発見
2006年8月7日、長年にわたり、独自に生痕化石の調査を続けてきた兵庫県丹波市在住の元高校教諭の足立洌氏とその旧友である村上茂氏が、山南町上滝の加古川水系篠山川、川代峡谷川床において地質調査を行っていたところ、重層的な篠山層群の赤茶けた泥岩層の表面付近に、1cmほどの灰色がかった石状の突き出した楕円形の物体を発見した。2人はタガネとハンマーを使い、2本の切片を掘り出した。
当初、2人は石灰岩や生痕化石(主にサンドパイプ)を探しており、午前中は山側の沢を歩き回り、フズリナやサンゴの化石が見つかればよいと考え調査を行っていた。昼食後、旧・上久下村営水力発電所付近の川床の岩盤の礫岩や泥岩の層でサンドパイプを探すつもりで、何気なく見回していた彼らの目に前述の物質が飛び込んだ。さっそく、2人でハンマーを使用し、2時間がかりで約15cmの正体不明の2本の物体を摘出した。元高校教諭の足立氏は、これまでの知識と経験から断面に年輪が見当たらないことで木ではないと直感した。
2人は動物の化石ではないかと推測したものの結論は出せず、持ち帰り図鑑や参考資料を調べるうちに「どう考えても恐竜以外に考えられない」という結論に達し、翌日以降も発掘を続ける決意をした。
発見日の翌日から2日がかりで、7時間ほどかけ交代で掘り進み、60cmほどの棒状と、ひとかたまりの化石らしき岩石を兵庫県立人と自然の博物館(愛称「ひとはく」)へ持ち込んだ。ひとはくの三枝主任研究員の鑑定の結果、恐竜の肋骨であることが判明した。
これを受け、2006年9月27日「ひとはく」の研究員数名による試掘調査で、十数点の化石が採集された。クリーニングの結果、これらの化石は竜脚類であるティタノサウルス形類である可能性が高まった。
発掘調査
2007年1月25日から発掘調査が本格的に行われるようになった。
発掘が実質的に終了した2014年3月現在、長いもので1.5メートルにもなる肋骨・関節した尾椎とそれにつながる骨盤の一部である腸骨・胴椎・環椎・脳函・歯骨、幼体のものも含めた歯の化石が発見されている。
また、丹波竜の発掘と合わせて行われた一帯の発掘調査では、カルノサウルス類・ティラノサウルス類・テリジノサウルス類などの複数の獣脚類の歯の化石、鳥脚類や鎧竜類の歯の化石、中国産の原始的な角竜アーケオケラトプスに酷似した頭骨の一部、現生哺乳類の祖先に近い原始的な真獣類の下顎骨(2013年にササヤマミロス・カワイイと命名された)、完全な状態のカエルの化石なども発掘された。
丹波竜の特徴
予察的な研究から、丹波竜は白亜紀に繁栄したティタノサウルス形類の竜脚類で、その中でも比較的原始的な種類だったと考えられている。血道弓(尾椎の下に連なる骨)の長さから、発掘初期の時点では推定全長は20m以上とされていた。が、「体の大きさの割に血道弓が長い」ことが判明し、発掘の終了した現在では全長12~15mとされている。
尾椎にははっきりとした独自の特徴がみられ、丹波竜が竜脚類の新たな種であることを示している。
頭部の形態に関しては、エウヘロプスに近縁と考えられたこともあり当初メイン画像の通り典型的な「カマラサウルス型」と考えられていた。しかし、脳函(文字通り脳の納まる部分)や部分的な下顎の発見で、ブラキオサウルスの頭部を前後に引き伸ばしたような、「ディプロドクス型」にも比較的近い形態であったことが示唆されている(2013年に復元模型を作成した徳川広和氏は、頭骨が見つかっているブラジル産の近縁種「タプイアサウルス」をモデルにしたとの事)。
地元での反響
「丹波竜」という名は第一発見者である男性2人によって命名されたニックネームで、正式な学名ではない。また、当初は個人での「丹波竜」の商標登録も考えたものの、金儲けとの誤解を招いては不本意と考え、丹波市による申請とし、発見の公式発表日の2007年1月3日まで待ち、2007年1月15日に特許庁に、「丹波竜」 の商標登録を出願した。
1996年より人口が減少した丹波市は、過疎化と高齢化が進む町であり、現在約72,000人の人口の65歳以上の高齢化率は2015年には3割を超える見通しである。この降って湧いたような恐竜発見のニュースは、この町に突然恐竜ブームを巻き起こした。「恐竜ラーメン」「恐竜うどん」「化石巻(巻きずし)」「恐竜たまごっ茶」など恐竜にちなんだ商品が続々登場し周辺の土産物店や食堂のメニューなどに並んだ。また、丹波市は恐竜の愛称である「丹波竜」の商標登録出願を済ませるとともに「恐竜を活かしたまちづくり課」を発足し、2007年5月1日からは「恐竜化石保護条例」を施行した。
現在では、「丹波竜」の商標を使用した「丹波竜ラーメン」や「丹波竜うどん」なども売り出されている。
命名
2014年8月12日、10年近くの研究の結果ついに丹波竜は新属新種の恐竜として「Zootaxa」(和訳:動物分類学者のための査読付き国際学術雑誌)に論文が記載された。
学名は『タンバティタニス・アミキティアエ(Tambatitanis amicitiae)』。属名は発見された丹波市と巨神タイタンの女性表記である「ティタニス」に由来し、「友情」を意味する種小名は発見者である足立氏と村上氏の友情に因んでいる。直訳すると「友情により発見された丹波市の女巨人」である。
タンバティタニスは日本で5番目に命名された恐竜であり、北陸一帯に広がる手取層群以外の地層から発見された中では最初に命名された恐竜である。また、推定全長12メートル以上ということから、学名がある日本産の恐竜としては現在のところ最大である。
関連タグ
フクイティタン…同じく日本で発掘されたティタノサウルス形類
ちーたん…丹波竜をモチーフとした丹波市のマスコットキャラクター