源義経が自らの愛妾である静御前に与えたとされる鼓。ただし大元は軍記物語『義経記』に登場する架空のアイテムである。『義経記』では羊の皮が使用されている。歌舞伎の演目である『義経千本桜』では狐の皮が使用されているが、これは近松門左衛門作の浄瑠璃『天鼓』の影響といわれている。
曖昧さ回避
- 義経が静御前に与えた鼓。本項目で解説。
- 上述の鼓を元ネタに創作された古典落語の演目。本項目で解説。
- 轟轟戦隊ボウケンジャーのエピソードおよびアイテム。上述の鼓の伝説が元ネタ。
初音の鼓(道具)
伝説
大元は重源上人(当時の東大寺の大勧進者)の手によって宋より持ち帰られ皇室に献上された中国伝来の鼓で、紫壇の胴と金銀の象眼を持ち、鼓の両打面には「三毛つがいの化け狐」と呼ばれる夫婦狐の皮が使われているとされる。
のちに後白河法皇が平清盛に下賜。源平合戦の折、西国へと落ち延びる平家によって家宝として持ち出されたが、その平家は壇ノ浦の戦いで滅亡。合戦の最中に浦の水面に浮かぶ平家の遺品群に紛れて波間に漂っていた、この鼓を伊勢三郎が回収して義経に届け、そして義経は鼓を後白河上皇に一度、返却した。
しかし後白河法皇は返却された鼓を義経に下賜。(『義経千本桜』では、この鼓の下賜には「平清盛に与えたものを義経に継がせる=清盛の後継者となれ」「鼓という『打つ物』を義経に与える=源頼朝を『討つ者』になれ」という「裏の意味」があったとされる)
義経は武者である自らが鼓を持っていても仕方がない(裏の意味では「鼓を持っても義経は『打たない=討たない』という意思表示」)として自らの愛妾である静御前にこれを与えたと言われる。
ちなみに鼓の面に使われてしまった夫婦狐には、生き延びた忘れ形見となる仔狐がおり、この仔狐は親恋しさのあまりに、この鼓を探し求めてさまよっていたとされる。
のち仔狐は父母の鼓の持ち主である静御前を探し出すが、その静が源頼朝が放った追討団や平家残党に追い立てられる中、鼓まで壊されてはたまらぬと勢いで義経の家来に化けて静御前を守護する羽目となった。かくて仔狐は静御前を守った褒美として義経より源九郎狐の名を賜ることになったと言われる。
また源九郎狐には姉もいたとも言われ、その姉がのちに姫路城に棲み付き刑部姫になったとか。
なお鼓の去就については諸説ある。
「源九郎狐が名を賜った時に鼓も同じく与えられ源九郎狐は鼓と共に何処かへと去った(義経千本桜はコレ)」とも「静御前に仕えるうち彼女の芸舞に感じ入った(あるいは愛するものと引き裂かれ子をも殺された静の身の上に深く同情した)源九郎狐があえて静御前に鼓を託し、彼女の死後(あるいは静御前が鼓を手放したのち)に回収した」とも「実は、ねーちゃん(刑部姫)が今も持ってる(=姫路城にある)」とも言われている。
あと、この鼓を手にした者は、えてして全員、破滅・滅亡している。夫婦狐が仔に逢うため、自由を得たくて持ち主を破滅に導く、とも言われる。ある意味では呪いのアイテムと言えるのかもしれない。
関連項目(道具)
初音の鼓(落語)
古典落語の演目のひとつ。
骨董趣味の殿様を旨くノせてガラクタを売りつけてやろうと考える山師の吉兵衛が、ガラクタの山の中で拾った二束三文の鼓を上述した初音の鼓と偽り、殿様に百両で売りつけてやろうと画策する物語。
この物語での初音の鼓は、打面に使われた夫婦狐の妖力により、誰かが面を打った際には近くにいる者に狐が取り憑いてしまい、狐の鳴きマネをしてしまう(コン、と声を上げる)という、多少コミカルな呪いのアイテムと設定されている。
したたかに動き回る吉兵衛、吉兵衛に誘惑されノせられ買収された家臣(側近)の三太夫、そしてまんまと吉兵衛と三太夫にノせられる殿様の滑稽なふるまい、最後に用意された「実は……」のオチが秀逸な作品。
関連項目(落語)
初音の鼓(プレシャス)
※ Task.24(物語)に関しては間宮菜月を参照
轟轟戦隊ボウケンジャーに登場するプレシャス。
伝承通り、義経が静御前に与えたとされる鼓で、両打面に化け狐の皮が使われている。
ハザードレベルは4。とても低く普通の鼓と何も変わらない。なんといっても大神官ガジャが、その力の低さに呆れ果ててゴミ扱いで放り出してしまうほど低い。
しかし、化け狐の仔である源九郎狐の化身が現れ、彼がその手に鼓を得ようとした時(鼓に込められた夫婦の魂が我が子に逢えると気付いた時)のみハザードレベルが100に跳ね上がる。その能力は源九郎狐の「人を化かす能力」の増強。
源九郎狐は両親と共に居たかっただけであり人間に対しての害意は無い無害な存在である事から、初音の鼓はそのまま彼の手に委ねられ、親子三人で何処かへと消えていった。