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概要編集

パキケタスともいう。

5300万年くらい前(始新世前期)に生きていた原始的なクジラ類で、知られる限り最古のクジラ

仮にもクジラの祖先なのに、しっかりとした足が4本あって元気に地上を歩き回れるその姿は大型犬のよう。だがイヌ(食肉目)とは無縁であり、系統を解析した結果偶蹄類に含まれることがわかった。

※当時はまだイヌの仲間は影も形もなかった。一応原始的な食肉目はいたが、小さなイタチやジャコウネコのような姿であり、これがイヌやネコなどに分かれるのはもう少し後の時代である。

 

学名は「パキスタンのクジラ」という意味で、名前通りパキスタンで発見された。

どことなく「パキケ」ファロサウルスを連想させる名前だが、こちらの区切りは「パキ(パキスタン)」+「ケトゥス(クジラ)」。パキケファロサウルスは「パキ(厚みがある)」+「ケファロ(頭)」+「サウルス(トカゲ・爬虫類)」となる(そして発見地は北アメリカ)。


特徴編集

体長1.5メートル程(大型犬くらいのサイズ)で、指先には小さな蹄がついている。化石には残っていないが、骨格から推測される生態から後ろ足に水かきがあったと考えられている。

ちなみに最初に発見された化石は足部分が不完全だったので、スリムなアザラシのような体型で復元されていた(その後足までしっかり残った化石が見つかったので無事修正された)。

※この当時、上述のように食肉目はまだ原始的なものばかりで、まだ鰭脚類(アザラシやアシカの仲間。食肉目に内包され、祖先はクマやイタチに近い)は存在していなかった。

 

鰭脚類の最古の仲間とされるエナリアークトスは約2200万年前(漸新世。始新世の次の時代)に現れたが、この時代にはとっくに水陸両用スタイルのクジラはいなくなっており、その空白域に進出する形で鰭脚類は進化した。

 


クジラと偶蹄類編集

似ても似つかない両者だが、実はパキケトゥスは脚の骨に偶蹄類固有の特徴を持っている。更に現生のクジラは偶蹄類しか持ってない内蔵の特徴(肺の気管支や胃の構造)をそのまま有している。

また化石や遺伝子の解析から、クジラは偶蹄類の中でも特にカバと近縁ということが知られていて、パキケトゥスはその「共通の祖先」から分かれて間もない時点の動物だったようだ。

 

そもそも原始的な偶蹄類は小型かつ現生のイノシシのように雑食の動物だったとされ、その中には植物食に移行したもの、雑食を維持したもの、水辺の暮らしに活路を見出したもの(カバ・クジラの共通の祖先)などがいた。そこから水辺の植物を主に食べるもの(カバ)と魚を主に食べるもの(クジラ)に枝分かれしていったと考えられている。

 

暮らしぶり編集

海辺に生息し、魚を主食としていた半水生の動物。

現在のアザラシカワウソのように陸上で過ごすことも多かったようで、クジラのご先祖様といえどいつも水中にいたわけではないようだ。とはいえ目が頭の高い位置にある(水中に身を沈めながら水面から頭を出し周囲を窺うための特徴)など水中への適応もしつつあった。

  

ちなみにパキケトゥスは耳の骨が厚いため空中の音が聞こえず、地面や水を伝う振動によって音を拾っていた模様(そもそも我々が音を聞けるのは、耳の骨が薄くて空気振動をよく感じ取れるからである。カバだって普通に音が聞こえる)。

なおこの「耳の骨が厚い」という特徴は現在のクジラにも受け継がれている。それでクジラの仲間だとわかったのだ。

 

  • パキケトゥス流「音の聞き方」

1.鼻先を地面につけます(液体である水の中でも可)

2.音がアゴを伝う振動となって響いてくるので、これを音に変換します

3.ね、簡単でしょ?

 

空中を伝う音が聞こえないのはかなり不便にも思えるが、水中ではアゴ全体で音を拾えるのでカバーできる上、水圧で耳骨がダメージを受けてしまうリスクも低減される。まして海には競合するライバルがほとんどいないため、彼らにとってはむしろ好都合だったようだ。

こうして始まりのクジラたちは海への進出を進め、同期だがより水中に適応したアンブロケトゥスプロトケトゥスといったやつらが現れ、始新世も半ばを過ぎた頃(数百万年後)にはバシロサウルスなんて怪物も登場。しかし時代が下ると彼ら「原クジラ類」は滅び、唯一残ったドルドンの仲間や、漸新世以降に現れたグループがひげクジラ・歯クジラのルーツとなって現在に至るのだ。

 

関連タグ編集

哺乳類 古生物

鯨偶蹄目:偶蹄類と統合してこの名称を用いる意見もある。

クジラ目 クジラ

ムカシクジラ:始新世のクジラ類の総称。古鯨目とか原クジラ亜目とも訳される。

 

プロトケトゥス:このグループの代表にしてもっとも進化していた仲間。足がヒレに変わり、尾びれもあった。

 

ヘビ:空中の音が聞こえない生物。

ただしこちらは鼓膜を持たないためであり、クジラ類とはつくりが違う。蛇使いがヘビを操れるのは笛の動きや身振りなどによるもの。

 

ジャイアントペンギン:暁新世~始新世にかけて栄えた大型のペンギン類の総称。クジラ類が進出するにつれて衰退、絶滅したと考えられている。

 

カイギュウ海牛):同じくらいの時期に南米で誕生。原クジラ類とは地域が異なることや、そもそも草食(一部は貝・甲殻類食)だった事が幸いして競合する事なく栄えたが、それ故にクジラ類ほど広がらなかった。ちなみにゾウの親戚。

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