そもそも「捕物帳」とは
『半七捕物帳』第二作「石燈籠」の冒頭で次のように説明されている。
「与力や同心が岡っ引らの報告を聞いて、更にこれを町奉行所に報告すると、御用部屋に当座帳のようなものがあって、書役が取りあえずこれに書き留めて置くんです。その帳面を捕物帳といっていました」 |
大正6(1917)年に岡本綺堂がスタートさせた『半七』シリーズを嚆矢とする、ごく大雑把に言えば「江戸時代の探偵物語」。しかしただ単に事件とその謎解き、犯人捕物劇を扱うだけではなく、当時の社会事情や文化文物、市井の人々の生活営みや負の側面等の記録描写等も織り交ぜた「(江戸)時代小説」でもあることが結構肝心な、作品評価の良し悪しを決める要素。
そのため他の異なる時代、例えば紫式部や織田信長などを主人公(探偵役)にした謎解き小説は捕物帳とは呼ばれない。
昔の日本を舞台にした「純国産和風小説」かと思いきや、創始者の綺堂は『半七』第一作「お文の魂」の中で、
「彼(半七)は江戸時代に於ける隠れたシヤアロツク・ホルムスであつた」 |
と語らせていることからも明らかなように、その背後にはコナン・ドイルのホームズ探偵譚の影響が大きかったことがわかる(『修善寺物語』など新歌舞伎作品の作者として広く知られる綺堂だが、親が英国公使館勤務で自身も英語に堪能な海外通でもあった)。
しかし我が国のミステリ界ではこの捕物帳小説を「推理(探偵)小説」の枠組の中に入れるか否かについて「プロットやトリックに創意の要求せられる普通推理小説とは、おのずから性格の違うもの」「本格推理小説より一段落ちるもの」として、否定的に見る向きも少なくない。
主な作品
(太字は通称5大捕物帳と呼ばれている作品)
- 岡本綺堂 『半七捕物帳』
- 佐々木味津三 『右門捕物帖』
- 野村胡堂 『銭形平次捕物控』
- 横溝正史 『人形佐七捕物帳』
- 城昌幸 『若さま侍捕物手帖』
- 久生十蘭 『顎十郎捕物帳』『平賀源内捕物帳』
- 坂口安吾 『明治開化安吾捕物帖』
- 都筑道夫 『なめくじ長屋捕物さわぎ』
- 陣出達朗 『伝七捕物帳』『新五捕物帳』
- 石ノ森章太郎『佐武と市捕物控』(漫画作品)
など(「帳」「帖」「控」など表記ゆれが多いので注意のこと)。