「あの光の中に、行ってみたかった」
CV:醍醐虎汰朗
概要
年齢は16歳。東京に出てきた当初は新しい生活に期待を抱いていたものの、身分証なしの条件で雇ってくれるアルバイト先が見つからなかったために、わずが数日ほどで寝る場所にさえ困る根無し草同然の生活を強いられてしまう。困窮した末に、帆高は東京へ向かうフェリーのなかで偶然知り合ったライター・須賀圭介のもとを訪れ、彼の事務所に住み込む形でアシスタントの仕事を始める。
そのような暮らしが定着したある日、須賀の手伝いでオカルト雑誌に寄稿する「100%の晴れ女」の情報を集めていた帆高は、偶然にも違法な仕事のスカウトマンの手から助けた少女・天野陽菜が探し求めていた晴れ女であることを知る。陽菜が明かした晴れ女の力を目の当たりにし、そのすごさに驚愕した帆高は、収入先に困っていると告げる彼女のためにあるアイデアを提案することになる。
人物
容姿
少しだけ目にかかるくらいまで伸びた真っ黒な髪と、内側から若々しさを感じさせる健康的に灼(や)けた肌を持つ、大きな瞳をたっぷりの好奇心できらきらと光らせた少年。その出で立ちが醸し出す雰囲気は、家出少年という身の上も相まって「迷子の仔犬(仔猫)みたい」(小説版、54ページ、207ページ)というような印象を見る者に与えている。
また、服装についても作中全体を通してTシャツにロールアップのジーンズ、スニーカーというシンプルなスタイルで、家出した当初は最低限の生活必需品を詰め込んだバックパックを、須賀のもとで働くようになってからはサコッシュをそれぞれ携行している。
なお、作品のキャラクターデザインを手がけた田中将賀は、帆高の持つ特質である「純粋さ」や「幼さ」を押し出すために、顔や手といったパーツを描く際に「丸」のモチーフを意識して取り込んでいたと明かしている。同時に、東京という見知らぬ街にひとりで「冒険」に出てきた少年というキャラクター性を印象づけるため、『天空の城ラピュタ』の主人公・パズーがショルダーバッグを持っていたのと同じように、サコッシュを彼を象徴するアイテムとして用いたことも語っている。(『天気の子』映画公式パンフレットvol.2、18ページ、『天気の子』公式ビジュアルガイド、103ページ)
性格
物事を純粋にとらえる無邪気で無防備な素直さと、遠慮も忖度(そんたく)も慎重さもなく一直線に突き進んでいくようなまっすぐさを兼ね備えた、さっぱりとした性格の持ち主。
年上の人間や女性と接する際には真面目で礼儀正しい一面も見せているものの(小説版、114ページ、126ページ)、かえってそれらの振る舞いを「主体性がない」「はっきりしない」などと捉えられてしまうことも少なくない。
その他
- 中学生のころから小説めいた文章を書くことが好きで、それを大っぴらに見せびらかすようなことはなかったものの、文章を書くことに関してはささやかな自信を持っている。須賀の事務所で働くことができたのも、その文章構成の腕を買われてのことであった。(小説版、50ページ)
- 料理は須賀の事務所に来るまでしたことがなく、包丁さばきも不器用である。しかし、住み込みの日課として料理をするにあたり、不慣れながらも目玉焼きや味噌汁、クックパッドを見ながら焼きうどんを作れるほどの技術を獲得している。また、陽菜の自宅を訪れて彼女の節約術を知ってからは、家庭菜園で青ネギを育てるようにもなっている。
- 家出時に自身と同年代の少年が主人公の小説『ライ麦畑でつかまえて』(村上春樹訳)を持っており、カップ麺を作る際の重しに使っている。作中および小説版では言及されないが、漫画版では須賀から「家出少年のバイブル」だと指摘され、帆高が家出していると見抜くヒントのひとつになっている。
経歴
離島の家に生まれ、父親から暴力を振るわれるなど、閉鎖的な環境を窮屈に感じながら育ってきた過去を持っている。地元にも家庭にも息苦しさを覚えていた当時のある雨の日、雨空の彼方から差し込むひと筋の光芒(こうぼう)を追いかけて、しかしそれでも追いつけずに海の彼方へと去っていく陽射しを眺めていた帆高は、「いつかあの光の中に行こう」と若年ながらまだ見ぬ世界へ旅立つことを心に決めるようになる。
東京に出てきてからは、都内の一角にある漫画喫茶を拠点にして食い扶持(ぶち)をつなぐためのアルバイト探しに奔走するが、「身分証なし」の条件で雇ってくれるバイト先が見つからなかったこともあり、わずか数日で生活費を節約するために仮住まいとしていた漫画喫茶を引き払うことになる。雨風をしのげる場所を探して夜の繁華街をさまよう帆高は、路地裏の軒下にうずくまっていたところを違法な仕事のスカウトマンのチンピラに追い立てられ、その折に近くにあったゴミ箱を巻き込むようにして転がされてしまう。慌ててゴミ箱の内容物を戻すなか、帆高は図らずも紙袋に包まれた実弾入りの拳銃(マカロフPM)を手に取ってしまうことになる。
その翌日、意を決して新宿にある須賀の事務所を訪れた帆高は、さっそく社長の須賀から取材の手伝いを言い渡され、彼のアシスタントである須賀夏美とともに出かけることになる。そして、その取材における仕事ぶりを須賀から高く評価されたことにより、帆高は須賀の事務所の新しいアシスタントとして住み込みで働くことを約束された。
須賀の事務所での暮らしがひと月ほど続いたある日、帆高は歌舞伎町の路地裏でふたりのチンピラが少女に違法な仕事の紹介をしている場面に遭遇する。その少女がかつて自分を助けてくれたことを思い出した帆高は、戸惑いを隠さない彼女の様子に意を決して、強引に彼らのあいだに割り入って彼女とともに逃げ出した。すぐさま追いつかれ、チンピラのひとりに馬乗りにされて顔面を殴られる帆高だったが、「どけよ!!」と怒りに任せて隠し持っていた拳銃を引き抜き、これを発砲した。衝撃で双方ともに呆然となっていたところを我に返った少女に手を引かれ、帆高はその場から逃げ切ることに成功する。
逃げ出した先の廃ビルのなかで、帆高は拳銃を発砲したことを少女から激しく非難され、自責の念と恐怖心にかられて拳銃を投げ捨てるが、そののちに戻ってきた少女から家出少年という身の上を案じられ、励ましのために屋上に上がるよう誘われる。そこで少女は、屋上に降り注ぐ雨を祈りによって退け、陽光を注いでみせるという不思議な力を明かし、「私、陽菜。君は?」と名乗りながらそばに立つ帆高に握手を求めている。その後日、改めて陽菜の家を訪れた帆高は、彼女が生活面(金銭面)で困っていること、そして彼女が天気を自在に晴れにできる「100%の晴れ女」その人であることを踏まえた上で、晴れを必要としている人のために天気を届けるという「晴れ女ビジネス(お天気ビジネス)」を提案した。乗り気でなかった陽菜を料金体系の調整などで引き込んだ帆高は、終日をかけて彼女とともにビジネスの構想とWebサイトの完成にこぎつけている。そして、その翌日から始まった「晴れ女ビジネス」の活動を通して、帆高は陽菜や彼女の弟の天野凪と一緒に、都内各地の老若男女からの依頼をこなしていくことになる。
主要キャラクターとの関係
天野陽菜
東京で暮らし始めた帆高がある日偶然出会った、”祈る”ことで空を晴れにできる不思議な力を持った少女。
帆高は陽菜のことを「陽菜さん」と呼んでおり、対する陽菜は「帆高」または単に「君」と呼んでいる。
東京に来てから最初の数日間で、生活費の節約のためにずっと夕食をファストフード店のポタージュだけで済ましていた帆高の様子を見かねたアルバイト中の陽菜が、店側に黙ってハンバーガーを差し出したのがふたりが出会った最初のきっかけである。その当時、雨に打たれて疲労しきっていた帆高は、彼女から差し出されたハンバーガーとそれを出した際の彼女の笑顔によって、「僕の十六年の人生でこれが間違いなくだんとつで──一番美味しい夕食だった」と深い感動を覚えている。
そのひと月後、帆高は歌舞伎町の路地裏で違法な仕事を紹介されようとしていた陽菜を助ける。彼女が金銭面で困っていることを知った帆高は、同時に彼女が明かした超常的な晴れ女の力を目の当たりにして、彼女にしかできない特別なビジネスを思いつく。後日、そのビジネスの構想を陽菜にもちかけた帆高は、さっそく彼女とともに事業体系の完成にこぎつけ、翌日から始まる数々の依頼に取りかかることになる。
帆高は、知っている人の誰もいない東京の街でたまらなく不安になっていたときに、いちばん最初に不安を解いてくれた陽菜に対して感謝の念を抱いている(小説版、151ページ)。あわせて、「晴れ女ビジネス」の活動を一緒にこなしていくなかで、帆高は陽菜の「年上のお姉さん」としてのからかい混じりの振る舞いや、ころころと目まぐるしく変わる表情などを通して「陽菜さんに、心を、動かされてしまう」と意識するなど、次第に彼女を特別な存在として位置づけるようになっていく。
須賀圭介
都内の一角で小さな編集プロダクションを営んでいる中年男性。年齢は42歳。
帆高は須賀のことを「須賀さん」と呼んでおり、対する須賀は「少年」「帆高」と呼んでいる。
離島から東京に向かうフェリーのデッキ上で、突然降り注いだスコールによって船外に押し流されそうになった帆高を間一髪で助け出したのが、ふたりが出会ったきっかけとなっている。帆高はそののち、「命の恩人」である須賀に多額の食事代を支払うことになるが、須賀もまた帆高が家出少年であることを見抜いて「もし東京でなんか困ったことがあったらさ、いつでも連絡してよ」と自身の連絡先が記載された名刺を手渡している。
その数日後、根無し草同然の生活に耐えかねた帆高は、意を決して須賀のもとに連絡を入れ、彼の事務所を訪れる。社長として帆高を迎えた須賀は、さっそく「インターンシップ」と称して記事の取材に帆高を同行させ、その内容を原稿に起こさせる。そして、その出来栄えに満足した須賀が正式にアシスタントとしての雇い入れを決めたことにより、帆高は彼のもとで住み込みで働き始めることになる。
須賀の事務所における帆高の仕事はひとえに雑用全般であり、食事や掃除、洗濯といった家事から、編集プロダクションとしての郵便物の仕分けや出版社への請求、領収書の選別、インタビュー音声の文字起こしなど、数多くの仕事を朝早くから夜遅くまでこなしている。帆高はその仕事をこなす過程で、須賀から仕事面や生活面のさまざまなダメ出しをもらったり、彼のだらしない暮らしぶりに呆れることもあるものの、しかしそれでも「お前はもうちょっとマシになれる」と一人前の従業員として面倒を見てくれることに強い信頼を寄せている。(小説版、63ページ)
須賀夏美
須賀の事務所でアシスタントとして働いている女子大生。
帆高は夏美のことを「夏美さん」と呼んでおり、対する夏美は「帆高くん」と呼んでいる。
須賀のもとを頼ろうとした帆高が初めて彼の事務所を訪れた際に、留守だった須賀に先んじて帆高と挨拶を交わしている。その際に、社長である須賀のことを「圭ちゃん」と親しげに呼び、意味深な素振りで彼との関係性をはぐらかす夏美の様子を見たことにより、帆高は彼女に対して「須賀の愛人」なのではないかという憶測を抱くことになる。
帆高が須賀に認められて彼の事務所で働くようになってからは、取材への同行や事務所の経理がらみの仕事などで、しばしば彼女と顔を突き合わせている。あるときははしゃぐ様子をからかわれ、またあるときは帳簿の不備を叱られながらも、帆高は人好きのする性格のもとに熱心に仕事と向き合う夏美のことを「なんかかっこいいな」という憧れのもとに見るようになっている。(小説版、63ページ、160ページ)
天野凪
陽菜の弟である10歳の小学生。
帆高は当初、凪のことを「凪」と呼んでいたが、一緒に過ごすうちに彼の持つ豊富な知見や達観した振る舞いに衝撃を受け、呼び方を「センパイ」と改めることになる。対する凪は、一貫して「帆高」と呼んでいる。
帆高が初めて須賀の事務所に向かう際に、ふたりは偶然同じバスに乗り合わせており、帆高は凪の見せる年不相応の交遊テクニックを遠巻きに眺めながら「まじで東京ってすげえ」と驚きをあらわにしている。そのひと月後、彼の姉である陽菜と知り合った帆高は、彼女の家に招かれて「晴れ女ビジネス」の事業体系をまとめていた際に帰宅した凪と顔を合わせ、彼が陽菜の弟であることを知る。
そのまま「晴れ女ビジネス」の仕事に凪を巻き込んだ帆高は、最初こそ「フザけんなよ帆高!」などと怪訝な態度を向けられていたものの、「晴れ女ビジネス」の成功を重ねるうちに彼と意気投合するようになる。凪と近しくなってからは、陽菜の誕生日プレゼントに何を用意したらいいのかを相談したり、男女交際の秘訣を伝授してもらったりと、年下ながら豊富な知見を持つ彼のことを一目置くようになっている。
立花冨美
都内の下町に暮らしている老婦人。
帆高は冨美のことを「冨美さん」と呼んでおり、対する冨美は「あんた」と呼んでいる。
帆高たちの行っている「晴れ女ビジネス」の評判を聞き、夫の初盆を晴れ空の下で迎えるために彼らに仕事を依頼したのが、互いに知り合うきっかけとなっている。陽菜の力によって晴れた空の下で迎え火を焚き、昇る煙の意味を説くなかで、冨美は帆高に向けて「お彼岸。空の上は別の世界さ」と、空の上の世界は生きている人間たちのものとは別物であることを語っている。(小説版、135~138ページ)
関連イラスト
Tシャツ&ジーンズ
レインコート姿
関連タグ
天野陽菜 - 東京で暮らし始めた帆高が偶然出会った17歳の少女。不思議な力を持つ。
須賀圭介 - 都内の一角で小さな編集プロダクションを営んでいる中年男性。42歳。
須賀夏美 - 須賀の事務所でアシスタントをしている女子大生。
天野凪 - 陽菜の弟。達観した振る舞いをする10歳の小学生。
ほだひな - 天野陽菜とのカップリングタグ。
ほだひなぎ - 天野陽菜、天野凪とのトリオ(グループ)タグ。
神津島 - 伊豆諸島にある島。帆高が暮らしていた離島のモデルになっている。
家出 サコッシュ 拳銃(マカロフPM) ライ麦畑でつかまえて
外部リンク
参考文献
- 新海誠『小説 天気の子』 角川文庫 2019年7月25日初版発行 ISBN 978-4-04-102640-3
- パンフレット 映画『天気の子』 東宝 2019年7月19日発行
- パンフレットvol.2 映画『天気の子』 東宝 2019年9月14日発行
- 新海誠監督作品 天気の子 公式ビジュアルガイド KADOKAWA 2019年8月30日発行 ISBN 978-4-04-108431-1
最終的な進路(ネタバレ注意)
小説版によると、彼の嫌疑は、
- 銃刀法三条、拳銃所持禁止の違反
- 刑法九十五条、公務執行妨害
- 銃を発砲したことによる刑法百九十九条及び二百三条の殺人未遂
- 線路を走ったことによる、鉄道営業法三十七条の違反
しかし、銃は故意の所持ではなかったことが認められ、一連の事件の重大性は低く、非行性も薄いと判断され、家庭裁判所は最終的に保護観察処分を下した。
そののち、島に戻った帆高のことを、両親も学校も不器用ながらも温かく迎え入れてくれたらしい。
島の高校を卒業後は、東京の大学の農学部に進学。武蔵野台地の奥のアパートで一人暮らしを始めている。