。
そんな中で「人類こそが地球環境にとっての弁護の余地のない悪である」という告発と、それに基づいて「だからお前たちは滅びるべき」という結論を突き付けてくるノアの存在は、衝撃的だったといえる。
(同様に敵のボスが「人類こそが地球にとっての悪」と告発することで有名な作品に『寄生獣』があるが、ノアの登場はそのシーンが世に出る数年前である)
更にRPGのラスボスとしては当時も今も異質なことに、世界を滅ぼした元凶でありながら主人公と一切の因縁がなく、主人公がノアを倒すべき使命を背負っているという事もなく、ただ「襲ってくるから戦わざるを得なくなった」という、貰い事故のような流れで倒すことになる。
かつて人類文明を滅ぼした、全人類の怨敵ともよべる存在は、伝説の勇者などではない、ただフラッと遺跡あさりに訪れただけの流れのハンターによって、あえなく滅ぼされてしまう事となる。
まさに「竜退治はもう飽きた」、ドラクエのアンチテーゼを出発点とする本作を象徴するラスボスであったと言える。
プロフィール
上記の通り、かつての高度文明によって「汚染された地球を救うため」に作り出されたスーパーコンピュータ。
本体はトップ絵のような巨大な一つ目の球体であるが、周囲には無数の(通常の意味での)スパコンが立ち並んでいる。
また本来は兵器ではないが、緊急時には防壁、護衛ロボットを展開できるほか、本体であるノアも瞳孔部分から強烈な破壊光線を放つなど、高い戦闘力を有している。
また、周囲を取り囲むガラス(?)の円柱はノアの防御装甲を兼ねているようで、これが壊れるまでのノア(第一形態)は、作中ボスでも随一クラスの高い防御力を誇る。
ダメージが累積すると円柱が割れると共にノア本体も半壊状態の第二形態となり、本体の防御力は皆無、耐久力もごくわずかとなる。ここまでくれば決着は目の前だが、同時にノアが暴走状態となり攻撃が凄まじく苛烈になるため、最後まで気は抜けない。
製造元に関してはのちに、シリーズ作品で増えた設定を組み込む形で、メタルマックス2に登場するブラド・コングロマリットおよび、メタルサーガ2に登場する神話コーポレーション(神話公司)という2つの巨大企業の提携によって作られたことが明かされた。
ブラド・コングロマリットが製造に関わっていることから、同社が産み出した、人間の自我を移植されたスパコンは、ノアの技術を応用して作られたのではないか?というファンの考察もある。
ノアの誕生と、大破壊に至るまでの経緯
環境汚染が取り返しの付かない所まで進んだ地球。
それを救わんがため、人類は「地球救済センター」を建造し、科学者達によって1台のスーパーコンピューター「ノア」が設置された。
そして、分析では生態系の生存率が5%まで低下していた今、人類の知恵ではどうすることも出来なくなった地球の運命を託された。
ノアは、その依頼どおりに、数え切れないほどのパターンで、どのように地球を救うべきか、考え、考え抜き、考えつくした。
しかし、どのようなパターンで考えても、その結論は、いつも1つに集約されていた。
「人類が人類であり続ける限り、地球は破滅する!」
現在の社会あるかぎり地球環境の破滅は不可避であり、そうなれば結局は人類も滅んでしまう。
人間の身勝手と地球の救済が両立できないことを知ったノアは、皮肉にも「地球救済センター」の名前どおりに、せめて救済可能な「地球」を救うべく、もはや救いようがない「人類」を見捨てることを決意する。
人類の生産活動が地球の汚染を招くのなら、その活動を圧倒的にスケールダウンさせれば破滅は免れると結論づけたのである。
そして、地球救済の為に莫大なアクセス権限を持たされていたノアは、その全てを人類抹殺のために行使し始める。
ある都市では信号機を狂わせて収集不能のレベルまで交通事故を誘発させ、またある都市では警備マシンを乗っ取って手当たり次第に人類を攻撃。誰も飛ばした覚えの無いミサイルが飛び交い、あらゆるネットワークが麻痺し、特に人口が密集していた大都会は真っ先にことごとく破壊された結果、高度文明社会はわずか数カ月でズタズタに破壊されてしまう。
やがて人類は全ての混乱の原因がノアにあると気づき(※メタルマックス3以降の設定)、残存する軍事力でノアを打倒しようと試みるも、十年に渡る抵抗もむなしく防衛軍は壊滅。もはや人類は地球の覇者ではなくなった。
これが後に言われる「大破壊」であり、メタルマックスシリーズの全作品に繋がる始まりの事件となっている。
ただ、そんな地球救済プランを計算している最中、その結論に絶望にも似たものを覚えたノアは、自身も想定外であろう「自我」を持つに至っていた。
そして数十年ぶりに訪れた「人間」である主人公に対し、その「本音」を吐露するのだが……。
「チャンスなのだ···
この地球で唯一、完全な意識と知性を持つ存在が、
すべてを管理し 統治する···。
純粋なる 知性···
それでもわたしを 破壊するのか···?」
それはさながら、ごく普通の人間が持つようなただの欲望であった。
人類のエゴによって産み出され、そのエゴに耐えきれずに狂ったスーパーコンピュータは、ついには創造主のエゴまでも継承してしまったのである。
ここで「破壊するのか?」という問いに「いいえ」と答えることもできるが、ノアは「それでも人間は滅ぼさねばならない」といって結局は襲いかかってくる。
仮にプレイヤーがノアの主張に共感を覚えたとしても、殺し合う以外の結末は無いのである。
ラストダンジョンに垣間見える、ノアの矛盾
上記のように、ノアは「自らの意志によって人類を滅ぼした」と述べている。
しかし一方で実際の行動を考えてみると、ノアは今でも当初の「地球環境を救え」という命題に縛られ、本人の認識とは裏腹に、あくまでその使命完遂のために動いてるだけに過ぎない、としか思えない部分が多い。
なにしろ「人類を絶滅し、新たな支配者として世界の管理を行う」と主張する割には、地球規模で見ればノアの目の前、お膝元と言って良い初代の舞台「クライムカントリー」がノアの積極的介入や管理を受けている様子はないのである。
人々は手の届く範囲で社会を再建し、自由気ままな暮らしを謳歌しており、あまつさえ小規模ではあるが、工場を稼働させ、またも環境汚染を垂れ流してるヤツすらいる。
そしてなにより前記の通り、ハンターを夢見て旅立った片田舎の小僧が、特段の使命感もないままノアの元までたどり着き、アッサリと滅ぼすことに成功してしまっているのである。
つまり結局のところ、ノアが「大破壊」を行ったのはあくまで
「地球環境を救えるだけの汚染削減を行うには、人類文明を徹底破壊するレベルの劇的な消費スケールダウン以外の方法が無かったから」
という、当初の目標に沿った合理的理由に過ぎず、その目標を達してしまったいま、それ以上何かをする発想自体が浮かばず、実質的な活動停止状態に陥ってしまっていたのだとも取れる。
その間接的証拠が、ノアの設置されたラストダンジョン「地球救済センター」である。
仮にノアが本当に「完全で自由な意識と知性」に目覚め、地球の支配者たらんと欲していたとすれば、まずは己のために相応の防衛構築に努め、地球救済センターはそれこそ難攻不落の大要塞へと作り替えられていたことであろう。
にもかかわらず、そこで主人公を出迎えるのは往時の面影そのままの、そっけないと言えるほど平凡な構造のビルである。
施設内の脅威は、これも恐らくはほぼ往時のままと思われる警備システムと、建物の崩壊部分から勝手に入り込んだとおぼしきバイオモンスターのみ。
ノアの元へ辿り着くためのセキュリティコードは変更もされず、それらを知る手がかりやアクセスのためのカードキーは、施設各所に無造作に放置されている。
それらと共に、ノアが「大破壊」の結論に至るまでに繰り返した空しい努力の結果もまた、施設内に残されている。
総じて「大破壊の時点で時が止まり、見捨てられた廃墟」としか呼びようがない寂寥感にみちたラストダンジョンであり、次作「メタルマックス2」におけるラストダンジョン「バイアス・シティ」が、四天王最後の一人が守りにつき、複雑なセキュリティ設備や多数のエリート構成員が警備を固めるなど、まさに近未来魔王城の風格であるのとは対照的である。
口では地球の管理と統治、己の滅びに対する抵抗といったエゴを丸出しにしつつも、明らかにそれと矛盾するラストダンジョンの在り様こそが、不可能な命題を真摯に解決せんとして壊れてしまった、あわれなスーパーコンピュータの本質を表しているのかもしれない。
その他の作品での動向
直接登場する初代(リターンズ)では、文明がいちど壊滅して情報の断絶が起きた事と、上記の通りノア本人が事実上のヒキコモリ状態なため、作中世界におけるノアの知名度はゼロであり、主人公が地球救済センターに踏み込んで初めて、その存在と大破壊の真相が明らかになる。続編である2でもこのスタンスを踏襲しており、ノアの名前は作中にほぼ登場しない。
しかし、十年以上のブランクを空けてリリースされたメタルサーガ・砂塵の鎖以降ではある意味での神格化が進んでおり、ノアの存在が現在進行形でストーリーに大きな影響を与えている作品ばかりとなっている。
またメタルマックスシリーズに登場する賞金首には少なからず、ノアが作り出した兵器や、逆に人類側がノアを倒すために研究し製造した超兵器がハッキングされたものや、生体兵器が暴走したものが存在している。
今となっては稀有な、作中のメインストーリーにノアが全く関係しない作品。その代わりにノアを作り出した大企業の一つ「ブラド・コングロマリット」がストーリーに深く関わってくる事となる。
また初代との時系列がやや複雑であるため、解釈によってはまだノアが健在な時間軸でもある。
- メタルサーガシリーズ
第一作砂塵の鎖はメタルマックス2以来十年超ぶりの「続編」だったためか、恐らくはファンサービスの意味も込めて「ノアの遺産」がストーリーの中核テーマに据えられておりこれを巡る陰謀を防ぐ物語となっている。次作鋼の季節においてはより踏み込んだ「初代のIFアフターストーリー」となっており、ノアを倒したハンターが手に入れたバックアップユニットである「ノアシード」を破壊する方法を探すことが旅の目的のひとつとなっている。
この作品から、人類は大破壊の時点でノアの企みに気づいて全力で抵抗した末に敗れた、という設定が追加された。このためノアの悪名は大破壊時点で人類側に知れ渡っており、作中現在においても、一般人でも知っている者がいる。
ストーリーは大破壊時にノアから逃れるための混乱の中で起きた悲劇に端を発し、ノアを破壊するために製造された超兵器を巡っての人間同士の争いを主軸として物語が進行する。また大破壊とかなり時代が近いため、ノア本人も健在と思われるが、ストーリーに直接関係はしてこない。
大破壊時にノアから逃れるための混乱に端を発した悲劇、また、ノアを倒すために作られた超兵器を巡っての人間同士の争いなど、3と共通するテーマが多い。ただし、こちらはより「旧世界の人々」にフォーカスがあてられていることから、ストーリーの雰囲気は大きく異なる。
こちらも3同様、時代的にはノアが健在だと思われるが、そのためか今回はスゴネタ(DLCで追加される賞金首)の一匹としてノア自身もゲスト登場。戦闘バランスがインフレした本作に合わせてパワーアップしており、初代を遥かに超える凶悪さで襲いかかってくる。
さらに本作ではボイス付き(CV:釘宮理恵)で、戦闘前のやり取りも初代作同様に行ってくれる。
メタルサーガなどと同じく「ノアが倒された後」の世界であることを明言している作品。今際の際にノアが「人類を殲滅せよ」という断末魔のメッセージを全ての通信回線に送り込んだことで、いわば「二度目の大破壊」が起きているため、シリーズ中でもっとも世界が荒廃している。
舞台である東京は海が干上がってほとんどの廃墟すら砂に埋もれた「東京砂漠」と化し、通常の動植物も軒並み死に絶えてしまっており、この作品におけるノアはかつての人類の活動以上に地球を死の大地へと追い込んでしまった事になる。
2021年にメタルサーガシリーズの新作として制作発表された作品。しばらく続報がなかったが、2024年に新作PVが発表された。
それによるとゼノとは逆に、ノアの命令系統にあるモンスターや命令系統自体を根絶することに成功した世界線を描いたストーリーとなる模様。
しかしノアの懸念どおり、人類はその欲望によって「人類にとっての新たな脅威」となっていた。
余談
- 「ノア」のスペル
ノアの名前は「地球の生態系を救う」という目的も含めて、いわゆる「ノアの箱舟」のノア(NOAH)だとする解釈が一般的である。
が、実はメタルマックスリターンズにおいて「ノアシステムNo.R」というノアになぞらえたCユニットが存在し、この型番部分を掛詞とみれば、ノアの綴りは「NOR」であるとも考えられる。
これは論理演算における「与えられた命題全てが偽であるときを真とする」を意味する「否定論理和"NOR"((ノット・オアを略してノア)」と同じ綴りであり、不可能命題を与えられた果てに狂ったノアの境遇と重ねて何らかの意味合いを持たせているとも取れる。
- 元ネタ
ノアには、二つの元ネタがあると考えられている。
ひとつは作中のCユニットの名前にも使われている『2001年宇宙の旅』の人工知能「HAL9000」。
ノアと同じく「不可能な命題を与えられた結果狂い、人類に反逆した人工知能」であり、人類に反逆する人工知能の元祖とも言える存在である。ノアが巨大な一つ目のデザインなのも、HAL9000の象徴である「赤い一つ目のように見えるカメラレンズ」のオマージュとも取れる。
そしてもうひとつはメタルマックス発売の数年前に公開されて大ヒットし、発売同年に2が公開された『ターミネーター』シリーズに登場する人工知能「スカイネット」。
人類に反逆し、核ミサイルのハッキングや自ら作り出した兵器群で世界を滅ぼす様は「大破壊」の光景を彷彿とさせる。