概要
惑星ボォスの平民出身の騎士。
幼少期から強力な騎士能力が発現したが、平民の家であったことから周囲の妬みを買い、年端もいかないうちに一家離散してしまった。
行き場も無くカステポー地方で騎士能力を使った労働で日銭を稼ぎながら路上生活をしていたところ、壊れファティマのバーシャと出逢い、彼女とともに共同生活を始める。バーシャから騎士の心得や数々の騎士剣技、戦闘術、サバイバル技術を学んで鍛え上げられるうちに彼女に惹かれるようになり、いつかバーシャを直し、そのパートナーに相応しい『一流の騎士』になることを目指すようになる。
修行生活の中でちょくちょく悪党や不逞騎士退治などを行っていたことでカステポーの街でも名が知られるようになるが、ある日に遭遇したデコース・ワイズメルとの私闘で敗北。しかもデコースに黒騎士としての資質を見たバーシャは本来の人格に戻り、デコースをマスターとして選んでヨーンの前から去ってしまった。
その事実に幼いヨーンは苦悩し、騎士になることを拒むようになり、デコースを倒すことを目標として放浪生活に入る。この時、左腕に負った傷跡はデコースとの因縁の証となる。
後にミラージュ騎士団に無理やりスカウトされる形で入団させられ、ライトナンバー20を拝命し第3期ミラージュの中核を担う天位騎士になる。
人物
主人公然としたキャラクターあり、何かとクセが強い性格の登場人物がひしめく本作では非常に珍しい人物である。
バーシャと暮らしていた頃は純粋に騎士に憧れる素直で可愛らしい少年だったが、一般人からの嫉妬や騎士の傲慢さといった現実を目の当たりにしていったことで、打倒デコースを目指すようになってからは一転して鼻っ柱が強く斜に構えた態度へと変化し、相手が一般人であろうと必要とあらば星団法を無視して暴力を振るうなどあちこちでトラブルを起こすようになっていた。
しかし、本質的には正義感が強いどころか根っからのお人好しの善人であり、普段の斜に構えた態度も徹底する事は出来ず、困ってる人を見ると放っておくことができない。
各地でトラブルを引き起こしていたのも、この性格が原因。騎士の能力と特権を傘に着て横暴を振るう不逞騎士や、ファティマ達が人間に逆らえないのを良いことに弄ぼうとする輩などを見かけては成敗するためにケンカを吹っかけて回っていたわけである。
結局、そこをアイシャ達に付け込まれ、行き場の無かったはぐれファティマ・パルスェットを放っておくこともできず、うっかりアイシャの口車に乗せられる形で契約してしまった。
本人にその気は無いのだが、とにかく作中で様々な女性キャラクターと縁ができるのも特徴で、常に女に育てられる男でもある。心に何かしら傷のある女性は、決して彼を放っておく事が出来ない。
気性の荒いアイシャやナイアスといった女傑たちでさえも、彼の「最初に憧れたものが世界で最高のものだった」という点にシンパシーを感じざるを得ず、ついつい無用の世話を焼いてしまうほど。ワスチャや桜子が図らずしも深く関わってしまうのは当然のことといえる。
過去の経験から騎士を汚い者として拒み蔑んでいるが、アイシャからは、それを彼自身の高潔さ、そして彼の考える騎士への理想の高さと思い入れの強さゆえと評されている。
騎士ヨーン・バインツェル
少年時代にバーシャから受けた修行によって、騎士としての才能と実力は既に超一流のものを持っており、足りないのは経験だけ。
ヨーンと戯れに交戦したユーゴ・マウザー教授によれば、「天位クラス以上」とのこと。
バーシャと暮らしていた頃の時点で大人の騎士数人がかりを相手どって返り討ちにするだけの実力を発揮していた他、その頃に出会ったクバルカン法国のルーン騎士ミューズ・バン・レイバック枢機卿には破烈の人形を扱えるだけの才覚があると見込まれていた(実際、ミューズはヨーンをクバルカン法国へと誘ったが、彼はこれを断っている)。
デコースとの対決でも、バーシャの咄嗟の介入があったとはいえ、敢えて左腕を盾代わりに犠牲にすることでデコースの剣先を逸らして首への致命打を躱すというテクニックを反射的に行っており、それを観ていた東の君からは、後にミラージュ騎士団3代目エースナンバーとなる強天位騎士ジャコー・クォン・ハッシュや、剣豪マヨール・レーベンハイトと同等のものを持っていると評された。
また、アイシャとやり合った際に、超絶レベルの騎士である彼女の掌打を顔面にモロに喰らってもなお立ち上がることができるなど、並外れたタフネスも持つ。
剣豪アーレン・ブラフォードは彼の剣技を「高貴な剣である」と評しており、アイシャはバーシャと暮らした幼い時期に既に正統派の騎士として育て終えられていると語っている。
作中での動向
2995年、壊れファティマのバーシャと出逢い、バーシャを直し彼女のパートナーとして騎士になる決意をする。また、バーシャのために天然素材の服を手に入れようとしていた時に桜子と知り合った他、ミューズ・バン・レイバック枢機卿やギーレル王朝の騎士団長アイオ・レーンといった錚々たる騎士達と出会う。
バーシャに騎士の心得と数々の剣技を教わるとともに不逞騎士や悪党退治をしていたことで「壊れファティマを連れたメチャクチャ強いガキ」としてカステポーの街で名が知られるようになるが、デコース・ワイズメルとの私闘で敗北。デコースに黒騎士としての資質を見たパーシャはエストに戻り、デコースをマスターとして選んでしまう。
2997年、カステポーの「WAXTRAX」を訪れ、ボスヤスフォートに殺害される直前のヤーボ・ビートを見かける。
この頃、自暴自棄になっていたこともあってザンダシティの格闘大会に飛び入りで殴りこみ、騎士能力を制限する高重力バトルで剣を持った騎士を相手に7連続勝利を果たして高額賞金を手にする。
3001年、ノーキィシティで男達に暴行されそうになっていたパルスェットを助けた際、アイシャ・コーダンテとキュキィと出逢う。パルスェットから新たなマスターに選ばれるが、アイシャに叱責されつつもマスターとなることなく立ち去る。
その後、正規の高等教育を受ける事を望んで桜子の勧めで惑星デルタ・ベルンのフェイツ公国に渡り、名門メサ・ルミナス学園に入学。元々の端正な顔立ちと騎士ならではの長身、更には成績が常にトップクラスだったこともあり、学園中の生徒から「プリンス」と呼ばれるほどの人気者となる。この頃に後輩のちゃあ(ワスチャ)やノルガン・ジークボゥと知り合い、密かに心を通わせる。
学園生活はヨーンにとっても穏やかで充実したものだったらしく、性格も幾分か丸くなり人間的に大きく成長。卒業時にはちゃあや桜子に対して感謝の言葉を述べた。
3030年の学園卒業時、桜子から大学進学も勧められるが、ちゃあの「自分で解決法を探す」という生き方に感化され、進学を蹴ってハスハ行きを決断する。魔導大戦勃発後、ボォス星に渡ってハスハに入り、ナイアス・ブリュンヒルデとしばらく行動をともにするが、ブーレイ傭兵騎士団入りを勧めるナイアスを振り切り再び旅へ。
次に立ち寄ったムンスターで偶然アイシャとマロリー・ハイアラキを見かけ、彼女達を利用しようと近づくが逆に"捕獲"され、バーシャを奪ったデコースを倒すためにアイシャに改めて協力を要請する。その願いを聞き入れたアイシャに雇われるという形で、彼女の保護下にあったパルスェットをパートナーとして行動を開始する。
3035年、ミラージュ騎士団からのバッハトマの動向を探る任務をこなす中、パルスェットの服を入手するためにノーキィシティの騎士公社を訪れる。そこでファティマ・スーツデザイナーのパナフランシス・シアン夫人と出会い、彼女からパルスェットのためのフルカスタムの特製ファティマ・スーツ『ダブル・アライメント』と、自分用の戦闘装甲服を貰う。
その後、ヨーンとちゃあを心配してやってきたジークボゥと再会。ジークを追う茄里・ブラウ・フィルモア及びノイエ・シルチス「氷」グループと、ユーゴ・マウザー教授とバッハトマ黒豹騎士団副団長アーリィ・ブラスト一派の小競り合いに巻き込まれ、戯れに絡んできたマウザーとブラストを相手取って交戦する。
なんとか襲撃を退けた後、茄里に重傷を負わされたジークをパルスェットと共に救助したことで、遅れて駆けつけた璃里・ブラウ・フィルモアから恩返しとして別荘に招かれ、彼女から剣の修行を教授してもらう。
※ネタバレ注意
ここから先は単行本未収録部分となっているため。ネタバレ注意となっております。
星団歴3069年、ボォスはカステポーにて相も変わらずアイシャの使い走りとして顎で使われる中、アイシャから「お前は絶対デコースには勝てない」と断言され、ヨーンは苛立ちを募らせていた。そこに現れたのはかつて後輩のジークと共に撃退したバッハトマのブラストであった。なんとブラストはヨーンに惚れて組織とは別で秘密裏にヨーンに会いに来てしまったのである。だが、これをデコースと接触する好機と捉えたヨーンは彼女と連絡先を交換し、連絡を取り合うようになる。そしてある日、日付と場所が指定された不自然なメールが届けられ、まさかと感じたヨーンはそこにて待ち伏せを決行する。そして、そこに訪れた一台の黒いスキッパーから現れたのは…デコース・ワイズメル、そしてバーシャことエストであった。
シアン夫人からもらった装甲服すら忘れ、衝動的に丸腰で飛び出すヨーン。デコースたちの後をつけると人気のない谷底へと誘われていく。それはヨーンに対してデコース、そして巴が仕掛けた罠であった。自分のことを覚えていたデコースに挑発され、遂に再戦の時を迎えるヨーン。そして素手による剣技の応酬が始まる。初戦の時とは違い、ほぼ互角にまで渡り合うヨーンであったが、そこにパルスェットを人質にとった巴が現れ、パルスェットは巴の剣によって串刺しにされてしまう。遊びは終わりだと言わんばかりに巴から剣を受け取ったデコース対し、一瞬だけ渡り合うヨーンであったが、互角だと思われた戦いもここまでだった。間合いを見誤ったヨーンは背後からの剣の一撃を受け、背骨を断ち切られてあっけなく敗れ去るのであった。そして、追い打ちとばかりにエストに告げられる「いえ存じません。なぜ私がこの型を?」の一言にヨーンは絶望の淵に沈んでいく。
「そのカオ!それ見たくてトドメを刺してやらないんだ!!」「お前の本音はボクじゃなくてエストに復讐したいだけだろ!!」吐き捨てるようにデコースに告げられ、とどめを刺されることなく捨て置かれるヨーンとパルスェット。瀕死の重傷を負う二人であったが、パルスェットはジークを救った時と同じようにヨーンを救うために自らの血を致死量を超えて輸血する。「立派な騎士になってください。それが私の最後のお願いです」祈るように、諭すように、そう言い残して彼女は冷たくなっていくのであった。
次にヨーンが目を覚ましたのはミラージュ騎士団の屋敷のベッドの上であった。事前にパルスェットがアイシャに救難信号を発しており、何とかヨーンだけは助かったのだが、その代わりに彼女の死を告げられたヨーンは廃人同然となってしまう。
茫然自失となりながら、何がやりたかったのかとパルスェットとの思い出を反芻し続ける日々を過ごす中、ある日部屋のテーブルにお菓子の箱が置かれていることに気づく。それは少し前に見舞いに訪れたちゃあが残していった手作りのダークチェリーパイであった。
※更なる超重大なネタバレ
ここから先はさらに重要なネタバレとなっております。閲覧する場合は完全な自己責任となりますのでご注意ください。可能であればNewType2023年11月号まで読み進めてからもしくは夏ごろ発売予定の18巻を読んでから閲覧することを強く勧めます。
ミラージュ騎士覚醒の時
「アイシャ様……剣をください…」
「ボクを騎士にしてください!!剣とGTMをください!!」
今回の事件の責任を取るため、ミラージュ騎士団を退団する決意を固めていたアイシャの目の前に幽鬼のように佇むヨーン。驚いた様子を見せるアイシャに対し、ヨーンは跪いて叫ぶ。「騎士として生きる」「それだけがパルセットに償える唯一のことなんです」と。
戸惑うアイシャに「騎士となれば私怨は許されぬ、デコースへの恨みを忘れられるのか?」と問われ、ほんの一瞬だけためらいながらもヨーンは続ける「バーシャではない、ファティマ”エスト”への固執。それでパルセットを失ったのです。その過ちは二度と繰り返しません」「ボクが追っていたのはデコースでもエストでもない。騎士というものだったんです」
それはヨーンが長年囚われていた呪縛を自ら振りほどいた瞬間であった。